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捏造未来長編「九州ヘボハン漫遊記」
序章「桜とカレーとジャージと鬼」
その7

「こ〜〜〜ら〜〜そこ〜〜〜〜ッ!」
「イチャイチャしてるべー!またしてるべー!」
「お前達は完全に包囲されているーっ!」
「支部長殿、包囲完了しましたーッ!」
「そーゆーことなんで、ラブラブするのは・・誰も見てないときに・・えぇ・・」
「ボーナスさん、本命はマッチョなんか・・」
「新婚さんっぽいオーラ出すの止めとけー!」
「不審者さんが一人で戦ってるぞ!かわいそーに・・・・っっ・・・えーっと・・がんばれー支部長どのー!」
「娘よォォォー!!!」
「オヤジ、うっせぇー!拡声器使って叫ぶな!!」

「・・・・・・・うるせぇな・・ッ」
「クククッ、無能な連中だが、居ないのと居るのとでは大違いでね・・。どうするんだい?ここから逃げれるとでも思っているのかい?」
拡声器の声と、騒がしい黒スーツの男達の声に、皆守は不機嫌そうに呟やき、相対する相手からも笑われ更に不機嫌になる。
やり取りの間に、蹴りと、鋭い爪による斬撃の応酬は続いている。
「あんな間抜けな連中が何人居ようと、逃げるぜ?あいつは逃げ足だけは得意で・・なッ!」
「――ッ・・・鬼に変生した僕を、ここまで追い込むとはね・・」
ズザッと吹っ飛ばされ、地面を滑る喪部に、鋭く重い蹴りを放つが、顔の前に交差された腕に受け止められる。
「くッ・・・」
そのまま足を跳ね除けられ、体勢が崩れる。
「甲太郎ーッ!!」
「甲太郎!」
葉佩と夕薙が、皆守の隙を狙ってきた喪部を月の波動と三節棍で追い返す。
「・・・・お前ら、あっちでいちゃついてたんじゃないのか・・?もういいのか?」
皮肉を込めて言ってみる。
(なんで、俺が、こんなに動いてやってるのに・・・九龍はともかく、大和はもう少し動きやがれ!だいたいさっきの殺意はどこいったんだ!)
そう思うが、本当は判っている。殺意は、葉佩のためだけに、抑え込んだのだろう。
(俺も同じ・・・だからな)
葉佩が、自分達のために、先に怒りを爆発させたことで、溜め込んだ怒りを爆発させるタイミングを逃してしまった。
葉佩が何を危惧しているかも、判っている。だからこそ、怒りを抑え込んだ。
――が、だからといって、喪部を放置して、葉佩と2人見つめ合い微笑み合って動かないのはどうなのか・・。
(これは断じて嫉妬とかではないからな・・・)
「はぁぁぁぁっ??なにいってんの?頭でも蹴られた?」
「はははは、嫉妬か?甲太郎。お前のそれも懐かしいな」
葉佩がきょとんとした表情で不思議そうにし、夕薙は顎に手をやり、何もかも判ったような顔で朗らかに笑った。
「ちッ!!良いから戦え!」
「万年だるだる男とは思えない台詞が!!!」
「ははは・・・それより、甲太郎・・」
三人は喪部と、包囲する男達を見ながら悠然と身構えた。
「・・・なんだよ」
「たたきと、おろしとすりおろしなのだが、どれが良い?」
「は?」
「喪部はこまぎれにするつもりなのだが・・・まぁ、たたきで。今回は仕方がないしな」
「・・・何いってんだ??」
「はははは、後できかせてもらうからなッ」
夕薙はなおも朗らかに笑うが、その笑みは薄ら寒く感じた。にこにこと微笑みながら、笑っている。
「大和が怒りで我を忘れてるッ!!」
「九龍・・・・お前はだまっとけ」

「あー三角関係勃発しておりますッ!」
「ボーナスさんは、罪な男だべ〜」
「なんだろうか。胃が痛い。どこかで娘がワカメ頭と遺跡に逃避行してる気がしてきた・・」
「オヤジ、どこから電波を受信してるんだ・・」
「マッチョの爽やかな笑いが、俺は怖い」
「それよりも、総員構えッ!!」
「ボーナスさん・・・・葉佩九龍は、怪我させちゃダメだからな〜」
「他の2人は、半殺しで勘弁・・・?」
「あ、支部長どんが・・・ヤレと・・」
「支部長殿が・・お怒りのようだぞッ!?このままでは俺達のボーナスはない!下手したら減給だ!」
「それだけはマジで勘弁してッ」

