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叔父さんと僕(九龍編)
第3部・その8

「・・・・・九龍・・・あいつが寝ているときにシテ・・シテシテシタタタタ・・・・したことって・・」
振り向くとお父さんが、汗をだらだらと流しながら真剣な顔で聞いてきた。
「え・・・・・えっと・・」
恥ずかしいんだけどなぁ・・・言わなきゃだめ?
でもあれって、「ちゅー」って叔父さんは言うけど、「キス」って言うんだよね・・?
「・・・き、キスしちゃった」
あぁでも「ちゅー」の方が言いやすいなぁ・・。
これだとなんだか、ものすごく恥ずかしい・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・九龍、お父さんと一緒にいますぐここを出て、エジプトに行こう!」
「えぇ・・・・・!?叔父さんと家に帰る約束してるし・・」
「ダメだ!小五郎とはバイバイしなさい!」
バイバイってお父さん・・・?お父さんが少し変だけど・・?
「叔父さんと離れたくないよ・・」
「お前はッ!25も年上のおっさんと妙な道に進むつもりか!?」
「みょうなみち?」
それって、どんな道・・・?
「良いか?叔父さんは、叔父なんだぞ!?お父さんの、弟だ!」
「うん、知ってるけど」
今そんなこと話すより、叔父さんが心配なんだけど・・。
銃声はしてるから、戦ってるんだろうけど・・。大丈夫かなァ・・。
「こらっ!余所見しない!いいか・・・?大事なことなんだぞ!?」
そんなこといっても!叔父さん、本調子じゃないんじゃないかな・・・?
さっき助けてくれたとき、たったあれだけの動作で息が切れてた・・・。
「叔父さんの方が大事だから」
「・・・・・・・ッ!」
「どんな道でもいい。叔父さんとずっと一緒に居たい。傍に居たい・・離れたくないんだ」
いつまで一緒に居られるか判らないけど。
「九龍・・・お前はそんな・・・道を・・・選ぶのか・・・」
そんな道ってどんな道・・?わかんないよ?
でもとりあえず、謝ってろう。叔父さんを・・・見ていたい。
「ごめんなさい、お父さん」
「・・・・・ダメだ・・・やはり許せない」
「どうして!?」
「どうしてだと・・・ッ!?なんで大事な可愛い可愛い息子を、可愛くもない熊のようなむさ苦しくて暑苦しいオヤジにやらねばならんのだ!」
「お父さん・・・それ言いすぎ。叔父さんは確かに熊だけど・・・・でも時々どら猫みたいで・・・・か・・」
「か・・・?」
可愛いとか言えない・・・ッ!うー・・・ええっと・・。
「カッコイイ・・・し・・」
「どら猫がか?」
「うん・・・・」
なんか、ごろごろと喉鳴らしてなついてくる猫みたいで、可愛いかなって思う。
「・・・いいか?九龍。お前をあんなのに嫁になど出したくないんだ」
あんなの?って叔父さんのことかな・・。
そ、それよりも・・。
「よ、よめ・・・って・・・?なんで俺がお嫁に行くの?俺男だよ・・・?お父さん忘れてない?」
時々間違われるけど、男だよ、俺。何年かしたら、髭ボーボーで筋肉ムキムキになるんだから・・・・ってあれ?
えーと・・あれ?もしかして、叔父さんって女の人だとか・・・?
えーでもお風呂一緒に入ったことあるしなぁ・・・最近は全然一緒に入ってないんだけど・・・随分前だからよく覚えてないし。覚えてるの胸毛だけだなぁ・・・カミソリで剃っちゃおうとしてザクッと切っちゃったとか・・あの時は大変だったんだよなぁ・・お湯まで真っ赤になっちゃって。
でも・・女の人だったら、叔母さんなんだよね?
・・・・・・どうしよう・・・叔父さんなんて言われたらショックだよね・・・時々「うッ!」とか言って俯いたり、違うとこへ顔向けたりとかするのって・・泣いてた・・のかな・・・?
ど、どうしよう!?傷つけちゃってた・・とか!?
