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捏造未来長編「九州ヘボハン漫遊記」
序章「桜とカレーとジャージと鬼」
その5


「・・・・お、おい・・・・やっとボーナスさん見つけたけど・・」
「こ、今度は別の男ですか・・」
「兄弟なんじゃねーの?」
「似てないぞ?」
「髭面だしなーマッチョだしよー」
「うぅぅぅ・・・・・・父さんは、父さんは、許しませんよ!そんな髭面は!」
「いつからボーナスさんが娘になったんだ!」
「ボーナスさんは娘にちょい似てるというか、年頃が同じなんだと」
「あ〜だからそう見えるだべか〜」
「しっかし、良い雰囲気だな!」
「だなー」
「だべ〜」
「なんか、さっきの台詞もすごかったよな・・」
「『あいつのところへは行かせないッ!』うぉ〜〜〜言ってみてぇ〜〜〜彼女がほしいー!」
「おい、山田、静かにしろよ。でもまぁ、言ってみたいよな」
「だなー」
「だべ〜」
「なんか、俺は兄貴と弟にも見えてくるけど」
「小さい子をよしよ〜しとする感じか?」
「そうそう。でもまぁ・・・・怪しくも見えるしなぁ・・・」
「なんか、さっき見た夢を思い出したぞ・・・・・げふっ」
「お、おい、オヤジ!また吐血かよ!」
「今度はどんな夢なんだよ・・・・・って、オヤジ、オヤジ!なんか息止まってるけど、おーい!」
「無呼吸症候群か?」
「それは寝てる間だろ・・」
「む、娘の目元をベロンと・・・なななな・・・めめめめ・・・父さんは、父さんは怒りの鬼となるッ!」
「あぁ・・・オヤジが復活した」
「オヤジフォーエバー」
「てか、オヤジも鬼になるのか・・・上司とお・そ・ろ・い、じゃん」
「娘よ・・・・・・先逝く父を許してくれ・・」
「発言撤回早ッ!死ぬほど嫌かッ」
「あの上司だしなぁ・・・」
「『僕の元へおいで・・』にてたにてた?」
「にてねぇー!」
「それより、おい、あっち、なんか赤くなってるぞ!?」
「マッチョマンは見とれてるぞ!?」
「なんか、ラブシーン見るの慣れてきたな」
「だな」
「にしても二股なのか!?ま、魔性の男・・・」
「・・・ん?あ・・・・・・なんかばれてるぞ!?」
「おい、なんか、やばいぞ!?」
「こっち見てるべ〜超みてるべー」
「む、娘よ・・・・・・」
「来たッ来たッ!!!総員回避ッ!」

「「「「オヤジバリアー!!!」」」」

月の波動による鋭い攻撃を一人の男が受け、ドサリと崩れ落ちる。
「父は立派に戦った・・・・ぞ・・・がくっ・・・」
がくり、と崩れ落ち気絶した男を、葉佩が心配そうに見ている。
「九龍!離れていろ!」
「え?この人達は大丈夫だと思うけど・・」
「お前を撃った仲間だぞ!?いかにも間抜けそうな連中だが、お前に害を成す前に潰しておくべきだ」
「こ、こぇええー!」
「ど、どうする?めちゃくちゃ怒ってるぞ!?」
「ぶっちゃけ俺達ぼろぼろだしなぁ」
「潰すっていわれてるべ〜」
葉佩を背に庇い、男達と対峙する。四人の男達はこちらを見ながら逃げ腰のようだ。
「俺の信念をかけて手加減はしない・・・殺しはしないが、九龍を襲ったことを末代まで後悔するんだな」
スッと両手を伸ばして、力を込めていく。
眼前の獲物はぶるぶると震えて四人でささえあって立っている。
「大和ッ!やめろッ!」
ぐいっと背後から腕を抑えられる。必死な声に振り向くと泣きそうな顔で首を振っている。
