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叔父さんと僕(九龍編)
第3部・その10

「小五郎・・・・行けるか?」

お父さんの声に、眼を開けた。
「あぁ・・・・・ここから出るまでは耐えてやるよ・・・。調査は終わったのか?」
「あぁ・・・・・」
お父さんもどこか重い声だった。どうしたのかな・・・?
「兄貴・・・九龍を頼んだぜ」
叔父さんのその言葉に、悲しさが溢れてくる。
そっか・・・叔父さんと一緒に家に帰れなくなったんだよね・・。
・・・離れたくないよ・・・。
「言われなくても、だな・・・。九龍は俺の息子だ!お前のじゃない!」
「俺の、だよな〜?九龍ちゃーん?」
「・・・・うん・・・おじさんのでいい・・・」
何でもするから・・・呪い早く解いて、帰ってきてね・・・。
ここから出たら傍に居られないのかな・・?
「くろうーーっ!」
ごめんね、お父さん。
でも叔父さんと居たいから・・・。
離れたくない。
離れたくない。
ずっと一緒に居たい!
「嬉しいぞッ!九龍・・・・」
ひょいと、抱え上げられて慌てる。
「叔父さん・・・下ろして・・」
「だぁめだ!途中まではこのまま行かせてくれ」
「・・・・だって、呪いが・・・」
まわっちゃうかもしれないじゃないか・・・。
「・・・・約束したように、俺は自力で呪いをぶち破って必ずお前の元へ行くからな・・・?」
「・・・っく・・・」
「泣かないでくれ・・・笑ってくれ。お前の笑顔が、俺に力を与えるんだ・・」
泣きたくないけど・・・涙が出てきちゃうんだよ・・。
本当に、その言葉信じてていい?絶対だからね?

ぎぃぃぃと扉を開けてお父さんが先に行く。

《・・・・・・・・・・・・オマエガフタタビコノチニモドルノヲ・・・》

え・・・・?

《・・・・・・マッテイル・・・》

何か聞こえた気がした・・。
気のせい、かな・・・・?
扉がしまる前に振り向いたけど、誰も居なかった。


(・・・・・・・俺にも聞こえた・・・まさか・・・まだ・・・鬼さん、生きてる・・・?)


「・・・・・・・鍵がかかった、な・・・」
「おかしいな・・・開かない」
通路に3人出たとたん、背後で音がして鍵がかかった。
お父さんが調べているけど、鍵がかかったまま開かないらしい。
叔父さんがそっちに近づくと、右腕が熱くなる。
「・・・・・・・ッ・・」
何だろう、腕凄く痛くて熱い。皮膚が焦げてる感じ。
「九龍ッ!?どうした!」
「あつ・・・・い・・・」
叔父さんが何かに気づいたように、慌てて扉から離れた。
「・・・・あれ・・?熱くない・・」
「九龍・・・・」
「・・・・・・・・」
お父さんと叔父さんは、向き合って難しい顔をした。
どうしたのかな・・・不安。
「おじさん・・・?」
呼びかけると、叔父さんは一瞬だけ、とても辛そうな顔をした。
「ん?なんだ?」
――どうして・・?
「・・・・どうかしたの?」
何か、あるんだ・・・きっと。でも何が?どうして俺を見てそんな辛そうにしたの?
聞こうとして聞けなかった。
叔父さんはもう笑みを浮かべてて、なんでもないようにしてる・・。
「・・・・右腕がいたいのか?」
「えっ?痛くないけど、熱かっただけ・・今は大丈夫」
大丈夫なのに、右手を掴まれて袖を引き上げられた。
怪我とかしてないよ・・・熱かったけど今はもう大丈夫だし。
「どの辺が熱かったんだ?焼けどとかじゃねぇよなぁ・・・?」
しげしげと眺めて診ている叔父さんの旋をみてた。