考えたらおじ・・・・じゃない、叔母さん、可愛いものとか意外と好きだし、ウサギの可愛い絵のついたお皿とか買いまくってたし。
エプロンだってフリフリフワフワが好きだしさぁ・・。
園芸とかも好きなんだよね、お花が好きみたい・・。料理だってすごく上手だし。
可愛い服とか好きだしさぁ・・俺に着せてくるのは止めて欲しいけど・・・。
そうかー・・・・叔母さんって呼んであげよう、今度から。
でも・・・、あんなに髭の生えた女の人っているのかな?
いやいやいや・・・でも、そーゆーの気にしちゃうって言うし。うん。言わないようにしなきゃ・・。
「・・・お前は男だ・・・だから嫁にはいけないんだ!可愛い女の子を将来お嫁さんにもらうんだぞ!?」
え?あ・・・え?お父さん、ごめんなさい!聞いてなかった。
えっと・・お嫁にいけないとか、お嫁さんに貰え〜とか聞こえたような・・・?
叔母さん、俺を育てたりとかしたから・・・もしかして・・・お嫁に行けなかったのかなぁ・・・?
結構女の人にもて・・・・あれ?あれはもしかして相談してたとかなのかな?それとも、女の人に変装した男の人とか・・・?
それにしても。お嫁に・・行けないって・・。
女の人の夢なんだよね?お嫁さんになるの。小学校の卒業アルバムの「私の夢僕の夢」に同級生の・・・・ちょっと・・可愛いかなーとか・・・思ってた子の夢がそれだったから覚えてるんだけど。
あぁ、恥ずかしいッ・・・ちょ、ちょっと気になってただけだから・・うん!
顔が赤くなって、手で押さえる。うー見ないで〜ッ!
お父さんがじぃ〜っと見てるのがイヤだ・・。
「九龍・・お前泣くほど・・・好きなのか・・・?」
へ?泣く・・?あ、恥ずかしさのあまりに涙が・・。もー涙もろくてイヤだなぁ・・。
「九龍・・・・」
お父さんがどこか痛そうに眼を細めた。具合悪いのかな・・?
あ、叔母さん・・・えっとお父さんの妹だもんね!気になってるのかな・・・?
大丈夫だよ、お父さん。安心してね?
「俺好きだから・・、だから・・結婚式とか・・やっても平気だから・・・」
結婚で良いかなァ・・・?いいよね?
叔母さんがイヤじゃなければだけど。お嫁さんにもらうってよくわからないけど。だって考えたことないし・・。そりゃ・・・その・・気になってた女の子のこと意識kっていうの?したり・・したけど、さすがにそこまで考えたことないし。うん。
結婚式もTVでしか見たことないから知らないけど。どうにかなると思うし・・。
「九龍ッッ!!!ダメだダメだダメだー!!!お父さんは許しません!」
「えー・・・?どうして・・・?」
お父さんが言ったのに!
「どうしてもだ!!あ、あんなのと、けけけけけけ・・・・・けっこんだと!?」
「叔母さんのこと悪く言っちゃダメだよ!」
「は・・・・・・?」
「女の人はでりけーとなんだって!叔母さんが言ってたよ!」
だから女の人には親切にしなさいって・・あれは、きっと・・叔母さんのことを言ってたのかな・・?
ごめんなさい・・熊とか言っちゃって。おっさん、とかも言ってたよ・・そういえば!
「おば・・・・さん?」
お父さん、どうしたの?なんで、そんな、ハニワみたいな顔してるの・・?
目も口もポカーーンと開けちゃって、あはは、間抜けだ〜!面白いなぁ。
「九龍・・おばさんとは・・だれのことだ・・・?」
え、お父さん・・もうボケちゃった・・・?
あぁ・・早くハンターにならなきゃ・・お父さんも叔母さんもちゃんとしっかり面倒みるからね!?
「九龍・・・・だれのことなんだ・・?」
そのうち、『夕ご飯はまだかね?』とか言い出しそうだよ・・お父さん、しっかりしてー!
「お父さん、しっかりしてよ?叔母さんは・・・」
横を向いて、叔母さんの姿を探した。あ、居た!良かった怪我とかしてない・・・。
鬼さんと何か話してるけど、何してるのかな・・?
とりあえず叔母さんを指差して、お父さんのほうを向いていった。

