叔父さんと僕(オヤジ編)
エピローグ・その14
第6章〜それぞれの旅立ち(父親編) 「行ってしまったな・・・」 澄んだ秋の空を見上げ、遠ざかる白い機体を見つめていた。 ふと、あることに気がつく。 「そうか・・・半年経ったか・・・」 九龍と日本を発ったのが冬・・11月だった。それから色々あり、今は5月ももう終わろうとしている・・。 もう暫くすればあの事件の1年後だ。 あの事件が、俺達家族に、影を落した。 一時は九龍と完全に心がすれ違ってしまったが・・・。 やっと元に戻ったという気分だ・・・。 だが、本当に・・わかったんだろうか? 九龍は一度不安を覚えると、ふとしたことで思い出して1人で悲しんでしまう傾向にある。 誰かを責めることはなく、自分を責めてしまう。 小五郎にパフェを食べられて怒っていたときが良い例だ。あの子は怒っていたくせに、背を向けられたとたん、不安で泣きそうになっていた。 「・・・・・不安になってきた・・・」 とりあえずは、伝わったとは・・思う。確かに九龍と心が繋がっていた。 あの子は、俺に笑いかけてくれた。 だが・・・・・もしもまだ、心の底にこびりついていたりはしないだろうか?ありうる・・・。 九龍に、わからせるには・・・・・・何度も言い聞かせなきゃならないような気がしてきた。なるほど、だからくどいほど九龍に愛を示してたのか?小五郎は・・。 こうなれば、協会に知られない手段であの子へ愛を示そう。 とりあえずは、クリスマスだな! あの子が欲しがるものは何だろうか・・・。 たしか・・・・・・・。 弟か、妹が欲しいと・・・・。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無理」 すまない、九龍。それは無理だ!!! 俺のほうはいつでも・・・っていうか、なんと言うか、その、あの、えーとだな・・・・・・・作ってあげたいなぁ・・というか、九龍も寂しいんだな・・とか思うわけでありまして。 えー・・・・・しかしだな・・。 あの、奥さんに、そんなのことを言えば・・・・。 「こ、殺される・・・・」 だいたい結婚する前も殺されかけたし、結婚した後も・・殺されかけたし、ある意味九龍ができたのは、かなり奇跡というか。 九乃香は、照れながら撲殺しようとしたりするからなぁ・・・。 九龍・・・・、頼むなら母さんに頼んでくれ。父さんには無理です。 クェエーという鳥のような鳴き声がした。九龍用に設定してある着信音で、可愛くてイメージに合うので使用しているのだが・・・、メールまだ届くのか? 空の彼方に消えてしまった白い機体はもう目で見ることは出来ない。 とりあえず見てみるかと、開いてみると・・・。 『お父さんへ まだ多分ぎりぎり届くだろうっておねーさんが言うので送ってみます。 今日は来てくれて・・何度も言うけどね、嬉しかった。あの声が・・お父さんじゃないって、夢の中で叔父さん言ってくれたこと、本当だった。 ・・憎まれてるって嫌いだって、・・関係ないって・・言われて、本当にすごく辛かった。違うんだよね・・?違うって、信じて良いんだよね・・? ううん、信じるって決めたから。お父さんもお母さんも叔父さんも、ずっとこれからも大好きだよ。 ・・・・叔父さんを助けるための秘文手に入ってた。ここにあるって言われた。絶対に助けて見せるから・・・見ていて欲しいよ。頑張るから。でもその前にハンターにならなくちゃ!おねーさんは色々いっぱい知ってるみたい、手取り足取り教えてあげるって言ってくれました。(なんか叔父さんと言ってることが似ていて面白いよ) あ、ええっとおねーさんが言ってます。んと・・『九龍ちゃんにたらし込むテクニックも伝授するわ!』だって。たらし込むってなんだろうー?そのままでも良いけど、武器になるから磨くのよ!って言われてる。磨く?何か判らないけど頑張るね! それじゃお父さん、身体に気をつけてね!風邪とか引いちゃダメだよ?元気でね!お母さんには、おねーさんが後でメールするらしいから一緒に書こうと思ってます。なんかねーつけぐちするから各語してね!だって・・覚悟?こっちの字かな?後で調べようっと・・。 それじゃお父さんまたね!☆ミヾ(=^_^=)ノ彡☆ばいばいにゃーん(顔文字つかってみたよー)』 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・九龍・・・・」 俺はその場に思わず脱力して座り込んだ。 ツッコミしたい部分は山ほどあって、あぁ心臓が!心臓というか胃が!!!痛い・・・。 とりあえず・・真っ先に目が行く不穏な1文・・・告げ口云々はは見なかったことにしよう・・・。 あぁ、九龍、俺は生きてお前に再会できるだろうか!?とりあえず・・・死なないだろうとは思うが・・・、あぁ、恐ろしい。見なかったことにする。それが良い! にしても顔文字・・・何故そのチョイスなんだ!九龍!俺が使ってたのはスピード勝負のような携帯メールのやり取りだったからだ。普段は使っていない! しかしだな・・ばいばいにゃーん・・・で、更に脱力した。 あの子の国語の能力は悪いというか小学生レベルだ。その上顔文字を使う癖ができてしまったら・・と思うと頭が痛い。可愛くて微笑ましいとは思うのだが・・。急ぎ言葉のマナー系の本を買い、送るか・・。勉強する気はあるようだから、やれば覚えると思うからな。 しかし・・・手取り足取り!?たらし込むテクニック!? まさか本気で九龍に妙なことを教えるつもりじゃないだろうな・・・ッ! あぁ・・・九龍、頼むからまっすぐに育ってくれ・・・。何故傍に行けないんだ!九乃香を通して注意させるか・・・。また甘いと怒られるか?恐ろしいが・・・九龍のためだ! しかし何というか、九龍!お前・・・本当に判っているのか!? あぁ、またも不安が押し寄せてきた。 幹部のあの野郎がまたも手を出してくれば、簡単に騙されてしまいそうだ・・。 それに秘文。小五郎とかわした約束を思い出していないというのは本当なんだな・・。記憶が完全に戻っていないということは、やはり。封印は半端にかかったままなんだな・・・。 だが思い出していたとしても、九龍は無茶をするんだろうな・・。 なるべく急いで・・・・・俺は俺のやるべきことを最優先で動いていかねば。 協会に秘文を・・・つまり、九龍を鍵として使わせない。 これが一番重要だ。九龍の身の安全をまず、確保せねば・・。 小五郎の呪いについては、俺は心配はしていない。 あいつは必ず自力で解いて来る筈だろう・・九龍の元へ帰るために。 ・・・九龍の護衛になった九乃香の妹、彼女なら九龍をハンターなれるくらいの実力を身につけさせることが出来るだろう。 ・親の欲目かもしれないが、あの子は勘が良い。 落ちている原因は遺跡探索についての知識不足などだろう・・多分な。 きっと今回の任務でそれを補えるだろう・・・あとは、コンディションか・・。 ハンターになった後、すぐに秘文がらみの任務につかされる事はないはずだ。 新人はまず、2、3の任務をこなさねばならない。 ならば、まだ時間はある。 協会の思惑を掻い潜り、必ず九龍から秘文を取り除いて見せる。 今日という日が、俺と九龍の旅立ちの日だ。 ・・・・・必ず、九龍を助け、護って見せる。 もう一度、九龍を乗せた白い機体が消えていった青空を見上げ、心に誓った。 <END> |