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叔父さんと僕(九龍編)
第3部・その6

夢の中、走る。長い長い通路を駆け抜ける自分。
――こんなの覚えてない・・・
叔父さんに呪いがかかった時に、世界は壊れたんだと思ってたのに。
そういえば秘文を刻んだときの記憶がない・・・。

・・・・どうして覚えていないんだろう・・?でもこんなに悲しいの、見たくないよ・・

雨は止まない・・・。遠くでずっと雨音がしてる。
もう・・・・・目覚めたい・・・・・。




ものすごく重たそうな扉は、思ったよりも簡単に開いた。
走ってきたから、息が苦しい。

《ここだ・・・・ここへおいで・・・》

頭に響く声が少し大きくなった。声の人が、近いのかな?
深呼吸をして、一歩ずつ歩き出す。迷いなんてない。
叔父さん・・・。
叔父さん・・・・。
小五郎叔父さん。大好きな、大事な人。
「助けてみせるよ・・・」
叔父さんが、愛してくれてる自分だって大事だけど。
お父さんやお母さんが、大好きだよって言ってくれる自分が、好きだけど。
・・・・だけど。大切な人なんだ。
守りたいだけ。
守れるなら、自分なんて投げ出せる。
守られる人がどう思うかとかは、叔父さんがよくやるから・・・知ってるけど。
でも・・・でもね、守れるなら・・・・。

なんだって、やれる。
後悔なんて、しない。

《そうか、ならば・・・・我が手を取るが良い》

大きな階段・・・きっと10段くらいはあるその上から、大きな人・・・頭に角が生えてて、以下にも鬼ですって感じのパンツを履いている・・・が、手を差し出してきた。
「あんた・・・・じゃなかった、あなたは、誰?」
《・・・・我は秘宝への鍵を守りし番人・・・そなたの名、は?》
ニヤニヤとしてて、嫌な感じだ。近づいちゃダメだって思う。
それにそのパンツは・・ちょっと・・・。パンツだけってのも凄いよね。
だけど、怯えていられない。
震える手を握り締めて、見上げながら言う。

「葉佩 九龍」

《・・・良い名じゃな・・・?だが、お前の保護者達は言わなかったか?名を簡単に名乗ってはならぬと》
え・・・・・?
《お前達は、秘文の鍵を狙ってやってきたハイエナどもであろう?》
身体が金縛りに合ったみたいに、動かない。
どうして・・・?
《ハイエナどもなら知っておろう。名の価値を。名は、相手を束縛できる最も簡単な呪術に用いられる・・・名などなくても支配できるが、名を手に入れた今、お前は我が手の内にある・・・》
身体が勝手に動いて一歩、階段を上がった。
え・・・・え?ど、どういうことッ!?体が動かない!
《九龍・・・さぁ、我が元へ・・・》
怖いッ!
嫌だと、足を止めようとするけど、一歩ずつ階段を上がっていくのをとめられない。
《助けて欲しいのだろう?》
「あ・・・・」
うん・・・・助けて、欲しい。
《ならば・・・・・我が手を取るのだ・・・・そこからは、お前の意思で来るといい》
ぞくぞくと背筋がさむい。
行っちゃダメだと、自分の中で警報機がなってる気がする。
怖くて、足も震えるけど、踏ん張って一歩また階段を上がった。
一歩、一歩と近づいて、1段差のところで立ち止まる。
近くで見ると、とても大きな人で、頭に角が生えてて、髪の毛が金色・・・かなり大きい・・。
《さぁ・・・・この手を取るんだ・・・・》
「助けて・・・くれる?」
《勿論だ・・・お前に、秘文を授けよう。秘文を持って、解呪の秘宝を探すといい》
かいじゅ・・・・・?
え・・・・・えー・・・・・と怪獣・・・・・?
なわけないよね!えーと・・・字・・・・・わかんない・・・。
それって、何?
《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なるほど》
えっ!?なるほどって・・・何??
見上げると面白そうに笑っていた。それすらも何だか怖くて、震えてしまう。
《・・・あの男の言い分が少しだが理解できたな・・・》
あの男・・・・?どこの人・・・?
《・・・・・・・・解呪とはお前の助けたい人間にかかった呪いを解き放つ秘宝だ》
「秘宝!それは・・どこにあるの!?」
《ここにはない・・・・ここより西の国に眠っておる》
「西・・・・・・」
《呪いを解く鍵を求めるか・・?》
「欲しい!」
《求めるのならば、代価がいるぞ・・・?》
だいか?
《・・・・・・・・ふぅ》
ふぅ・・・って・・・・なんだろう、なんだかムカツク・・。
《代わりに何かがいるということだ・・つまりは、魂。お前の魂だ》
「・・・・・・・魂・・」