「九龍・・・」
「戦う気のない相手を攻撃するのはダメだよ・・・。それはお前の嫌いな、『一方的な暴力』でしかならないよ・・」
「・・・・・・・・」
「ダメッ」
暫し見詰め合う。眼が見えていないはずなのに、その瞳に宿る光は曇ることなく輝いていた。
その澄んだ眼差しはあの頃、天香の遺跡で対峙した時と変わらない。
(あの時も、こんな眼をしていたな・・・)
「・・・そうだな・・・。お前の言葉を信じよう」
「うん・・・ありがとう・・」
しがみ付いていた腕が離れる、嬉しそうに笑う葉佩を見つめた。
その笑顔も変わらない。仲間にしてくれないかと、口にしたときの笑み。
(そんなお前だからこそ、俺は・・・力になりたいと、思うんだ)
「・・・・おい、また見詰め合ってるぞ・・」
「あっちっちーラブラブだなぁ、おい・・」
「ボーナスさん優しいなァ・・助かったァー!」
「マジで死ぬかと思った・・末代まで後悔だぞ?半端じゃないぞ・・」
「だなー」
「・・しかしよぉ、・・・さっきから気になってたんだけどよ〜なんかボーナスさんの服がビリビリだぞ」
「怪我もしてるなァ」
「『撃った連中の仲間』って言ってたべ〜」
「げ、誰か銃で撃ったってことか!?」
「そいつ上司にそのことばれたら・・」
「ひぃぃぃぃ」
「怪我をさせない、事が第一種優先事項だったのに!」
「しかし服は誰が破いたんだ?」
「・・・・・マッチョ?」
「ありうる・・・」
四人はひそひそと頭を寄せて話し合っている。葉佩を時々見るが話しに夢中らしくその表情には気がつかない。
「・・・・・・おい、お前達、よっぽど地面が恋しいらしいな?」
ボキボキィと両手の拳の音を響かせた・・・・のは目の前で微笑んだままの葉佩で。
一瞬の間に、優しい笑顔から、悪寒がするような笑顔に変化していた。
「さっきから黙っとけば、俺が大和とラブラブだとぅ!?本当だけど、でもそんな邪推される関係じゃないんだぞー!」
(本当なのか・・・そうなのか・・九龍・・)
ラブラブなのか、そうなのか・・・と、遠い眼をしていると、葉佩は更に問題発言を重ねた。
「ついでに甲太郎ともラブラブなんだぞー!」
「・・・・・・九龍、お前の発言は更に誤解を深めるだけだと思うのだが・・・」
「ん・・?そうかな?いやでも本当のことだし!」
(本当のことなのかっ!?)
ツッコミを入れたいが、葉佩の墓穴に墓穴を掘る発言は今に始まったことではないので、放って置くことにする。
「ちなみに服は、大和が破いた!」
「や、やっぱりそうなのか!ボーナスさん!」
「ぐっ・・・ごほッ・・・・く、九龍・・・・おまえな・・」
『治療のために』とか『止血するために』という単語を思いきりすっ飛ばして、言い放った言葉に、何故か合点する四人組。
「うぅ・・・・娘の服を破くとはァ・・・許さんぞぅー・・・弁償しろぉぉぉー」
地面に倒れたままうめく親父を見て、夕薙は盛大にため息をついた。
(そういえば・・・学園に居た頃も多種多様な噂を聞いたな・・・)
目の前で出来ていく「誤解」という名の噂を、目の前で見ながら、顎に手をやり苦笑した。


「あぁっ!!それより甲太郎ッ!」
思いつき叫ぶと、走り出す――が、素早く捕まえられる。
「行かせないと、言っただろう?まったく、油断も隙もないな」
「うぅー!だって、モリリンだぞ!?大丈夫と思うけど・・・変態だしモリリン・・!」
