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叔父さんと僕(九龍編)
第3部・その12

「さて、ちょっと、我慢しろよ?」
先に立ちあがった叔父さんを見上げていると、腕を取られてひょいっと軽く抱えられた。
「うわっ」
危ない、落ちるトコだった。叔父さん・・・、力をいれるのも、歩くのだって大変なはずなのに・・。
「叔父さん、俺歩くから・・・」
水は苦手だけど、足がつくところなら平気だから。
「だぁめだッ!お前を冷たい水に浸けたくない」
「だってこんなに身体が冷たくなってるのに・・・・」
心臓麻痺とか起こしたりしたらどうするんだよ・・・!やめてって、言って、降りようと暴れたけど、押さえ込まれて身動きが出来なくなった。
「ね、ねぇ・・・濡れたって大丈夫だから・・」
「だっめぇでーす」
ざぱざぱって、水音を立てながら暗い水の中を進んでいく。大丈夫?
「冷たくない・・・?」
「お前は暖かいな」
「叔父さんが冷えてるんだよッ!」
無事に広間に着いて、すとんって下ろされた。叔父さんらしくない下ろし方で、やっぱりもう・・・・時間がないんだって判って・・・。
泣くのを頑張って耐える。
「叔父さん・・ッ!」
「もうちょいだ・・兄貴は、先に行ってるみたいだな」
言われてお父さんの姿ないことに気づいた。先に上に上って待ってるのかもしれない。
叔父さんは俺の手をぎゅうってまた握り締めて、歩き出した。
・・・・ふらついて・・・。
「叔父さん・・・・俺・・・ハンターになるから」
「お前なら、出来るさ。けど、無茶はするなよ?」
「・・・うん・・・」
ハンターになって、叔父さんの呪いを解く秘宝を探してみるよ・・・。
秘文とか鍵とかなくたって、探して見せるよ、絶対・・。
「・・・そうだな・・・兄貴について探索のやり方とか・・・習ってくるといい」
「探索・・」
「すみからすみまできっちり調べ尽くすタイプだからな・・お前の親父は」
「そうなんだ・・・」
「あとは・・武器マニアだから、いろいろな武器の使い方を・・・習うといい」
「うん・・・」
叔父さんに教えてもらいたかったのに・・・。
「九龍・・ロゼッタの人間に何か言われても・・・」
ぐらりと、叔父さんが前に倒れそうになって慌てて支える。
「・・・悪いな・・・・・」
「叔父さんもう・・・・・」
瞼が半分くらい閉じてて、寝てるときみたいな穏やかな呼吸をしてた。
「・・・・いや、もう少しだ・・・行くぞ」
「か、肩につかまって・・・」
「お前と一緒に、歩いて出たいんだよ・・・」
叔父さんの、意地っ張り!もう・・・ふらふらなのに・・少しは頼って欲しいよ・・。
「あぁ・・・誤解するなよ・・・?お前を頼りたくないとかじゃなくて・・・だな」
暗い通路を手探りで進む。
ここを出たら・・・・遺跡の入り口だったはず・・・。

『モドッテコイ』
『コチラヘコイ』


また、何か聞こえた・・・・この声・・・なんなんだろう?ざわざわざわって遠くから騒音みたいに聞こえてくる。

・・・・・・・近づいて、きてる・・・・?

どくんどくんと、心臓の音がうるさいくらい聞こえる。
うそ・・・・どうして!?鬼さん、居ないのに・・・。ううん・・・鬼さんじゃない・・・もっと、悪いもの・・・だと思う・・。怖い・・・すごく怖い、逃げないと・・・危ない。
「九龍・・・・?どう、したんだ・・・?」
早く外に出ないと・・。
くいっと繋いだ手を引っ張られて、遺跡の入り口のごつごつとした岩場のとこに出た。
それでも声は、少しずつ近づいてきてる。
「なんでもないよ、叔父さん」
叔父さんを守らないと、もうきっと戦えない・・。
心配かけたくないから、笑ってウソついた。ごめんね・・・叔父さん・・・。
ざわざわざわざわ、声がどんどん近づいてる。
怖い・・・けど・・震えちゃダメだ
「お父さん、どこ!?」
「・・・・・・・九龍、何が来てるんだ?また何か、聞こえてるんじゃないか?」
背後から叔父さんが、低い声で・・言った。
「何でもないよ」
「ウソをつくな!」
ふらふらなのに、どこにそんな力があったんだろう?って思うくらい、強い力で腕を掴まれる。
「九龍、焦ってるな・・・?何があるんだ・・」
「何もないってば!」
「そんなに怯えて?震えてるじゃないか・・」

