叔父さんと僕(オヤジ編)
第3部・その5(前編)
「九龍ッッ!小五郎ッ!」 『罠を解除しました』 扉を開けると、まず聞こえてきたのはH.A.N.Tの音声だった。 その音の出所へ視線をやって、固まる。 「――ッ!大丈夫か!?」 目に映るのは鮮血。 倒れている2人。 愕然として立ち止まる。 嫌な想像に息を飲むが、視線の先の頭だと思われる部分が動いて、声がする。 「・・・・おと・・・・うさん・・・」 九龍のとてもか細い声に、それでも反応があったことに内心安堵し、急いで駆け寄った。 「たす・・・・け・・」 助けて、と言っているのだろうが、泣き声のそれは震えていた。 「あぁ・・・助けてみせる。安心しなさい、九龍」 小五郎へ目をやると、背中は血で濡れていた。意識はないようだが、荒い呼吸をしているので・・・生きている。 (だが、油断は出来ないな・・・) 出血量がかなり多い・・・・が、ハンターと連結しているH.A.N.Tが異常をしめしていない。 脈も血圧も、心拍数も正常だ。 ・・・・・『呪い』の状態異常が検出されているが・・・・。 どういうことだ・・? 「・・・・・・っく・・」 九龍の泣き声に、意識を戻す。 ひとまずは、手当てが先だな・・・。 九龍の上に覆い被さったままの身体に手をかけ、起こそうとするが・・・。 「・・・・・・・放さないつもりか・・・」 意識を失ってもなお、あらん限りの力で九龍を抱きしめている。 「おい・・・小五郎、九龍を放せ」 試しに言ってみると、その力は緩んだ。 (・・・意識はあるのか・・・?) とりあえず2人を引き離すと、九龍の頭に被されたままの上着を取る。 「・・・・・・・・・ッ!」 九龍の左目・・・血と涙で塗れてしまっていて、凄まじい有り様だ。 「お・・・・じさん・・・たすかる・・・?」 「あぁ、あれは死なない。顔色もそう悪くないしな」 あれは、あのくらいじゃ死なないだろう・・・とはさすがに言わないが。 あれ・・・この愚弟だが、呆れるほど頑丈だ。肋骨のほとんどを折っても、腹が裂けていても、動き回っていたとかいうアホな伝説の持ち主だ。 こいつが寝込んでいる姿を見たことがない・・。 いや・・・、あるか・・・? 数年前に九龍から切羽詰った電話・・確か、「叔父さんが死んじゃうッ!」とかだったな・・・を受け取って駆けつけたときに一度見たな。 仮病を使って、人の愛息に「あーん」とかしてもらって悦っている姿を・・・・。 献身的な介護をしてもらって、デレデレしているこいつを、思い出すと・・・どうも・・・・。 このままここに放置しておいたほうが、九龍のためなんじゃないかと思ってくるんだが・・・・。 「ほ・・・んと?」 この子の前でさすがに出来ないな。 良かったな、助けてやるぞ、感謝するんだな・・・・バカたれめ。 「あぁ・・・だから先にお前の手当てをやらせてくれ。失明してしまう」 「これはいい・・・・いいから・・・おじさんを・・」 イヤイヤと首を振る九龍の頭を撫でてやる。 おとなしくなった九龍の顔を、水を含ませた布で拭う。 (・・・・震えが止まらないな・・・) 横たわったままの、小五郎を見たまま震えている。 「九龍・・・左目、見えるか?」 「・・・・・・」 自失寸前だが、声は聞こえているのか頷く九龍に安堵する。 この子の心が壊れてしまうのだけは・・・・・。 「・・・・少し痛むが、我慢してくれ」 切れたのは瞼だけのようだが、押し開くと黒めの部分に傷がついているのが見えた。 (まずいな・・・・) 失明はしないかもしれないが、かなり視力が下がるだろう・・。 この子は、あんなにもハンターになろうと頑張っていたのにな・・・・。 眼の悪いハンターは多いが、やはりハンデになる事が多い。 