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叔父さんと僕(オヤジ編)
エピローグ・その12

第5章〜守護者達の憂鬱(後編)

『俺の呪いが完全に解けていれば、九龍を守るんだが・・・・・・・ッ・・・誰だッ!』

電話の向こうで何かをしているらしい騒音が聞こえる。
「・・・九龍に何かあったのか・・・」
小五郎が傍に居るならば、九龍は大丈夫だとは思うが。
「九龍・・・・」
出来るものならば、今すぐに傍に行ってやりたい。
家族が自分のせいで壊れたと、思い込まされているなど・・・思いもよらなかったからな・・・。
あの『さよなら』は、だから・・・あんなに悲しげだったのか。
偽りであろうと、それを九龍に言わせてしまった事が・・・悔やまれる。
なぁ・・何故、俺に聞いてくれないんだ?何故、自分を責めて俺を責めないんだ?何故遠慮する・・ッ!
俺だから言えないのか・・・?

違う、俺が九龍と向き合わなかったからだ。
しっかりと、向き合って話をしてやらなかったからだ。
呪いに縛られ、眠りについているはずの小五郎を、呼び起こすほど、九龍は傷ついたんだ。
あいつが、起きなければ・・九龍はどうなっていたか・・・想像したくない。

「・・・・・本当は、私だって、あの子の傍に居てやりたいと思うわ」
「九乃香・・・」
彼女が、自分の本心を隠さずに言うことは、珍しい。
そうか・・・家族だからな・・・俺達は。
「だが協会は最初から九龍を私達から引き離す目的で、狡猾に動いている・・・・こちらが動けば動くほど、九龍が危なくなる・・・」

『あぁ・・・・そうみたいだな』

ふいに受話器から声がして驚く。どうやら戻ってきたらしい。
「何があったんだ?」
『会話を盗み聞きしてやがるヤツが居てな・・・絞めて来た・・・ここが病院で良かったと今ごろ感謝してんだろうよ』
「誰だ・・?」
『九龍の護衛役・・・まぁ監視役だ・・4人も監視に回すほど、お前らを警戒しているみたいだな』
「俺達だけではなく、他にも居るかもしれないな・・・九龍を・・いや、秘文を狙っている奴らは・・」
『秘宝の夜明けか・・・おそらく、そうだろうな・・』
「それで、何か判ったことはあったか?」
『お前らは監視されてるみたいだぜ。知ってるだろう?』
「あぁ・・・それは気付いていたが」
事実数日前から、周辺をうろうろする目障りな奴らが目に入っている。
『お前らに何か動きがあれば、九龍を連れ去るつもりだったらしい』
「・・・・・やっぱりか・・・」
『その場合、九龍に怪我をさせても構わない・・・と命令されてたらしい・・・・・』

『「「・・・・・・・潰すか?」」』

『なんでハモるんだよ』
「いやね、真似しないでよ」
「・・・・・・・・・・・・・・はぁ」
もしや俺達は九龍に関してのことは全て一貫して似ているということか?
『協会・・・・あの幹部の野郎だ。あいつがこの件は仕切ってる』
「あいつか・・・・」
「・・・・・なんて名前?」
九乃香、それを聞いてどうするんだ?なんというか・・・その、どす黒い微笑みは怖いんだが・・・・・・。
ヤバイな、これはとても怒ってるんじゃないか?
小五郎が名を明かすと、九乃香は微笑んで頷いた。
「九龍が無事にハンターになるまでは、寝ていてもらいましょう」
怖ッ!!!
もうすでに右手にの鈍器、左手に小型削岩機・・・、お前・・・いつのまに・・・。
『あぁ・・・そうだな。半死にして病院送りにでもしとけ・・・くそッ!俺がやりたいくらいだぜッ!』
「お前・・・・もう呪い解けてるんじゃないのか?元気過ぎるが・・」
『九龍の事で俺は怒り心頭なんだよ。寝てられっかッ!』
「まだ解けてはいないのか・・・」
『あぁ、しっかり健在だ。・・・・九龍は今は泣きつかれて眠ってる。封印も、解けちまってる・・半端にな』
「封印が、解けたのか・・・くそッ!!・・・ん?半端とはどういうことだ?」
『俺との約束は思い出していない。記憶は封じられたままらしい』
「・・・・無理やり解いたのか・・・」
『あぁ・・・・、しかし九龍をどうするんだ?お前らが、九龍と接触すれば・・・』
「幹部の野郎をぼこっても、命令は生きてるでしょうしね・・・・。一応手回しはしてあるんだけど・・」
『手回し?』
「えぇ・・・私は九龍の望むままにハンターになって欲しいのよ。あの子がそれを望んで頑張ってるから」
『あぁ・・・そうだな。兄貴のことがあってから更に・・・・必死だ』
「・・・無理に九龍を隠そうとすれば、身に危険が迫るかもしれない。でも、九龍を隠さずに協会に守らせる形でハンターにさえすれば・・・自分で危険を回避できるようになれば・・・」
『なるほどな・・・・。確かに、秘宝の夜明けも狙ってやがるからな・・そっちが安全か』
「正式な護衛役は、安心できる人物になるはずよ・・・思惑通りに事が進めばね」
『そうか・・・なら良いが・・・、兄貴、協会の目を盗んででも、九龍と会えよ』
「・・・・・あぁ・・そうだな・・・」
『九龍に、言ってやれ・・・・あの子はお前の言葉を聞かなければ・・・俺がいくら言い聞かせても、苦しんでるままだ』
「わかった」
『九龍に言えよ?愛してるってな・・・。俺は、あんな風に自分を消したいと・・・苦しむ九龍を、もう2度と見たくねぇんだ・・・』
「・・・・・・・あぁ・・・・そうだな・・・」
九龍・・・、必ず、行くからな・・・。
『今度九龍があんな風に泣いてたら、本気でお前らから九龍を奪うからな。俺の子供として育ててやる』
「誰がやるかッ!!!」
「ふふ・・・・、寝ている間に、息の根を止めて欲しいのかしらね?甥バカ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃぁな』
慌てたように逃げようと切りかけたので、慌てて止める。
「・・・・言いたくはないが、お前のお陰で九龍は・・助かった。礼を言う」
そう言うと、どこか照れたような咳払いの後、真面目な声が聞こえてきた。
『・・・俺にとって九龍は大切で大事な子供なんだよ。俺にとっても息子なんだ。誰に頼まれたわけでもねぇ・・・俺が九龍を放っておけないんだ・・・。あの子がピンチなら、どんな所だろうと助けに行く。こんなクソ呪いぶち破ってでも』

