叔父さんと僕(オヤジ編)
第3部・その8
「小五郎叔母さんのことだよ!」 瞬間俺はこけた。そりゃもう見事にこけた。顔面から。血まみれだぜ! 脱力。もう全身力が入りません。 えー・・・えー・・・・九龍ちゃん・・・? あの、えっと、そこの俺の可愛い愛しのハニィー?・・・・・どこの電波を受信したのかな? てか・・俺は何時から叔母さんに!?俺って叔母さんだったのかぁ・・・?もしや知らない間に性転換してたのか、俺!さすが俺! ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありえねぇーーーッ! いかん、いかんぞ・・脱力してるせいでやたら眠いッ! 「叔母さん!叔母さん・・・大丈夫!?」 お前こそ大丈夫か!九龍!お前の思考回路は難解すぎて理解できないぜ・・・。まぁそこが可愛いいんだけどな! あぁしかし、叔父さん・・・じゃねぇ、叔母さん脱力して動けねぇ・・・・じゃない、動けないわぁ〜。 叔母さんを助け起こして、叔母さん僕がついてるよ!とか言って、ぎゅ〜とか・・・どうよ? ・・・・・・・・・・・・・・いや、俺、「どうよ?」とか言ってる前にだな・・・・。落ち着けー!俺ー! 一瞬どきつい化粧してフワフワのスカート履いた自分を想像しかけて・・・うっぷ。死ぬ!助けてーぇぇんー。 「お父さん、離して!叔母さんが・・ッ!」 目線だけ上げて九龍を見ると、泣きそうな顔で俺のほうへ来ようとする姿が目に入る。しっかりと兄貴に手を捕まれているが。 兄貴も見たことがないくらい脱力してるな・・・はははは・・・・。 てか・・・な・・? 「おば・・・・・・」 叔母さんって何ですか・・・? 「叔母さん、鬼さんが・・・・、鬼さんー!叔母さんに何かしたら許さないよッ!」 九龍ちゃん・・・・、お前敵まで「さん」付けで呼んでんのか・・。いや、「さん」付けで呼ぶように躾たのは俺なんだけどな・・・。 あぁでも、そんなところがものすごく可愛い・・・。 それにしても。なんで叔父さんの時より、叔母さんの方が優しい言い方なんだ?小1時間問い詰めたい。 いつもなら「叔父さん、来てるよ!何してんの!?」とか怒りながら心配するくせに・・。叔母さんだと怒らないのはどうしてですか?あーーっ!問い詰めたい!やっぱ、女の方が良いのか・・・?むさ苦しい叔父さんはダメか・・?ダメなのか・・? 《お・・・・おばさん・・・・・誰のことだ・・》 いや、悪代官。てめーは関係ないから黙っとけ!!! マジやめてー力抜けるー。何これ?これって心理作戦!?精神攻撃!?うわ、大ピンチ! しかもなんで、笑うんだ・・・。「ププッ」とか笑うんじゃねぇよ!でもって九龍の方を向くな! 「叔母さんは叔母さんだよ!け、怪我とかさせないっ!」 連呼するなーッ! 《・・・なんとッ!この下品下劣な下等な男が・・・女だと!?》 なんとッ!?ってもしもし、悪代官さん・・・・。何それ冗談・・?なんかマジで信じてないか? 「もー!そんなこと言ったらダメ!」 《お主が女童というのならわかるが・・・》 「めわらわ・・・?なにそれ・・・?」 女の子って意味だぞ、九龍・・・。まぁ俺もお前が女の子だとか言われたほうが納得するけどな。 なんせ可愛いし。そりゃもうべらぼうに愛らしいし。 女の子だったらあれだなぁ・・・お淑やかに育てて、それこそ蝶よ花よって感じか?きっと将来は美人になるんだろうなー・・・。あちらこちらから馬の骨が寄ってくるんだろうな、勿論蹴散らすが! あんな服とかこんな服とか似合いそうだなー。 