「小五郎叔母さんのことだよ!」

ゴトッ!ガシャ!バタッ!と、お父さんと、叔母さんの方から聞こえた・・・。
目の前のお父さんは、ハニワ顔のまま、H.A.N.Tと銃を膝の上に落として痛そう。H.A.N.Tの真上に銃が落ちたけど、壊れてないよね・・?大丈夫・・?
あ、そういえば、叔母さんの方からも凄い音がしたけど・・・。
そっちを見ると、すごく驚いた。
「叔母さん!叔母さん・・・大丈夫!?」
叔母さんは倒れてた。大の字に。そんな、さっきまで全然元気だったのに!
駆け寄ろうとすると、お父さんがしっかり手を掴んでるから行けない。
「お父さん、離して!叔母さんが・・ッ!」
どうしたんだろう?ピクピクと動いてるから・・・大丈夫と思うけど。
「おば・・・・・・」
遠くで、叔母さんが呟く声がしてそっちを見た。
「叔母さん、鬼さんが・・・・、鬼さんー!叔母さんに何かしたら許さないよッ!」
叔母さんの近くに鬼さんが居るから、怖くなる。だって、あのでっかい武器で、えいってやられたら・・・ま、真っ二つになりそうだよ・・・!?

《お・・・・おばさん・・・・・誰のことだ・・》

あれ?鬼さんなんで笑うの?ちょ、ちょっと!なんか腹が立つよ!
でもこっちに気が向いたから良いのかな?お父さん戦えなさそうだけど、ど・・どうにかなるよね・・?銃落ちてるし、撃つくらいは出来るし・・。
「叔母さんは叔母さんだよ!け、怪我とかさせないっ!」

《・・・なんとッ!この下品下劣な下等な男が・・・女だと!?》

「もー!そんなこと言ったらダメ!」

《お主が女童というのならわかるが・・・》

「めわらわ・・・?なにそれ・・・?」

《愛い愛いと言われておったが・・・なるほど・・・》

鬼さんが何か納得したように頷くと、こちらへ向きを変えて近づいてきた。
座っているから余計に大きく見える。
目がイヤだ。食べられるってのを知ってるからかな・・・、ご馳走を前にした犬みたいで、イヤだー!
来ないで、と言おうとしたら誰かが目の前に滑り込んできた。
「お・・・おいおい、俺を無視するなよ!」
おじ・・・・じゃない、叔母さんが俺と鬼さんの間に立っていた。
「叔母さん!大丈夫なの?」
「・・・・・・・・・・・・九龍・・・・もうやめてー死ぬ!」
「死ぬッ!?お、叔母さん、しっかりして!」
「叔母さん言うなー!!!」
銃を構えたまま悲鳴みたいに声をあげた叔母さんに驚いた。
そうか・・そうだよね・・女の人だもの、「おばさん」とか言われたくないよね?
「お、おねーさん・・・でいい?それとも小五郎さんが良いかなァ・・・?」
「・・・・九龍・・・あのな・・・?小五郎さんには惹かれるが、おねーさんってなんだ・・・おいッ!」
「だって、お父さんが・・・おば・・・ええっと・・・小五郎さんは、女の人って言うから・・」
小五郎さんって言い方、何でかなァ・・・照れてしまう・・。
そんなことを思ってたら、背後からにゅっと手が脇の下から生えてきてびっくりしている内に、背後に引き寄せられた。
「わッ!び、びっくりするじゃないか、お父さん!」
「・・・・九龍、お父さんは一度もあんなのが女だとかは言ってないぞ・・・ッ!?」
わっ!耳元で大声で言わないで〜!耳が痛い・・・ってあれ・・?声止んでる・・・。
お父さんと、こご・・・うーん・・・・叔父さんが近くに居ると、完全に聞こえなくなる・・。
どうしてかなぁ・・・?
それより、女の人じゃないの?やっぱり・・・?
「・・・違うの?」
「当たり前だ!!お父さんの弟だと言ってただろうが!九龍・・・・・・ここを出たら、お父さんと勉強しような・・?」
なんでお父さんそんな悲しそうな眼で見るんだよ・・バカとか思ってない?酷いよー!
「九龍・・おい、九龍ちゃん!」
叔母さんじゃなくておねーさんでもなくて、小五郎さん・・・・は恥ずかしいから言いたくないから・・・いつも通り、叔父さんって呼ぼう!言いなれた叔父さんがやっぱ好きだなぁ。
「なぁに?叔父さん」
「・・・・・叔父さんをちゃんと見といてね?見てないと泣くからな?」
「え、やっぱり・・・叔母さん!?」
「何故そーなる!お前はどこまでボケボケなんだー!」
「なッ!叔父さんより若いよ!まだボケたりしないもん!」
そう言うと叔父さんは妙に脱力して、俺の頭を撫でてくれた。
「兄貴・・・この子頼んだぞー・・・」
「お前はさっさとあいつを倒せ!」
「へいへい。んじゃ、こっからは本気で行くぞ?悪代官」

