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叔父さんと僕(オヤジ編)
第3部・その4

扉を閉めて、立ち尽くす。
あぁ・・・・・・・・・・なんであんなに可愛いんだろうな・・?脳内メモリィーを再生してにやける。あぁ、だめだ!仕事にならねぇ!
「九龍・・・かわいいかわいいかわいい・・・か・わ・い・い!!!
おっと、いけねー!またもシャウトしちまったぜ!九龍ちゃんに聞こえたか?扉の向こうを伺ったが物音はしない・・・・。聞こえてないみたいだな・・・安心したような、がっかりのような・・・。
だってよぉ、九龍「可愛い」って言われるとぶすくれるんだぜ?ぷんぷんする九龍ちゃんも、そりゃもぅ可愛くてだな・・?
って、こうしてる場合じゃないな!
さっさと偵察して戻らねぇとな、一人にあまりさせたくない。
さすがにもう、そこまで来てるとは思うが・・・大魔神だしな・・。
「しかし、長い・・・廊下だな、おい」
50メートルはあるような、長い直線の下り坂になっている通路を見て、ため息をつく。
しっかりと松明に火がついている。まるでおびき寄せるような歓迎ぶりに笑いが出てくる。
いかにも、罠がありそうだな・・・慎重に行くか。
九龍を連れてこなくて良かったぜ・・・・。さびしーけどな!

「・・・・何も起きねぇな・・・・?」
いかにも罠がありそうなんだが、発動せずにすんなりと突き当りまで来てしまった。
重厚で豪勢な装飾の扉がいかにも、秘宝の間みたいで笑っちまう。
昔の奴は自己顕示欲が高い奴ばかりなのか、今までの遺跡もこんな扉の奥に秘宝があったものだ。
たまには普通の通路の床下にとか隠してあるような素朴な遺跡に行ってみたいもんだな・・・。
一応調べるか・・。
『鍵がかかっています』
「やっぱりか・・・じゃぁこの石碑だな」
扉の脇に石碑というよりは、小さな石版が床に埋められるようにはまっていた。
H.A.N.Tを掲げ、読み解く。
茫然として、H.A.N.Tを取り落としそうになった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・ふざけんなよ・・・」
ぎりぎりと力を込めて、壁を殴りつける。穴が開いたがどうでもいい。

なんだこれは・・・。

なんだこれは!

ふざけるなよ!!!!!

H.A.N.Tを手早く操作して、兄貴のH.A.N.Tへ緊急コールを出す。九龍と合流してくれていればいいが・・・・・。
九龍の元へ、急いでもどらねぇと・・・!
頼む、頼むから、無事で居てくれ・・・ッ!!!
振り向き猛ダッシュで走り出す。罠があろうが、関係ない。
「・・・・・・狙いは九龍か・・・・くそッ!」
ふざけるな!ふざけるなよ!ロゼッタ協会!
協会の思惑、入り口の石碑の意味、2人縛り石碑の意味、すべて理解した。
この先にある秘宝への鍵、それで開き、手に入る秘宝は大いなる力を持ったものらしい。
具体的には書いてなかったが。
その鍵は人の体にしか刻めない。求めるものは刻み込む『入れ物』を用意せねばならない。
2人のうち1人は、鍵を刻む「入れ物」として。
もう1人は・・・・、秘宝への鍵を守る主のための生贄。
鍵の入れ物は出来るだけ頑丈で生命力の高い男が望ましく、生贄たる供物は・・・・。

純然たる魂を持つ清い娘か、子供・・・・。
つまりは、俺が鍵を、生贄として捧げられるのは、九龍・・・・。

「ふざけんなよ・・・・」
許さねぇ・・・ッ!九龍を、生贄だと!?
協会は多分、俺が鍵を刻んだ後九龍を助けるだろうと予測していたんだろうが。
それも腹が立つが、それ以上に血管が切れそうなものがある。
『呪い』だ。
供物として捧げられる生贄は、『呪い』をかけられ眠りにつく・・・とあった。その『呪い』は解呪の秘宝でしか解けない呪いとも。
つまりロゼッタの思惑はこうだ。
九龍が呪いを受け、眠りにつき、鍵を刻んだ俺か兄貴が九龍を救う。
呪いを解くために、俺達が秘宝を求めるだろうと。
それこそ全力で。
つまりは・・・・そういうことだ・・・。
「許さねぇぞ・・・・・」
ふざけるなッ!「呪い」だぞ!?眠りにつくんだぞ!?
呪いを解く秘宝が今も手付かずにあるかどうかもわからない。
本当に解けるのかどうかも、わからない。
それだけじゃねぇ・・・九龍は、どうなる・・・。呪いで眠りについて、どのくらいで解けるかもしれねぇのに・・・眠りについた九龍はどうなる!
あの子が今何歳だと思ってる!?14だぞ!まだ14なんだぞッ!
いつ解けるかわからないような呪いを受けろ、だと・・・・ふざけるなッ!
あの子の今は、1分1秒たりとも無駄に出来ない、一番大事なときなんだぞ!?
ふざけるな!
「・・・・・・ふざけるなよ、協会!てめぇーら・・・骨の一欠けらも残さずぶっ殺す・・ッ!」
俺は走る、全力以上の速さで走る。
頼む、頼む兄貴・・・・!九龍の傍についててくれ・・・ッ!
『呪い』の罠はこの通路だ。まだ発動していない。
九龍がこちらにくる前に戻らなければ・・・・・・・ッ!!
「・・・・・・ッ!!」
前方に人影が見えた。
フラフラと歩いてくる人影は・・・・・・・・・愛しい・・・・・・・・九龍。

