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叔父さんと僕(オヤジ編)
エピローグ・その3

「――ッ!九龍!」
病室の方向から聞こえてきた悲鳴は、確かに九龍の声だった。
慌てて駆け出そうとすると、腕を掴まれ阻まれる。
「離せッ!」
「まだ話の途中ですよ・・・葉佩さん」
階下の休憩所まで聞こえるほどの悲鳴だ。何かあったに違いないッ!その腕を振りきり、九龍の元へと駆け出すが・・・。
「なんだ、貴様ら・・・」
階段の前に立ちふさがるのは、3人の男。いずれも邪魔で目障りになるほどの、逞しい体つきの男達だ。ロゼッタの職員にしては、体つきや眼光が違い過ぎる・・。
「ハンター・・・だな?そこをどけッ!」
「・・・・・・・・・」
3人の男達は黙したまま、動く気配はない。
「なるほど、俺を行かせないつもりか」
「えぇ・・。実は貴方の息子さんにも用がありましてね・・・、このような手段を取らせて頂きました」
背後の男が静かに言う。
「・・・・何の用だ?あの子はハンターでもバディでもない!俺の息子だ!あの子に用があるのなら、俺を通してもらおうか・・ッ!」
「ぐふッ!」
目の前に立つ、屈強な男を殴りつける。
「秘文」
「――ッ」
振り向き、男を見る。
「・・・・・失敗したとありましたが・・・、貴方も貴方の弟さんも、息子さんも・・・・、奥の間まで入っていますね」
「何が言いたい」
「・・・・・奥の間の扉の封印がなされた形跡がありました・・・。封印は秘文がなければ出来ません」
「・・・・・・・・」
「つまり、脱出したあなた方のうち・・・誰かに宿っていると見て間違いありません」
なるほど・・・。つまりずっとこちらを監視していたということか・・。
それはさすがに盲点だった・・。
舌打ちしたいのを押さえ、この状況を打破することへ集中する。
九龍の元へ、早く行かねば・・・ッ!
「秘文を持っているとすれば・・あいつが持っているんだろうな」
「あいつ・・?」
焦りを耐え、冷静に言い放った。
「小五郎だ」
すまないな。九龍を守るための餌になってもらうぞ。九龍を守るためだ・・。お前も本望だろう?小五郎・・。
「・・・・・・・それはありえ・・・」
「ありえない、といえるほどの確証があるのか?あいつは眠りの呪いを受けながらも、遺跡の主・・鬼と戦った。それは知ってるんだろう?」
「えぇ・・」
「秘文の出し方などは知らない。奴を調べるなら勝手にすれば良い・・・が」
立っていた邪魔な男どもをまとめて蹴り倒し、ロゼッタの幹部の男を睨みつける。
「九龍には関わるな。あの子は関係ない」
「・・・・少し話を聞かせてもらっているだけですよ」
「俺はあの子の父親だ。子を守るのは俺の役目だ・・・あの子に何かしたら容赦はしない」
「・・・・・・・・・・」
何も言わない相手をもう一度睨み、倒した男達の身体を踏みしめて階段を駆け登る。

「九龍ッ!!!」

全力で走り辿り着き、扉を乱暴に開く。
そこにはロゼッタの医師、看護婦、そして見知らぬ男達2人・・・・。
「九龍!?」
九龍が居ない!?見渡すが、見つからない。
「九龍をどこにやった!!!!」
大声で怒鳴りつけると、俺とは顔見知りの医師と看護婦は冷静にあるところを指差した。
「あそこに」
あそこ・・・・?
走りより、指差されたところを見ると・・・。

九龍を守るように抱きしめて眠る、弟がそこに居た。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

なんと言ったら良いのだろうか・・・。
絶句した・・・・・。
ホッとしたものもあるから複雑だ。非常に物凄く計り知れないほど複雑だ。
こいつは確か、精神に大打撃を受けて意識は昏睡してるようなものとかM+M機関の男は言ってなかったか?
・・・判っている。
九龍のためなら、どんな無茶でも困難でも、それすら乗り越えて助けるだろう・・・判る。判るんだが・・・・複雑だ・・。
「・・・・・おと・・・・・」
「九龍ッ!大丈夫か!?」
小さな小さな声に俺は我にかえり、ベッドに近寄った。
近寄って見ると、すぐ近くの床に倒れ伏した男が居た。
・・・・もしや殴ったのか・・・?
目覚めたのか・・・?

こんなに早く・・・か?

