叔父さんと僕(オヤジ編)
エピローグ・その9-2
*この話はエピローグで削られた部分です。
第四章護りの翼(九龍編)の叔父さん視点となっております
■第四章〜護りの翼(叔父さん編)〜 最近、意識が浮上する。 それまでは夢の、固く閉ざされた狭い世界で、ひたすら何も考えずに眠っているだけだったんだが・・・。 目覚めることは出来ないが、意識はある。 ・・・・それは多分、俺の大事な九龍が傍にいるからだろう。 傍にいるだけで、安心して眠りが深くなるのが普通だろうが・・・。 声が聞こえて止まないんだ。 『助けて・・・・』 ずっと泣き叫んでる。どうした・・・何があったんだ?聞いてやりたい。 何故泣いている?悲しんでいる? ・・何故、自分をそんなに責めてるんだ・・・。 「見える・・?外、良い天気だよ」 あぁ。目では見えないが、感じることは出来るぜ。良い天気だな・・・、綺麗な青空なんだろう? なのに、なんでそんな苦しそうなんだ?きっと声と同じくらいお前の顔も曇ってるんだろ? 「頑張るよ・・」 無理をするな・・・。 『だから・・・許して・・・』 誰に赦されたいんだ?問い掛けることも出来ないこの体が煩わしい。 毎日、九龍は俺の傍らで熱心に勉強をしている。 疲れて俺の寝るベットにうつ伏せになって眠ったり、食欲がないのか少ししか食べようとしなかったりと、冷や冷やさせる危なさで、どうにかして九龍と話そうと、意識と現実の間にある壁をぶち破ろうとする日々だった。 多分この《壁》が呪いなんだろうな・・。 気を抜くと、引きずり込まれる眠りの淵。 だが今はそんなものに負けていられないのだ。 九龍が、一人ぼっちで、悲しんでいる。 俺が放っておけるはずがない。 くそ・・・ッ!なんでこんなに身体が動かねぇんだ・・・。 俺は《壁》を睨みつけ、殴り飛ばした。 そしてまた、意識が眠りに落ち、何週間か時間がたったらしい。 九龍は俺の傍らで、何かの紙をじっと見ていた。 このところずっと元気がないようだったが、以前より増して元気がない。 どうかしたのか・・・?と思いつつも、思い当たることがあった。 そういえば、ハンター試験の結果が出た頃だな・・。一生懸命勉強をしているのを思い出す。 ・・・そうか・・・・だがな、九龍・・・。 お前は俺のことや何かで、落ち込んでただろう?試験は万全の体制であっても、落ちるもんなんだ・・・、今のお前だと、なおさら困難だ。 その憂いが何なのか、聞いてやりたい。晴らしてやりたい。 ・・・・なぁ、なんで・・・お前独りで戻ってきたんだ・・・? あっちで何があったんだ・・・?どうにかして口を開こうとしていると、九龍の呟きが聞こえた。 「アルバイト・・・・かぁ・・・」 アルバイトだ?ダメだ、許しません。 お前まだ、15だろう・・・、中学生なんだぞ?牛乳配達くらいなら許すけどな。 俺の貯金があるだろ・・・、お前の口座には少なくとも数年は楽に暮らせるように入れておいたはずだぞ? それをつか・・・・・ッ!気配よりも、先に匂いがした。 男物のコロンの香り・・。 「アルバイト?やりたいのかな?」 「えっ!?」 この声は・・・・覚えがある。 協会の日本人幹部の野郎だな・・・。昔はハンターだったが、他人の獲物を横取りし、それを種に伸し上がり幹部になった男。 その思考はどちらかというと、《秘宝の夜明け》に似ている。 それにこいつは、俺が倒れた後、九龍と兄貴がエジプトへ行く前に・・・、見舞いと称して来て九龍に手出しをしようとしたヤツだ。 ・・・・あの時、九龍がとても怖がっていた。 秘文を暴きに来たんだろうが、あの時すでに九龍の秘文は封印をされていたらしい。 何故知っているかというとだ、封印をされる時・・・つまり、俺が九龍を庇って化け物に殴打された後、俺の魂は外へ出てたんだ。 考えたらヤバイ状態なのはわかるんだが、幽体離脱とでも言うのか?