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叔父さんと僕(九龍編)
第3部・その4

夢の中の自分は止まらない。フラフラと言葉に誘われるままに、進む。
ダメだ、行っちゃダメだ!なんでこの夢は覚めないんだろう?いやだ、もう見たくないのに・・・・。
扉を開け、通路に出る。
ゆっくりと歩く自分は、止まらない。
意識はもうない。ただ、「おいで・・おいで・・」と呼び寄せてくる不気味な声だけが、今も聞こえる。
いやだいやだいやだいやだ、お願い・・・やめてッ!
なんで覚めない・・・ッ!?もう・・・もう・・・見たくないよッ!
思い出そうとしても靄かかって、よく思い出せないのに。
思い出そうとすると、頭痛だってしてたのに・・・。
どうしてこんなにも鮮やかに思い出してるんだろう!?

いやだよ・・・。

お願い、覚めて。

見たくないよ・・・。



フラフラと、夢心地で歩いた。長い長い通路は、緩い下り坂になっていた。
頭の中で響く声に言われるまま、進む。
(やめて・・・ッ)
ぼんやりと意識の片隅で、どうして歩いてるんだろう・・・とか、待っていなきゃいけなかったのに・・・とか思うけれど、足は止まらない。
一歩一歩ゆったりと、進む。
どうしてここに・・・・いるのかな・・・。
(いやだ・・いや・・・・・・・ッ)

《そなたの・・・魂は・・・うまそうだ》

たましい・・・?
このこえは、だれの・・・こえ・・・?

「来るなーーーーーーーーーッッッッ!!!!!」

その声に瞬間、我に返る。ビクンと身体が跳ねて、眼を開けた。
ここ、どこ・・?
正面から走ってくるのは・・・叔父さん!?
「・・・お・・」
「九龍ッッ!!あぶねぇ!」
叔父さん、と呼びかけようとしたとき、頭の上から何か落ちてきた。咄嗟に身体を退いたけど、左目を掠った。
「――ッ!」
痛い・・・よりも熱いッ!左目を押さえた手に、どろりとした感触。
血、だ・・・。

《なんと美しい血だ・・・あぁ・・・さぁ・・・おいで》

響き渡る声と、眼の痛みに、混乱してそこに座りこんだ。
イタイ・・・でも・・・いかなくちゃ・・・・。
でも・・・どこへ・・・?

《コイ!》

コワイッ!わかんないわかんない。
目が痛い。コワイ。混乱。どうしようどうしようッッ!
怖いよ、怖いよッッ!叔父さん叔父さんおじさんおじさんッ!

《コイ!》

いやだ・・・いやだいやだッ!こわいっ!
「助けて・・・おじさん・・・」
目が痛くて見えないけど、叔父さんが来ているほうに手を伸ばした。

(いやだ・・・・もうみたくないのにッッ)

「くろーーーーーッ!」

叔父さんの声に顔を上げると、飛びこんできた叔父さんに抱きこまれて、茫然とする。
叔父さんの背中に。
矢が。
突き刺さった。
「――ッく・・・ッ!」
「あ・・・・・ぁ・・・・・」
え・・・・・・・?
叔父さん・・・・?眼を開けて見ると、叔父さんの背中に矢が突き刺さっているのが見えた。
ウソ・・・。
「・・・九龍・・・九龍ッ!大丈夫か・・・!」
「お・・・じさん・・」
ガチガチと音がする。全身が震えてとまらない。
おれを、かばって・・・?

『作動音を確認、移動してください』

(いやだよ・・・・・こんな夢・・・・みたくないのに!)

叔父さんが、背中を撫でてくれた。
「おじさ・・・・・」
「九龍・・・目は・・・」
いまの・・・・・なに・・?
『移動してください』
ささった・・・・?
「俺は大丈夫だ・・・。頼む、立ってくれ・・」
力が入らない身体を、叔父さんが支えてくれた。
「九龍、頼む・・・歩いてくれ・・ゆっくりでいい、慌てなくて良い・・一歩ずつ・・・」
言われるままに足を踏み出す。
震えが止まらない身体には、力がはいらなくて。
急がなきゃと思うのに、うまく歩けない。
「大丈夫だ、俺が居るだろ・・・?」
矢が・・・。
「・・・・・くそっ・・・まわりが早過ぎる・・・」
矢が・・・おじさんのせなか・・・真っ赤・・。
(ごめんなさい・・)
「九龍、九龍、頼むがんばってくれ」
血が・・・・ッ!
(ごめんな・・さい・・)

《助けてやろうか?》

たすけ・・・?

《助けてやるぞ・・・?》

たすかる・・・・・・・?

(やめろっ!!もう、もう・・・判ってるから・・・・俺のせいだって・・・わかってるから・・・)

《その男を助けたいのなら、振り払ってこちらへ来るんだ》

たすけてください おじさんが しんじゃう!

