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叔父さんと僕(九龍編)
第3部・その2

暗い穴から続く通路は真っ暗で天井が低かった。
ごつごつとした岩に手が当たる。
「九龍、ハンドライト頼んだぞ?天井低いから頭、ぶつけるなよ?」
「大丈夫」
ハンドライトで叔父さんの足元を照らしながら、その後を進む。
うッ!い、今、なんか手ににょろってしたのが当たったッ!ひゃーっ!ム、ムカデか何かかな・・。
ふ、深くは考えないでおこう。うん・・・刺されてないし・・・、虫嫌いなんだよッ!ハチ以外は逃げるほどじゃないけど・・。
いつもより慎重に進む叔父さんの前方に明かりが見えた。
「叔父さん、明かりが見えるよ」
「おー、広間についたらしいな」
それでも歩く速度はゆっくりだ。
どうしたのかな?いつもなら、気にせずザカザカと歩いていくのに・・。
叔父さんの背後から、広間に出るとそこは大きなホールみたいになっていた。
石畳の床に、綺麗に垂直に削られた壁。
「人工に作られた遺跡だな・・」
広間には何もないけど、所々岩が落ちていた。
部屋が明るいのは、天井の一部が崩れて光が漏れているからみたいだ。雨水も壁を伝って床に水溜りを作っている。
「あぶねーなぁ・・・。今にも崩れそうだ・・・」
叔父さんがそう言うと、足を踏み出そうとした。
あれ?床の色が他と違う!
「あ、叔父さんストップ!」
咄嗟に声をかけたけど、間に合わなかった。
「あ?」
あ?じゃないよ、叔父さん!いつもより慎重かなと思ってたのに・・・。
叔父さんはよく罠にかかるから、自然と罠感知は俺の仕事になってたりする。
まぁ、確実に見つけることが出来るってワケじゃないけど。
勘が頼りだしなぁ・・・一応パッシブスキルなんだけどなぁ・・・頑張って訓練しよっと。
『敵影を確認、移動してください』
「敵さんは・・・おぉ、6体か!コウモリもどきと、ゾンビもどきと、トカゲもどき、だな」
うぎゃッ!いっぱい出たー!叔父さんは妙に楽しそうだし。
叔父さんにくっついて来て、もう慣れたけど・・・でもやっぱり圧倒されるというか、怖い。
でも叔父さんが居るから、大丈夫って思うんだけどね。
何たって強いから・・・。
俺もそうなりたい、というか、なるつもりなんだけどね!
そんなコトを思っていたら叔父さんが振り向いて、ニヤッと笑った。
「よし、相棒!一番近くのコウモリもどき二匹、やってみろ」
「はーい!」
ホント?ホント?やっちゃっていいの?
いつもは背後に押しやられて、滅多に実戦で戦わせてくれないのに。
「武器はそうだな・・これ試してみ?」
頑張るぞー!とナイフを取り出そうとしたら、叔父さんが何か差し出してきた。
「んげームチ苦手なのにぃ・・」
一応扱えるけど・・・色々な武器はとりあえず使えるくらいには・・・なってるはずなんだけど。
だけど、これ苦手なんだよなぁ・・・。
「はいはい。さっ、九龍君、頑張ってくださーい!」
「はいぃ〜」
ん、でも、大丈夫!やれるはずッ!
そんな気合を入れて、構えてコウモリもどき目掛けて・・・。
「えいぃー!・・・・・いたっ!」
痛い痛いッ!鞭を取り落としそうになったほどだ。
ジャージ着てて良かった。叔父さんはジャージ着てると、残念そうな顔をするんだけど。
動きやすいし、布地がしっかりしてるから好きなんだよね。
しかも今みたいに、うっかり自分で自分に攻撃しちゃったりとかするから・・・なぁ。
「九龍、叔父さんが手取り足取り教えてどうにか使えるようになってたはずだよな?あの熱い修行の日々は幻か?」
熱い日々・・・?まぁ実際真夏で暑かったから、熱い日々なのかもしれないけど。
叔父さんは教え方上手なんだけど・・。
やたらと構ってくるから、色々大変だったなぁ〜・・・暑いのに、ぎゅっとかしてくるし。
でも上手く出来たら誉めてくれて、それが嬉しくて頑張ってた。
それで・・・えーっと・・・・力入れすぎかなぁ・・?
「うッ・・・ち、ちょっと力を入れすぎただけだから!大丈夫!えいぃぃー!」
ビッシィッ!と今度は足に命中!
「あれー?」
「あれーじゃないだろ!お前なぁ・・」
「これ、壊れてるんじゃない?」
「壊れてないッ!・・・ったく、ほれこうやるんだ」
ひょい、と叔父さんに鞭を取られた。そのまま軽い動作で、コウモリに攻撃する。
『敵影消滅』
あ、そうか!
「あ、うん、思い出した!やれるやれる!」
「本当かー?」
疑わしそうに言う叔父さんに笑いかけて、鞭を受け取る。
「余裕、よゆー!」
えっとこーして、手首を回すように・・・・ビシィッ!と鋭い音がしてコウモリが消えた。