兄貴が俺を雨晒しにして放置してたことも、M+M機関のヤツに封印を頼んでいたことも見ていたので知っている。 あれ以来自在に魂を外へ出せるようになったんだが、それをした後さすがに死にかける。 あれ以来やっていないんだが・・・・九龍に憑いて行けば良かったぜ・・・こんな風になった原因がわからねぇ・・・。 俺の考えを余所に九龍と胡散臭い男は話をしている。 「覚えていないかな?以前も会っただろう?私はロゼッタ協会の者だ・・・キミのお父さん、叔父さんとも古くからの知りあいだよ」 「あ・・・えっと、覚えてます。こんにちは・・」 「あぁ、こんにちは」 九龍・・・お前、なんて律儀なんだ・・・。まぁ挨拶は徹底的に躾たんだけどな、すべての基本だからよ。 だが、こいつにそれは必要ないから、さっさと席を外せ、九龍・・・。 俺の思考を余所に、九龍は男をじっと見上げていた。 「ん?何かな?」 何が『何かな?』だ!すかしやがって・・・ッ! 「あ、いえ、何もないです・・・・お見舞いに来てくださったんですか?」 「あぁ・・・そうだよ」 「そうですか・・・ありがとうございます」 そんなワケあるか!!!九龍、こいつが俺を見舞いに来るはずはないぞ。精々笑いに来たしか考えられない。・・・確実にお前・・・いや、秘文狙いだ・・・九龍ッ!逃げてくれ・・・。 「えっと・・・ごゆっくりどうぞ・・」 俺の声が届いたのか、九龍はこの場から逃げようと身体を引いた。 よし!えらいぞ!と思った時、こともあろうか・・・、九龍の腕をヤツは掴んだ。触るなッ!! 「あのぉ・・?」 「キミに話があるんだ。大事な話だ・・・ここでは邪魔が入るかもしれないから、外へ・・・来てくれるかな?」 「え・・・?」 邪魔って何だ?俺のことか?そりゃ邪魔するぜ!!呪いなんざぶち破って、九龍を護る! 九龍は行きたくなさそうに首を傾げた。 「キミの叔父さんのことだ」 「叔父さんの・・・?」 「ここでは・・・その当人に聞かれてしまう。眠っていても・・・それはあまり良くない」 「あ・・・そうですね・・」 九龍ッ!!行くなッ!!行くんじゃないッ!! 俺は重い身体をどうにか動かして、九龍の腕を掴んだ。外してなるものかと、力を込める。 「それじゃ、外に・・・・・・わっ!」 九龍が多分、転びかけたんだろう、そんな音がしたが手を離すことなど出来ない。 「・・・?どうしたのかな?」 「ええっと・・・・って・・・い・・痛いッ!」 「九龍君?」 ヤツが近づいてくる気配がする。くそ・・・ッ!来るな! 「離してッ!痛い!」 バチン!と手を叩かれる感覚がするが、力は緩めない。片手じゃダメだな・・・・、抱きしめて拘束するか・・。 「叔父さん・・・?起きてるの?」 もう片方の腕を伸ばして、九龍を抱き込もうとすると・・。 「わわっ!」 九龍の驚きの声の後、俺の手が九龍から離された。乱暴なやり方は九龍ではない・・・・・くそッ!! 「さすが・・・キミの叔父さんだね。こうなってしまっても元気だ」 「え・・?あ、はい」 何が元気だ!!!九龍もボケボケーと返事をしてる場合じゃねぇだろッ!!行くなッ!行くんじゃないッ! 「・・・・・・・・・い・・・・・」 くそ・・・声がでねぇ・・・ッ! 「叔父さん?気がついたの?叔父さん!」 九龍がこちらへ駆け寄ろうとしているらしいが・・・。 「どいてください」 「・・・・たんなる寝言のようだよ?」 「でも・・・」 俺と九龍との間にヤツがいるらしい。 どこまで邪魔をするつもりだッ!?くそーッ!ぶん殴りてぇッ! 「大事な話なんだ。キミの叔父さんの命に関わる・・」 「え・・・?」 「外へ出よう・・・、この話は急いで聞いてもらわなくてはならなくてね・・・」 「わかりました」 行くなーッ!!!明らかにお前に何かをするつもりだぞッ!! 行くなッ! 行くなッ! 「いくな・・・・九龍・・・」 「・・・・ッ!叔父さん!」 ようやく出た声に九龍が駆け寄ろうとする。 「・・・・寝言ですよ」 「離して!