《その身に鍵を刻んでやろう・・・代わりに、魂を我に差し出せ》

「あげる。だから、呪いを解く鍵をください」

《契約、成立だな・・・・》

そう言われたとたん、周囲にまぶしい光の玉が出現して、光に包まれた。
身体が浮く感覚がして、意識が遠くなる。

「・・・・あ・・・・ぁ・・・・・・」

イタイ。
痛くて・・・熱い!
右腕の骨が燃えてそうなくらい痛い。
いたいいたいいたいいたいいたい・・・・・・・・ッ!
いたくてあつくてしんでしまいそう。

たすけて・・・・・・さん・・・

「イ・・・・イヤッ!」

流れ込んでくる、誰かの記憶。
苦しい
悲しい
さびしい
・・・・・・・・・・・しにたくない。
そしてドス黒い血が・・・・血が・・・・・・・肌の下に取りこまれていく。
怖くて、見ていたくなくて、目をつぶった。

「・・・・・・・たす・・・・けて・・・・・・・・・おじさん・・・」


「九龍ーーーーーッ!!!」

声と銃声がして、身体が落ちる。
「――ッ!!」
ドサッと誰かの腕に受け止められて、その暖かさにどれだけ身体の体温が下がっていたかを知る。
さむい・・・。なんだか意識がポワッと浮かんでいるような感じがして、だけど右腕だけは異常なくらい熱い。
「九龍・・・・九龍ッ!大丈夫か・・・ッ!?」
だれ・・・・・?
お・・・じさん・・・?
ちがう・・・この声・・・・・。
「九龍ッ!?」
「・・・・うさ・・・・ん」
声が出ない。
あぁだけど、どうしてお父さんがここに・・?助けてくれたの?
秘文は・・・鍵は・・・どうなった・・・のかな・・。
ズキンズキンと、心臓の音と一緒に、右腕が熱くなっていく。
「九龍!そうだ、お父さんだぞ!」
眼を何とか開けると、痛みで涙が出てきた。
「どうした!?痛いのか・・・ッ?」
うん・・・とっても痛い・・・。
そう言いたいけど口が動かない。
お父さんが、右腕を持ち上げて服の袖を上げた。
どうなってる・・・?
手に入った・・・?
お父さんは右腕を見て、ほっとしたような顔をしてため息をついた。
どう・・・なのかな・・・?判らない。聞きたいけれど、言葉がでない・・。
だけど、さっきのは本当に怖かった。
思い出すと震えてくる・・・。
「・・・・・うさ・・・・ん・・・こわ・・・かっ・・」
「あぁ・・怖かったんだな?もう大丈夫だ・・」
うん・・・とっても怖かった。
声が聞こえた。たくさんの声。秘宝を求める声・・。
秘文を巡って殺された人達がいっぱい・・・居たのが見えた・・。
俺ももう少しでそうなってたのかな・・・。

・・・怖かった。意気地なしとか思うけど。
叔父さんのために、と思ってたけど・・・・・怖かった・・・・・・。

「九龍・・・・よく聞きなさい」
ふと、お父さんに手を握りしめられて、眼を見ながら真剣に言われた。
「もっと自分を大事にしてくれ・・・頼む。お前の命が父さんも、母さんも、叔父さんだって大事なんだ・・。大切なんだ」
・・・・・・・・・・・・胸が痛かった。
何か言おうとして失敗する。言葉がない・・・。
「お前が命を投げ出したとき、身が裂かれそうなおもいだった・・・」
お父さん・・・。
「叔父さんの呪いなら、父さんが必ず解いてやる。信じてくれ」
お父さん・・・・。
「・・・・・・・うさん・・」
気づいてないのかな・・・お父さん・・・泣いてるよ・・。
手の甲に涙が落ちてきた。
それだけなのに、すごく痛い。
「だから命を犠牲にするような真似は絶対にしないでくれ」
「・・・・・・・・・ごめんなさい・・・」
ごめんなさい、これだけしか言えないんだ・・。
全然・・・判ってなかったんだって思った。
どれだけ大事に思われていたかとか・・。

だけど・・・でも・・・・。

でも・・・。

でも・・・。

叔父さんを助けることが出来るなら・・・って思う気持ちはまだあって・・。
守りたい人を守る・・・。そのためには傷ついたって良いって・・・思うんだ・・。
出来るだけ自分も守るようにしたいけど。

・・・・。ごめんなさい・・・。

怖いけれど・・・。叔父さんを・・助けたいんだ・・。
叔父さんが・・・・大事なんだ。
胸が痛い。
お父さんの想ってくれる気持ちと、自分の意思が・・ぶつかって、悲鳴を上げてるような・・痛み。
どうしたら良いんだろう。もっと強かったら・・・・ちゃんと出来たのかな・・?
息が苦しくなって目を閉じた。
「――ッ!」
急にお父さんに抱えられたまま、真横に転がるように移動させられてびっくりする。
慌ててしがみつくと同時に、今まで居たところの床がビシッッという轟音とともに割れた。
え・・・・・?

