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叔父さんと僕(オヤジ編)
第3部・その6(前編)

九龍を追い掛け、扉を開くと驚くほど広い場所に出た。
壁や天井を見るに、天然の洞窟を利用して造られているようだ。壁が崩れ落ちてその下の岩壁が所々見えている。
「九龍・・・・!?」
周囲の観察は一瞬で終わり、探すのはたった一人の大事な我が子。
まるで誰かに導かれたように走り出した・・・・・広間を見渡して探す。どこだ?どこにいる!
「いたッ!九龍、待ちなさいッ!」
九龍はゆっくりと中央の階段の上に造られた祭壇へ向かい、階段を一歩ずつ上っていた。
全速力で走り出す。
「九龍ーーーッ!」
呼び声に九龍は振り向かない・・いや気づいていないのか?
近づいて、祭壇の前に立つ人影が見えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれはッ!」
人のような姿のそれは・・・、鬼・・・・ッ!
身体が大きく、獰猛そうな眼・・・・しかし、その鬼パンツはどうかと思う・・黄色と黒のそれは・・どこのコントだ?・・・・・・・・・それでも、鬼。
なるほど、M+M機関が目をつけるわけだ・・・。鬼は古来から日本で最も繁栄した化け物だからな・・。
「・・・ッ!九龍!行くな!」
声は十分届く位置なのに、九龍はこちらを見ない。
鬼よりも5段下で立ち止まり、鬼を見上げていた。
「九龍ッ!」
銃・・・対大物仕様で持っているM92FMAYAを構える。この距離なら十分撃てる。
しかし鬼は俺を見て、ニヤリと笑った。くそッ!
銃を撃つ、が、予想通り結界に阻まれてしまう。
「くそ・・・・ッ!」
だがな・・・結界を破れそうな武器もある・・。《宝探し屋》を舐めるなよ、鬼め。
俺は巷で武器マニアと言われるほどの男だぞ!?今回は九龍と一緒だからと、実はこっそりはりきって、黄金銃も合成済みだ!弾薬もある!
これなら余裕で結界など壊せるだろう・・。
しかし弾薬は3発。九龍を巻き込むわけにはいかない・・・。隙を待つか・・。
鬼はこちらを見て愉悦に満ちた笑い声を上げた。

《助けて欲しいのだろう?》

「あ・・・・」
九龍を見れば、動揺して手が震えていた。
くそッ!!!!
「九龍やめろッ!」
声は阻まれて届かない。

《ならば・・・・・我が手を取るのだ・・・・そこからは、お前の意思で来るといい》

九龍は震えながら、さらに一歩階段を上がった。
「九龍ー!!!よせっ!」
声が届かないと判っていても、叫ぶ。

《さぁ・・・・この手を取るんだ・・・・》

「助けて・・・くれる?」
やめてくれ!そんなのに惑わされるな!
あれは自力で呪いなんぞ破るだろうから、長い眼で生暖かく見守ってやろうじゃないか!お前のためにはそれが一番良いと、父さんは思う!
だから・・九龍、やめるんだ!お前が犠牲になる必要なんてない!
やめてくれ、お前がなるというのなら、父さんがなるから、な!?
「九龍ーッッ!」

《勿論だ・・・お前に、秘文を授けよう。秘文を持って、解呪の秘宝を探すといい》

――ッ!秘文・・・?解呪の秘宝、だと・・ッ!
頭の中で整理しようと考えながら、九龍を見ると、小首をかしげていた・・・。
九龍、お前・・・解呪が判ってないんだろうな・・・。
あぁ・・・・今度勉強も教えてやろう。だから、ここを2人で無事に出る!必ずだ・・・。

《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど・・・あの男の言い分が少しだが理解できたな・・・》

あの男・・・・?一瞬考えるが、即悟った。あぁ、あのバカのことだな。
どこでいつ話したんだ?まぁ・・・・「言い分」云々は、あれだろう。「可愛い」に集束される惚気だろうな・・。
あぁ、忌々しい。
さっきの「きす」を思い出してさらに腹ただしい。
九龍・・・・、今後はお父さんと一緒に居よう。母さんと3人で仲良くエジプトで暮らすのも良いと思うぞ。
だからな・・・お前は全力で、守ってやる。
頼むから早まらないでくれ!

《・・・・・・・・解呪とはお前の助けたい人間にかかった呪いを解き放つ秘宝だ》

「秘宝!それは・・どこにあるの!?」
《ここにはない・・・・ここより西の国に眠っておる》
「西・・・・・・」
日本にあるのなら、九州か・・?
あの辺りは島も多いからな・・・。古代からの伝承も多い、遺跡も多い。
調べるのは困難かもしれないな。

《呪いを解く鍵を求めるか・・?》

「欲しい!」

《求めるのならば、代価がいるぞ・・・?》

「九龍ッッ!早まるんじゃないッ!」

《代わりに何かがいるということだ・・つまりは、魂。お前の魂だ》

「・・・・・・・魂・・」

《・・鍵を刻むが良い・・・・だが、その後は、お前の魂は頂こう・・・》

「あげる。だから、呪いを解く鍵をください」

《契約、成立だな・・・・》

黄金銃を取り出し、弾丸が入っていることを確かめる。
胸が痛むほど、怒りを感じていた。
簡単に、「あげる」と言うか・・・九龍・・・このバカ息子!
九龍・・・お前が例え嫌がっても、強引に連れて帰るからな・・・。
母さんにも言う。雷が落ちると思うが、覚悟するんだな。
その前に俺の説教も受けてもらうからな!
自分の命を軽く見るな。
お前の命は、お前だけのものじゃないんだぞ!?
お前の命を大事だと思う人間のこと・・・。
どれだけ大事か・・・・わかるまで教えてやる・・・・。
命の大切さを、身にしみるまで、ずっと言ってやる・・・。