「来るなーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」

俺の絶叫にビクンと震えた九龍は目を瞬いた・・・・瞬間。
「九龍ッッ!!あぶねぇ!」
九龍の頭上から降ってきた矢をとっさに身を引いて九龍はよけた。
左目を押さえている姿に衝撃が走る。血が、指の間から流れてた。
痛みに床に崩れるように座りこんだ九龍は、目を押さえてうめいている。
その手がこちらに弱々しく伸ばされた。
後少しでその手に届くと思った瞬間、再び上空から矢が降ってきた。
「くろーーーーーッ!」
猛ダッシュで九龍を抱き込むと同時に背中にすさまじい痛み。
「――ッく・・・ッ!」
目の前が真っ赤に染まるが、耐える。
しっかりと腕の中に抱き込んだ愛し子の方が俺にとっては大事だ。
「あ・・・・・ぁ・・・・・」
片目を見開いて、茫然とする九龍に声をかける。
「・・・九龍・・・九龍ッ!大丈夫か・・・!」
「お・・・じさん・・」
ガクガクと震える九龍を抱きしめる。矢は、もう放たれないようだが・・・・。

『作動音を確認、移動してください』

やっぱりか・・・。
罠の発動条件は通路に2人入ること、だろうな・・・。
発動後、矢で足止め、もしくは弱らせて『呪い』をかけるってことか。・・なんとしても、九龍を連れて逃げなければ・・。
「おじさ・・・・・」
歯の根が合わず、震える背中を優しく撫でる。
「九龍・・・目は・・・」
震えてパニックを起こしている九龍の目を押さえている手をはずさせると、血が大量に流れていた。
・・・・くそッ!!これは・・かなり深いぞ・・・眼球に傷が入ってそうだ・・。
止血をし、手当てをしてやりたいが・・・。
『移動してください』
H.A.N.Tにせかされるまでもなく、やばい。
しかも呪いは霧状のものだ・・・。
入り口まで、数十メートル。なんとしても、この子だけでも・・逃がしてやらねぇと・・。
「俺は大丈夫だ・・・。頼む、立ってくれ・・」
九龍の身体を支えてやりながら、立たせる。
呪いの霧は、上空から少しずつ下へ下へと、下がっている。
間に合うか・・・?
「九龍、頼む・・・歩いてくれ・・ゆっくりでいい、慌てなくて良い・・一歩ずつ・・・」
くそッ!抱き上げるか・・・?
・・・ダメだな、矢の罠がないともいえねぇ・・・。しかもその分、霧に近くなる・・。
九龍・・・お前だけは守るからな!
「大丈夫だ、俺が居るだろ・・・?」
気になるのは、九龍の様子がかなりおかしいことだ。
動揺して、混乱している・・・・それだけじゃねぇな・・・。
何か聞こえているのか、時々眼が遠くを見つめている。
「・・・・・くそっ・・・まわりが早過ぎる・・・」
もう霧が、俺達の頭のところまで下がってきた。九龍の頭を押さえて中腰になりながら進ませるが・・。
「九龍、九龍、頼むがんばってくれ」
お前だけでも逃げてくれ・・・。

「いかなきゃ・・・」

「九龍ッッ!!!」
急に腕を振り解かれて焦る。
「たすけるよ・・・」
「ばかッッ!何言ってるッ!」
出口とは逆のほうへ、歩き出す九龍を慌てて引き止め抱き寄せる。
「どうして・・・じゃま、するの・・?」
「九龍ッ!」
九龍、おまえ・・・・どこを見ている。
どこか遠くを見ながら、ぼんやりと呟く姿に焦る。
「たすけてくれるって・・・」
「行くな!」
くそッッ!魅入られたのか!?生贄として・・・。
呼ばれているのか・・・!?くそッ!俺が、俺が一人にしなければ・・・・・ッ!
九龍を強引にその場に座らせて抱きしめる。
放せば走っていってしまいそうだった。
行かないでくれッ!
「おじさん・・・どこ・・・?あっち・・・?」
俺が判らないのか・・・ッ!?
「おいッ!」
「いかなきゃ・・・たすかるって・・・」
行くなッ!
「よんでる・・」

