叔父さんと僕(オヤジ編)
第3部・その2
「九龍、ハンドライト頼んだぞ?天井低いから頭、ぶつけるなよ?」 「大丈夫」 俺は中腰になったまま、前へと歩いていく。 H.A.N.Tの映像では、この岩に囲まれた通路の先に、また広場があるようだ。 ここまで進んで、周囲をじっと見てきたが・・・・・・・二人縛りの理由はなんだ? 二人しか行ってはならぬ、という理由はなんだ?嫌な予感が俺の首筋をちりちりといわせている気がする。いつも以上に慎重に行かないとな・・・。 「叔父さん、明かりが見えるよ」 「おー、広間についたらしいな」 考えをいったん引っ込めて、慎重に進む。 岩の通路から広間に出ると、そこは明るい空間が広がっていた。 「人工に作られた遺跡だな・・」 天然洞窟の奥に繋げるようにして作られたらしい。明るいのは、天井の一部から光が漏れているからのようだった。 「あぶねーなぁ・・・。今にも崩れそうだ・・・」 「あ、叔父さんストップ!」 「あ?」 九龍の言葉に足を止めるが一足遅かった。カチリと踏んだ床から音がして、地響きがする。 『敵影を確認、移動してください』 H.A.N.Tの音声が警告をする。なるほど、罠か。 「敵さんは・・・おぉ、6体か!コウモリもどきと、ゾンビもどきと、トカゲもどき、だな」 遺跡には妙な生き物が生息しやすいのか、化け物がいることの方が多い。 俺も九龍も、慣れているので今更驚きもしない。 「よし、相棒!一番近くのコウモリもどき二匹、やってみろ」 「はーい!」 お、いいお返事だな? 九龍にさっきまであった怯えがなくなっていて安心する。 色々不安になってたんだろうな・・・・。大丈夫だからな?俺が居るからな? 抱きしめてやりたいのを抑えて、武器を手渡した。 「武器はそうだな・・これ試してみ?」 九龍にはほとんどの武器は使えるように、基礎は全て仕込んだ。 状況に応じて武器を変えて戦うのは、ハンターの基本戦法だからな。 「んげームチ苦手なのにぃ・・」 「はいはい。さっ、九龍君、頑張ってくださーい!」 「はいぃ〜」 まぁ苦手なのも多いけどな・・・。 「えいぃー!・・いたっ!」 ビシッ!と自分を叩く九龍・・・おいおいおいおい・・・・お前なぁ・・・。 「九龍、叔父さんが手取り足取り教えてどうにか使えるようになってたはずだよな?あの熱い修行の日々は幻か?」 「うッ・・・ち、ちょっと力を入れすぎただけだから!大丈夫!えいぃぃー!」 ビシィッ!とまたも自分の足を叩く九龍・・・・おいッ!!!怪我するだろ!気をつけろッ! 「あれー?」 「あれーじゃないだろ!お前なぁ・・」 「これ、壊れてるんじゃない?」 「壊れてないッ!・・・ったく、ほれこうやるんだ」 九龍の手を掴んで、鞭を奪うと、近づいて来ていたコウモリもどきを打ち払う。 『敵影消滅』 「あ、うん、思い出した!やれるやれる!」 「本当かー?」 怪しそうに言ってやると、九龍は「余裕、よゆー」と軽く言いながら俺から鞭を奪うと、今度はヒュッと風を切る音と共に、コウモリもどきを打ち据えた。 『敵影消滅』 「お、今のは良かったぞ、九龍」 「ホントッ!?」 うぉッ!なんだその可愛い笑顔は!むちゃくちゃ可愛い。 満面の笑み、背景に花が舞い散ってるぞ?叔父さんには見える! 『心拍数上昇』 うぉっ!H.A.N.Tに察知されてしまった! 「どうしたの?叔父さん」 「ん・・?いや・・・熱いな、と・・・はははは」 「あ、ゾンビっぽいのが来たよ?どうする?」 「そうだな・・・あれは近づいてやると、ちょっといや〜〜んだから、銃だな」 九龍にハンドガンを手渡して、鞭と交換する。 「弱点は額だな。ちゃんと狙えよ?」 「はーい」 バンバンバン!と3発連続して撃ったが・・・・・・。 「九龍ちゃーん?あんなところに、敵は居ないでしゅよ〜?」 「うぅぅぅぅ・・・・こ、壊れてるんだよ!コレ!」 「壊れてないって・・」 九龍の銃の腕前は、はっきり言ってド下手だ。