叔父さんと僕(オヤジ編)
エピローグ・その13
第6章〜それぞれの旅立ち(九龍編) 「・・・また、少し・・・行って来るね」 声をかけると、行くなって言うみたいに、握り合わせた手に力が強くなって生きてるんだって判って嬉しくなる。 あの日の優しい夢から覚めたら、叔父さんは元に戻ってるんじゃないかって・・・、本当は夢じゃなかったんじゃないかって、期待していたんだけど。呪いにかかったまま変わらず、深い眠りについていた。 だけど、ぎゅって抱きしめてくれていて、都合の良い夢だって判ってたけど・・・救われたんだ。 きっと、逢いに来てくれたんだよね? 助けてって言ったから・・。 何度も何度も「信じろ」って言ってた言葉、はっきり覚えてるよ。 本当は怖くて仕方がないけど。 信じるよ。お父さんのことも、叔父さんの言葉も。 もう泣かないって決めた・・・何度目かな?今度こそ守れると良いけど、でも決めた。 あの日の後、協会の人に連れられて秘文の解析実験というものに行って来た。 死んでしまうんじゃないかってくらい、痛くて、暫く起きあがれなかったけど・・・、解読には時間がかかるみたい。 秘宝は俺が探すって言ったら、鼻で笑われて腹が立った。 『キミには到底無理だ』とか言われたけど、『大人しくしていてくれ』とかも言われたけど、絶対に見返してやるんだ。 叔父さんを自分の手で助ける。 そのためなら、何だってするし、頑張るよ・・。 今日、日本を発って、中国に行く。 一緒に行く人は俺の護衛を兼ねたハンターらしいけど、バディとしてついて行くことになっている。 まだ顔とか名前も知らないけど、空港で会うらしい。 そろそろ、行かなきゃ・・・。 「・・・・またね」 叔父さんって呼びかけてやめた。 呼ぶのが怖い、そう思う心は前よりも大きくて、心の中で呟いた。 傍に居たい気持ちを、押さえて扉を開ける。 最後にちょっと振り向いて、小さい声で「行ってきます」って呟いた。 空港についたとたん、協会専用機で行くからって言われて早々と飛行機に詰めこまれてしまった。 中には医療器具のついたベッドもあったり、大きな機械があったりしたけど、座れるところは窓辺に作られていて、座り心地がとても良い。 俺以外誰もまだ居ない。 ハンターの人も居ないみたい・・・まだ来ないのかな? 窓からは、空港の見送る人達が居る所が見えた。 ・・・見ていると、少し寂しくなってくる。 友達とかも、きっともう、忘れちゃってるよなぁ・・俺のこと。考えたら、小学校卒業してずっと叔父さんと一緒だったから、今も連絡を取り合っているような友達は居ないんだ・・。 それに、お父さん・・・・のことは、考えると苦しくなるから、信じるって決めたけど・・・忘れよう。 「何暗い顔してるのかしら?」 「えっ!?」 突然背後から声をかけられて、慌てて振り向いたら女の人が・・・・あ、え・・・・この人・・見覚えがあるかも?びっくりしてじっと見ていたら、その人はにっこり笑った。 「あまり見ちゃいやよ、照れちゃうでしょ!」 「え、あ・・・ごめんなさい」 「んー、固い!せっかく久しぶりに会えたのに・・・おねーさんのこと忘れちゃった?」 あぁ、やっぱりそうなんだ・・・。 「さすらいの、絵描きのおねーさん?」 「そう!当たり!!覚えててくれたのね、嬉しいわ」 「でも・・・どうしてここに・・・?」 「鈍い、鈍いわァ・・・・当ててみてちょうだいっ!」 当てる・・・?うーん・・・・、間違えてこの飛行機に乗っちゃったとか・・・は無理があるかなァ。乗り場が違うみたいだし・・。すると、ええっと・・・つまり・・・。 「ロゼッタの人だったんですか?」 「うーん80点かな?当たってるけどね」 「80点?」 どう違うんだろう?当たってるんだよね? 