叔父さんと僕(オヤジ編)
第3部・その9
「・・・・・ぐっ・・・・・・ぐほッ!!」 矛に薙ぎ払われ、俺は吹っ飛ばされ、壁に激突した。 反射的に刃を避けたのか、肩口を浅く切られただけですんだらしい・・・・。 「ごほ・・・ッ!」 口から血を吐き出して、拭うことも出来ずに転がったまま、近くに投げ出された銃に腕を伸ばし掴む。 俺としたことが、躊躇した・・・。 九龍を守れなかったことへの動揺と・・・・。 ・・・・・・このまま普通に、戦って鬼を道ずれに死んじまったほうが、九龍には、良いんじゃないかと・・・・一瞬思っちまった・・・。 俺としたことが・・・なんて様だ。なんてくだらねぇことに気を取られちまうんだ・・。 例え俺が死に、九龍が命を投げ出す選択をしなくなっても。 あの子はきっと・・・・嘆き悲しむ。悲しんでくれるだろう・・・。 俺が・・・・・・・・・・悲しませてしまう。 「は・・・・・はは・・・・・・アホか・・・俺は」 俺があの子を悲しませてどうする。 九龍を守るんだろう?守りたいんだろう? あの子を、俺は・・・・・・・・・。 「叔父さん、逃げて、危ないッ!!」 「・・・・ッ!」 誰よりも愛しい声に、咄嗟に身体が反応した。右に飛び、床に手をつき立ちあがり、こちらを目掛けて走ってくる小さな姿を見つけ駆け出す。 「九龍!あぶねぇ!」 「え・・・・?」 鬼の矛は俺を攻撃した後、九龍に向かった。やばい、間に合わねぇ!!! 瞬間銃声がし、矛を持つ腕を攻撃された鬼は苦悶の声をあげその動きを止めた。 「・・・・あ、お父さん・・・」 立ち止まって安堵している九龍を背後から抱きしめる。 「・・・・・・・無茶するなよ・・・バカたれ・・」 「大丈夫?・・・・あ、け、怪我してるよ!血が・・・」 俺の腕の中で方向転換し、向き合った九龍は俺の肩を見て痛そうな顔をした。 「早く、なおさ・・・・・ッ!」 言葉をさえぎるように、強く抱きしめる。 「くるしーよーッ」 じたばたと暴れる身体を押さえ込んで、その額に口付けた。 「九龍・・・ゆるしてくれ・・・」 お前を置いて、逝こうとした俺を、許して欲しい・・。 「え・・・?」 「九龍、俺は・・・・・・・・」 《ころしてやるーーーッ!》 俺を完全にターゲットにしたらしい鬼は、兄貴には構わず俺に向かってきた。 襲いくる矛を避け、走る。 「邪魔すんなッッ!!」 銃で撃つが、奴は怯まない。くそッ!タフだな・・・こいつ! 「あ、叔父さん、あれ・・・・」 抱きかかえられた九龍が、指差したのは・・・中央付近の壁際に置かれたままの武器類。 「なんでこんなとこに置いてんだ・・」 「んと・・・使って良いって言われたけど・・・置きっぱなしに・・」 恥ずかしそうに顔を伏せる九龍の頭を撫でて下ろす。 「なるほどな・・」 床においてある武器を検分する・・・というかだ。目を止めた瞬間から気になってたんだが・・・・・。 「黄金銃まで・・・・持ってるのか。すげーな・・・大魔神・・」 黄金銃はなかなか合成できない、究極の武器だ。弾薬も貴重。ハンターなら誰もが喉から手が出るほど欲しがる武器だ。 これを九龍に手渡したのは親心ゆえか・・・。これなら鬼も撃退でき・・・・・・・お!? 「ラッキー!一発のこってるぞ!」 「お、叔父さん来るよー!」 九龍の言葉に振り向けば、射線上にまっすぐ向かってくる鬼。 「九龍、俺の前に来い」 「はい」 九龍を背後から抱き、その手に銃を持たせる。 「えッ・・お、叔父さん・・・・・?」 慌てる九龍の、銃を持つ手の上に俺の手を重ね、狙いを定めさせる。 「2人で・・鬼をぶった倒すぞ、九龍」 「・・・・・・・・・・・・はい!」 《しねぇーーーッ!!!》 矛を振り上げる瞬間。重い武器を使ったのが仇になったな・・・隙だらけだぞ、悪代官。 「いまだ!」 ダアァァァァンッ! 銃声とともに九龍の身体が反動で俺に倒れこむ。 《おのれぇ・・・おのれぇぇッ!に、人間ごときに・・・・やられるとは・・・・ッ!だが、覚えておけ!我は消えようとも呪いは消えぬ!永劫の眠りに尽き干からびて死ぬといい・・・・ッ!》 『敵影消滅。安全領域に入りました』 「やった・・・やったよ、おじさーーーん!」 ぎゅうっと俺の首に抱きついてきた身体を抱きしめ返す。 無邪気に喜ぶ姿は可愛いな・・本当に・・・・しかし、浸っている暇は俺にはない。 ・・・・・・・・やべぇな・・・・もう時間ないぞ・・・。 俺の意識は、どんどん剥がれ落ちていくように、眠りに誘われている。 