《よくも・・・邪魔をしよったな・・・・・ッ!》

鬼さんが、すごく怒っている。
見ると、ものすごく怖い形相でこっち・・お父さんを睨みつけていた。
「ッ!・・・・・・・九龍、少し走るぞ。しっかりつかまっていなさい」
わっ!急に走り出すから前に落ちかけて、慌ててお父さんにしがみ付きなおした。
お父さんの肩越しに骸骨の集団が見えた。
うわ・・・いっぱい居るよ・・・。どうしよう・・。
お父さんまで、怪我とかしちゃったら・・・・・と思うと怖くなる。
お父さんは強いけど・・・。でも・・・・。
俺のせいで・・・また・・・?
怖いよ・・。
「九龍・・・お前はここに居なさい。絶対に動いてはダメだぞ」
「・・・・・・おとうさん・・」
見上げるとお父さんは笑いかけてくれた。頭をその大きな手で撫でられる。
「父さんは、大丈夫だ・・・九龍、お前も自分の身は守れるだろう?」
ひょいとしゃがんで、お父さんが目の前に何かを置き出した。
これって・・・・お父さんの武器だよね・・。
普通のハンドガンと、ファラオの鞭、ライフルと銃弾と・・・・金色のこれって・・・なんだろう?
これ、もしかして使っちゃって良いのかな?
自分の身を守れって言ったよね・・・?
「お前は、下を向いてばかりの子じゃないだろう?」
「・・・うん!」
お父さん・・・ありがとう・・。
こんな息子でも・・・信じてくれるんだ・・・・すごく、嬉しい。
「行ってくる・・・・」
残った武器を装備しなおして、お父さんが立ちあがる。
お父さん、武器と弾薬しか持ってきてないんじゃない・・・?
大丈夫なのかな?武器重くないのかな・・?

『敵影を確認移動してください』

「おとうさん・・」
「どうした?」
「・・・・・お父さん、気をつけて・・・・・」
「あぁ・・・・お前も無茶はせずに自分のことを守ることに専念しなさい」
「はい」
怪我しないでね・・。お父さん。
走っていったお父さんを見送った。

「・・・どうしよう・・・」
見渡すといっぱい敵が・・・あれ?入り口のところ・・少し減ってる感じだ。
さっき見たときはもっと居たと思ったんだけど・・。
それでもいっぱい居て、こっちにも向かってきてるみたいだ。どうしよう・・?
お父さんの方を見ると、走りながら敵を倒して鬼さんの方へ向かっていた。
「うわッ!?」
空気を切るような音がして避ける。見えたのは白くて細い骨みたいなの・・・というか、骨そのもの。
「わッ!来たッ!」
慌てて鞭を掴んで、えいっ!と振りまわすけど、なかなか当たらない。
「あーもぅッ!来ないでよーッ!」
ハンドガンを撃ってみるけど、当たらない。
「あたんないよ・・・うぅッ・・・」
骨さんが腕を伸ばしてくるから避けながら撃つけど・・だめ、全然当たらない。
銃より鞭の方が良いかな・・。
でも・・・どうしてだろう?どうも攻撃されているわけじゃないみたい。
捕まえようとしてるみたいだ・・・。

《・・・・・・・・・・・・契約はなされていないぞ・・・》
――ッ!!また、聞こえた。
取り落としそうになった鞭を握り締める。
遠くに居る鬼さんを見ると、こっちを見て笑っていた。
嫌な感じ。とっても、嫌な感じ。

《・・・・従え・・おいで・・・》
嫌だ・・・・・・・・・・、怖い・・。

《まだ助けておらぬぞ・・・?いいのか・・・?》
やっぱり・・・・・・・まだ、だったんだ・・。
叔父さん・・・・。

《助けたいのだろう》
助けたい・・・けど・・・。
さっきの恐怖を思い出して身体が震えて止まらなくなる。

《・・・・・・・・・助けたいのだろう?》
助けたい・・。助けたい、助けたい・・。
だって・・・叔父さんがもう、笑いかけてくれなくなるなんて・・・考えたくないよ・・。
大きな手で、頭を撫でてくれたり。
大きな腕で包み込んでくれたり・・。
叔父さんが大好きだから・・。だから・・・だから・・・。

《さぁ・・・こちらへ来るんだ。助けてやろう・・・》
呼ばれるたびに、意識に霞がかかってくる・・・。
だんだん、かんがえられなくなってくる。
・・・・おとうさん・・・おとうさ・・ん・・・・。ごめんなさい・・。

《九龍、おいで。こちらへ来るんだ・・・。》

声が聞こえる・・・鬼さんのおいでっていう声以外にも。
なんて言ってるんだろう・・・・。
ごちゃごちゃとうるさいくらい、たくさんの声が聞こえてて・・・・意識が遠ざかる。
どうしてかな?
一歩ずつ歩いていて、とんどん近づいていく。

《我が愛しき贄よ・・・・さぁ、食らってやろう・・・お前を大事に思う者の目の前でな・・・》

・・・・てをさしだした。



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