(・・・・・・・・おねがい・・・・・・・・・もうやめて・・・)

「いかなきゃ・・・」
「九龍ッッ!!!」
叔父さんを振り払って、声のほうへ歩き出す。
「たすけるよ・・・」
「ばかッッ!何言ってるッ!」
叔父さんにぎゅうっと抱きしめられて、先へすすめなくなる。
どうして・・・?
「どうして・・・じゃま、するの・・?」
「九龍ッ!」
「たすけてくれるって・・・」
「行くな!」
ぎゅうっと抱きしめられたまま、座りこまされた。
左目がみえない。
おじさんがみえない。
あなたは だれ?
「おじさん・・・どこ・・・?あっち・・・?」
「おいッ!」
「いかなきゃ・・・たすかるって・・・」

《おいで》

「よんでる・・」

「九龍ッッ!!!」
バシッ!と音がして。頬を押さえる。
イタイ・・・?
「九龍、九龍・・・頼む、俺を見てくれ」
だれか・・・泣いてる・・。
「行くな。行かないでくれ・・・頼む・・」
涙が、顔に落ちてくる。
誰の・・・涙・・・?
「俺を見ろ・・・ッ!」
「お・・・じさ・・・・・」
叔父さん。やっと見えた。ボロボロと雫が顔に落ちてくる。
「・・・・俺がわかるか?」
「・・・・おじ・・・さん・・」
「いいか?声が聞こえても、俺以外の声には耳を貸すな!」
「・・・・あっ・・・ち、血が・・」
「大丈夫だ・・・俺は大丈夫だ」
叔父さんの涙が、また一滴落ちてきた。
それでも、すごく安心したように、笑ってくれる・・。
「あ・・・ぁ・・・・・お、おれ・・・どうして・・・」
どうしてここにいるか、わからない・・・言葉にならない。
「こ・・・声が・・・聞こえて・・それで」
それで・・・・どうした・・?
わからない。
混乱して叔父さんを見上げると大丈夫だと囁かれる。
優しく笑いかけてくれると、叔父さんは矢を乱暴に引き抜いた。
「あ、あぁ・・・ッ・・・・く・・・・いてぇー」
血がボトボトと足元に落ちる。その赤にめまいがする・・。

《おいで・・・》

「おじさん・・・ッ!」
「あぁ、大丈夫だ。たいしたことないぞ?鼻血ででるよりはマシだ!」
どうしよう?
こわい。
「九龍、大丈夫だ。落ち着け?な?」
叔父さんにしがみつくと、抱き返してくれた。
暖かい・・・。
「ちょっと、これで目を押さえておけ・・・」
上着を渡されて、袖口で眼を止血するように言われて、言うとおりにすると。
ぐるりと頭全体を上着で巻かれる。
「・・・・おじさん・・・?」
「九龍・・・・ちょっとすまねぇな」
「え・・・?な、なに?」
身体を押されて、床に倒される。
優しい動作で、頭を叔父さんの胸に押し付けられる。
叔父さんの心臓の音がする。
暖かいそれに逆に不安になる。見えない暗闇が怖い。
何かあるんだ・・。
霧みたいなのが・・・出てた・・。
それは何・・・・?
もしかして・・・?
悪い予感に震える。
「や・・・ヤッ!なに?何かあるんでしょ!?やめて!」
「勘が・・・いいな?お前はハンターになれる素質はあるぞ・・・自信・・もて・・な?」
「や・・・やだよ・・・やだよ!」
「九龍・・・・大丈夫だ・・」
どんどん叔父さんの喋りが、おかしくなっていく。
放して!お願いだから・・・・庇わないで!
「ダメ!やめて・・・・いやだよッ!」
「愛してるからな?」
そんな言葉、いらない。
「九龍。お前を愛してる」
だから、お願いだよ・・・はなしてよ・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・いやーっ」
思いっきり暴れても、押さえ込まれてしまう。
どうして・・・どうして・・・こんなの・・・ッ!

(望んでない!どうして・・・ッ叔父さんが・・・犠牲にならなきゃならないんだよ・・・俺なんか、いらないのに・・・ッ)

「好きだからな・・・?」

(やめて・・・こんなの・・・いやだ・・あなたが・・・犠牲になんてならなくて・・・よかったのに・・)

「・・・・・・・・・っく・・」
涙があふれて止まらない。
お願い誰か。
助けてください。
「・・・・・・・・・・・」
「お・・・じさん・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・」
「いやだよ・・・?おじさん!」
「・・・・・・・」
呼びかけるけど、返事がない。
へんじが・・・・・ない。
「イヤ・・・・・イヤ・・・・・ッ!おじさんっ!おじさんっ!ね・・・ねぇ!」
いやだよ、いやだよ・・・・いかないで・・・ッ!
心臓は動いているのに。
荒い呼吸の音だって、聞こえてるのに。
へんじがない・・。
暖かいのに・・・どうして・・・・?
「なにか・・・いって!おねがい・・・だから・・・ッ」
おれのせいで・・。
おじさんが・・・・?

「いや・・・・・・イヤだ・・ッ!たす・・・けて・・・・ッ!!」



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