でもそのうち、「叔父さんの下着と一緒に洗濯しないで!」とか「自分のは自分で洗うから触らないで!」とか言われそうだなー・・・。悲しい、悲しいぜ! 《愛い愛いと言われておったが・・・なるほど・・・》 よく判ってるじゃねぇか、悪代官。九龍は男の子でも可愛いんだよなぁ・・・。 女の子でも構わねぇが、男の子だからこそ俺は一緒に居られるのかもしれないな。 ・・・・とか惚気ていたら、悪代官の野郎が九龍の方へ向かい出した! 九龍は怯えたように、兄貴の方へ後退る。 俺は慌てて立ちあがり、九龍と鬼の間に滑り込んだ。 「お・・・おいおい、俺を無視するなよ!」 「叔母さん!大丈夫なの?」 ・・・・・ぐふっ! 「・・・・・・・・・・・・九龍・・・・もうやめてー死ぬ!」 マジで死ぬー!叔母さん言う端から力が抜けていくぜ・・・。 「死ぬッ!?お、叔母さん、しっかりして!」 「叔母さん言うなー!!!」 脱力して銃を取り落としそうになりながら、叫ぶ。もー叫ぶ!やめろー!やめてくれ、何それ?苛め? 「お、おねーさん・・・でいい?それとも小五郎さんが良いかなァ・・・?」 しかし九龍にはまったく通じてない・・・。 おね・・・おねーさんってな・・・・お前・・。俺のどこを見て言ってるんだ!?俺って実は女っぽい!?筋肉隆々ムキムキマッチョオヤジと自分でおもっていたんだが・・・俺にしか見えてなかったとかか!?実はナイスバディな峰不二子真っ青な美人なのか!? そうだったのか・・・!? い、いやいやいやッ!何考えてる、俺!んなわけないだろー!アホか、俺。 「・・・・九龍・・・あのな・・・?小五郎さんには惹かれるが、おねーさんってなんだ・・・おいッ!」 「だって、お父さんが・・・おば・・・ええっと・・・小五郎さんは、女の人って言うから・・」 ・・・・色々ツッコミたいが・・・・・。 小五郎さん・・・。 小五郎さんか・・・いい・・・・。 良くないか!? 『小五郎さん、お茶入れたよ』 『おう・・・お前の入れる茶はうまいな!』 『やだ・・っ・・照れちゃう・・小五郎さんったら』 とかとかとかー!?端から見たらまるで新婚さんじゃないか・・・。良いなー!って・・。 ・・・・・・・・・・いやまて、俺、また脱線してるぞ! いかんいかん。後半の「女の人」云々をスルーしたさに現実逃避を・・・つい。 小五郎さんか、いつか呼ばせよう。そうしよう。 「わッ!び、びっくりするじゃないか、お父さん!」 ・・・ッ!?俺もビックリしたぞ!意識が敵の前なのにピンク色の世界に飛んでたからなぁ・・・。 「・・・・九龍、父さんは一度もあんなのが女だとかは言ってないぞ・・・ッ!?」 「・・・違うの?」 「当たり前だ!!父さんの弟だと言ってただろうが!九龍・・・・・・ここを出たら、一緒にみっちり勉強しような・・?」 チャキッと銃を構える音がしたので俺は構えを解いた。 振り向けば兄貴が九龍を腕の中に閉じ込めたまま、片手で銃を構えていた。 視線で暫く牽制頼んだと伝えると、一瞬苦虫を潰したような嫌そうな顔になったが軽く頷いた。 嫌そうだな、お前・・。そんなに俺が九龍と話すのがいやかー?くそ・・いちゃついてやる!俺は構わずに九龍に向き直る。 「九龍・・おい、九龍ちゃん!」 「なぁに?叔父さん」 お?叔父さんに戻ってやがる!九龍の思考回路は複雑怪奇だからなぁ・・、なんで俺が叔母さんだと思ったのやら・・。 人の言葉を間に受けて暴走するんだよな、この子は。