「ふふ、私がキミの面倒を見ることになった《宝探し屋》なのよ」 「え・・・・えぇッ!?」 びっくりした。だってこの人絵描きさんでしょ?《宝探し屋》もやってたってことなのか・・・凄いなァ。 「キミは今から私のバディよ。ビシバシしごくから、覚悟してね〜・・・・ふっふっふ・・・」 そうか、この人のバディになるのかぁ・・・。 叔父さんのバディにしかなったことなかったし、ちょっと不安だったんだ・・。このおねーさんなら良い人みたいだし、良かった・・。 「それで愛する叔父さんには、言えたの?好きって」 好き・・?なんのことかな・・・?あ、あぁ『愛の告白計画』のことか。 「うん、言ったら慌ててたよ」 「そ・・・そう・・・、見たかったわ」 「・・・?知り合いなんですか?」 「まぁ・・・知り合いではあるわね。仲が良いとは言わないけど・・・・って、そんな顔をしないの!切な系で責めてくるなんてやるわね!」 「え・・・?せつな・・・?」 叔父さんと仲良くはないって言われて、なんか・・・自分のこと言われたみたいに思って俯いただけなのに・・。せつなけいってなんだろう? 「コホン、まぁ・・・良いとして・・・・って電話だわ」 おねーさんは携帯を取り出して眉をしかめた。ちッと舌打ちしてこっちを見てきた・・・なんだろう? 「キミ、演技はとくいかしら?」 「え、演技・・・?」 「別に仮面をかぶりなさいとは言わないから安心しなさい。暫くお芝居をしてもらうわよ」 「お芝居?」 仮面って何のコトだろう・・・?お芝居とか演技はわかるけど・・。 「今わら私はエリートハンターっぽく冷たいおねーさんになるから、キミはおねーさんに怯えるか弱くて心細そうな美少年役ね」 「へ・・・・?かよわい・・・?美少年・・・?」 ええっと、いまいち判らないんだけど、怯えてるみたいにすればいいのかな・・? 「まぁ・・・、話しかけもしないとは思うけど、何か言われたらそんな風に答えてね。それとおねーさんが冷たいことを言ってもお芝居よ。わかった?」 「うん・・・・じゃないや、はい」 「よし!じゃぁ、いくわよ」 おねーさんは電話に出るボタンを押して、話し出した。 ガラリと表情も、声も変化してて・・・『冷たい』感じがした。なんか、すごい・・・。 「なんでしょうか?」 『彼とは自己紹介はすんだかね?』 あ、声が聞こえる。そうか俺に聞こえるようにしてくれてるのか・・。聞いちゃっても良いのかな・・? 「えぇ・・・こんな子供だとは思って見ませんでしたわ。使えるんですか?彼は・・・」 え、演技だよね・・?なんか、バカにされてるみたいでイヤになるんだけど。 『・・・そうだな・・・。あの葉佩の息子、葉佩弟のバディにしては・・・才能はないようだが・・・、使えるようにしてくれたまえ』 「・・・・・・・ふぅ・・・、わたくしには荷が勝ちすぎです。どなたか他の方と変わることはできませんの?」 『まぁ、そう言わないでくれたまえ。キミと私の仲じゃないか・・・、無事に終われば特別手当を出そう・・』 「・・・期待はせずにしておきますわ。・・・それと、特別な仲になった記憶はありませんよ・・・ふふ、御戯れが過ぎますわね・・」 『・・・その子を狙って妨害が入るかもしれないが・・よろしく頼むよ』 ガチャンと一方的に電話が切れてしまって、おねーさんが携帯を握り締めた。 「きしょいッッッッ!!!」 ・・・・、なんか凄い顔つきだ。本当に嫌そうって感じだ。きしょいって・・・気色悪いってことだよね? 「あーーーッッ!!!見て!鳥肌立ったわよ!!!なんであんなセクハラな奴が幹部なのかしら・・殺っちゃって乗っ取って良いかしら!」 「え、ええっと・・・おねーさん・・・?」 おねーさんの剣幕に付いて行けない。 