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叔父さんと僕(オヤジ編)
エピローグ・その11

第5章〜守護者達の憂鬱(前編)

「よぉ・・・・・・・・・・・・兄貴」
病室の窓辺から、外を見ながら、俺は電話をかけた。
俺の携帯は、充電していなかったので九龍の携帯を拝借してかけている。電話の向こうの人物・・・兄貴は、一瞬無言になったが、確かめるように言った。
『こ、小五郎・・・かッ!?』
窓の外は、もう日が暮れてしまっている。遠くに見えるビルの明かりに目を向けながら、確かめる声に返事を返す。
『小五郎・・なのか?』
「おぉ、そうだぜ。九龍と思ったのか?」
『その番号は九龍の携帯だろう・・・』
「おぉ。借りてんだよ。俺のは充電してないみたいだからな」
『もう・・・・・・・目覚めたのか・・・?』
なんだ、その心中複雑そうな声は・・・、気にくわねぇ・・。
「もうって言葉にトゲを感じるんだがなぁ・・・兄貴。俺が目覚めちゃ悪いか?」
『いや・・・そうではないが』
「はッ!本当はイヤなんじゃねぇのか?九龍を取られると思って」
当てこするように、言いながら・・・・願っちまう。
九龍のために・・・怒ってくれ。違う、と聞こえるくらい言ってくれ。
・・・・九龍を傷つけたのは、お前じゃないだろ?兄貴。
違うだろう?そうだろう?そう言えよ!

「心配しなくても良いぜ。・・・・・・・九龍は俺が大事に育ててやるからなッ!!」

ドカッ!と壁を殴りつけて、慌てて九龍の寝ているベッドと見た。
深い眠りに落ちている愛し子は、起きる気配もない。
安堵しながらも・・・それだけ九龍の心に負荷がかかったということに・・・・腹が立って腹が立って、目がくらむほどの怒りを感じる。
俺さえ、傍に居てやれれば・・九龍をこんな風に嘆かせることもなかったんだ。
記憶さえ封じられてなければ・・・・、いや、結局封印は剥がされてしまったが、少なくとも時間は稼げたわけだから結果的には、兄貴がしたことは間違いではなかったはずなんだ。そう思ってなければやっていられない。
俺との約束を忘れたままなのは悔しいが・・・な・・。
九龍は自分を責めている。自分のせいなんだと、俺達がそうじゃないといくら言っても・・・責めつづけていた。
その気持ちの影にあるのは、俺を守りたい、頼られたいとかいった・・・自立心だろう。守られる立場ではなく、守る立場になりたいと、前を見てそれを目標にしていた・・・前向きな心だろう。
だからこそ、自分を無意識に責めてしまっている。
しかし、九龍は・・・、それすらも力に変える術を見つけていたんだ。自分らしいやり方で。
だが、余計な横槍が九龍を追い詰めた。
この子に、いらぬ不安を与える原因になった出来事を起こした兄貴への怒り。
九龍と兄貴のすれ違いをつき、汚いやり方で追い込んだ協会への怒り。

・・・そして、呪いを未だにぶち破れない自分への怒りだ。

『・・・・・うるさい。耳元で怒鳴るな。・・・・何を怒ってる?』

何を怒ってるだと?俺が怒る理由は九龍にしかない。
わかってんだろッ!くだらねぇこと言ってんじゃねぇッ!いいか、よく聞けよッ!