「なら余計に行かせられないな。そんな危険なヤツのところへは」
「助け出したら、すぐ逃げるから・・」
「せっかく逃がしたお前がのこのこと戻れば、甲太郎が怒るぞ?」
「う・・・でもっ」
言葉ではとても夕薙に勝てそうにないので、捕まえられている右腕を振り回して放そうと試みる。
「こら!暴れるな!」
小さい子を叱るような言葉に、条件反射で竦む。
何故だか、夕薙に叱られると言う事を聞いてしまう自分が居る。
(きっと、心の中でこっそりと「兄」だと思っているからだ)
そもそも昔から、大人に叱られるのが苦手だったのも、あるのかもしれないが。
「あの〜〜〜ちょっと、いいべか〜?」
「なんか盛り上がってるところ、悪いんですけども」
「あ、怒らないでッ!!邪魔するつもりはなかったんですッッ」
「でも言ってないと、ボーナスさん切羽詰ってる感じだし」
おずおずと存在を一瞬で忘れ去っていた四人組が、話し掛けてくる。
「えっ・・・?――ッ!?」
思わず気を逸らした瞬間、強引に懐に引き寄せられ。身動きを取れないように抑えつけられた。
思わずムカッとなり、身体の前に廻された腕をつねって見る。
「それで何だ?」
平然と四人組の話を促す夕薙に、よくわからない妙な意地が自分の中で燃え広がった。
(こーゆートコ、初対面のときもムキーッときたんだっけ)
「えーっとですね、あの後」
「2人が戦って、そりゃもぅ激闘でした。不審者さんがうちの上司に勝ってて、内心グッジョブとか・・・は思ってないです、ホントです。ちくるなよぉぉぉ?」
「ちくらねぇよ!・・・で勝ったんですけど、上司は実は忍者でして!」
「鬼で忍者だったんです!」
「上司に恵まれなかったら・・・・とかいうCMが脳内を駆け巡りましてね・・」
剥き出しの腕の部分を、3本の指先で触れるか触れないかの・・うぶ毛に当たるくらいのところで、そぉぉぉっと開いたり、閉じたりを繰り返す。
(どうだー!くすぐったいだろう!)
「それはまぁ置いといて・・。上司は実は紙だったようで」
「紙・・・?」
「倒されたとたん紙になったんべ〜」
「紙にか・・・・ッ・・九龍・・・・。こそばゆいのだが・・・」
(お、これは効くのか!ふっふっふー!腕はずさないともっとするぞー!)
制止する言葉に悪乗りをする。更に広範囲を指先でくすぐる。
「紙になった上司・・・あ、なんか言葉だけ聞くとどっかの怪しい教祖にでもなったような感じだな!」
「それを見た不審者さんはご丁寧に、俺達を蹴り倒してどっかに走っていったんだよなぁ・・」
「痛かったべ〜」
「あとで叱っておいて・・・って・・・・・皆見るなッ!当てられるぞッ!?」
「九龍、やめてくれ、といっただろう!」
悪戯をしていた手を捕まえられ、耳元で怒ったように言われたが、黒スーツの男達が言った言葉に愕然とする。
「えっ!?甲太郎、走って行ったって!?」
何故か全員ぐるりと後ろを向いている。そのことを不思議に思いながら聞く。
「えぇ、そりゃもぅ、すごい勢いで・・・・」
「そうそう・・なので・・いちゃいちゃするのは後回しにしたほうが、いいかなーと」
「あぁでも、このまま行くと・・・」
「血の雨が降るかもだべ〜」
四人組がひそひそと何やら言っているが、気に留めてはいられない。
――喪部に勝ったという皆守。
――走り去ったという皆守。
無事だったことに安堵すると共に、伝えられた言葉の重要な部分に気がついた。
(や、やばいぃぃー!!!!)