「キモッ!何が特別な仲だ!九龍ちゃん、塩撒いて塩!!!」 「え、塩・・・?」 なんか、叔父さんみたいだ・・・、塩って何の意味が・・・・? 「・・・あれ?」 「どうしたの?塩は!?」 「うん・・・お塩はないと思うけど・・・、うーん・・・」 どこで聞いたんだろう?塩とって〜とかいうのを聞いた覚えがあるんだけどなぁ・・・、思い出せない。 違う、思い出そうとするとすごく頭が重くなる・・・、意識が・・・。 「・・・九龍ちゃん!?どうしたの?もう飛行機酔い!?」 「ううん・・大丈夫・・です」 「そう?」 おねーさんは、俺の肩をやんわり押して、椅子に座らせてくれた。さっき電話で出てた人とは全然違う人みたいだ・・。 「さっきの・・・電話は・・?」 「あれは、ロゼッタ協会幹部のヤツよ。キミも知ってるでしょ?」 「うん」 長い足を組んで隣に座りながら、おねーさんは嫌そうに言った。 「あいつは、キミを孤立無援に追い込みたいの。キミと私が必要以上に仲良くなることを警戒している」 「こりつむえん・・・?」 「キミを1人にさせたいって意味よ。1人にさせて不安にさせて、良いように操れるようにしたいらしいわ・・・・考えることが、陰険よね」 「・・・・・・そう・・・なんだ・・・」 「ハンターにさせようと積極的なのは、そんな裏があるからよ」 うん、確かにあの人はどこか怖くかった。 利用されてるって言われても、そんなにショックじゃない・・。だって。 「・・・・助けるためなら、それでも・・・いい」 「・・・・そう、それもありよね〜。でも、逆にこっちが利用してやるぜ!くらいは言えるようになりなさい」 この人も、凄いなァ・・。強かっていうのかな?女の人なのに、叔父さんみたいな強さがあるように見える。 「・・・うん・・頑張る・・」 そんなところ、見習わなきゃ・・・。強くなるんだから・・。 「ふふ、キミは笑うとやっぱり可愛いわね〜・・・、とてもあいつと姉さんの子とは思えないわぁ・・」 「え・・・?」 姉さん・・・? 「ん・・・・おっと、今度はメールだわだわ」 ズバッ!とかいう時代劇で聞くような効果音がした。び、びっくりした・・・。着信メロディなのかな・・?心臓に悪いよ、それ・・・。 おねーさんは、携帯電話を取り出して今度はニヤァと何か企んでそうな笑顔になった。 「おねーさん・・・?」 誰からとか、聞いちゃダメだよね・・・でもなんか、ものすごく嬉しそうにメールを読んでいる。さっきとは大違い。 「んふふ・・・来てるわねぇ・・。さてどうしようかしら」 「・・・?」 なんだろう。すごく楽しそうだ。 見ていたらおねーさんと眼が合った。ニヤリとされてびっくり。 「そうねぇ・・よし『あなたの子供は預かった返して欲しければ・・・』何してもらおうかしら・・」 あなたの子供・・・?俺の事かな?メールを誰に打ってるんだろう? 「何か面白いことが良いわよね。・・・・よし!送信っと」 おねーさんはメールを送信して、またニヤッって笑うと、窓の外を覗き込んで笑い出した。 「あー・・・おっかしぃ・・九龍ちゃん、窓の外、見て御覧なさい」 「え?」 言われた通りに覗き込んで見た。 見て、ビックリした。 「おと・・・・うさん・・・・?」 お父さんがこっちを睨みつけるみたいに見上げたまま、両手を上げて『ハートマーク』を作ってた・・・・。 「ど、どうして・・・・・」 どうしてここに・・・?見送りにきてくれたのかな・・・?俺を・・・? でも、だって・・・そんなの・・・。でも・・。 「あはははははッ!ほ、本当にしてる・・・・ッ!ふふ、これをね送ったのよ」 「これ・・・って」 携帯を手渡されてメールを読んでみる。 宛先にお父さんの名前が載ってて、本当にお父さんなんだ・・と思いながら文章を見てみた。 