今のは的にかすりさえしなかったが、とりあえず的には当てれるはず、なんだよなぁ・・。 眼は良い、勘も鋭い、直感も鋭い、コツを掴めばすぐに使えるくらい器用・・・のはずなんだが。 九龍の構えを修正してやる。 「いいぞ、しっかり狙って、ぶれないようにして撃て」 「えいっ!」 お見事ッ!今度は全弾命中だ。敵影消滅とH.A.N.Tが告げるのを聞きながら、九龍の頭を撫でてやる。 「お前は、少し上を狙い過ぎだ。銃の反動で銃口が上がっていくんだろうな・・・少し下を狙うつもりで、撃つと良いぞ?」 「はい」 くッッ!かわええ!素直に頷く九龍は取り乱すくらいに可愛い。 小っちぇ頃に返事は「はい」だぞ?と言い聞かせたせいか、たまに「うん」とか「ほい」とか混じるが、真面目に頷くときは「はい」なんだよなぁ〜! 可愛い。本当可愛い。さすが俺が育てただけはあるぜッ! 「叔父さん、叔父さんー!近いって!離してよー!」 「あん?」 俺は何時の間にやら九龍をぎゅっと抱きしめていたようだ。 九龍の言葉に我に返り、見ると、丁度攻撃をしようと構えたゾンビもどきが居た。 「うぉっと!あぶねー!」 九龍を抱えて背後に跳ぶ。そのまま足に装備していたナイフを片手で掴むと、3本同時に投げた。 『敵影消滅』 「あ、背後にもいるよ」 「お?いつのまに・・・」 「叔父さんがニタニタしてた時にだよッ!わ、来た!」 「あぁ、仕方がないだろう?可愛いのが目の前に居るんだぞー?構えないで居られるかって! 九龍を片手に抱きしめたまま、敵から距離を取る。 「あぁーッ!俺が九龍とラブラブしてるのを邪魔すんなー!」 「らぶらぶー?」 九龍が可愛らしく聞き返すが、我慢だ、我慢! 銃を取り出しトカゲもどきを撃ち倒す。H.A.N.Tが『安全領域に入りました』と告げる声と共に九龍を再度抱きしめた。 「叔父さん」 「なんだ?」 「俺もね・・・・ラブラブするの好きだよ?」 「ゴフッ!」 『心拍数上昇、血圧上昇、体温急上昇、ハンターに異常発生を確認』 確認するなッッ!!!てか・・・てかな・・・・・、九龍・・・叔父さんを殺す気ですか!? 「あれ・・?言い方間違えた?」 「く・・九龍・・・・お前なぁ・・」 「ええっと・・・叔父さんにこうされるのが、好きだなってこと・・かな?」 「・・・・・ッ!」 俯きはにかんで笑う九龍は目の毒だった。 視覚と言葉に同時に攻撃されて俺の血管ははちきれそうです。死ぬッッ! 俺はその場にぐったりと倒れた。パタリと・・。 も、悶え死ぬッッ!この精神攻撃って、もしやバディのアクティブスキルじゃないだろうな!? パッシブスキルか!?時々ハンターを出血死させるスキルなのか!? 「叔父さんー?どうしたのー?」 「・・・・・・・・九龍・・・・叔父さんの心臓を労わってくれ・・・」 「し、心臓!?どうしたの?痛い?あわわ」 俺の横で慌てる九龍を捕獲して抱きしめてやると、静かになった。 「・・・お前は小さい頃、こうやって抱きしめてくれって俺になきついたこと、覚えてるか?」 「え・・・?ええっ!?そんなことしたー?」 「したした。お前、俺が離れると怖かったらしくてずっと引っ付いてたぞ?」 「え・・・・ええっー!?」 驚いて目を丸くする仕草に、愛しさが募る。 しがみついてきて、「行かないで」と泣いていた小さい頃の姿。 先日旅館で喧嘩した時の不安に怯えていた表情。 『大好きだから・・・傍にいてね・・』小さく囁いた声。 「なぁ・・・・・九龍」 体を起こして座り、正面から向き合うと、眼を合わせて問い掛けた。 「お前は何を恐れてるんだ?何が怖い?どうして怖い?」 「え・・・」 眼を見開いて、震えた九龍の肩を撫でてやる。 「・・・怖がらなくいい。怒ってるとか、お前を脅かそうとしてるんじゃない」 何も言わずに見上げてくる九龍に笑いかけてやる。 頼むから怯えないでくれ。 おまえを追いつめたいわけじゃない。 ゆっくり言い聞かせるように、伝える。 