「なんだかなぁ・・・言われ放題、だな・・甲太郎?」
皮肉を込めて揶揄すると、皆守はこちらを不機嫌そうにじろりと睨み、顎で前方を指した。
視線をやれば、喪部が腕組をしこちら・・・葉佩を見つめたまま立っていた。
「どうやら、総攻撃、のようだな」
「そうみたいだなぁ〜」
「見たところ・・・。30人前後だったが・・」
「え、そんなに居たのか」
「上から見た限りでは、な。まだ居る可能性はあるが・・」
止めてきた車は、すぐそこだが・・・・と思案していると、前に立っていた皆守が葉佩に近寄った。
「おい、今のうちに血止めしとけよ」
「あぁ、うん・・・ほい」
「あ?なんで俺のほうに向けるんだ」
「やりにくくてさー。甲太郎やってくんない?」
「はぁ?なんで俺が。大和にやって貰えよ」
「えー良いじゃん。やってくれたってさ」
「ちッ仕方がないな・・・・動くなよ?」
嫌そうに言いながらも、その手付きは丁寧に動いている。破り取られたTシャツをぐるぐると巻いていく。
「・・・・九龍、この怪我は四針は縫うからな。覚悟しとけよ」
巻かれる前に、血を拭い取られた怪我を横目で見て言う。喪部によって開かれた傷口は無残にも爪で裂かれた様に広がっていた。
「げげげげ。それ嫌だなァ・・・」
「頭の怪我は・・・・縫わなくても良いが・・・それでも、その部分はもしかしたら・・」
「もしかしたら?」
「ハゲるかもしれないな」
「うげっ!?マジで!?うぅ・・・甲太郎ぅ・・・・・」
「んだよ?何か言いたいことでもあんのか?」
ふてぶてしい態度で言い、ベシッと簡易包帯のように巻いた布を叩く。
反省のかけらも感じられない態度に、じろりと睨むが、効果はない。
「ぎゃぁぁっ!!!痛いーっ」
「終わったぞ・・・ったく・・・人がやってやったのに文句しかないのか?」
「うぅ、アリガトー」
よほど痛かったらしく、涙目で左腕の怪我の部分を抑えてうめいている葉佩を見て、皆守への怒りが追加された。
「・・・・反省の態度をするなりすれば、たたきで勘弁したんだがな・・」
「はぁ?さっきからお前なに言ってやがる」
「・・・・お前も後でみっちりと説教だ・・・」
「あ?」
「覚悟しとけよ?」
「は?」
「さて、そろそろ、あちらも本気で来るようだぞ」
視線を喪部に戻すと、部下に何かを指示していた喪部がこちらを見て、不愉快そうに夕薙と皆守を見ていた。
(どうやら・・・俺達を排除するつもりで来るようだな)
その分、葉佩への攻撃は甘くなるので内心少し安堵した。
葉佩は口調や態度こそは元気だが、顔色は青ざめ時々身体が傾いでた。
貧血による眩暈が起こっているのだろう。頭の怪我のせいかもしれないが。
(九龍は、あまり動けないだろうな・・)
思考に陥っていた意識は、夕薙の背中側に移動して皆守へ野次を飛ばす葉佩の声で戻された。
「やーい、甲太郎も説教確定でやんのー」
「うるせぇ!!ヘボハン!」
「な、なんだとぅー!」
「耳まで遠くなったのか?ヘボハンは大変だな」
「ウキーッ!2回も言ったッ!!」
「何度でも言ってやるぞ?ヘボハン」
「ウッキィー!!甲太郎のカレーバカッ!」
「カレーをバカにするなと、何度言えば判るんだッ、ヘッポコハンター!」
「ヘボヘボハンターじゃなかったのかー!」
「どっちもお前らしい呼び名だろ、九龍」
「ムカッ!なんかすっごい腹立つ!!」

「いい加減にしないかッッ!!お前達ッ!!」

思わず大声で怒鳴ると、葉佩は眼を大きく開けびっくりした顔でこちらを見ていた。
皆守は怒鳴り声がうるさい、とでも言うように、耳をしかめ面で抑えている。
「まったく・・・お前達はッ・・・」
「うぅ、ごめん。大和・・・・・」
「うるせぇな」
「うッ・・・・九龍・・・」
先程怒鳴ったときのびっくり顔と、今のしょんぼり加減が、何やら小動物めいて居た堪れない。
(・・・あぁ・・やっぱり今飼っているクサガメと似てる気がするな・・。脅かすと眼を見開いて、ささっと甲羅に隠れるんだったな・・)
「・・・・あの、大和・・・後ろ後ろ・・」
「は?」
振り向くと、喪部は動いてはいなかったが、黒スーツの男達が揃って武器を持ったまま、こちらを見てなにやら話していた。
「・・・・・・・またか・・・・」
もはや拭い去りようがない噂が、レリックドーン内に蔓延するのが目に見えて、彼は深々とため息をついたのだった。