《面白い。血祭りにしてやろう》

「九龍、俺は男だからな!?今度一緒に風呂に入って・・・・・」
「死ねぇ!!!」
「うぉぉぉぉっ!あぶっ!あぶねー!何しやがるクソ兄貴!」
「鬼もお前も俺が倒す!」
「ば、ばか・・ちょっとした冗談だって・・・な?お兄様?」
うーん・・・?なんでお父さん怒ってるのかな・・・?
わかんない。でも何か楽しそう・・・でもお父さん、いくら叔父さんでもそんな近くで銃を撃たれたら避けれないと思うよ?
「は、はははは・・・・さぁ鬼〜覚悟しろー」
カクカクとした強張った動きで叔父さん走って行っちゃった。
見送って、いつのまにかに真横に居たお父さんを見上げた。
「お父さん、危ないから銃とかダメだよ?」
「あぁ・・・まぁ当たっても、それはそれで・・・」
「へ?」
「いや・・・それより・・・九龍」
「どうしたの?」
「・・・・正直に言ってくれ・・・・これからまず、聞くべきだったのだ・・・お前は天然だからな・・」
「うん?」
天然ってなに?記念物のこと?
首を傾げると両肩に手を置かれて、正面から向き合った。
あ、また叔父さんが見えないよ・・。ちゃんと見てあげないと叔父さん拗ねちゃいそうなんだけど。
「き・・・・・」
「き?」
「キキキキキキキ・・・」
「お父さん具合悪い?だいじょ・・・」
「違う!大丈夫だ!」
「ならいいけど・・・」
青ざめてるし、眼も血走ってるし。お父さんも病院に連れて行ってちゃんと検査してもらわなきゃ・・。
「きす・・・したのは・・・口にか・・・?」
「えっ!」
な、なんでその話!?イヤだーやめてよ!恥ずかしい!
「・・・・九龍、ファーストキスというのはだな・・」
「ふぁーすときす?」
「初めて口にしたき・・・・きすのことだ」
キスキス言われると、恥ずかしい・・・。もうちゅーでいいんじゃない?
「それはとても大事なんだぞ?友人同士の会話に出てきて、それが叔父さんですとかだったらどん引きだぞ!?」
どんひき・・・?
「口じゃないよな・・?な?」
「したところのこと・・・?うんと、頬っぺただったけど」
「そ、そうなのかッ!!!」
「うん・・・口は・・・ちょっと・・・・・・・・イヤだし・・」
さすらいの絵描きのおねーさんも言ってたけど、口はちょっと恥ずかしい。
無理!無理だって・・・恥ずかしいから無理!
「そ・・・そうか・・・」
どうしてそんなに安心してるの?お父さん。
首をかしげて、お父さんに聞こうとしたら・・・・・視線を感じた。
「え・・・?」
ゾクリと寒気がして、そっちを見ると、鬼さんと眼が合った。
「――ッ!」
怖い・・・・。
けれど、目が離せない。
視線の先で、叔父さんが助走をつけて大きく飛んだ。
凄い・・・でも、ものすごく怒ってる・・・どうして・・?

《ぐぉ・・・ッ!》
「ふざけんなぁッッ!!!!!」
鬼さんに体当たりした叔父さんは、倒れた鬼さんの首に大きな剣を突き刺した。

《ぐぉぉぉぉぉーーーー!!!》

うめいてもがいた鬼さんは、大きな手で叔父さんを撥ね退けるけど、叔父さんは一瞬早く飛びのいた。
その姿を追うように、大きな武器が、叔父さんに襲いかかった。



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