「俺は、お前を置いてどこかに行ったりしない」 どこかに行ってしまうとしたら、お前からだろうな・・。 「俺は、お前を一人にはしない」 なぁ・・・俺を信じてくれ。 「お前が許す限り、俺はずっと傍にいてやる・・」 正直、お前にいらないと言われたら、俺は生きていけるか不安でならねぇ・・。 それくらい、お前を愛してるんだぞ・・? 九龍の眼から静かに涙が流れ出して、慌てた。 「九龍?あぁ・・・・・・泣くな〜?頼む、泣かないでくれッ!」 涙を指先で拭ってやりながら、その頭を撫でてやる。 「なぁ・・・・何が怖いんだ・・?」 「・・・・・わか・・・らない・・」 「そうか・・・なら、どうしてほしい?」 どうしたい?なんでも言ってくれ。 不安を抱えて、一人で泣かないでくれ。 お前はもっと求めたっていいんだぞ?むしろ求めてください・・・もちろん叔父さんをだ!親父じゃないぞ!?オレオレオレ! 「・・・・・・・ばに・・・て」 「ん?なんだ?」 小さな声で九龍が何かつぶやいた。 「傍に居て・・・・・お願いだから、どこかに行ってしまわないで・・・」 あぁ・・・勿論さ、ハニィー!とかずっとここに居るぞ?アイラビュー!とか、言いたかったが・・・ダメだ!言葉も出ねぇー! なんだこの・・・愛しさ大爆発は!可愛い可愛い可愛い可愛い可愛いー! 「九龍・・・お前、なんでそんなに・・・」 なんて可愛い子に育ったんだろうか。育てたのは俺なんだけどな! 九龍は俺を見上げて首をかしげている。あぁ・・・・なんでこんなに・・ 「可愛いんだ!!!!!!」 遺跡中に響き渡ったが、どうでもいい! 遺跡の中心で愛を叫ぶぞー!絶叫大会で優勝できるかもしれねぇな! 「はぃ・・?」 眼を丸くして間抜けな顔をして俺を見るな。もうどんな顔でも可愛いぞ! 「可愛い!可愛い!可愛い!アイラブユー!」 九龍をぎゅぅぅっと抱きしめる。あぁ・・・愛しいぞー! 「届け、俺の愛ーーーッッ!!」 「お、お、おじさんッ!?」 「あぁ、愛しのマイハニィー!お前を置いてどこへ行けって言うんだ!?行けって言われても俺は拒否するぞ!?泣く!泣いてやる!」 「はぁ・・」 「お前が暑苦しい!といってもハグハグするからな!?」 九龍は俺を呆然と見ていた。その眼を見ながら、その手を握り締める。 「俺は、ここに居るから。お前がどこかに行っても帰る場所で居続ける・・・・だからな?」 「叔父さん・・・」 「だから・・・不安になっても一人で泣くな・・」 「・・・・・うん」 お前がどこへいったって、いつだって迎えてやる。 お前にとって「帰る家」で、俺はありつづけるからな・・・。 だから、怖くないぞ?お前は一人じゃないんだ。 九龍は俺を見上げた。「ありがとう」と声にならない言葉を、つぶやいたので笑って頷いてやる。 嬉しそうに微笑んだ九龍が、あまりにも可愛いので、そのおでこにちゅーをした。 俺を見て眼を丸くする九龍が愛しい・・・あぁもう愛してるぞー! 「・・・んじゃ・・よ、次行くか」 「はい」 目が合うと、顔を赤くして眼をそむける九龍に、俺まで照れて目をそむけた。 ここに大魔神が居たら、俺は速攻で干物にされそうだなぁ・・・。 羨ましいだろー!ばーかばーか!とか自慢してやりてぇー! 照れて片手で方頬を押さえてうつむいている九龍は本当に可愛い。 「本当はお手々繋いでエスコートしてやりたいんだがよ・・」 「お、叔父さんッ!そこまでしなくてもいいからっ!危ないし・・」 「俺が寂しいんだよ、九龍ちゃん?」 「も、もうっ!ば、ばかじゃないっ!?」 「お前が俺の愛をちーーーっとも理解しないからなァ・・・あぁさびしー」 わざと拗ねるように言って歩き出すと、背中にごつんと何かがあたり、しがみつかれた。 「お、おぉぉい!?」 なんだ、この可愛い仕草は!と言おうとしたら、続く言葉に撃沈された。 「ちゃんと判ってるから・・・大好きだよ?小五郎叔父さん」 「・・・・ッ!」 く・・・・・・・・九龍・・・・・・・。 