銃を構えた。
銃口の先で、九龍の身体が浮かび上がる。光の幕のようなものに包まれる。
「・・・・あ・・・・ぁ・・・・・・」
ビクッと九龍の身体が跳ね、その右腕が持ちあがる。

「九龍ッッ!お父さんが今助けるからな!」

銃を撃ち、手前の結界を粉砕する。鬼は、苦しんでいる九龍を見てニヤニヤとしている・・・・貴様、後で細かくさばいて、魚屋に売りさばいてやる・・。
いや、骨の一欠けらも残さんッッ!!!消し炭にしてやる!

「イ・・・・イヤッ!」

泣きながら痛みに耐えている顔を見て、更に集中した。九龍が苦しみ悶えているので、光の玉を狙いずらい。一撃で破壊しなければ、九龍に負担がかかるかもしれない・・・精神を集中し気を高めていく。
苦しみながら、右腕に何かが巻き付いていく。
「・・・・・・・たす・・・・けて・・・・・・・・・・・・・・」
九龍がそう呟いたとき、その動きが止まった・・・今だ!
バァァン!と撃ち、狙い通り光の玉を粉砕した。
九龍はそのまま、重力に沿って落ちてくる。

「九龍ーーーーーッ!!!」

滑り込みなんとか腕の中に、九龍を抱きとめてバランスを取る。
「九龍・・・・九龍ッ!大丈夫か・・・ッ!?」
顔を覗き込めば、まだ苦しそうに息を吐きながら、眉根を寄せていた。
顔色が真っ青だ。
「九龍ッ!?」
「・・・・うさ・・・・ん」
「九龍!そうだ、お父さんだぞ!」
閉じた瞼がゆれて、少しずつ目が開く。右目の淵から涙が流れた。
「どうした!?痛いのか・・・ッ?」
言いながら九龍の右腕を手にとって見てみる。この腕に黒い蛇のようなものが絡んでいたように見えた。
その腕には何の傷もついてなくて、安堵する・・。
秘文・・・鍵は刻まれなかったか・・・。
秘文がどのようなものかは情報不足で判らないが・・・。予測は出来るからな・・。
この子にそんな重荷を背負わせたくない。
刻まねばならないのなら、父である自分が代わりになるつもりだ。
「・・・・・うさ・・・・ん・・・こわ・・・かっ・・」
「あぁ・・怖かったんだな?もう大丈夫だ・・」
九龍に一言・・・いや、判るまで怒るつもりでいたのに、怖い思いをして震えている子を叱ることなどできない・・。
だが、これだけは伝えておかなければ。
「九龍・・・・よく聞きなさい。もっと自分を大事にしてくれ・・・頼む。お前の命が父さんも、母さんも、叔父さんだって大事なんだ・・。大切なんだ」
九龍の手を取り、震えるその手を握り締めた。
「お前が命を投げ出したとき、身が切れるようなおもいだった・・・」
「・・・・・・・・・・」
「叔父さんの呪いなら、父さんが必ず解いてやる。信じてくれ」
「・・・・・・・うさん・・」
「だから命を犠牲にするような真似は絶対にしないでくれ」
「・・・・・・・・・ごめんなさい・・・」
九龍は目を閉じ、また涙を流した。
その頭を撫でてやろうと、手を伸ばしたとたん、背後から風を切る何かが迫ってきた。
「――ッ!」
九龍を抱えたまま、真横へ転がるように避けると、かまいたちのようなものに、床が切り裂かれた。

《よくも・・・邪魔をしよったな・・・・・ッ!》

「ッ!・・・・・・・九龍、少し走るぞ。しっかりつかまっていなさい」
九龍を抱きかかえなおし、走り出す。見ると周囲に骨の軍団が出てきているが、真中の壁際はまだ敵が居なかった。
出口である扉周辺は逃がさないためか、骸骨集団で溢れている。
強行突破も出来るが・・・・・。
「九龍・・・お前はここに居なさい。絶対に動いてはダメだぞ」
「・・・・・・おとうさん・・」
床に下ろしてやると、不安そうに見上げてくる息子の頭を撫でてやる。
「父さんは、大丈夫だ・・・九龍、お前も自分の身は守れるだろう?」
しゃがみこみ目線を同じにして、九龍の前に武器を並べてやる。
黄金銃も渡しておくが、壊すなよ・・?なくすのもダメだぞ・・・?使うのは良いが・・。なくすと父さんは不貞寝するからな・・・?
「お前は、下を向いてばかりの子じゃないだろう?」
「・・・・・・・うん!」
「行ってくる・・・・」
半分に減った武器をまとめなおし、装備しなおす。

『敵影を確認移動してください』

銃を手に持ち、走り出そうとすると、背中に小さな声がかかる。
「どうした?」
「・・・・・お父さん、気をつけて・・・・・」
「あぁ・・・・お前も無茶はせずに自分のことを守ることに専念しなさい」
「はい」
頷いた九龍に笑いかけ、走り出す。
まだ表情は硬いが、たいぶ落ち着いたようだったことに、安堵した。


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