「俺が目覚めたのはなぁ、九龍が・・・・・・ッ!」
『九龍が・・・どうかしたのか・・』

どうかした・・・なんてものじゃない。

「・・・・・・・・苦しんでた。泣いていた・・・一人で。家族を壊したと、自分が悪いんだと、お前に憎まれてるんだとッ!」

あんなに、九龍は、怯えていた。
壊したと言ったときの、九龍を、俺は忘れられないだろう・・・。

『・・・・・・・・・・ッ!』
息を飲む声の後は、ひたすら無言。
衝撃を受けたらしい感じに、内心安堵する。

『・・・それで九龍は・・・・?』
お・・・・?この声は、もしかしなくとも・・。
「義姉さんか・・?」
『そうよ。それで、あの子は・・・無事?』
俺と義姉さんは、仲が良いとは言えない。
元々性格的に反りが合わない相手みたいで、九龍が間に居なければ会話をすることすら避けている。お互いの心の安泰のためにだ。
最も、あちらから話かけてくること自体稀なんだけどな・・。
声の様子は、本気で九龍を心配している声で・・・このおっかない女も母親なんだな。
「あぁ・・・今は疲れ果てて眠ってる」
『そう・・・・あの子を、助けてくれたんでしょ?さすが甥バカなだけあるわ・・・ありがとう』
なんだ、甥バカってのはッ!と言いかけて止める・・言い返せねぇからなぁ・・・確かに俺は九龍バカだ。悪いかッ!
しかし、礼を言うとは・・・ちとびっくりしたぜ。
「・・・いや、礼を言われることじゃねぇよ・・・俺に取っちゃ当然のことだしな・・・・。それよりなぁ・・・答えろよ。何故九龍の傍に居ないんだ?なんで1人で帰した?どうして1人にさせてるんだッ!?」
俺が、兄貴に電話をかけているのは、これを言いたかったからだ。
兄貴を怒鳴りつけてやらねぇと、気がすまねぇ・・・ッ!
怒りで今の俺は呪いすら蹴散らしている。
長くは持たないかもしれないが、九龍がもう、憂いを覚えることのないようにしてやらないと、おちおち眠っていられねぇ。
心配で、たまらないんだ・・・。
九龍には、幸せで居てもらいたいんだ。笑っていて欲しい。
あんな風に声を殺して泣く姿なんざ・・・見たくない。
「おい、なんとか言えッ!」
『うるさいわねッ!耳元で怒鳴らないでッ!九龍を迎えに行けないのは理由があるのよ』
「理由だ・・・?九龍を1人っきりにさせた理由か?はッ・・・聞いてやる。くだらねぇことなら、俺はお前らから九龍を奪うからな。俺の子供として大事に育ててやる・・ッ!」
『俺が説明する・・・代わってくれ。・・・・小五郎、九龍を助けてくれたんだろう?俺からも礼を言っておく・・・・ありがとう』
「あぁ・・・・」
兄貴が俺に礼を言うとはな・・・いや、初めてではないが・・、心の底から感謝してるような感じだな。
『・・・・九龍を迎えに行けないのは・・・、あの子を1人にしてしまっているのは・・・俺の迂闊さが原因だ。・・すまない』
その言葉に思い当たるものがあった。あぁ、あれだよな・・・。
「俺を簀巻きにしてボコってたのを見られたことか?」
『――ッ!お、お前・・・・知ってたのか?意識が・・あったのかッ!?』
「そりゃ、ボコられてりゃ痛みを感じるだろ。寝ててもな」
まぁ実際は、九龍が俺との別れに泣きそうにしている場面も、兄貴が俺に対してどう思っていたのかを呟いていたことも、知っている。
あの時の九龍が、可愛くて幽体離脱をして見ていたなどとは、言えないからな・・。
『・・・そうか、悪かったな・・・』
「んげッ」
うぉ、思わず口にしてしまった!!てか・・・・兄貴が俺に何度も謝るとは・・・ありえねぇ・・ッ!
『んげ?』
「あの・・・お兄様。妙な寒気がするんで謝るのはやめてくれ。マジで」
『・・・・・人が愁傷にも謝っているのに、その言い方は何だッ!』
「いや・・まぁ・・・それで、それが原因なんだな?やっぱり」
『あぁ・・・あの後から、九龍は俺を避けるようになった。酷い父親だと・・思ったのかもしれないな・・』
「はぁ?寝言か?」
九龍が、父親を避けるだと・・?酷い父親と思うだと?ありえねぇ・・・。
『なんだと?貴様、茶化すつもりかッ!?』
「いや、そうじゃねーよ。兄貴・・・九龍は俺が嫉妬するくらい、父親のことは大好きっ子だぞ?」
俺が嫉妬して止まらないくらいに、九龍はお前のことを愛してるんだ。
あーマジで、俺が父親になりてぇ・・・ッ!
あーもう、奪うぞ?その座・・・まぁ、奪いたいが、九龍の気持ちが一番大事だからな・・・九龍が望まないことは、俺にはできない。
『九龍は言ってた・・・お前に嫌われたと。憎まれてると・・・・泣いてたぞ。・・・嫌っている相手に、嫌われたなんて言うか?』
『俺が九龍を嫌うだと?憎いだと・・・?』
「まさか、心当たりがあるとかは、言わねぇよなッ!?言いやがったら、いくら兄貴でも・・・容赦しねぇ・・ッ!」
九龍にそんな酷い言葉を言ったとしたら、例え血が繋がっている兄貴だろうと、九龍の父親であろうと・・・俺は許さねぇ。あの子は、小さい頃からその言葉を怖がってたんだ。
お前らから捨てられたんじゃないかと、怖がってたんだ!
なぁ、違うと言えよ。
九龍に届くくらいの声で、言ってくれッッ!!

