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叔父さんと僕(オヤジ編)
エピローグ・その8

■第四章〜護りの翼(父親編)〜

「九乃香ァァァァァァーーーッッ!!!!」
大声で呼び、駆け寄る。
場所はオアシス、誰かと話をしていた九乃香が振り向き俺に気づいた瞬間。

「大声で呼んでんじゃないわよーーーーーーーッ!!!!」

「・・・・・・グッ!」

豪快に蹴り飛ばされて、木の幹に頭をぶつけうめく。
今のは・・・まともに腹に決まった・・・・ぞッ・・。痛みにはなれているはずだが、腹と後頭のダブルの痛みにはさすがに参る。
「・・・何か用かしら?た・つ・ひ・ろ・さん?」
「いだだだだだだだッ!!!!・・・ッ痛いッ!」
腕を折りかねないほど捻られて、さすがに悲鳴を上げる。お前・・・今の本気だっただろッ!?なんて馬鹿力だ・・・恐ろしい・・。
彼女は俺の前に仁王立ちし、見下ろしてくる。
・・・・・かなり怒っているような眼だった・・。
「こ、九乃香さん・・・・・」
「何かしら?」
にっこり、と微笑んだ顔は、九龍に微かに似ている。
九龍のそれは癒される優しい笑みに比べ、妻の笑みは何やら薄ら寒くなってくる笑みだ・・。
・・・・ッ!そうだ、九龍のことだ!怖気づいている暇はない!
「九龍は、どこだッ!どこにいる・・・ッ!」
「今まであの子に、会いに来ようともしなかったのに・・・今更気にかけるの・・?」
「それは・・・ッ!」
「九龍は、日本へ帰っていったわよ」
「・・・なッ!」
なんだと・・・?
「ここへは顔を出さなかったけれど・・・メールでね。帰るって言ってきたわ」
「な・・・・お前、許可したのかッ!?」
「えぇ・・・あの子が自分でそう決めたのだから、止めることはしないわ」
「何を考えてる!あの子はまだ子供だぞ!?」
「もう15歳よ」
「15はまだ子供だッ!それに狙われてるかもしれないんだぞッ!?」
「そうね・・・・・丁度良いわ。私からもあなたに話があるの・・・ここでは問題があるから、ついて来て」
さっさと歩き出した彼女を見送った。

九龍が、帰国した・・・。

会ったのは・・・つい4時間前だぞ・・・ッ!
あまりにも行動が早すぎる・・・ッ!

俺は彼女を追いかけ、狭い部屋に入ったとたん、目に付いた机に拳を振り下ろした。
「その机、壊さないでよね?」
「・・・ッ!君は、わかってるのか?日本には九龍を護るヤツは居ないんだぞッ!?」
「大丈夫よ、同行者がいるから」
その言葉に思う浮かぶのは、馴れ馴れしいあの男。
「今日、九龍が協会に来た・・・、君と同僚だとか言う男と一緒になッ!」
「あぁ・・・黒木さんのことね。黒木啓介」
「・・・・・・・・・・あの男は何者だ?俺はあんなヤツが君の同僚だということを知らなかったぞ!」
「そりゃそうでしょうね・・・協会の人間だもの」
「・・・・・・・何?」
「ただしく言うと、協会の回し者ね・・・。九龍と貴方が帰国する寸前に、入ってきたの。経歴は他の発掘チームに居たとか書かれていたけれど、全て架空のものだったわ」
「・・・・・調べたのか?」
「えぇ。私のチームで、胡散臭い輩を野放しにできないでしょう?だから発掘チームにも入れてないのよ」
「・・・・そんなヤツに九龍の世話を頼んだのか・・・?」
あの男は九龍の面倒を、九乃香から頼まれていると言っていた。
「頼んだわ」
「・・・・・・・・・・・・・・ッ!何を考えている!事情は全て話しただろうッ!?」
「そう、私が話したかったこともそのことよ」
「・・・・・・・・・・どういうことだ・・」
聞くと彼女の表情は一変し、真剣な顔になった。