『あなたの子供は預かった!返して欲しかったらそこで何か恥ずかしいことやりなさいッ!』 恥ずかしいこと・・・?えぇっと、だからあのポーズなの・・? なんか周りの人に変な目で見られてるみたいだし・・・。 「あ、返事が来たわ。えーと・・・・・九龍ちゃんとメールさせろですって・・・どうする?」 「メール・・・?」 直接話はしたくないってことなのかな・・・。 「あぁ、違うわよ。盗聴される可能性があるからメールしかダメなのよ」 「そうなんだ・・・」 「どうする?・・・っと、まただわ」 メールが続々と届いてるみたいで、おねーさんは鳴り止まない携帯を持ってため息をついた。 「九龍ちゃん、キミが返事をしないかぎりしつこくメールしてきそうだわ」 「全部、お父さんから・・?」 やり取りしてる間もメールが届いている。おねーさんは着信メロディを『にゃんこ食堂』とかいうのに変えた。確かに連続で聞いてるとなんだかイヤだしね。それよりはにゃーにゃーとかいう猫の鳴き声のほうが可愛くて良いけど。 「・・・・窓の外を見てみなさい」 にゃーにゃーというメールが届く音を聞きながら窓の外を見ると、お父さんが必死に携帯で文字を打ってた。 「・・・・・お父さん・・・」 どうして?どうして来てくれたの・・?俺が嫌いになったんじゃ、なかったの・・・? 「うわぁ・・・・どんどん・・・情熱的に・・」 「え?」 振り向くとおねーさんが携帯を見たまま苦笑していた。ずいっと、携帯を押しつけられる。 「新着メールがええっと・・・・・うわッ!25通!?」 にゃーにゃーにゃーってまた連続で携帯から音がして、三通届いたことを教えてくれた。 「・・・開いてみてみなさいよ」 「うん・・・」 本当は怖い。だけど、あんなに必死になってる姿を見たら無視なんて出来ない。 おそるおそる、一番初めに来たメールを開いてみる。 『頼む九龍と話をさせてくれ・・・ツ!電話は使えないが、メールなら良いだろう!?九龍とやり取りさせてくれっ!!』 お父さん・・・。どうして・・・?俺のこと、嫌いじゃなかった・・? 混乱してくる。どういうことなんだろう。 2通目を開いてみた。 『九龍!今見えたぞ!そこに居るんだな!?あぁ・・・九龍、父さんだぞ!俺はお前を嫌ってたりしないぞ!!愛して愛して止まない。今すぐにお前を抱き締めに行ってやりたい』 「・・・・・・・・」 何て言ったら良いか判らない。 震えが止まらないよ。その言葉も上辺だけだったり・・・しないよね・・? 『日本を発つ日、叔父さんを殴ってしまったのは・・・つまらない嫉妬をしてしまったからからなんだ。』 「え・・・そんな・・・」 「どうしたの?九龍ちゃん」 「・・・お父さん・・嫉妬してたんだって」 「まぁ・・・・・・やっと白状したんかい・・これだから男ってイヤよね。変な矜持心ばかりあって」 きょうじしん?ってなんだろう・・わからないけど。でも、ショックで・・・聞き返す余裕もないよ。だって・・。 「・・・・・俺が、お父さんを差し置いて叔父さんと仲良くしたから・・・怒っちゃったんだって・・・・・」 「はいぃ?」 「そうだよね、お父さんと叔父さん、とっても仲が良いから・・・嫉妬してたなんて・・」 「あの・・・もしもーし?」 お父さんに嫉妬されてたなんて知らなかったから・・。 『だから、憎いとか嫌いだとかいうわけではなくてだな・・お前があいつに懐いているのが気に食わなかったんだ・・・』 「・・・・・・っく・・」 泣かないって決めたのに・・・。涙が溢れて止まらなくなった。 気にくわなかったって・・・だったら、早く言ってくれたら良かったのに・・。 「あ・・・あぁぁ・・・ッッ」 おねーさんがどうしてか慌ててるのを視界の隅で見たけど、何も言えない。