素直なのも可愛いんだが・・・、しみじみ思うぜ・・常識をそろそろ・・・教えてやらねぇとなぁ・・。 あぁ、色々心配だ!やっぱ呪いなんぞに負けてる暇はないな!俺が寝てる間に九龍に妙なことを吹き込む輩が居ないとは限らねぇし・・。 さすらいの絵描きのおねーさんだとかに簡単に言い含められる辺りですでにヤバイ。 九龍は俺が何か言うのをおとなしく待っている。その手を取って握り締めてやる。 「・・・・・叔父さんをちゃんと見といてね?見てないと泣くからな?」 「え、やっぱり・・・叔母さん!?」 「何故そーなる!お前はどこまでボケボケなんだー!」 「なッ!叔父さんより若いよ!まだボケたりしないもん!」 はぁ・・・・九龍・・・。お前頭の中にお花畑あるんじゃないか?叔父さんも招待してくれ。 もうだめだ、なんでこんなに可愛いんだ? 可愛い可愛いと頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。 「兄貴・・・この子頼んだぞー・・・」 「お前はさっさとあいつを倒せ!」 「へいへい。んじゃ、こっからは本気で行くぞ?悪代官」 《面白い。血祭りにしてやろう》 「九龍、俺は男だからな!?今度一緒に風呂に入って・・・・・」 冗談めかして言うと、 「死ねぇ!!!」 「うぉぉぉぉっ!あぶっ!あぶねー!何しやがるクソ兄貴!」 お兄様の洒落にならない攻撃が飛んできて危うく避ける。 滅茶苦茶至近距離で撃たれたぞ、今。しかも急所狙いだったぞ!死ぬ!死ぬから、やめろー! なおも俺の眉間に狙いを定めたままの兄貴に焦る。 「鬼もお前も俺が倒す!」 「ば、ばか・・ちょっとした冗談だって・・・な?お兄様?」 「・・・・・・・・・・・」 やべぇ。眼がマジですよ、マジ!マジで撃ち殺す5秒前みたいなー? あははー・・・・・・やべぇ・・逃げる! 「は、はははは・・・・さぁ鬼〜覚悟しろー」 ダッシュで兄貴から離れ、悪代官と対峙する。 あーやばかった・・。 《仲間割れをしているのか?面白い》 「うるせーよッ!」 矛が勢いよく向かってくるのを余裕で避け、急所である角に攻撃をする。 背後に気配。 「はいはい、邪魔ですよー!」 蹴りで背後の骨を蹴倒し、近くの骨を大剣で叩き壊す。 骨は俺の攻撃で簡単に倒せるが数が多い。密集してくれれば、爆弾で一掃するんだがな・・。 《我が力思い知れッ!》 「なにッ!?」 身体をひねり避けると、俺が居た位置に雷が落ちた。 なるほど、その鬼パンツは伊達じゃないってことか?再び落雷に、俺は飛び退き、ライフルの銃弾を鬼の眼目掛けて全弾撃ちこんだ。 《ぐぉっ!!》 しかし防御力が半端じゃないな・・・今のですら、それほど効いてないようだ。 的確に弱点を狙っているのに、だ。 弱点の多さに対して、防御力が桁外れだ。体力もそれだけ多いようだしな。 ライフルを収め、ハンドガンを手にする。 ・・・もっと良い武器持ってくるんだったな・・。 ふと、俺ののちょうど対角線上にいる九龍と兄貴に眼が止まる。何やら話をしているようで、こちらを見向きもしねぇ・・・。 さびしい・・・滅茶苦茶さびしい。木枯らし吹いてるぞーあぁ、小さい秋見つけた〜うふふ。 兄貴が何やらやたらと真剣に切々と九龍に言っているが・・・何を言ってんだ・・・? 気になる・・・もしや俺のこととか・・・? お前の叔父さんは格好いいんだぞー?とか・・・大魔神は死んだって言わないだろうしな!なんだろうなぁ・・気になるぜ・・。 《余所見をするとは余裕じゃ・・・なッ!!!!》 おっと!あぶねーーー! 