だが・・・ここを出るまでは。 九龍を無事にここから出すまでは・・・・・・・・。 「九龍、なぁ・・・・お前はやれただろ?」 「初めて、あんなの・・倒しちゃった・・すごいすごい!」 「あぁ、お前は大丈夫だ。狙いも完璧だったしな・・・・自信持っていいぞ?」 頭を撫でて言ってやる。 お前は出来る子だ・・・俺が居なくても・・・頑張れ、な・・? 「ホント!?・・・・・嬉しい!」 本当にすごく嬉しそうに、それこそ向日葵の花のように笑う九龍をまぶしそうに見た。 俺は、呪いに屈しない・・・。 「九龍・・・・小指出せ」 「こゆび?」 首をかしげながら指を差し出した九龍のそれに、自分の小指を絡ませる。 「約束する。俺は呪いには負けねぇ・・・・必ず自力でお前の元へ帰る・・・」 「・・・・・・・・・え・・・・」 「だから、お前も約束してくれ・・・俺に」 「お、おじさん・・・のろいって・・・」 顔を曇らせてぶるぶると震えてきた九龍を見つめる。 可哀想だが、その場しのぎのウソをついても・・・いずれ判ることだ。 それに、状況が変わった。九龍の秘文を確認していないが・・・、この子に宿ったというのならば。 俺の呪いが解けていないことを隠すこと自体が、この子の無茶に繋がる。 秘文に付いては隠し通す・・・・・。 俺のために無茶をさせたくない。 「あぁ、俺の呪いは完全に解けてない・・・かかりが弱かったんだろうが・・、もう時間らしい」 「・・・・・うそ・・・」 「悪いな・・ウソじゃない。九龍、良いか?よく聞くんだ」 「そんな・・・鬼さん倒しちゃったのに・・」 「九龍!!例えどんな方法があっても、お前が犠牲になるやり方で助けられても・・・」 背中を撫でてやりながら、優しく、だが厳しく言う。 これだけは言い聞かせておかねばならない。 「俺は嬉しくない。迷惑だ」 「・・・・・ッ!」 「俺が目覚めたとき、お前が居ないんじゃ・・・・意味がないんだ」 「・・・・・・?」 「お前が居ない世界なんざ、いらねぇよ。」 「・・・・・おじさん・・そんな・・・・」 「約束してくれ・・・。絶対に自分を犠牲にするような真似をするな」 「お・・・・じさん・・・」 「約束してくれ、俺に・・・・・自分の命を大事にすると・・」 誓ってくれ!! 「・・・・約束する・・・だから・・だから・・叔父さん・・」 「言うんだ。ちゃんと・・・言ってくれ」 「や、約束する・・・犠牲になったりしな・・い・・、命だって大事にする、約束する!だから・・・だから・・・」 行かないで、と泣きながらいう九龍に笑いかける。 「約束する。必ずだ・・・呪いなんぞに負けない、お前に元へ必ず戻る・・・帰ってくる・・・絶対だ」 静かに泣き出した九龍を抱き寄せて涙を拭ってやる。 「小五郎・・・・行けるか?」 声に見上げると兄貴が立っていた。 俺を見る眼は、複雑そうだ。 「あぁ・・・・・ここから出るまでは耐えてやるよ・・・。調査は終わったのか?」 「あぁ・・・・・」 秘文は?と口パクで聞くと、首を振って兄貴は答えた。そして九龍を辛そうに見つめる。 なるほど・・・気づいてるか。 祭壇に新情報でもあったのかもな・・・。 恐らくは、秘文と鍵を刻んだ生贄の運命か・・・・?そんなところだろう。 「兄貴・・・九龍を頼んだぜ」 協会から身を隠してやってくれ・・・。 兄貴ならそれが出来るだろう・・・? 「言われなくても、だな・・・。九龍は俺の息子だ!お前のじゃない!」 「俺の、だよな〜?九龍ちゃーん?」 茶化して九龍をのぞきこむ。 まだ泣いている九龍は聞こえているのか居ないのか・・・・。 「・・・・うん・・・おじさんのでいい・・・」 「くろうーーっ!」 兄貴が寂しげに叫ぶが、俺にはハレルヤに聞こえてしまう。 あぁ・・・本当に可愛いな・・。 離れたくない・・・。 離れたくない。 離れたく・・・・ねぇぇぇーーーーー!!! 「嬉しいぞッ!九龍・・・・」 俺は九龍を抱えて立ちあがると、扉に向かう。 「叔父さん・・・下ろして・・」 「だぁめだ!途中まではこのまま行かせてくれ」 「・・・・だって、呪いが・・・」 まわるってか?もう・・・無理だな。全身にまわってる。 気力でこうしているだけなんだ・・・。 お前を無事に外へ連れていくまでは・・・・俺はきばるぜ! 「・・・・約束したように、俺は自力で呪いをぶち破って必ずお前の元へ行くからな・・・?」 「・・ひ・っく・・・」 「泣かないでくれ・・・笑ってくれ。お前の笑顔が、俺に力を与えるんだ・・」 笑ってくれ・・・・九龍。 |