だって・・辛過ぎるよ。 憎まれて、嫌われて、気に食わない存在なんだ・・・。 「く、九龍ちゃん!そ、外みて!!」 「・・・・みない・・」 見たくない。もうイヤだよ・・。 にゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃー また連続でメールが届いて苦しくなる。 もういいのに。判ったのに・・。 「九龍ちゃん!見てみなさいって!」 おねーさんが必死に言うから、一番新しいメールだけ開いてみる。 『九龍ッ!?お前誤解してないか!?違うぞ、違うぞッ!!!俺はお前を愛してるんだ!!!愛して愛して愛して愛して、世界中の誰よりも愛してるぞ!』 「情熱的だわ・・・」 「・・・・・返事する・・・」 「そうね!それがいいわね!」 『お父さんへ もうメールしないで・・判ったから。放っておいて・・・。もう近づかないから・・・取り繕わなくて良いよ。判ったから・・。叔父さんが、俺のこと・・子供にしたいとか言ってくれてたけど・・・、独りで良いから。だから・・・・これ以上・・何も言わないで』 送信を押して、涙を拭った。 来てくれたのは嬉しかったけど、でも苦しい。 にゃーにゃーにゃーにゃーにゃー また来た。もう良いのに・・。開いてみる。 『九龍ッッ!!!お前はどうしてそんなに思い込みが激しいんだ!!!ええいっ!!メールじゃダメだッ!!外を見ろ!見なさいッ!今すぐに見なさいッ!』 他のメールも全部、見ろッ!って書かれてた。 外・・・・?窓の外だよね・・。 本当は見るの辛いけど、窓に顔を近づけてみてみた。 手すりの上に仁王立ちしたお父さんと目が合った・・。 「・・・な、何してるんだよ・・ッ!」 危ないよッ!って言おうとしたら、何か聞こえてくる。 「九龍ーーーーーーーーーーーーーッ!!!聞こえるかッ!!!!!良いか!?俺が嫉妬していたのは、小五郎にだ!!!お前が懐いてるのを見て、お父さんは嫉妬してたんだ!!お前にじゃない!あいつにだ!お前と仲睦まじいことに嫉妬していたんだ!」 え・・・・・?嫉妬してたって書いてあったのは・・俺にじゃなくて、叔父さんに・・? びっくりしてると、お父さんは頷いた。 すごく優しい目になって、言った。 「九龍・・・・判ってくれたか?俺が愛してるのはお前1人だ!愛してる、誰よりも!」 愛して・・・くれてるの?今も・・? 「お前のことを嫌いだとか憎いだとか思うはずがない!それだけは・・・判ってくれ!!!信じてくれ!父さんは、お前のことを愛してる・・・誰よりも!愛してる!」 本当に・・・? 嫌いじゃないって言った・・・聞こえた。 周りの人に変な風に見られてるのに・・・、それが嬉しいんだ。 なくしたって思っていたのに。壊れたんだって思ってたのに・・・・。 「・・・おとう・・・・・さん・・・」 じゃぁ、あの時あった人はお父さんじゃなかった・・・? 窓越しに見えるお父さんは、こっちをじっと見ている。そういえば、協会でお父さんを見つけて、『憎い』って言ってるのを聞いたけど、顔は見てないし・・。あの後、会ったけど、何かに慌ててた事しか覚えてない。あまりにも悲しくて苦しくて、あの時の記憶自体あまり思い出せない。 にゃーって、また携帯から音がしたから、届いたメールを開いてみる。 『九龍・・・ッ!お前がどんなに拒絶をしたとしても、お前は間違いなく俺の子供だ!俺と母さんの、子供だ!それだけは永遠にかわらない。』 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当・・・?」 呟いてみたら、お父さんは急いでメールを打ち出した。 