いかないで・・。

また泣きつきたくなって我慢する。
「バングルの下あたりかなぁ・・・・でもヤケドとかしてないよ?」
「お前に何かあったら、俺はおちおち寝てられねぇよ」
「・・・・・じゃぁ・・・何かやろうかな・・」
何をするって、言うんだよ・・。
「お、おいっ!」
「・・・・・叔父さんが呪いで寝ちゃわないように・・・できるなら・・何でもするんだけどなぁ・・」
何も出来ないくせに。
助けたいのに、助けたいのに・・・・・・どうすればいいのかな・・・。
「やめろ!いいか!?約束は忘れるなよ!」
「うん・・・叔父さんも、ちゃんと守ってね・・?待ってるから」
「・・・・・・あぁ・・・」
どうすればいいんだろう。
呪いはどうして解けないのかな・・?何かあるんだ、きっと・・・何か・・。
そうだ・・秘宝!西にあるっていう秘宝!
でも鬼さんが言ってた鍵がない。秘文ってのがない・・・。
どうしたらいいんだろう・・。
約束は叔父さんが守るなら守るけど。
・・・・・・・・でも・・・・いつ解けるの?絶対に解くって言うけど・・・・本当・・?
あぁ・・・だめだよ・・もうわけが、わからなくなってきた。

助けたい、そのために何でもしたい。

でもできない。約束だから。

泣くしか出来ない自分がすごくいやだった。

「何ともないようだな・・・良いか?これはお前の身を守るお守りだからな?ちゃんといつも付けておけよ?」
「はい」
「んじゃ、脱出しますか、兄貴後ろ頼んだぜ」
「あぁ・・・」
「九龍、ほれ、手を出せ」
「うん・・・」
「ここは一緒に歩いて出るぞ?歩けるな?」
「はい・・・」
叔父さんの手に手を置くと、ぎゅうって握り締めてくれた。
驚くくらい、冷たくなってて、ビックリする。
もう、時間が、ない・・・・。

歩き出して少しして、叔父さんが俺を庇って怪我をした場所に来た。
血の後が地面に残ってて、叔父さんの背中に刺さってた矢が落ちていた。
「ここ・・・いや・・・・・・こわい・・」
握ってる手に力を込めて、引っ張った。
行って欲しくない・・・また罠があったら・・・叔父さんは・・。
でも叔父さんは立ち止まらないでスタスタと血の後が残ってるところまで俺を連れていって頭を撫でてくれた。
「ここは格好いい叔父さんが愛する九龍ちゃんを守った場所記念地だ!写真撮っとくか?」
「へ・・・?」
しゃ、写真・・・・?
記念地?
「俺にとっては、誇れる場所だ・・・お前を守れたからな」
叔父さんって・・・叔父さんって、変。
だって怪我して呪いまでかかった場所を、記念だからって写真撮ろうとか、ふつーは言わないよ?
血だって、まだ残ってるくらいドバーッだったのに・・・。
でも・・・どうしてかな・・。震えが止まって、もう怖くなくなってる。
「・・・・まぁもう一つ記念すべき理由はあるんだが・・・」
「え?」
もう一つ?何かあったっけ・・・?
「叔父さんだけの秘密です」
「・・・?」
そう言うと、俺を見てすごく嬉しそうに優しい眼をして笑うから。
急いで眼をそらした。
顔が赤くなっていくのがわかる・・・うー・・だって恥ずかしい・・。
背中がむずむずしてくる。まともに叔父さんの顔を見ていられない。
いたた・・・・・えっと・・・いたたまりない?ってこんな感じだと思う。