『コロセ』
『ヒホウハワタサヌ』
『ダレニモワタサヌ』


そんなもの、持ってないよ・・・ッ!
声がどんどん近づいてくる。
「小五郎、上に上がれるか?」
入り口の穴から、お父さんが顔を出してた。
「叔父さん、早く行って」
「お前から先に行け」
怖い顔でじっと見てくる叔父さんは、強引にロープを俺に握らせてきた。
だめだよ!叔父さん!
「叔父さんが先に行って・・・お願い・・」
震える両手をぎゅっと握り合わせて、力を込めた。
「俺は大丈夫だから!」
「・・・・・・・・・・・」
叔父さんは俺を見て、はぁ、と大きなため息をついた。
・・・ッ・・・呆れられちゃったの・・かなぁ・・・。
それでも、叔父さんを助けなきゃ・・・。
「九龍、約束しただろ?自分を守って守りたい奴も守る・・・生き延びろってな」
「え・・・・うん・・・」
「俺の背中におぶされ」
「え・・・・・」
「何か・・きてやがる・・・、俺にもわかるんだよ」
「叔父さん・・・」
「早くしろ!」
大きな声で言われて、反射的に叔父さんの首にしっかり手を回して、背中に乗った。
「絶対に手を離すなよ?」
「・・・・はい・・・」
自分で、って言う言葉も、叔父さんの・・・・怒ってる声に、言えなくなった。
叔父さんの背中、冷たくなってて、涙が溢れて叔父さんのシャツに落ちる。
「大丈夫だ・・・お前は俺が守る」
ロープを鳴れた手つきで辿っていく。
叔父さんふらふらしてたのに・・・。
ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。

『ニガサヌ』
『ミツケタ』
『ミツケタ!』


ヒタヒタヒタと雨音以外の・・・・・足音が、1人じゃなくてたくさんの足音が、真下にすごい早さで来た。
真っ黒い、蛇がいっぱい・・・かなり大きい・・・・。
「・・・・・え・・・・イヤぁッ!!!」
あ、足に・・・足に、巻き付いてる・・。
いや、いやだ・・・・気持ち悪い!!
「九龍、見るな!」

『ヒブンヲ』
『カギヲ』
『ソトヘダサヌ』
『ダシテハナラヌ』


ひぶん・・・・・・?
かぎ・・・・?
どこにあるの・・・?
叔父さんを救えるかもしれない・・・それがあったら・・・。
「小五郎!早くあがれ!」
お父さんが手を伸ばして叔父さんの手を掴んだ。
ぐいっと引き上げようとしているのを見て、安心した・・・・。

「――ッ!!!」

足を噛まれて、あまりの痛さに、手を離してしまった。
落ちる・・・ッ!

「・・・・・・・・・・早くあがるんだ」

誰かに手を掴まれて、引っ張られる。
・・・誰だろう?お父さんじゃない・・・。
手を貸してもらって、あがって、座りこむ。
「・・・・・・う・・・・ッ」
蛇が、まだ足を噛んでて、痛くて溜まらない!
「くそ、この蛇!」
叔父さんが蛇を掴んで、握りつぶすと、黒い煙みたいに消えていった。
痛かった・・・すごく・・。
「九龍、おい!大丈夫か!?」
そう言って顔をのぞきこんできた。叔父さんこそ・・・真っ青じゃないか・・・・。
「大丈夫だよ・・・叔父さん・・」
だから心配しないで。
「見せてみろ!」
「わ・・・っ!」
右足を引っ張られて、背後に倒れそうになるのを慌てて手をついて支えた。
「・・・・・・・・・・くそ・・・・毒ないだろうな・・・」
「毒はないだろうが・・・陰の気がこびりついている・・」
知らない背の大きな男の人が、足の怪我を見ながら言った。
誰だろう・・・・?
「・・・M+M機関の奴か?」
「えぇ、そうです・・・・陰の気は、清水で綺麗に洗い流せば消えるでしょう・・」

『ヒホウハワタサヌー!』
『コロセコロセ』
『ニエヲヨコセ』


「大丈夫です。彼らはあそこから外へは出られません」
そう・・・なんだ・・・。良かった・・・助かったんだ。
「・・・・・・あ、叔父さんッッ!」
急に叔父さんがこっちに倒れてきて、びっくりして支えた。
「やべぇ・・・・気が抜けたら・・・眠ぃ・・・・」
「叔父さんッ!」
「わりぃ・・・兄貴・・・・あとはすまねぇが・・・」
「あぁ・・・九龍は大丈夫だ。俺が守る」
叔父さんは、お父さんの言葉に安心したように瞼を閉じた。
時間・・・・なんだ・・・。
「・・・・・・・・・・・・・いや・・・・ッ・・・いっちゃ・・・いや・・・」
言わないつもりだったけど・・・・だけど・・・ッ!離れたくないよッ!
叔父さんを膝枕にして、雨がかからないように身体で覆って・・・叔父さんの手を握り締めた。涙で曇っていく。雨が冷たくてイヤになる。
「九龍・・・泣くな。俺は必ず戻るから・・・」
「うん・・・」
「約束しただろ・・?」
「うん・・・」
「必ずお前の元へ帰ってくる・・・」
うん・・・待ってる・・・。
「こんなクソ呪いなんざに負けねぇよ」
信じてる・・・・信じてるから・・・!
叔父さんはもう瞼がほとんど開いてない。
開こうとしてるみたいだけど、すぐに閉じちゃって・・・優しいあの眼を、見れないことが・・・すごく、悲しい。
「叔父さん・・・・大好き・・だよ?」
「あぁ・・・俺もだ・・」
言葉が出ないよ・・・。言いたいこと、いっぱいあったのに・・。
ごめんね、叔父さん・・・泣いてばかりで、ごめん。
「九龍・・・何も死ぬわけじゃないんだ・・・笑ってくれ・・・な?」
「・・お・・・じさん・・・」
いかないで。
いかないでいかないで
・・・・そばにいて。
おいていかないで・・・ひとりにしないで・・。
叫びたくなるのを我慢して、笑顔を・・・叔父さんに・・・向けた。
瞼に、そっと・・・・・。
「だいすきだよ・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・こごろうさん・・・」