九龍の眼に、清潔なガーゼを押し当て、包帯を緩く巻く。 これで、ひとまずは良いが・・・・・・九龍の様子がおかしい。 視線を宙に向けて、遠くを見ている。 「え・・・・?」 「どうした?九龍」 「呼ばれてる・・」 「呼ばれている・・・?」 誰に・・?と問い掛ける声は言えなかった。 『敵影を確認、移動してください』 「ッ!九龍!叔父さんのところに居なさい!」 H.A.N.Tに映る敵は・・・・・・、骸骨ばかりが・・・・。 「10体だと・・・ッ!?」 骨は生々しく、生前着ていた服を身に纏っていた。 銃を取りだし、構える。 九龍を横目で見ると、小五郎の傍らで、その頭を上着で作った簡易マクラの上に載せていた。 「九龍、救急キット持っているだろう?手当てをしてやりなさい」 そう言うと、九龍がたどたどしい手つきでキットを取り出し始める。 その周辺に近寄る敵を撃ち倒す。 「・・・・・・・・・・何か変だな・・・」 順調に撃ちたおしているのだが、数が減らない。 「・・・・・・・・・・・・・じさん・・・」 九龍とついでに小五郎を背に庇いながら攻撃をしていると、ふと九龍が何か言っていることに気がつく。 15体目を倒し、銃のリロードをしながら聞いてみる。 「・・・・あいしてる・・」 ・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 いかん、空耳か? そうだな!そうに違いないな! 「・・・・・だいすきだよ・・」 ・・・・・・・・・・空耳じゃない・・・・。 「ごめんなさい・・・おれのせいで・・・」 切ない声に、胸をつかれる。 「まもりたかったのに・・・」 九龍・・・。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・助けてみせるから・・・叔父さん・・」 何故そこで振り向いてしまったのか判らない。 振り向くと、自分の可愛い息子が・・・・、可愛さの欠片もない弟に・・・。 ・・・・・・・・・・きすを・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・していた・・・・・・・・・。 『血圧低下 心拍数低下 自発呼吸に異常』 ガランと銃を取り落としたことに気づいたのは、H.A.N.Tの音声のお陰だった。 く・・・・・口にかッッ!?いやいやいやいやッ!位置的にはそうだったような、そうでないような・・・!? 違う違うよな!?そうだよな!? 「・・・・・・・・・・あいしてます・・」 そ・・・・・そうだよなー? 叔父への愛だよな!?そうだと言ってくれ! 九龍、お前は嫁に行くんじゃないぞ!?お嫁さんを貰うんだぞ!? パパ、初孫はお前に似て素直で可愛い女の子がいいな!はははは・・・・・。 今すぐにでも突き止めたいのを押さえて敵を撃つ。 動揺がたたって、さっきから当り所が悪い。くそッ!無駄玉ばかり消費してるぞ・・。 「・・・・・・・行かなきゃ」 「く、九龍ッ!?」 急に立ちあがった九龍が走っていく。 咄嗟に反応できずに見送ってしまう。 「九龍ッ!待ちなさいッ!行くな!」 骸骨どもは攻撃をせず、九龍へ道をあけてやっていた。 まるで導かれているように・・。 「行くな!九龍!」 悪い予感に、慌てる。 九龍を追いかけようと走り出すと、道を塞ぐ骸骨集団。 「・・・・俺の道を塞ぐなッッ!」 ニトロマイトを投げつけ、全滅させる。 「九龍ー!」 追いかけるが、追いつけない。骸骨が再び出てきているが構わずに追いかける。 そこの小五郎でも噛んでいてくれ。 無駄に栄養だけはあるはずだ・・・・。 九龍の将来のためにも、やはりここで、とか再び思うが、とりあえず頭の片隅に追いやり追いかけた。 |