『そんなこと・・・そんなこと・・・ッ!ありえるはずがないッ!!!!なんだそれはッ!九龍が言った・・・ッ!?おい、そこに居るんだろ?今すぐ起こせ!!!違う!違うぞッ!』

俺はその怒鳴り声を聞くと、携帯のボリュームに手をかけた。高性能のこれは、スピーカーもついている。フリーハンドで会話をするために。
とたんに部屋の中に兄貴の大声が響く。
それを九龍の方へ向けてやった。

『九龍ッ!九龍-------ッ!!!聞いてくれ!お前を・・ッお前のことをッ!嫌うなんてありえないッ!憎いなどと思うはずがないッ!好きだぞッ!愛してるんだ・・・九龍、お前を、愛してるんだッ!大事な、大事な子供だ!聞こえているか?なぁ・・・・九龍ッ!』

しかし、やはり・・・九龍は、九龍だった。

「んー・・・・・もーぅッ!うるさいッ!!!」

九龍は本気で寝入ると、言動が母親に似て来るんだよな・・・。
ちなみに、夏場の九龍は起きてるときも常にこんな感じだ。暑がりだから、傍に張りついたり、ハグしたりすると、蹴ってくる。容赦なく。でもって怒らせると、こんな感じに怒り出すんだよなぁ・・・。
寝ている時や、好きなものを食べているときに邪魔をした時も、こんな感じだ・・・。

『・・・く、くろうぅ〜ッ!』
あぁ、電話の向こうでマジ泣き入ってる兄貴の声が・・・。ご愁傷様です・・南無南無。
電話のスピーカーと音量を元に戻し、九龍をなだめるように撫でてやると、安らいだような表情に戻った。

「あー・・・兄貴?おーい?」
『龍大さんは、暫くは立ち直れそうにないわね』
あー・・・・そうか。兄貴は知らなかったのか・・・。
「九龍のコレを知らなかったのか・・・兄貴・・」
『知ってて言わせたの?』
「いや・・・・。まぁ・・・九龍が本気で寝入ってるのを邪魔すると、あぁなるのは知ってたんだが・・・な」
今の九龍なら、それでも父親の声に反応すると思ったんだけどな・・。
「まぁ、それでも届いていないってことはないみたいだぜ・・・さっきよりも、表情が和らいでる」
『そう・・・・・』
あぁ、やっぱり義姉さんも、母親なんだな・・・声だけで判っちまう。
「俺も、安心したぜ・・・良かったな、九龍」
撫でてやると、九龍は俺の手のひらに擦り寄ってきた。
・・・ッ!か、可愛いッ!!!な・・・?俺が言った通りだったろ・・?聞こえたか・・・?良かったな、本当に・・・。
『・・九龍を迎えに行けないのは・・・あの子を1人にしてしまっているのは、協会の罠に嵌ってしまったからなのよ』
「罠?」
気にかかる言葉に意識を戻す。もう一度頭を撫でて窓辺に寄り促した。
やっと訪れた安らかな眠りを邪魔したくないからな・・・。それに、きな臭い話を聞かせたくない。
『確かに、こっちに来たとき、九龍は落ち込んでたわ・・・・どこかの誰かに、置いて行かれて、その人の背中をすごく寂しそうに見ていた』
『な・・・ッ!』
『九龍がずっと見ているのに気付かないし!あの子の恋焦がれるような表情は可愛かったわ。思わず見せびらかしたくらいに』
「なぁんだとぉッ!?」
九龍の可愛い可愛い可愛い表情を、見せびらかしただと!?
『何よ。揃いも揃って、言いたい事でもある?』
『あるに決まっている!何故教えてくれなかったんだ!』
「あるに決まってんだろーッ!九龍の可愛いところは見せたら減るだろ!勿体ねぇッ!」
俺達が同時に騒ぐと、急に寒気がした。