「いいかげんにしないか?」

あ、お父さん!
叔父さんは固まったけど、お父さんはこっちを見て苦笑いを浮かべた。
「さっさと進め」
「いぇーっさぁ・・・」
降参って言うようにあげてた手を下ろして叔父さんが何かに気づいたみたいに俺を見た。
「九龍・・・そう言えばちゃんと言ってなかったな」
「な、なに・・?」
急に目の前にしゃがまれて眼を合わせる。
なんだろう・・・凄く真剣。
「良いか?本当は5時間くらいみっちり説教をしたいところなんだが」
「お説教・・?」
首を傾げる。お説教をされるようなこと、したっけ・・?
「そうだ!全部あげる発言について、だ!」
「え・・・」
な、なんでそれ知ってるの!?
だって、それ・・・口に出してない!
鬼さんしか知らないはずだよ!?
「良いか?九龍・・・・そんな言葉をうかうか口にするもんじゃないぞ!?」
「な、なんで・・・」
「叔父さんはお前のことなら隅から隅まで知っている!」
「え、それなんか・・・・・・・・・・・ヤダ」
口にしてないことまで知ってるなんて・・どうしてー?なんでー?叔父さんって超能力者?
どこまで知ってるんだろう・・・。
あ、なんか、すごく恥ずかしい。
「ヤダじゃない!良いか?そんなことを簡単に言ってるとな?痛い目にあっちゃうんだからな!?」
痛い目・・・?叔父さんの眼はとても真剣で、怖くなる。
肩に手を置かれてるから逃げられない。
・・・・あの時は・・・それしかなかったんだよ・・。
「・・・・・だって・・・・・・全部あげたって良いって思ったんだ・・・」
叔父さんを見つめ返して、叔父さんに抱きついた。
「お、おぃ?」
ごめんね、叔父さん・・・見ながら話せないんだ・・。
「今だってそんな風に思っちゃう気持ちもあるんだ・・」
「九龍・・なぁ・・・約束を忘れるなよ?」
「・・・うん」
「いいか?忘れるなよ?絶対に・・」
わかってるよ・・・わかってる・・・守る・・・守りたい。
不安が押し寄せてきて、溜まらなくなって、しがみ付いた。

叔父さんとの約束を破っちゃうことになっても。
叔父さんに嫌われちゃっても。
助ける方法があったら・・・・・きっと・・・・。

ダメ、ダメ・・・ッ!約束は約束だもん・・・破るのはダメだ・・。

「あぁ心配だ・・・俺が傍に居てやれれば良いんだけどな・・」

わかってるよ、わかってる!でも・・・。

・・・・もう、ぐちゃぐちゃで、わからなくなってくる。

「九龍・・・・?」
叔父さんから離れて、走り出す。
「待てッ!九龍!」
叔父さんと、お父さんが追いかけてくるけど、走って走って扉を開けて、広場に出た。
どうして逃げてるのかとか、そんなのわからない。
叔父さんを見ていると、混乱してわからなくなってきて。
もうぐちゃぐちゃで。
そこから逃げ出したくて・・・・。
「ここ・・・・・」
扉を閉めて、顔を上げて広間を見た。
骨とさいだんがある部屋。
叔父さんと、約束した部屋。
『置いていかない』って約束した部屋。