え・・・?何?叔父さん・・・?
「こ・・・小五郎さん・・・だいすきっていってくれ・・・」
よく判らないけど・・。
「・・・・小五郎さん・・・大好き・・」
「・・・・いい・・・」
いい?何が?
「・・・・・・なぁ・・・小五郎お父さんって・・・呼んでくれ・・・」
「小五郎お父さん・・・?」
もうお父さんみたいな感じだけど・・・、呼んで欲しいのかな・・?
「こごろう・・・パパでも・・いいぜ・・」
「・・・?小五郎パパ?」
あぁ、そうか、お父さんはいるから・・「パパ」って言って欲しいのかなぁ・・?別に良いけど・・少し恥ずかしいけど。
「九龍・・・・まぶしい」
まぶしい・・・・?
「叔父さん・・・?何言ってるの・・・?」
「泣き顔も可愛いけどな・・・・笑顔がラブリー」
らぶりー・・・?
「九龍・・・・しおとってくれ・・・・・」
「しお・・・?」
しおって・・・お塩のことかな・・・?
「あははーこいつぅー」
「叔父さん、叔父さん、しっかりして・・・!」
何言ってるのー!?頭打っちゃった!?
ガクガクと揺さぶって見ると、うっすらと眼が開いた。
あ・・・・あの眼だ・・すごく優しい眼。じっと近くで見つめあう。
「叔父さん・・・・?」
「九龍・・・・・」
「叔父さん」
「愛してる・・・・待っててくれるか?」
「うん・・待つから!だから・・・ッ!」
・・・・早く戻ってきて・・・・。
そう言おうとした時にはもう、叔父さんの眼は閉じちゃってて、静かな寝息だけが聞こえてた。
「おじさん・・・・おじさん・・・・!?」
揺さぶっても、つねってみても・・・目覚めない。
「・・・・・待ってるから・・・・ね・・・叔父さん・・・」
雨でどんどん冷たくなる叔父さんを、暖めるみたいに抱きしめた。
叔父さんを信じるけど・・。
呪いを解ける手かがりを見つけて、助けて見せるから・・。
約束は守るから・・・。
だから・・・。
だから・・・。

早く・・帰ってきて・・・ね・・・?






「・・・・・・・なるほど、呪いは彼が受けたのか」

すごく近くで声がして、びっくりして顔を上げると。
知らない男の人が、すぐ真横に居た。
「呪いを受けてここまで出てくるとは・・・凄いですね」
「・・・・我々は撤退する、調査ならどうぞ、ご存分に・・・」
お父さんの声が強張ってて、怖い。
叔父さんを抱きしめたまま、男の人から離れようとした・・・ら、右腕を掴まれて引っ張られる。
「あ・・・ッ!」
はずみで叔父さんが膝から落ちて、地面にドザッて落ちた。
「叔父さ・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・?」
「我々の調査は、すぐに済みます」
右腕の袖を乱暴に上げられて、びっくりする。
「・・・・・すまないね・・」
「九龍を離せ!」
お父さんの声に一瞬意識が剃れたとたん、バングルをはずされて地面に落とされた。
「なに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!?」
え・・・・・。
雨が腕に落ちて。
濡れていく。
急にヤケドをしたような熱さが・・・・・・・・・・ッ・・痛い・・・ッ!

「・・・・あ・・・・ぃ・・・・・・ッ!!!」

イタイイタイイタイイタイイタイッッ!!!!!

「い・・・ッ、いやあぁぁぁーーッ!!!!」

目の前に黒い大きな《何か》が見えた。ソレがこっちに手を伸ばしてくる・・ッ!
「さ・・・・さわ・・ら・・・・ないで・・・ッ!」
さわらないで!こっちこないで!
たすけて・・・。
イタイよ!
動けない、逃げれない!

《ヒホウハ・・・ワレラノ・・モノ》

たすけて・・。
熱い・・・アツイ・・・!
熱くて、すごく、痛い!!
たすけて!!!
たすけて・・・・!

「あ・・・・・・ぁあぁ・・・・・・イヤーーーッ!!!!!!!」




誰かの、叫ぶ声が最後に聞こえた。



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