『敵影消滅』
「お、今のは良かったぞ、九龍」
「ホントッ!?」
やったー!ホント?本当に良かった?嬉しい!
ちょっと失敗もしちゃったけど、うん、思い出したから!忘れなかったら大丈夫のはず!
『心拍数上昇』
「どうしたの?叔父さん」
「ん・・?いや・・・熱いな、と・・・はははは」
どうしたのかなぁ・・・?叔父さん顔赤いけど・・・、具合悪いのかな?
叔父さんはよく、赤い顔になるし、鼻血とか出すんだよね〜。一度ちゃんと検査してもらったほうが良いかも・・。
病院嫌いの叔父さんは、薬も飲まない人だから・・。時々心配。
もう年なんだから、一度ちゃんと検査してもらおうね?嫌だって言っても連れて行こう、そうしよう。
「あ、ゾンビっぽいのが来たよ?どうする?」
正面にゾンビみたいなのがゆっくり近づいてくるのが見えた。
「そうだな・・・あれは近づいてやると、ちょっといや〜〜んだから、銃だな」
う・・・・銃は・・・銃は・・苦手。
手の平に載せられたハンドガンを持ちなおしながら、ため息をついた。
射撃系は投げナイフ以外は苦手なんだよォ・・。
「弱点は額だな。ちゃんと狙えよ?」
「はーい」
バンバンバン!と撃ったけど・・・・・あぁ、全部はずれた!
「九龍ちゃーん?あんなところに、敵は居ないでしゅよ〜?」
「うぅぅぅぅ・・・・こ、壊れてるんだよ!コレ!」
「壊れてないって・・」
うぅぅ・・。なんだよー!その言い方腹立つなぁー!もう!
あぁ・・・今度ちゃんと射撃練習しようっと・・。うん・・・、落ち込んでる場合じゃない。
気合を入れなおしてたら、叔父さんが背後から銃口を掴んで構えとかなおしてくれた。
「いいぞ、しっかり狙って、ぶれないようにして撃て」
「えいっ!」
銃声が響きわたり、H.A.N.Tの音声が倒したことを告げる。
やった、やったー!凄いなァ、叔父さんがちょっとなおしてくれただけで、こんなに良くなるなんてさ。
頭を撫でてくれる叔父さんを見上げると、嬉しそうに笑ってくれていた。
「お前は、少し上を狙い過ぎだ。銃の反動で銃口が上がっていくんだろうな・・・少し下を狙うつもりで、撃つと良いぞ?」
「はい」
頷いて笑ったとたん、ぎゅっと凄い力で抱きしめられた。苦しい〜!
いきなりでびっくりしたよ。銃持ってるんだから、危ないじゃん!
あっ・・・!ゾンビっぽいのが来てる来てるってば!バシバシッと背中を叩いても叔父さんの力は緩まない。
「叔父さん、叔父さんー!近いって!離してよー!」
「あん?」
あん?じゃないってば!ゾンビっぽいのが、噛みつこうと飛びかかってきた!
思わず目を閉じて叔父さんにしがみ付くと、ふわっと身体が中に浮く感覚がした。
「うぉっと!あぶねー!」
目をあけると、ゾンビっぽいのから1メートルくらい間が開いてた。
「こんにゃろ!」
投げナイフが、その瞬間3本急所に突き刺さった。
『敵影消滅』
腕の中からそれを見て、ほっと力を抜いた。
叔父さん凄いなァ・・やっぱり、強いな〜格好いいなぁ・・・。
ふと、叔父さんの肩越しに動くものが見えた。トカゲみたいな敵がゆっくり近づいてきていた。
「背後にもいるよ」
「お?いつのまに・・・」
「叔父さんがニタニタしてた時にだよッ!わ、来た!」
叔父さんは何故かしっかりと片手で俺を抱きしめたまま、距離を取った。
「あぁーッ!俺が九龍とラブラブしてるのを邪魔すんなー!」
「らぶらぶー?」
ラブラブ・・・っいうのかな?こうやってぎゅ〜っとかするのって?
『安全領域に入りました』
H.A.N.Tの音声が響いたとたん、またぎゅっと抱きしめられた。
何て言うのかなぁ・・大きなクマに抱きつかれてるような感じかなぁー。
ダッコちゃん人形とかいうのが、家の押入れの中にあったけど。あれにも似てるかも。
でも・・・こうされるの、嫌いじゃない。
暖かいし、安心するし・・・。
「叔父さん」
「なんだ?」
「俺もね・・・・ラブラブするの好きだよ?」
「ゴフッ!」
『心拍数上昇、血圧上昇、体温急上昇、ハンターに異常発生を確認』
えっ!?ど、どうしたの!?異常?ねぇなんだろう・・?と見上げると。
・・・・叔父さん・・・すごく変な顔してるんだけど。
あ、もしかして・・・またやっちゃったのかな?
「あれ・・?言い方間違えた?」
「く・・九龍・・・・お前なぁ・・」
「ええっと・・・叔父さんにこうされるのが、好きだなってこと・・かな?」
うん。これでいいはず・・・多分。
恥ずかしかったから、俯いて笑った。子供っぽいとか言われるけど、それでもいい。
だって本当のことだから。
いつまでも、ここに居たくなるくらい、暖かい。