「なァ、おい・・・誰か、声かけろよ・・」
「こっちに気づいてない、今のうちに一斉にかかろうぜ」
「いいな、それ」
「やろうやろう」
「だべー」
「・・・あぁなんか・・・娘にセクハラトークをかます馬の骨が見えた・・・」
「オヤジ、ついに幻聴が・・」
「オヤジ、仕事終わったら娘さんと2人で買い物とか行くと良いぞ!」
「パパーアレ買ってーで出されるのが」
「小型削岩機だな。娘はそれがお気に入りなのだ・・」
「・・・・・・いや、普通そのノリだとブランド系バックとかだろ・・」
「何者だ!娘さんッ!」
「・・しかし邪魔したら馬に蹴られないか?」
「あ、マッチョが割って入ったぞ!」
「あの三人ってさ、結局はなんなんだ?ボーナスさんは誰とラブラブなんだ?」
「・・・さっき自分は2人とラブラブなんだぞー!とか自慢してたから、1号君と2号君なんじゃないか?」
「うぅ・・・・あんなに普通ないい子に見えるのに・・・父さんは悲しいぞッ」
「オヤジ、ボーナスさんは娘さんじゃないだろうが・・・」
「なぁ、普通に友達同士のやり取りに俺は見えるんだが」
「あー俺も。お前ら、目にゴミ入ってるんじゃないか?」
「父さんは、信じてるぞーッ!!!」
「オヤジがまたシャウトするし。あーあ、気が付かれたぞー」
「どうするよ。ごまかすか?」
「どうやってだ」

『こんばんはー!突撃!隣のばんごはーん!』

「ぐほぁっ!!!」
「悪ぃ悪ぃ、思わず手加減する暇もなく蹴っちまった」
かなり力の入った蹴りを、鳩尾に叩き込み、体勢を元に戻しす。
「や、山田ぁぁぁー!!!!」
「傷は浅いぞゥー!!!彼女ゲットするまでは死ねないと言ってたじゃないかー!」
蹴られて倒れ伏した一人に、数人がたむろって話し掛けている。
「あーぁ・・甲太郎さ、妙にネタに走る人見ると蹴らなきゃ気がすまないタイプだったりする?」
「は?」
「だって、探偵さんだって蹴ってたじゃん」
「くだらないこと言ってないで、とっとと、逃げるぞ九龍」
「うん。あぁ・・・・甲太郎と大和。合図したら眼閉じてね」
「何かやるのか?」
「うん、それよりも、来たんで相手よろしくー!」
葉佩は軽く言って背後に下がった。背後に回った数人を相手にするつもりらしい。
「喪部を押し付けやがったな」
「そう言うな。相手をするといえば止めるだろ?」
「・・・・・・あぁ」
「九龍は、貧血を起こしているようだ、なるべく気にかけてやってくれ」
「言われなくても、そうするさ」
「ククククッ・・・・さて、準備が整ったようだ。そろそろ彼をこちらに渡してもらおうかな」
鬼に変生したまま、喪部はにやにやと嫌な笑いを浮かべている。
(いい加減にこの面も見飽きたな)
「何の準備なんだ?是非、聞かせてもらいたいな」
顎を撫で、余裕ある態度で喪部に問い詰めながらも、夕薙の眼だけは殺意を抱いたまま睨みつけていた。
(九龍が背後に集中してるからか・・)
自分も、同じか、と沈ませていた殺意を視線にこめ睨みつける。
「クククッ、いい眼だ。早くその眼が、絶望に縁取られるのを見てみたいね」
「それは勘弁だな・・・それで、どうなんだ?喪部。元クラスメートのよしみで、教えてくれないか?」
(喪部との会話は任せるか・・・・話すのは拒否だ、拒否)
隣で傍観モードに入った皆守を、横目で夕薙が睨んだが、無視を決め込んだ。
「それはね・・・・こういうことさッ!」
「――ッ!避けろッ!」
咄嗟に夕薙の腕を掴み、引き倒す。
夕薙の居た場所には、小さなクレーターが出来ている。そこには奇妙な生き物が居た。
「大和ッ!?甲太郎!?」
「九龍、来るな!!お前はそこでそいつら相手にしてろ」
「・・・・なんだこいつは・・・」
目の前には、小さな子供くらい大きさで角の生えた子鬼が居た。真っ赤な毛皮で覆い尽くされた顔は獰猛で、涎をたらしてキキキ、キキキと鳴き声のような声をあげている。
「ククククッ、子鬼だよ。先日海底の中の遺跡で子鬼の卵を見つけてね・・・なかなか使える駒で助かっているよ」
「卵を孵したのか?」
「ふむ。刷り込み効果で懐いたんだろうな・・」
「じゃぁ、あの鳴き声は・・・」
「ママーママーだったりしてな?くっ」
思わず笑い出した夕薙を、視線で殺しかねないような眼で睨みつけた喪部は、子鬼を夕薙にけしかけた。
「俺の相手は、お前か・・・甲太郎、喪部は譲ってやる」
「ふん、苦戦しても助けないからな」
「俺はいい。九龍を気にかけてやってくれ、頼んだ」
「・・・了解」
「ククク・・・お仲間は見捨てるのかい?皆守甲太郎」
「・・・喪部、今度こそ暫くは身動き取れないようにしてやるよ」
「フッ・・・ククク・・・おい!お前達!一斉にかかれ・・・彼を傷つけることが出来たら、特別手当を考えてやるよ」
「ほ、本当ですかッ!?」
「よし!いくぞぅー!」
「馬の骨ッ!似ているだけですまないが、ヤツ当たりだ!覚悟しろーっ!」
「おう!やったるぞー!」
「いくそぅぅぅー!かかれー!」
皆守はそれぞれ構える武器を一瞥して、不適な笑みを浮かべた。