「ウソばっかり・・・ッ!」
置いていこうとしてるじゃないか!
「どこにもいかないって、いったのに・・」
うそばっかり!
うそばっかり!
うそばっかり!!
「もう・・・・・いやだよ・・・・こんなのいやだよ・・・」
どうしたらいいの?
叔父さんを助けたいのに、何の手段もない。
冷たい水の張った通路に足を落した。
すごく冷たい。
こんな冷たい水の中を、俺を抱えて移動したんだ・・・濡らしたくないって言って。
ほら、叔父さんの方こそ、自分のこと考えてないじゃないか!
俺を守るために、自分を犠牲にしてるじゃないか!
いつもいつもいつもいつも!
全部あげても良いんだ。差し出せるものならなんでもあげる。
いらない、俺なんか・・・いらない!
力のない無力な自分なんて、いらない!
「九龍!!」
ぐいっと身体を背後に引かれて、倒れこんだ。
誰かの上に、倒れこんで、ぎゅうって痛いくらいに締め付けられる。
「九龍ッ・・・・・・・九龍・・・・、また何か、聞こえたのか!?」
「きこえない」
きこえない。ききたくないよ。
だって、叔父さん・・・・。
「聞こえない・・・・叔父さんの、最後の言葉なんて、きこえない」
「九龍!?」
「気づいてないでしょ・・・ずっと、最後のお別れみたいなことばかり言ってるよ」
「・・・・・ッ」
「最後の言葉なんて、いらない」
「九龍・・・・・」
「置いていかないって、言ったのに・・・置いていくんでしょ?」
ぐいっと叔父さんにしては珍しく乱暴な感じで、叔父さんの右肩に顔を押し付けられた。
「必ず、戻る・・・ッ!信じてくれ・・」
「・・・・・・・・い・・・・・・・・・つまで・・?」
いつまで?いつまで待てば、戻ってくるの・・・?
絶対?
必ず?
「九龍・・・」
なにをしんじたらいいの?
自力で解くことを?
解ける・・・・・?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いかないで・・・」
行かないで・・・・。
待つことしか出来ないなんて、辛いよ。
「いかないで・・・・いかないでよ!置いていかないで!」
「九龍・・・」
「こわ・・・いよ・・・・、いつまで?いつまでまつの・・?ぜったいとける・・?こわい・・・・とけなかったら・・・どうしよう・・・とか」
包帯を片手でとった。なみだでごわごわして邪魔だから。
叔父さんを見たいから。
眼を開けたけど、涙で叔父さんが曇って見えない。
もういや、泣くしか出来ない。
どうすればいいんだろう・・・助けたいのに。
叔父さんの胸をどんって叩いた。
「まつ・・・よ・・いくらだって・・・ずっと・・・まつよ!だけど!」
待つしか出来ないなんて、辛い。
助けたいのに、見ているだけなんて・・・。
「・・・・おじさ・・・・んを・・・たすけ・・・っく・・・・もう、わかん・・ない・・・」
「・・・・九龍、ありがとな?」
ぎゅうって腕の中で抱きしめられて、苦しくなる。
「ごめんな・・・お前を置いていきたくないんだ、俺だって・・」
お前と別れたくないんだ、って囁かれて、眼を見開いた。
・・・・・叔父さん、泣いてる・・・。
「何時までかは、おれにも・・・わからねぇ・・・」
叔父さん・・・。
「自力で解けるかどうかも、正直わからねぇ」
いつも、自信たっぷりで、弱音なんて絶対俺には言ってくれなかった叔父さんが・・・。
「なさけねぇが・・・俺も不安なんだ」
泣いて弱音・・・しゃべってる・・。
「お前を置いていくことも、辛い。お前を見れないのが、苦しい」
叔父さんも・・・・叔父さんも、怖かったんだ・・・。
「これからどんな男になっていくんだろうな・・・傍でお前の成長を見守りたいんだ・・・俺は・・・それが楽しみなんだ」
そうだね・・・ずっと見守っててくれたよね・・・。
叔父さんが見ててくれたから、頑張れたんだ・・・。
「・・・・・・こんなクソ呪いにかかった自分が心底憎い」
見上げた叔父さんは、俺のほうを見て、少し笑った。
「九龍、お前と離れ離れになるのが、一番辛い」
「叔父さん・・・・」
「九龍、頼む・・・生きてくれ。俺は、必ず、お前の元へ帰る」
「・・・・叔父さんも・・・・絶対、帰ってきてね・・・」
帰ってきたら『お帰り』って言うから・・・。
「お前が俺の帰る場所だ・・」
「うん・・・」
目を閉じて、叔父さんの胸に顔を押し付けた。
髪の毛を優しい手つきで梳いてくれる。
叔父さんの身体は、どんどん冷たくなっていってて、怖くて泣いた。


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