「九龍は、もう協会に目をつけられているからよ」

「なんだと・・・?」
九龍に眼をつけるのは予測のうちだが・・・、早すぎる。
「予測はしてたんでしょう?」
「あぁ・・・・」
「黒木は、ここへ来た時から様子がおかしかったのよ。それに九龍が来る前と、来た後では態度が違うの」
「・・・最初から九龍を・・・」
「そう、狙っていたみたいね。こちらのスケジュールをわざわざ調べて、私の隙をうかがってたわ・・・それに新たに見つかった遺跡は、協会が情報を寄越した辺りなのよ」
「・・・・連れ去るためにか・・・」
だんだんと、読めてきた。
つまりは、九龍はエジピトへと来る前から協会に目をつけられていて、協会は九龍がここへ来ることを予測して黒木を差し向けていた。
九龍の母親の隙を探って、その隙に・・・・連れ去る予定だった・・・ということか。
「そう。さすが龍大さん・・・話が早いわ」
「九龍を連れ去る目的を、君は予測したわけか・・・・・強引に連れ去ることは・・・」
九龍の身の危険性を意味している。
それこそ怪我をさせても構うものかと、強引に事を進めるだろう・・・・協会は。
「私はあの子に怪我だけはさせたくないの」
「・・・・危険な目に合わせる事はいいのか・・・ッ」
「あの子は望んでいるのよ。《宝探し屋》になることを・・・どちらにせよ危険な目には確実に合うわ、なら今のうちから慣らしておいたほうがあの子のためよ」
「そうだが・・・ッ!まだあの子は子供なんだぞッ!?」
そう言うと、彼女は拳を振り上げ、俺と同じように机に振り下ろした。

バキィッ!