危うく矛に胴体を真っ二つにされかけて、冷や汗を掻く。 《貴様を血祭りにし、あの男も殺し、あの贄を食らってやる》 「お前はアホか?お前のその台詞は火に油を注ぐだけだぞ・・・?」 装備をさぐり、ニトロマイトを骨っ子が密集してる辺りへ投げる。敵影消滅とH.A.N.Tが告げる。 「さて、そろそろ消えてもらうぞ、お前には」 《我を消せば、貴様の呪いは解けぬままだぞ》 慌てて九龍を横目で見るが、兄貴と何か揉めているようでこちらに気づいた様子はない。 内心安堵し、悪代官と向き合う。 「・・・別にてめぇに解いてもらう気はねぇよ。お前はここで潰す」 《我を消しても、呪いは解けぬぞ?秘宝がなければな・・・だが、貴様に秘宝を手に入れることはできまい》 「・・・・どういうことだ?」 《鍵が必要だからだ・・・・・・鍵の魂と肉体がな・・・》 「・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだと・・・?」 《秘文と鍵はすでに・・・・宿ったぞ》 「・・・・・・・・・なッ!!!」 九龍を思わず見た。兄貴に向けて笑いかけている笑顔を見て、呆然とした。 ・・・・・・そんな、バカな・・・。 《守れずに、ショックか・・・・?》 「だまされねぇぞ・・・・・ッ!」 苛立ちを背後の骨にぶつける。蹴り飛ばした骨はあっさりと消滅した。 「いいかげん黙れ、この・・・・・」 《貴様には出来まい?あの贄を犠牲にすることなぞ・・・・》 「・・・・・・・・・・・」 ふざけんなよ・・・。 《我ならば貴様の呪いは解いてやれるぞ・・・?むろん・・・代償は・・・》 九龍を見、愉悦を含んだ笑みを浮かべた鬼に向けて俺は駆けた。 《あの贄だが・・・・》 助走をつけ、鬼に体当たりをした。 《ぐぉ・・・ッ!》 力ずくで引き倒した鬼の首元に大剣を突きつける。 「ふざけんなぁッッ!!!!!」 そのまま容赦なく喉に大剣を突き刺した。 《ぐぉぉぉぉぉーーーー!!!》 暴れる鬼から飛び退る。今ので致命傷を与えたが・・・もう少しだな。 冷静に分析する俺の意識外は大荒れだ。怒りやら何やらで叫び出したいくらいだ・・・。 秘文は、宿った。 ――鍵の魂と肉体が、必要・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・くろう・・・・・・・・。 おれはおまえを・・・まもれなかったのか・・・・・・・? 九龍ッッ!!! 《おのれッッしねぇぇーーーーー!!!》 咄嗟に動けなかった。 自責の念で、俺は、動くことが出来なかった。 ・・・・・九龍は、俺が『呪い』に負け眠りにつけば・・、自分に刻まれた秘文を使い俺を助けるために、鍵として死ぬ運命を選んでしまう・・。 『・・・・・・・・・・・・・・・・・助けてみせるから・・・叔父さん・・』 『助けてください。全部あげるから。助けてください』 『・・・・ごめんなさい・・・叔父さん・・・大好きです』 九龍の、悲しいほどの決意を思い出されて、ならない・・・。 あの子は、いくら言ってもやめろと言っても・・・、俺を助けるために暴走するだろう・・。 鬼の言うことが事実かどうかなんざ、しらねぇ・・・。 お前以上に、俺には大事なものなどない。 お前こそが、俺の秘宝だ。 お前が幸せに、笑いながら健やかに暮らしていくことが、俺の望みだ。 俺の子供じゃないが・・・・。 お前は間違いなく、俺にとって何よりもかけがえのない大切で大事な・・・愛しい子だ・・・。 愛してる・・・・・・・九龍。 |