さすがにバランスが取りにくかったみたいで、手すりから落ちかけて慌てて降りてた。 にゃー 『当たり前だ!!お前の親であることが俺の誇りだ!これを例え、実の弟であろうと渡すことなどできないッ!』 「嫌い・・・・じゃない・・・?」 にゃー 『嫌いなわけあるかッ!』 うん・・・うん・・・それだけで、すごく、嬉しいよ。もう良い。あの言葉を言ったのはお父さんじゃない人だって・・・信じる。だってすごく必死そうなんだ。上辺だけじゃないってわかった・・。 「・・・あり・・・が・・・とう・・・・・・ッ」 疑ってごめん、お父さん。 さよならって、言っちゃってごめんなさい・・・。 にゃー 『九龍・・・父さんは、心底から、お前を愛してるぞ・・・忘れないでくれ・・』 「・・・・ッ!」 あの冷たかった言葉とは正反対の言葉。すごく優しくて暖かい声。 メールだけど・・・ちゃんと聞こえたよ。 「う・・・ッ・・・ッ・・」 ありがとう・・・・お父さん・・・。 暫く見詰め合ってたら、おねーさんが大きなため息をついたからびっくりした。わ・・・忘れてた・・。 「あー・・・あぁ・・姉さんが聞いたら怒りそうねぇ・・」 「・・・・・?姉さん・・・・って・・・?」 「世界で一番愛してるとか、お前1人だとか・・姉さんに密告しておこうっと・・」 「密告?」 「まぁ姉さんも多分、九龍ちゃんが一番なんでしょうけどね」 「・・・・ええっと・・・?」 「ふふ、まだ判らない?おねーさんの顔よく見てみて?誰かに似てないかしら」 おねーさんの顔・・・?じぃーっと見つめると、おねーさんはにっこりと微笑んでくれた。 あ!あぁっ!判った! お母さんに似てるんだ。笑ってくれるととよく似てる。 でも言っちゃって良いのかな・・・?女の人とはあまり話したことないし、よく知らないけど、お母さんと似てるとか言われたらイヤなんじゃないかなぁ・・・? 「ん?判ったんでしょ?良いから言ってみなさい」 「・・・・お母さんに、似てる・・・でも、あの・・」 謝ろうかと思ったら、おねーさんはうれしそうに首を振った。 「正解!おねーさんは、キミのお母さんの妹よ。知らなかったでしょ?」 お母さんの、妹・・・?お母さん、姉妹居たんだ・・知らなかった・・。 「つまりは、キミの叔母さんね。でもっ!叔母さんって読んだらダメよー!おねーさんって呼んでね!」 実在したの?とかなんかふと思っちゃったけど・・・なんでそんな風に思ったのかは判らない。 でもなんか、ビックリ。 「え、うん・・・。でも、あの・・・、あの公園で会ったのって、偶然だったん・・ですか?」 「そうねー・・・キミが泣きそうな顔で日本支部を出ていくところを見かけたから追いかけたのが正解かな。あんな公園で寝ちゃうんですもの、冷や冷やしたわ〜」 え・・じゃぁ、泣いたことも、警察官の人と追いかけっこしたのも・・・見てたのか・・。恥ずかしい・・・。 にゃー また携帯にメールが届く。見ようとする前に携帯を抜き取られた。 「・・・・・・構って欲しいみたいね・・」 「え・・・?」 見せられた文章は、やっぱりお父さんからで。 『九龍、顔を見せてくれ・・どうしたんだ?また泣いてるんじゃないだろうな?まだ判ってくれてないとかいうわけじゃないだろうな・・・?こっちを見てくれ。顔を見せてくれ』 「お父さん・・・」 窓から覗くと、お父さんと眼が合う。口が動いて何か言ってる。 「愛してる・・・・ですって!あーもぅ!なんでそんなに暑苦しいの!」 「お、おねーさん・・・?」 「まぁ判るけどね。こ〜〜〜んなに可愛いものね!!!」 わっ!!!急におねーさんか近づいてきて・・・・。 「ん〜〜ちゅっvもー可愛いわァ」 ほ、頬っぺたに・・・ちゅっとされてしまった・・。 「・・・・・・・・・・・・・・」 「あら?