いや、九龍のために、早く目覚めて欲しいとは思う!思うのだが・・・・・・。
先日のイチャイチャを思い出すと複雑だ・・。
もう少し寝とけとか、九龍が成人するまで安眠しとけ、とか思うのは間違っていないよな・・九龍・・。

「おと・・・・うさん・・」
またも小さく呼ばれて意識を戻す。
九龍は小五郎の腕の中から俺を見あげていた。
「・・・おじさんが・・・・」
久々に聞いた声は掠れていて酷い声だが、力がこもっていた。
「助けてくれた・・・んだ・・・」
「そうか・・・」
「大丈夫だって・・・、俺のせいじゃないって・・・・・・」
九龍の両目から涙が溢れだしこぼれた。
ずっと自分を責めていた九龍に・・・、この状態でありながら・・・・伝えたということか・・・。
「あぁ・・・お前のせいなんかじゃない」
九龍の記憶は、小五郎が呪いを受けた時点までしか覚えていない。
その後の大事であろうやり取りも一切覚えていない。
だからこそ・・・ずっと苦しんでいた。
自分のせいだと自分を責めていた。

「気にするな」と言った。
「お前のせいじゃない」とも。
・・・・何度も・・・・。
だが俺の声は届いてなかったんだな・・・。

正直、悔しい。
・・・・だが・・・、感謝する・・・・・小五郎。

「お前が、ずっと泣いていたら・・・・叔父さんは心配できっと安静にできないぞ?」
涙を拭ってやりながら、優しく言うと、九龍は久方ぶりに見える微笑を浮かべた。
「・・・・うん」

俺では、この笑顔を引き出すことは出来ないんだろうな・・。

実の父親だというのに、情けない・・・・。
この子を・・仕事のために置き去りにした罰か・・。

九龍の頭を撫でてやると、随分長い間気を張っていたせいか・・・、押し寄せてきた睡魔に負けたらしく安心したように眠りについた。



「・・・・・・・・・・、それで俺の息子に何をしようとしたんだ・・?」
床に寝そべったままの男の背中に足を乗せ、体重を込めながら前方に立つ見知らぬ男2人の眼を交互に睨む。
「ちょっとした調査ですよ・・・」
「ほぉ・・・」
「ひ、秘宝をどくせ・・・」
くだらないことを言いかけた男を殴りつけ、無理やり立たせ、共々強引に病室から押し出した。
「・・・・・ドクター・・・九龍の眠りは深い。だいぶ衰弱しているようだ・・・・頼めるか?」
「あぁ・・わかっとるよ」
用意していたのか点滴の準備を始めるのを見て、胸をなでおろす。
「よろしくお願いします」
頷いたのを見て、病室を出た。

・・・なんとしても、早急に九龍を安全な場所へ移さなければ・・・。

扉を閉め、正面を見据える。
廊下の窓辺に寄りかかり、幹部の男が悠然とこちらを見ていた。
「・・・・息子は、叔父の事で精神的に負担がかかり、心因性記憶喪失になっている・・・遺跡の中での事は覚えていない。思い出させるのも今のあの子には耐えられないだろう・・・そっとしておいてもらいたい」
「・・・そうですか・・覚えていないのですか・・」
「・・・・あぁ」
男は何を考えているのか、こちらを見て何も言わない。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
どれほどの時間が立っただろうか、すでに気絶していたハンターは気がついて離れている。
「・・何もないのなら、これで失礼します」
いい加減この男と向き合っているのも飽きてきた。
そう言い、病室へ戻ろうとすると、背中から声をかけらる。
「・・・葉佩小五郎・・・奴の身体を調べますよ・・・」
「・・・・・・・ッ」

九龍のためだ・・・許してくれ・・。

「勝手にしろ」
「えぇ・・・・・・あの秘宝は、必ずや我々が手に入れなくてはならない」
・・・・?何か、知っているのか・・・この男・・。
「秘宝を手に入れることこそが、我々の存在意義です。忘れないでいただこう・・・」
「あぁ、判っているさ」
俺にとっての秘宝は家族だ。だがな・・・、それ以上のモノは存在しない。
「・・・・それでは失礼します」
去っていく相手の後姿を見送り、忙しく頭を動かせる。
「・・・どうする・・・?」
九龍を早々に隠してしまわねば・・。
解呪の秘宝を探すにしても、九龍の宿す秘文を先にどうにかせねば・・・。
今のところ、秘文に関しては封印がかかっている間は安全ではあるだろう。だが・・・。それもいつまで持つか判らない。
考えうる手は、2つだ。
秘文を他の依代に移すか、秘文=鍵を使わずに遺跡の扉を強引に開くか・・・。

遺跡を探し出し、力ずくで開くのなら良いが・・・。
この手の遺跡は奇妙な仕組みで封印がなされており、正規の鍵を使わねば罠が発動しこちらの身が危険になることもある・・。

それに九龍を、連れては行けない。
その間にロゼッタに手を出されてはかなわない・・。

「選ぶ道は・・・一つか・・」

九龍を連れ、エジプトへ向かい、隠す。
あえて協会の膝元に行くのは、目が届く位置ほど案外死角が多いというものだからだ・・・。
協会は万能な組織ではない。
それこそ一癖もふた癖もあるハンターを束ねているのだ・・、人員もそう多くはない・・。
手元にあるとすれば、追跡の必要はない。
過剰に隠すより堂々とさせているほうが、隠しやすい。
木を隠すなら森の中、だ・・・。

なるべく早くに・・・九龍を連れていこう。
九龍が嫌がっても、力ずくでも。

「俺はそればかりだな・・・」

九龍の嫌がること、悲しむことばかり・・・している。
例え九龍を護るためだとしても・・・・・言い訳をしている気になってくる・・。

「お前なら、うまくやれたんだろうな・・・小五郎」

九龍を想う気持ちは、勝るとも劣らないつもりなんだが・・・な・・・。

外を見やると、俺の気持ちのような暗くどんよりとした空模様だった。


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