「・・・・・・・・・・・・・まったく・・・いつまでも子離れできない兄弟だことッ!そんなんだから九龍がいつまでたっても、精神的に自立できないのよッ!」

壊すなと、自分で言っておいて・・・・・真っ二つに叩き割るか・・・。どんなバカ力なんだ・・・九乃香・・。
「ちったぁ、九龍を信じてみようとか思わねぇのかよッ!」
九乃香・・・言葉使い・・・・若い頃の訛りが出てますよ・・・・。
「お、落ち着け・・・・」
「・・・・ッたく!あなたも、生意気な義弟も!九龍には甘過ぎなのよッ!」
「あ、甘くは・・・・・ない・・・と」
「どこがッ!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・甘いです・・・」
「よろしいッ!」
逆らえないッ!逆らった瞬間に撲殺されそうだ・・・恐ろしい。
しかし・・・確かに恐ろしいが・・・本当はとてもやさし・・・・って惚気てる場合でもなく。今は子供のことが先決だ。
「しかし・・・・九龍を協会に・・」
「遅かれ少なかれ、人質の甥バカがいる限り九龍は協会へ行っていたはずよ」
「・・・ッ!」
「それにもう・・・九龍に何か仕掛けた後なんでしょうね・・・律儀なあの子が、顔を見せにも来ないでメールで挨拶をすませるなんておかしいわ」
「・・・・・・・・・今日会った時・・あの子は泣いていたんだ」
「・・・・・・」
「・・・さよならと言った・・・」
何も言わない彼女に状況を説明していくうちに、落ち着いてくる。
そうだ・・・おかしかったんだ。俺と会ったときの怯え方、別れの言葉の意味。
・・・・・俺の元へ来た、差出人不明のメール。
「協会の仕業でしょうね。タイミングよく貴方と九龍を会わせて、九龍を親元から離れさせる・・・あくまで、自主的に」
「・・・くそッ!!」
「日本で甥バカを盾にとって九龍を絡め取るつもりでしょうね・・・・」
「・・・・・・・・・・・・ッ!」
「待ちなさい」
踵を返し、すぐにでも日本へ行こうとする俺を、彼女は止めた。
「なんだ・・ッ!時間がないんだぞッ!」
「時間はまだあるわ。九龍は大丈夫よ」
「何故そう言える!」
「協会は九龍をハンターにしなければ、良いように使えないでしょう?次の試験はもうすぐだけど・・あの子の今の状態でならまず無理よ」
「・・・・・・そうだな・・」
《宝探し屋》の資格を取るのは、かなり難しい。
そう簡単に取れてしまっては問題だし、人員がいなければ成り立たない。
「九龍はハンターになりたいと、甥バカが呪いにかかる前から頑張ってるわ。知ってるでしょ?」
「あぁ・・・」
「自分で何になりたいとか、はっきりと目標を持っていることは良いことよ。それに向かって全力で挑むのもね」
「・・・・しかし・・・」
「でもあの子は経験が足りない。協会だって思惑があっても、それだけのためにハンター資格を渡すわけにはいかない」
「まぁ・・・そうだろうな・・」
「私の予想では、あの子を次の次の試験・・・来年春の試験に合格させるために、きっとバディか何かをやらせると思うのよね・・協会は」
「そうだな・・・俺から引き離すことも出来るだろうからな・・」
「その辺は、根回しをするわ。安心して、九龍を一方的にどうこうはさせない」
「・・・・・だが・・・九龍の心は・・・・傷ついたままだ・・」
「そうね、貴方がバカな嫉妬に駆られなければ良かったのよ。父親として胸を張ってどっしり構えていれば、あの子は迷わなくてすんだのに」
「・・・・・・・・・・・」
「本当情けないわねぇ」
「・・・・・・・・・・」
そこまではっきり言わなくても良いじゃないか・・・・・。
図星なだけに胸が痛い。容赦がないのでざくざくと突き刺さる。
「あなたや、甥バカは九龍を護らなければとか、ひたすら過保護だけれど、貴方達が思うほど九龍は弱い子じゃない」
「・・・・・そんなに甘すぎか・・?」
「まだ自覚しないの?・・・・・・・・叩き込んでやろうか?」
「イエ!ケッコウデス!」
肝が冷える微笑を浮かべないでください。怖いです。
「九龍は、とても私の子とは思えないくらい可愛いけれど」
まぁ・・・・確かに・・・九龍とその母親の性格は似ていない。
外見は・・・少し似ているが・・・。
だが、根っこは母親似だと思うんだがなぁ・・・・、そんなことを言うと照れのあまりに鈍器でタコ殴りとかやりそうで怖い。
「芯はしっかりしてるし、あの甥バカを守りたいとか言ってたわ。あの子はきっと強くなる」
「・・・・・・・信じてるのか・・」
「当たり前。あなただってそうでしょう?私と、あなたの子だもの・・・弱そうに今は見えても、強いわ」
なんと言うか・・・・普通は母親が子供に対して過保護で、父親は数歩下がって見守る・・・そんなものだと思うのだが。まるで父親のような感じだな・・・九乃香。
「あぁ・・・信じよう・・・」
そうだな。彼女の言うとおり、俺は九龍を信じよう・・・。
もうこうなってしまったら、九龍を協会から無理に連れ出すことは・・・危険を伴う。
本当は今すぐにでも、傍にいってやりたい。

だが、信じて・・九乃香の言うチャンスを待つのが一番良いのだろう・・・。

「ふふ。日本へはすでに手回しをしてるから、あなたはここで報告が来るのを待つのよ。私の手伝いをしながら・・・ねッ!」

バン!と背中を強く叩かれる。
あぁ・・・そうだな・・・そうしよう。

「・・・・・・・・了解、奥さん」

「・・・・・・・・・ッ!」

バキィとストレートに殴られて壁にぶち当たる。
痛さに目が回る。
霞む視界に写ったのは、照れて赤くなった、妻の姿だった・・・・。


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