どうし・・・・」 にゃー 「・・どうしたの?九龍ちゃん?」 だ、だって! にゃー 「あぁ、もう、うるさいわねぇ・・・邪魔しないで欲しいわ」 おねーさんがやっと離れてくれた。あぁもう、びっくりした。だって・・・あ、あんなことするなんて・・。 叔父さんみたい・・。やっぱり叔母さんと叔父さんって似ちゃうものなのかな?血は繋がってないんだよね・・?それでも似ちゃうものなのかな・・・。うぅ、よく判らない。 「・・・・うーん。顔文字を使うとは・・・・やるわねッ」 「え?」 ずいっとつきつけられた携帯には。 『く、九龍に何をするかーッ!!!!離れろッッ!!!(ノ ゚Д゚)ノ ==== ┻━━┻』 「お・・・お父さん・・・・それ・・何・・」 顔文字は知ってる。あんまり使ったことないけど・・でもこれ初めてみたよ? 「ちゃぶ台返し。伝統ある父親の技・・・やるわねぇ・・」 「そうなんだ・・・」 知らなかった。こんな顔文字もあるんだ。 でも、本当、ますます叔父さんにそっくりかも。お父さんよく叔父さんに離れろって言ってたし。 叔母さんとお母さんか姉妹で。 叔父さんとお父さんが兄弟なんだよね? そうかー・・・なんか、いいなぁ・・・。俺にも居たら良いのに・・・。 あ、そうだ、お父さんに言ってみよう!そうしようっ! 『お父さんへ 絵描きのおねーさんは、《宝探し屋》で、おねーさんのバディになるみたいです。 それでしかも叔母さんだったって!お父さん知ってた?びっくりした。 叔母さんとお母さんよく見たら似てるけど、叔父さんにも似てるみたい。血は繋がってないんだよね?それで似てるなんて不思議。 兄弟っていいなぁ・・弟か妹が欲しいかもー。そしたらきっと寂しくないって思うから』 送信してお父さんのほうを見てみると。 ポロッと携帯を取り落としてた。どうしたんだろう・・・?咳き込んでるし、何かびっくりしてるみたいだけど。 慌てて拾い上げて必死に打ち込んでる。あ、返事来るかな? にゃーってタイミング良く届いたそれを見てみる。 『く・・・・・・・・・九龍・・・・お前は寂しかったのか・・・?ほ、ほ・・・・本当に、弟か妹が・・・欲しいのか・・?』 うん、欲しいよ。きっと可愛いと思うんだけど・・・。 そう思って頷いて笑いかけたら、お父さんは力が抜けたみたいにその場に座り込んだ。 またメールを打ってる・・。 にゃー 『そ・・・そうか・・・寂しかったのか・・。お前の傍に居てやれなくてすまない。出来ることならばすぐにでも傍に行きたいのだが行けないらしい。詳しくは叔母さんに聞きなさい。』 お父さん・・・、傍に居たいって思ってくれてるんだ・・。うん、信じるよ。さっきの言葉はウソじゃないって。 1人でも大丈夫だよ。叔母さんも居るし・・・頑張るから。 「そろそろ時間ね・・・九龍ちゃん、ちょっと貸してくれる?」 「はい」 あ、叔母さんに話を聞きなさいってあったけど・・、後で良いかな・・。 見ていると、おねーさんもそのメールの文章を読んだみたいで、何故だか笑ってる。どうしたのかな? 「・・・・兄弟が欲しいの?」 「うん!」 「そう・・・、お父さんが生きていて奇跡が起これば兄弟できるかもねぇ・・まぁ無理でしょうけど」 「へ・・?」 「ふふ・・・・困ってるわねぇ。面白いわ・・・」 何が?困ってる・・・? おねーさんは、鼻歌を歌いながら携帯でメールを打ち込んでる。お父さんにかな? 送信ボタンを押して、メールを送った後、おねーさんは窓の外をのぞき込んだ。釣られて見てみる。 お父さん・・・・、何してるの・・・? お父さんは何故か手すりを乗り越えようとしていた。それを慌てて止めている警備員さんとか、他の見送りの人達とか居た。ど、どうしたの!? にゃーってメールが届いた。