『うるせーッ!ぐだぐだ言うんじゃねぇッ!』
「もーーーぅッ!うるさい・・・って・・・言ったーッ!」

ぎゃぁっ!母子W攻撃かッ!?
電話の向こうでバキィという物騒な音と同時に、俺に向かって飛んできたのは枕だった。ばふっと顔にもろ激突する。
「・・・わ、悪い・・」
よしよしと慌てて撫でてやり、肩をポンポンと叩いてやる。良い子よ〜ねぇ〜むぅ〜れぇ〜♪
やがて健やかな寝息を立て出した九龍に安堵すると、俺は部屋から出た。
あの様子じゃ、九龍は今までほとんど寝ていなかったんだろうな・・・。ゆっくり寝かせてやりたい。
「おーい・・・・?兄貴は生きてるか?」
病室のドアが見える廊下の窓辺に陣取って、声をかける。
『まったく・・・、誰がいちいち教えてやるかってのッ!』
「あー・・・義姉さん・・・、落ち着けや」
相変わらず物騒というか、怖い女だなぁ・・・。さすがアマゾネスの異名を持つだけあるな・・。
『九龍ともっとしっかり会話をすれば良かったのよ。甥バカを絞めてごめんとか、心にもないことを言うのがイヤでも!』
「・・・・・・・・・・・おーい・・・」
心にもない・・ってなぁ、当事者ここに居るんですけどねー?
『九龍から逃げて、久しぶりに会う私にも会いに来ない・・・・九龍が思いつめたのも、うじうじ思い悩んだせいだって、さっさと気付け!』
あの、義姉さん・・・さり気なく・・・自分も寂しかったとか、俺に言うのは止めようぜ・・。
惚気か?惚気なのか?
くそぅ・・・俺だって九龍とのことを惚気るぞッ!?!
『あぁ、それで罠だけど・・・。協会は最初強行手段で九龍を連れ去るつもりだったみたいなのよね』
「・・・なんだと?」
強行手段・・っーことは・・・。
「怪我をさせるのも辞さないってことかッ!?」
そこまで腐ってたのか?協会は・・・ッ!よりにもよって、俺の九龍を、怪我をさせても強引に連れ去ろうとするか!?かーッ!許せねぇーッ!
『初めはそうだったみたいよ・・・。まぁあえて九龍を協会の回し者に差し向けたら・・・、予想通り懐柔されてたけど』
「さ、差し向けたぁ!?」
『あっちは強引に九龍を連れていくつもりだったのよ。だからあえて、手の届くところに九龍を置いたの。あの子に懐かれて、邪見にできる人間はめったに居ないはずだから』
「あぁ・・・そうだろうけどな・・・」
どうやら九龍の母親は、怪我をさせないことを前提にしたということか・・・。
確かに協会に目をつけられて、しかも人員まで送りつけられてしまっていたのなら、九龍を無理に隠すことは・・・・、危険だろう。
だが、俺が傍に居れば九龍を守れると自負できるように、兄貴だってそうだろう。義姉さんだってそのはずだ。
それをせずに、あえて協会の手の届くところに九龍を置いた事がわからない。
「守りきる自信がなかったのか?」
『なに言ってんのよッ!あるに決まってるでしょ!私が本気を出せば、あいつらなんざ、カスよ、カス!』
「・・・じゃぁ、何故そうしなかったんだ・・・」
あえて協会のスパイに九龍を任せたのは・・・何故なんだ?
『あんたがいるからよ。甥バカ』
「は・・・?俺?」
『九龍は・・・、あんたを人質にされれば行くでしょ』
「・・・・・ッ!くそッ!」
『呪いにかかって寝いってる間は、イヤでも協会の世話になってなきゃならない。だからさっさと呪いぶち破ってくるか、永眠するかしてくれないかしら?』
「え、永眠ってな・・・」
恐ろしい女だぜ・・・だが、そうなんだろうな。
俺は呪いで眠っている間は、言われた通り、協会の病院の世話にならなければならない。呪い云々もあるからな・・一般の病院にはまず無理だ。
俺のことを出されれば・・九龍は行くだろう。
それに九龍は・・・俺との約束を忘れている。
俺のために・・・自分を犠牲にしてしまうだろう・・・。何度も何度も何度もあれだけ約束させたのにな・・・。
「くそ・・・記憶さえ戻っていれば・・・ッ」
『戻っていても、あの子は・・・あんたを選ぶでしょうね・・』
「・・・・・・・・・くそッ」
その通りだ・・。嬉しいんだが、嬉しくない。
お前が犠牲になってまで、俺は救われたくない。