(動きは素早いが・・・・)
「せいっ!!!」
正面から向かってきた子鬼に、正拳突きを当て怯ませ、掴みそのまま連続で投げ落す。
普通の人間ならば、そのまま寝技を仕掛けるが、異形の鬼とそれはさすがにごめんこうむりたいので、月の波動を手の平に集め放つ。
「ギャイヒーッ!」
(なんとも直動的だな)
鬼がまたも突進を仕掛けてきたので、巴投げで投げ、地面に崩れたところを波動で追い討ちをする。
「おっとッ!」
「ちッ避けられたかーッ!!」
「意外と動きが素早いべ〜」
背後からナイフとムチで襲ってきた2人の攻撃を避ける。
「なるほどな、人数で押す作戦にしたようだな」
「キーキキッ!!」
夕薙に向かい、鋭い爪で斬りかかって来た子鬼を避け、間合いを計る。
自分に対してきている人数は、子鬼を含め・・・。
(10人くらいか。甲太郎に20人くらい殺到してくれると助かるのだが)
ふむ、と顎に手をかけてうなずくと、彼は身構えた。
(俺はスタミナがないからな・・一人一撃で沈めるか)
「キキーッ!!!」
「よっとッ・・・せいっ!」
突撃してきた子鬼を掴みそのまま横に抱くようにホールドし、体重を掛けながら、容赦なく地面に叩きつけ、月の波動を集めた拳で鳩尾に重い一撃を与える。
「ギャッギィー・・・」
そのまま砂のようにさらさらと消えていったのを確認したとたん、跳びかかってきた相手の腕を掴み一本背負いを仕掛ける。背中から地面に転がった相手は頭を打ったのか気絶した。
「さて、次は誰かな?」
「つ、強いぞー!」
「めちゃくちゃ強いんですけど、このマッチョ!」
「なんか手から光だしてるし!」
「当たると斬れるみたいだぞ!?」
ひそひそと相談をする黒スーツの男を見て、ふと思い当たる。
「そこの・・・銃を腰にはめたヤツ」
「え・・・俺か?」
「そうだ・・・お前だろ?九龍を撃ったやつは」
「ひ、人違いだ」
「・・・・・・いや、お前だ。俺が殴りつけた痣もある・・・それに」
「それに・・・?」
「・・・・・勘だ」
「勘ですか・・・」
「・・・・お前を見ていると、堪えきれない殺意が沸いて来るんだが・・・・・白状すれば、命は助けてやるが?」
「だ、誰が言うかー!!!!」
「言わないのか?」
「・・・・・・・俺がやりましたー!!!!な、生意気だったんでつい、カッとなって・・」
「そうか・・・・・・・・・・命は助けてやるが」
九龍を横目で見る。前方の敵に集中して気がついてない。
それを見て、内心安堵し、目の前の敵にニヤリと笑ってやった。いっそ、朗らかに。
「一生どころか、末代まで・・・・後悔しきれないほどの痛みを味わってもらおうか・・」
ボキボキっと指を鳴らすと、獲物に向かって掴みかかる。
「九龍を手に掛けたことを後悔するが良い」