「九龍ッッ!!!」

バシッ!と九龍の頬を平手で殴った。胸が痛むが、構っていられない。
不思議そうに頬を押さえる手の上に、俺の手を重ね、もう片方の手で九龍を胸元に抱きしめる。
「九龍、九龍・・・頼む、俺を見てくれ」
頼む、正気に戻ってくれ・・・。
「行くな。行かないでくれ・・・頼む・・」
お前を失えない。
九龍、九龍ッ!
「俺を見ろ・・・ッ!」
頼むから・・・俺を見てくれ。
九龍ッ!
「お・・・じさ・・・・・」
願いが通じたのか、九龍が俺の腕の中から見上げてきた。
その眼に俺が映っている。
「・・・・俺がわかるか?」
「・・・・おじ・・・さん・・」
ほっとした。俺が判るんだな・・・?
どうして・・・と混乱して呟く九龍の背中を撫でてやりながら、言い聞かせる。
「いいか?声が聞こえても、俺以外の声には耳を貸すな!」
「・・・・あっ・・・ち、血が・・」
「大丈夫だ・・・俺は大丈夫だ」
心配するな、と笑いかけてやる。
霧はもう、座っている俺の首の辺りまで来ていた。
どんどん、下がってきている・・・・・・このままでは、確実に、呪いは俺か、九龍にかかるだろう。
『呪いは供物たる生贄にかけられるであろう』
この1文がマジもんなら・・・生贄として、魅入られたのは九龍、か・・?
しかし、魅入られ声を聞いたとしても、この罠と呪いはなんだ・・?子供や女が生贄として最適なのは・・・抵抗力の弱そうな人間を選んだからじゃないのか?
矢で弱らせ、呪いにかける・・・そう言うことか・・・。
「あ・・・ぁ・・・・・お、おれ・・・どうして・・・」
声もなく呟く・・どうしてここにいるか、わからない、か・・・・・・やっぱりな・・・。
「声が・・・聞こえて・・それで」
・・・あの祭壇で声を聞いた奴が『選ばれた』ことになるのか・・・?
この子に目をつけた目の高さは誉めてやるが・・・・、九龍は渡せねぇ。
俺の命に代えても、この子は守る。守ってみせる。
混乱する九龍に囁いてやり、笑いかける。
「大丈夫だ・・・」
じりじりと焦ってくるのを、押さえ込む。
出口まではまだ遠い、そこへ行くまでに床にまで来ちまうだろう・・・。
ならば。
俺が選ぶ道は一つだけだ。
「あ、あぁ・・・ッ・・・・く・・・・いてぇー」
ぐいっと、背中の矢を引き抜く。抜かないほうが良いんだろうが、上着を脱ぐのに邪魔なんだよな。
「おじさん・・・ッ!」
「あぁ、大丈夫だ。たいしたことないぞ?鼻血ででるよりはマシだ!」
俺の血をみて、震えている九龍を抱きしめる。
「九龍、大丈夫だ。落ち着け?な?」
九龍の頭を撫でてやり、アサルトベストを脱ぎ、上着を脱いだ。
「ちょっと、これで目を押さえておけ」
袖口で目を押さえるように言い、九龍がたどたどしく従うと、その可愛い顔を、上着で包んだ。
「・・・・おじさん・・・?」
眼の怪我痛みか、先程の呼ばれたことへの名残か、朦朧としてる・・・。可愛い声に力がない。
あぁ・・・お前の目に傷が残ったらどうしようー!凄まじく綺麗で可愛らしい眼なのによ!
・・・傷ものにした責任はいくらでも、どんなことでも取るからなー?安心しろよ・・?
『呪い』の霧が、もう床まできた。朦朧としてくるが、気合で耐える。
「九龍・・・・ちょっとすまねぇな」
「え・・・?な、なに?」
九龍を押し倒して俺の身体の下に横たえる。
上着に包まれた頭を、俺の胸に押し付けて、抱きしめる。
「や・・・ヤッ!なに?何かあるんでしょ!?やめて!」
「勘が・・・いいな?お前はハンターになれる素質はあるぞ・・・自信・・もて・・な?」
「や・・・やだよ・・・やだよ!」
「九龍・・・・大丈夫だ・・」
くそ、目がかすんできた・・・。
「ダメ!やめて・・・・いやだよッ!」
「愛してるからな?」
俺はちゃんと喋れてるのか・・・?
「九龍。お前を愛してる」
誰よりも。なによりも・・・心の底から、な・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・いやーっ」
暴れる九龍を、それこそ渾身の力で押さえ込み、頭を包む上着を押さえる。
あぁ・・・・マジやべー。
意識が半分寝てる気がするぞ・・・。
「好きだからな・・・?」
「・・・・・・・・・っく・・」
「・・・・・・・・・・・」
あぁ・・・・・・・・・・・・九龍、泣かないでくれ・・。
お前の心に傷をつけてしまうんだろうな・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・九龍・・・・・・、愛してる。
忘れないでくれ。
そばに・・・・いてやれなくなるが・・・・ごめんな・・九龍・・。


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