なんで、判ってくれないんだ・・・。
『九龍ゥゥゥゥ・・・目を覚ませ・・・こんなオッサンのどこが良いんだァァァーッ!』
「兄貴・・・・」
なんか泣いてないか?九龍に怒鳴りつけられたのがそんなにショックだったのか?
『うじうじうじうじッ!うるさいッ!』
ゲシゲシと音がする。あぁ蹴られてるなァ・・・。
「あー・・・・で、協会の回し者っーヤツは、どうしたんだ?」
『九龍に懐かれて困ってたわね・・・ふふふ、さまぁみろ』
「・・・・・・・それ俺に言ってないか?」
てか、懐かれてた・・・って・・・おぃぃぃぃー!!!!俺というものがありながら・・浮気か?うぅ叔父さん、嫉妬で身を焦がすぞー!
『あの子から満面の笑顔を向けられて、耐えられるヤツはそういないんじゃないかしら』
「あー・・・そうだろうなぁ・・・」
九龍の笑顔は見ているこちらも和んでくるほど可愛いからなぁ。
一度笑顔を見ちまうと、悲しい顔とか苦しそうな顔とかされるとどうにかせねばと落ち着かなくなるというか・・。
あの子の笑顔は武器だと思うぜ。効かない奴は血が緑か黄色か青だろ。
『九龍を無理やり連れていかせないのには、成功したけれど・・・・非道なことをするわね・・協会めッ』
「罠ってやつか?」
『九龍は龍大さんに背を向けられて拒絶されたと思ってたんでしょうね、いつもどこか悲しそうだった。アイツ・・・・協会のヤツも、それに気付いていた。そこに突け込んだのよ』
「九龍の弱みに付け込んで、親元から離れさせたということか・・・」
『問題はそこで何が合ったかってことなのよね・・・九龍は何か言ってなかった?』
「そうだな・・・あぁ・・、憎まれているといわれた・・って言ってやがった・・・顔は見ていないらしいが、声は聞いたと、後姿を見たと』
『後姿と声だけ・・・?はっきり見たと言ってたのね?』
「あぁ・・・・後姿だけしか見てねぇらしいが、声は兄貴の声だったとさ」
『・・・・・・それはいつのこと・・・?』
「こっちに居たとは言ってないからな・・・日本に戻ってくる前の話みたいだな」
『日本に・・・・?じゃぁ・・・あの時・・・か・・』
「思い当たる節があるとか言いやがったら、例え兄貴でも容赦しねぇぞ・・・」
『そうよ。いくら九龍の父親でも、埋めるわよ』
義姉さん・・・、それはあんたの旦那じゃないのか?埋めるってなぁ・・・。
『あるわけがないだろ!俺が・・・思い当たるのは、協会で九龍と会った時のことだけだ・・さよならと言った九龍を・・・行かせなければ良かった・・・ッ!』
すまん、すまん九龍ぅー!とまたも叫び出した兄貴の声がふいに途切れる。
「・・・・手加減してやれよー」
『してるわよ。素手だもの』
蹴られたのか?殴られたのか?何はともあれ・・・・ご愁傷様ってもんだ。
つくづく、九龍が母親のこの性格をまんま受け継がなくて良かったなと思ってしまう。
「・・・多分、その時だな・・、九龍にニセの父親の声を聞かせて・・・」
『九龍に思い込ませたんでしょうね・・・、自分は嫌われてると。憎まれていると・・・ただでさえ、あの子はずっと自分のせいだって思ってたのよ・・・、甥バカが呪いなんざに負けるから』
「・・・・・・・・・・・・負けてねぇよ・・・見てろよ、こんなクソ呪いすぐにでもぶち破って、九龍とラブラブしてやるッ!」
『てめぇは、あと30年は寝てやがれッ!』
「・・・・義姉さんや・・・・あの凄まじく昔の訛り出てきてるぞー」
今はかなり落ち着いた感じだが、昔はなぁ・・兄貴を止めたもんなぁ・・・あの女だけはやめとけと。
このおっかない恐ろしい奴から、凄まじく可愛い九龍が生まれた事自体生命の神秘というか。世の中には謎が満ちているというか・・・。
『・・・・えぇい、忌々しい協会ッ!やっぱりヤキ入れに行くべきかしら・・・ッ!』

「俺の呪いが完全に解けていれば、九龍を守るんだが・・・・・・・・・ッ・・・誰だッ!」
鋭い視線と複数の気配を感じ、俺は走り出した。


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