(・・・・『そこ』へ、戻りたいと思うのは、甘えなのかな・・?叔父さん・・)

「・・・・・ッ!」
突然パタリと倒れた叔父さんにびっくりする。
「叔父さんー?どうしたのー?」
「・・・・・・・・九龍・・・・叔父さんの心臓を労わってくれ・・・」
「し、心臓!?どうしたの?痛い?あわわ」
あぁ、どうしよう!?お父さん呼んでくる・・・・ってわっ!
またしても急に抱き寄せられて、びっくりした。
「・・・お前は小さい頃、こうやって抱きしめてくれって俺になきついたこと、覚えてるか?」
「え・・・?ええっ!?そんなことしたー?」
「したした。お前、俺が離れると怖かったらしくてずっと引っ付いてたぞ?」
「え・・・・ええっー!?」
全然覚えてない。そんな事があったのかぁ・・・。
「なぁ・・・・・九龍」
急に叔父さんが真面目な声になった。体を起こして正面から座り込んだまま向き合った。
「お前は何を恐れてるんだ?何が怖い?どうして怖い?」
「え・・・」
心臓が跳ねた。ビクンとなったのを、叔父さんは気がついたのか、肩をゆっくり撫でてくれる。
「・・・怖がらなくいい。怒ってるとか、お前を脅かそうとしてるんじゃない」
何も言えなくて、叔父さんを呆然と見上げると。
優しい笑顔で笑いかけてくれた。

「俺は、お前を置いてどこかに行ったりしない」

(うそつき)

「俺は、お前を一人にはしない」

(聞きたくない)

「お前が許す限り、俺はずっと傍にいてやる・・」

(じゃぁ、どうして、今は、ここに、いないんだよ・・・・・ッ)

「九龍?あぁ・・・・・・泣くな〜?頼む、泣かないでくれッ!」
え・・・?
叔父さんの慌てる声に、自分が泣いてることに気がついた。
涙を拭う大きな手が、暖かい。
「なぁ・・・・何が怖いんだ・・?」
「・・・・・わか・・・らない・・」
判らない。よくわからない。言葉に出来ない怖さがずっとあるんだ。
「そうか・・・なら、どうしてほしい?」
どうしてほしい?
どうしたい?どうして欲しい?
叔父さんの眼はとても穏やかで。とても優しかった。
「・・・・・・・ばに・・・て」
「ん?なんだ?」

『傍に居て・・・・・お願いだから、どこかに行ってしまわないで・・・』

(寂しいよ・・いつまで待てば・・・いいの・・?)

思わず言ってしまってすぐに後悔した。あまりにも情けないし、きっと呆れられる。この前旅館で喧嘩したときにも言ったけど・・、小さい声だったから・・・。
怒られるかな、と恐る恐る見上げると、叔父さんは何故かにやけた顔をしていた。
「九龍・・・お前、なんでそんなに・・・」
そんなに・・・・?