起きてるかもしれないじゃないか・・・・離してッ!話は後で聞くから・・・」 九龍に触るんじゃねぇーーーッ!!!くそッ!!!この《壁》邪魔だッ!!! 「私は急いでるんだ・・・来たまえ」 「いやだっていって・・・・」 「・・・・・・・・キミの叔父さんの命に関わることだと、言っただろう・・?」 「・・・・・わかりました・・・」 九龍ッッ!!!!行くなーーーーッ!!! バタン、とドアが閉まる音がして2人の足音が遠ざかる。 く・・・・そぉッ!!!!邪魔だッッ!!!俺の邪魔をするなッッ!! 叩いても叩いても壊れやしない。頼む、俺の身体・・・動いてくれ。這いつくばっても、行かなければ・・・ッ! 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺が、壊しちゃった・・・・んだ・・・』 九龍の声が、響いてくる。 消えかかりそうなそれに、九龍がどれだけ苦しんでいるか・・・わかる。 九龍ッ!!!叔父さんが今行くからな!? 全力で壁をぶち破り、目覚める・・・が、身体が鉛のように重い。 「く・・・そぉっ!・・・・・・ッ・・・・・・・う、動けぇ・・・」 畜生ッ!九龍の元へ行かねぇとならねぇのに!!! 「く・・・・ろうッ!」 どうにか起き上がり、這うように扉まで進む。 九龍・・・・ッ!! 『・・・・もう、消えちゃいたい・・・。俺なんか・・・・・』 九龍を・・・・・・・・・・・追い詰めやがったな・・・・ッ!あの子に何をしたッ!!!許さねぇ・・・ッ! 『痛い・・・・・ッ!』 助けてと、悲鳴が聞こえる。悲痛な叫び。九龍が・・・俺の大事な九龍が・・・危ない。 扉を開けたところで、俺は進むのを止めた。動くのは無理だ。 ならば・・・・魂だけでも、お前の元に行く。 死にかけようが、構うか!!! 九龍の元へ、元へと、急ぐ。 辿り着いたとき、九龍は苦しそうに眉根を寄せ、蹲っていた。周囲を、幹部の男のほか、ハンターと思われる奴らが囲んでいる。 ・・・・・・・・九龍に、何をした・・・・貴様ら。 俺は目がくらむほどの怒りをぎりぎりで押さえ、九龍の元へ行く。 九龍は、苦しんでいた、右腕には秘文が浮き出ている。 ・・・・・・・無理やり、封印を解いたのか・・・ッ!くそッ! 九龍、と呼びかけてやるが、聞こえないのか苦しそうに泣き叫んでいる。 『たすけて・・・・・・・もう・・・イヤ・・・ッ!』 くろう・・・・ッ!!! 『いたいよ・・・いたいよ・・ッ!』 俺がいる。ここに居る・・・・九龍・・・ッ!正気に戻れッ! 錯乱してる九龍に呼びかけるが届かない。 『イタイ・・・・よ・・・』 九龍を捕らえようとする奴らが目に入る。 九龍・・・ッ!・・・・・にげろ・・・ッ! 『・・・・だれのこ・・・・え?』 九龍の身体を押さえ込むようにし、秘文の浮き出た腕を持ち上げ見ている。 触るなッ!!!! 『・・・・苦しいよ・・・』 九龍の意識・・・いや魂が、その身体から抜け出そうとしている。 ・・・秘文の影響か・・・ッ!? くそ・・ッ!九龍・・・・戻れ・・ッ! 俺は九龍の意識体を包み込んだ。 とたん、声が大音量で響いてくる。 『逢いたい。逢いたいよッ!寂しいんだ。辛くて、悲しくて、寂しくて、苦しい。助けて欲しい。 もう、イヤ。何もかも、イヤ。 苦しい、・・・苦しいよ・・・・叔父さんッ!!!ここに来てよ!助けてよ!! ・・・・・・・・・・・・・・もう、イヤだよ・・・・辛いよ』 傷ついた心を、包み込んで抱きしめる。 これも夢かもしれないが、それでも俺は抱きしめる。 九龍、九龍・・・・九龍ッ!聞こえるか? 九龍・・・・・大丈夫だ。惑わされるな。お前は・・・。 愛されてるんだ。俺や、兄貴や、母親に。家族は皆お前を愛している。 愛されてるのを、忘れるな・・・ 1人じゃない、それを・・・・忘れるな・・・。 伝わったかどうかは、わからない。 俺の意識は急速に薄れていった。 |