叔父さん、今度お前と2人きりでどこかへ行きたいと夢見てるんだが・・仕事なしで!2人きりで!大魔神なしで! ハワイが良いと思うんだが、どうだ? あそこなら日本語も通じるし、治安も良いからな・・・。 白い可愛い服を着て、麦藁帽子をかぶったお前と波打ち際を走ろうじゃないか。 あははまてこら〜やだもうおじさんったらーうふふーとか言いながら。 そして2人星空の下で、星を見ながら・・・・・・あの輝ける星をおまえに・・・。 まぁ素敵。うふふーあははー。 「へ・・・?叔父さん、どこか怪我・・・」 あ・・・?怪我?怪我なんざねぇぞ?ハニィー。 まぁお前のかわいらしさに火傷寸前だけどなーははははは・・・・って、げッ! 「やべぇ・・・鼻血」 ボタッと盛大に鼻血が滝のように流れていた。 別に変な妄想をしたわけではないぞッ!?・・・波打ち際で追いかけっこvとかは普通だよな!? 「だいじょう・・・・・・・ぎゃー!」 ぎゃーって・・・・ぎゃー・・・って・・・そんな、怖がるなよ・・。 ちょっと鼻から余分な血が流れてるだけだぞ? 九龍は俺が持たせていた救急キット系を入れ込んだ腰のポーチから、救急セットを全部出して、ガーゼを鼻に押し付けてきた。 「叔父さん、鼻の粘膜弱ってるんじゃないかな・・・今度病院行こう?」 「いや・・・これはだな・・・」 「もしかしたら何か重い病気かもしれないじゃないか!」 「・・・・・・・・・重い病気かもなぁ・・・」 きっとつける薬はない病だと思うぞ。 お前にしか治せない病なんだ、とか言ってみても良いか? 「やっぱり・・。叔父さんもう年なんだし・・・ムリしないでね」 や、やっぱりって何だよ!こら!九龍!年とかいうなー! 「・・・・・・・・・俺は永遠の30歳です」 「はいはい」 「いや、ホント、30だぞ!ピチピチ!」 「えっと、先に進まなきゃだね・・・あ、こっちに道があるよー」 「聞けーーー!」 俺はだな、まだ若いんだぞ!独身だぞ!ピチピチヤングなんだぞ!? 九龍にそう言って詰め寄ろうとした瞬間、無邪気に笑った顔を見て固まる。 か・・・・・・かっ・・・・・かかかかか・・・・・・ッ・・・可愛い・・・。 取り乱しそうなほど、可愛い。ご近所に見せびらかしたいくらい可愛い。 いや、ダメだ!減る!勿体無い! 「大丈夫・・・?」 「・・・・・九龍ちゃん、不意打ちはやめような?」 「・・・・?」 それにしても・・やっぱこの子は無邪気に楽しそうに笑ってる顔が一番だな。 この笑顔を、ずっと近くで見守ってきた。 この笑顔が消えないように、曇らないように、守ってきた。 まぁ・・・不安にさせて泣かせたりとかもしたが、守ってきた。 これからも、守ってみせるからな・・・? 「んじゃ行きますか、相棒」 「はい」 はい、ってお返事が良いなぁ・・・。あぁ、ぎゅっとしてやりたいッ! あぁだが、先進まないとだな・・・。大魔神が追いかけてきそうで怖いしな。 「暗いな・・・ちょっと照らしてくれ」 「はい」 先へ行くための狭い通路は地下水に沈んでいた。 見たところ、結構な深さかもしれないな。 「・・・・深さはどのくらいだろうな・・・九龍、メジャーかしてくれ」 腕を入れると、身を切るような冷たさ。深さは1メートルちょいくらいか・・。 俺の腰程度だが、九龍の身長だと胸元くらいまでは浸かっちまうな。 「そんなに深くないな・・・・よっと」 おー冷てぇー!この冷たさは、地下水・・・涌き水か!?雪解け氷水って感じだぞ・・・。 「先を見てくる。少し待ってろ」 「あ・・・」 「大丈夫だって、H.A.N.Tの情報じゃ先に広間がある・・そこまでだ。10メートルも離れてないはずだ」 「・・・・」 「すぐに戻るから、良い子で待ってろな?」 九龍をこの水に浸けたくない。こんな冷たい水に半分も浸かれば風邪を引きかねないからな。 通路がどうなっているかは、わからないが・・・。 ゴーグルをかけて、先へ進む。足場を一歩一歩確かめながら確実に。 程なくして明かりの灯った広間に出た。 |