おねーさんはそれを見た後、携帯をまた差し出してきたから受け取る。 『君ががあのハレンチな絵を書いたさすらいだとかいう絵描きか!!!!九龍に妙なことを教えてみろッ!タダじゃすまないぞーッ!ヽ(`Д´)ノ』 ハレンチ?妙なこと・・・?ハレンチってハンカチのことかなー? それより顔文字面白いなァ。怒ってるって顔だよね?これ・・。 また窓の外を見てみると、お父さんとすぐに眼が合う。じっと見上げてる・・・けど、取り押さえられてる。 押さえ込んでる人は警備員さんみたい。眼が合ったから、止めて欲しいって思いを込めて見つめてみたら・・・・・あ、通じたのかな?何か言ってる・・。 「お父さん、息子さんとお別れするのが悲しくても、あんたが取り乱したら息子さんが不安になってるじゃないですか・・・ですって」 「え?わかるの?」 「読唇術っていってね、口の動きでわかるのよ」 「そうなんだ・・・スゴイね」 「そのうち教えてあげるわよ・・・にしても九龍ちゃん・・、キミはオヤジキラーなのかしら?凄いわねぇ・・」 「オヤジキラー?」 「目は口ほどに物を言うっていうけど・・」 「?」 「まぁ良いわ。それより、もう出発だから・・・ちゃんとお別れ言っておきなさいね?」 「はい・・・」 もう時間なんだ・・・、寂しいけど、でもどうしてかな? 心の中にあった氷みたいなのが、溶けたみたいな感じ。まだ・・・奥底にこびりついたものもあるけど、でも・・・・嬉しいんだ。 窓から見ると、お父さんがこっちをじぃーと見上げたままの姿が目に入る。すごく真剣な表情で、嫌われてないって思う。 騒いだり大声で叫んだりしたせいで、色々な人から注目されてるけど、こっち・・・ううん・・俺のことだけ見てくれてる。 ・・・すごく、愛されてるんだって伝わってくる。 にゃー 『九龍、お前はこれから中国に行くんだろう?叔母さんから色々なことを学びなさい。変なもの以外』 変なものってなに? にゃー 『お前になら・・・出来る。必ず、なれる。身体に気をつけて、頑張ってきなさい。無理はしないようにな・・。九龍・・・忘れないでくれ。誰がなんと言おうと、今まで言った言葉が・・俺のすべてだ』 こっちを見ているお父さんに頷いた。 うん・・・うん、判った・・。 にゃー 『秘文のことで協会に何か言われたら、母さんか俺に知らせるんだ・・決して1人で判断するな・・いいな?』 ごめんなさい、お父さん・・・。 もう・・約束してしまったから・・・協会の、あの人と。 叔父さんを助けたいんだ。これだけは、譲れない。 自分で決めたことだから。 そろそろ時間みたいだ・・・ 前のほうにあるドアを開けておねーさんが時計を指差してた。 もう、時間・・・・なんだ・・・メールを急いで打ち込んだ。 『お父さんへ もう時間みたいだ・・信じるから。今ここで話したお父さんが・・・本当なんだって。それにすごく嬉しかったよ』 にゃー 『九龍・・・・良いか?無理はしないで良いからな?苦しかったら何時でも呼んでくれ』 『うん・・・頑張るよ。行って来ます』 『九龍・・・行っておいで・・・気をつけてな・・・』 「行ってきます・・・」 窓からお父さんを見た。こっちを見て、手を振ってくれるのに振り返す。 「叔父さん・・お父さん、行ってきます・・」 窓の向こうのお父さんは、いつまでもずっとそこに居て。 動き出して飛び立っても、きっとまだ見送ってくれてるんだと思った。 あのね、すごく・・・嬉しかったんだよ? あんなに胸の奥が凍りついたみたいだったのが、今は・・すごく暖かい。 だから、負けない.。絶対に・・・。 頑張るから、負けないから・・・。 次に会った時は、自信を持って会うから。 行ってきます、ってもう一度だけ呟いた。 |