「わわわッ!!!」

「九龍ーッ!!!」
背後に倒れかけて体勢を崩し、危うくスタンガンで気絶させられそうになったところを大声とともに腕を引っ張られて難を逃れる。
「あ、大和。ありがとー」
「いや・・それより、怪我はないか?」
背後で葉佩の隙を伺う黒スーツの男達を睨みつけながら、夕薙は優しく問い掛けてくる。
「大丈夫だって・・・・・・」
「どうした?」
「また、言われてるんだけど」
ほら、と指差した方角には、今の今まで夕薙と敵対していた黒スーツの男達がこぞってこちらを見ていた。

「いま、すごい急カーブしたぞっ!?」
「た、助かった!?」
「ボーナスさんの叫び声聞いたとたん、かくんと直角に曲がっていったような・・」
「しかも、すさまじい勢いで」
「スゴイな・・・瞬間移動したかと思ったぞ」
「なんか、『猫まっしぐら』とかいうCM思い出した」
「あーわかるわかる」

「あれは気にするな。雑音だ」
「う、うん・・・ん?や、大和ッ!」
きっぱりと切り捨てる夕薙に、少し恐れつつ視線を皆守の居る方へ向ける。そこには20人ほどの黒スーツの男達と、鬼に変生したままの喪部と対峙する皆守の戦う姿が見えた。
「なんだ?」
「甲太郎のほう、レリドン軍団殺到しててすごいんだけど・・・」
ほらほら、と指を再びその方向へ向けると、夕薙は何故か顎に手を掛けて笑った。
「あぁ、大丈夫だろう」
「えっ、でも」
「・・・・それよりも九龍、無理はするなよ?貧血を起こしているだろう?」
「あぁうん。大丈夫だって!」
「そうか・・・・?」
「もー心配性だなぁ・・・本当、大丈夫」
「・・・だと、いいがな」
呆れたように言いながらも、労わる言葉に、葉佩は嬉しくなって微笑んだ。

「また2人の世界だ」
「あの状態のときって、手だししにくいよなぁ・・・」
「したら、殺されそうだなーと・・」
「だよなー」
「何はともあれ助かった!ということで、俺は早退する!」
「支部長殿に殺されるぞー」
「じゃぁ気絶した振りするんで、後はよろしく!」
「お前がボーナスさん撃つから悪いんだろ!」
「お前時々急にカッとしてキレるよな・・お前は若者かよッ」
「うるさいッ!気にしてるんだ!!!」

「あぁーーっ!!!そこのおっさん!俺撃った人だー!」
葉佩の声に慌てて振り向く黒スーツ男。葉佩の背後で思い出したかのように殺意を出し始める夕薙を見て怯えた。
「人違いですー!」
「なにいってんの。さっき大和に白状させられてたじゃん」
「・・・九龍・・・お前聞こえて・・」
「そーゆーことで、天誅ッー!!!ちょいなー!」
ぶんぶんと三節棍を目の前で素振りした後、呆気に取られた男の顔面に容赦なく叩き込んだ。
「がふっ!!」
「んでもって、寝ときなさいねー」
更に三節棍をふるい、周囲に居た男達も巻き込みながら跳ね飛ばし気絶させる。
「九龍・・・」
「あのな、大和。俺の仇は自分で取る主義だから。俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど、な」
「俺は俺自身の信念の為に、怒り、動いているつもりだ」
「でもやり過ぎはダメッ!じゃないと、俺は無茶をしてでも阻止するからなッ!」
「・・・降参だ。当身で我慢しよう」
「うん。じゃぁ、片付けて、甲太郎を助けよう!」
「・・・・・おまえだけ・・・・さきに逃げるという選択肢は・・・」
「ないっ!あ、でも大和は先に行って、車をいつでも動けるように・・」
「それもないな。では、さっさと片付けるか」
「おぅっ!」
2人、背中合わせになり残った黒スーツの男達と向き合う。
少し遠くで、爆発音が聞こえたのはその時だった。


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