「可愛いんだ!!!!!!」

キーーンと耳鳴がするほど、大声で叫ばれた。
「はぃ・・?」
「可愛い!可愛い!可愛い!アイラブユー!」
ポケッと叔父さんを見つめた。涙も止まってた。
眼を丸くして見上げていると、ぎゅうぅっと力強く抱きしめられる。
届け、俺の愛ーーーッッ!!
「お、お、おじさんッ!?」
「あぁ、愛しのマイハニィー!お前を置いてどこへ行けって言うんだ!?行けって言われても俺は拒否するぞ!?泣く!泣いてやる!」
「はぁ・・」
何だろうか、テンションが高い。びっくりして見てるだけしか出来ないよ!
「お前がいつの日か叔父さんウザイーとか言い出しても、付きまとうからな!?」
・・・・・・・叔父さんウザイ・・・って・・・・。あ、あぁぁッ!
少し前ちょこ〜っと思ってたかも・・・?
だって、一人でも平気なのにちょっとした買い物にまで付いてくるから・・・。
「お前が暑苦しい!といってもハグハグするからな!?」
え、それもちょっと・・・。
「俺は、ここに居るから。お前がどこかに行っても帰る場所で居続ける・・・・だからな?」
「叔父さん・・・」
「だから・・・不安になっても一人で泣くな・・」
「・・・・・うん」

(・・・・・・「おかえり」って・・・言ってくれる日が・・・いつか・・・来るかな・・)

ありがとう、と声にしないで呟いたら、叔父さんは嬉しそうに笑ってくれて。
おでこにぶっちゅーとしてきたので、びっくりした。
驚いて見上げたら、あんのじょータコ口だった・・・。

「・・・んじゃ・・よ、次行くか」
「はい」
何となく照れて、叔父さんも目をそらした。
「本当はお手々繋いでエスコートしてやりたいんだがよ・・」
「お、叔父さんッ!そこまでしなくてもいいからっ!危ないし・・」
明かりだってないような暗い遺跡なんだから、片手ふさがってたら危ない。
「俺が寂しいんだよ、九龍ちゃん?」
「も、もうっ!ば、ばかじゃないっ!?」
「お前が俺の愛をちーーーっとも理解しないからなァ・・・あぁさびしー」
拗ねる叔父さんの背中にごつんと頭突きした。ぎゅっとしがみ付く。
「お、おぉぉい!?」
「ちゃんと判ってるから・・・大好きだよ?小五郎叔父さん」
「・・・・ッ!」
ポタッと、床に何か落ちてみたら・・・血だった。
「へ・・・?叔父さん、どこか怪我・・・」
「やべぇ・・・鼻血」
鼻血?
「だいじょう・・・・・・・ぎゃー!」
叔父さんの鼻から下は大量出血だった。怖い!
慌てて持たされていた腰のポーチから、救急セットを取り出して、叔父さんの鼻に押し付けた。
「叔父さん、鼻の粘膜弱ってるんじゃないかな・・・今度病院行こう?」
「いや・・・これはだな・・・」
「「もしかしたら何か重い病気かもしれないじゃないか!」
「・・・・・・・・・重い病気かもなぁ・・・」
しみじみという叔父さんの血を拭う。あ、収まってきてるかな?
「やっぱり・・。叔父さんもう年なんだし・・・ムリしないでね」
・・・長生きしてね・・・お願いだから・・・。
「・・・・・・・・・俺は永遠の30歳です」
「はいはい」
「いや、ホント、30だぞ!ピチピチ!」
「えっと、先に進まなきゃだね・・・あ、こっちに道があるよー」
「聞けーーー!」
なんだかむきになった叔父さんが面白くて笑うと、一瞬黙り込んだ叔父さんはなぜかまた鼻を抑えた。
「大丈夫・・・?」
「・・・・・九龍ちゃん、不意打ちはやめような?」
「・・・・?」
意味わかんないよ。
首を傾げると、ポンと頭を叩かれてハンドライトを拾って手渡された。
「んじゃ行きますか、相棒」
「はい」
「暗いな・・・ちょっと照らしてくれ」
「はい」
叔父さんに言われる通り、地面を照らすと、段差があって下は水が溜まっていた。
「・・・・深さはどのくらいだろうな・・・九龍、メジャーかしてくれ」
メジャーで深さを測る叔父さんの背中を見つめた。
「そんなに深くないな・・・・よっと」
豪快に水の中に足を入れた叔父さんは、少し待ってろと行って慎重に進んでいった。

(行かないで・・・)

「・・・・・寒い・・」
急に寒気がしてぶるっと震える。水の通路は、10メートルくらいだし、あっちの明かりが見えてるのに・・・・・寂しくて不安になる。
ううん・・・きっと寒いからだよね!大丈夫怖くなんか、ないッ!
強くなるんだから。
叔父さんに頼られるくらいに、なるんだからッ!
寂しくない、不安じゃない、怖くなんかない・・ッ!絶対、そう!
「ん?」
気合を入れてると、ふと背後から視線みたいなのを感じた。
でも誰も居ない。気のせい、かなぁ・・・?
あぁでも・・・・何だろう?なにか・・・・違和感。うーんわかんないけど・・。鳥肌も立ってきたし。

ジャバジャバジャバ

「・・・ッ!?」
背後から急に水音がして振り向いた。


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