あぁ・・・・そうだな。お前は・・・そんな奴だよな・・。感心する。
だが、俺はお前には負けない。父親という座は、お前には渡さない。

『九龍を、頼んだぜ』

「お前に言われるまでもないさ」

電話はかかってきたと同じくらい、唐突に切れた。

「あの甥バカには呆れるわね・・・不可能がないんじゃない?」
「そうだな・・・・本当に、そうだな・・」

・・・・九龍、お前はこんなにも愛されてるんだ、と、俺は伝えに行かなければ・・・・。
遠い日本の方を見て、そう決心した。



それから日々は早々と過ぎていった。
何故かというと、九乃香から酷使されまくったからだ・・・・・・。体力には自信がある俺が、夜には倒れ込むように寝るだけの生活。
九龍の動向は、何故か九乃香から入ってくる。
何でもメールでやり取りをしているとか・・・・。羨ましい・・・。

あの電話から数日後、あの幹部の男は全治半年以上かかる怪我を負って入院したらしいと協会の知り合いから聞いた。
どうやら、闇討ちされたらしい・・・。
『世の中物騒アルネー!』と知らせてくれた中国人の知り合いハンターは妙に楽しげだった。
どうやら、ハンターの仲間のうちじゃ目の上のたんこぶだったらしい。
・・・だが、俺は、知っている。
九乃香が月のない真夜中に、舎弟と呼ぶ荒くれどもを引きつれて、出かけていったのを。
帰ってきたとき、血のこびりついたメイスを片手に持ち、微笑んでいた。
今でも時たま夢に見そうなほど、恐ろしかった。

そのことについては一度だけ聞いた。
何故俺に何も言わずに行ったのかと。何故俺にやらせてくれなかったのかと。
答えはこうだった。

「それはね、九龍が・・・秘文の解析とかいう実験をされたって言ってきたからよ。あの子、1週間くらい昏睡してたみたいで、とても痛かったって言ってきたのよ・・・。九龍は、強がりなところがあるから痛い目に合っても言わないわ。とくに私に心配をかけたくないからって、言わないの。・・・・その子が、言ってきたってことは、余程のことでしょう?」

秘文を解析されたということも、初耳だったが・・・昏睡、だと・・ッ!?
怒りで目がくらんだ俺を九乃香は静かに見た。

「貴方に言わなかったのは、バレた時が困るでしょう?九龍のために、あなたはまだ協会のハンターでなきゃならないの」

あぁ、まったく持って最近の俺は情けない。
妻にも、子供にも顔向けできないな・・・これは。

俺は激しく落ち込み、そして気を入れなおした。
俺にとって何が大切か、大事なのか、それを忘れないように・・・・・それを守るために、戦う。

秘文の解析で、九龍が昏睡したということは・・恐らくは、無理に九龍から剥がそうとしたのだろう。
それに失敗したからこそ、昏睡・・・・だろう・・。
怒りが沸いてくるが、押さえる。協会の技術でそれが出来ないとなると・・残るは超古代文明の残した技術力に頼るのみだな・・。

間違えるな・・。俺は、俺がすべきことをなそう。
子供を守るために・・・親である俺がなすべきことを間違えるな・・・ッ!

俺はもう逃げない。
九龍と向き合い、九龍の心を・・・必ず救う。
・・・・約束したからな・・・。
必ず傍に行くからな、九龍・・・。


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