「あぁぁっー!大和ッ!脱出ポイント!急いでいかなきゃ、きっと待ってる!」
「だから、あれほどそこへ行くぞと言っただろう・・」
「小言は後で聞くから!!!まっすぐ逃げなかったのがばれる!」
「まっすぐ逃げなかった上に大怪我して、その上戻ろうとしたことも、甲太郎には言うからな」
「うぇぇぇー!?お、鬼ッ!」
「鬼で結構だ。後で覚悟をしておくんだな。みっちり話をしよう」
「うぅ・・・・大和、まだ怒ってたのか・・」
「当然だろう?」

「・・・・・・・・あのバカどこ行った?」
脱出ポイントとして指定された場所へ来てみれば、そこには誰も居なかった。
周囲にも人影はない。
(場所を間違えた・・・わけでもないな・・)
5本の桜の木、そのうち一本は樹齢の高い木で盾看板もついている。フェンスの向こうは道路で、すぐそこに止めてある黒い車が目に入る。
この周辺は、道路に面しているので花見の客も居ないようだ。
「・・・ちッ!迷子にでもなってやがるんじゃないだろうな・・」
なんせ、眼が見えていない。方向音痴に磨きがかかっていてもおかしくはない。
(――喪部に捕まった・・・・か・・?)
ここまで来る途中、人気は少なくなっていた。逃げ惑う人々を見かけた。
「何か・・あったか・・・」
焦れるが、救いはある。ここに車があるとすれば来ているはずだ。
(大和と合流できてれば、いいんだけどな・・)
ここ以外の出入り口は張られているだろう。それを見越してここを脱出ポイントとした。
喪部と対峙し、緊迫した最中背中にへばりついた葉佩が背中に指文字で伝えてきた言葉。
『や・ま・と・む・か・え・く・る』
そして小さな声で付け足された言葉。
「道路が見える5本の桜のトコ。西フェンスんとこ・・・一緒に逃げよう』
(・・・・・・・戻るか・・・・?)
不安そうな声を思い出して、急に落ちつかなくなる。数歩歩いて周囲を見渡すが、人影すら見当たらない。
(・・・眼の見えないあいつを一人で逃がすんじゃなかったか・・・)
現れない姿に不安が積もる。
更に数歩、歩き見渡す。
ふと、気配を感じる。
(――ッ!?喪部!?)
木陰に立って何かを見ている。こちらの事は気がついているはずなのに、見向きもせずに、一心に。
その方向からバタバタと足音が近づいてくる。
「――!九龍ッ!!止まれッ!!!」
制止の声とほぼ同時に動いた喪部は、こちらを見つけて嬉しそうに走りよろうとしていた葉佩の腕を捕らえていた。
「うわっ!!」
「九龍!」
「九龍ッ!!」

「ククククッ・・・・やァ、九龍、捜したよ・・」
「その声、その気配ッ!モリリンだなー!?どこから沸いたーッ!」
「ふッ・・・沸くだなんて・・・下等な虫けらをたとえたような事を言わないでくれるかい?」
すさまじい力で引き寄せられる。ぎりぎりと骨がきしむような音が、掴まれている右腕からしている。
「・・・ッく・・」
「僕を不愉快にさせない方が良いよ・・・僕はまだキミを傷つけるつもりはないけど・・・・・・不愉快さのあまりに傷つけてしまうかもしれない」
耳元で囁かれる言葉に不快感を煽られる。自由になる足で蹴り飛ばそうとすると、片足を革靴で容赦なく踏まれる。
「いったっ!」
「大人しくしててくれないか?姫君」
「――ッ!こ、このッ!」
言われた言葉に腹が立って肘打ちをしようと肘を浮かせたが、それすらも抑えつけられて阻まれる。
「さすが僕の優れた遺伝子が認めた《宝探し屋》だ・・クククッ、そんなキミを僕は愛して止まないよ・・」
耳元で囁かれ、ぞわりと鳥肌が立つ。
(うひゃぁぁ〜〜〜ッ!き、気持ち悪いッッ!)
眉根を寄せ、身体を捻る。抑えつける力が増すだけで、身動きすら出来なくなっていく。
「・・九龍ッ!!・・・・喪部、そいつを今すぐ離せ・・」
(甲太郎やっぱり無事だったんだ・・・良かった)
低い押し殺した声で怒りを隠そうともしない皆守の声を聞いて、こんな状況だというのに、安堵した。
眼が見えれば、無事な姿も見れるのに、と残念に思う。
「そうだ。俺達2人を相手にして、逃げられると思っているのか?喪部・・・」
(うわ・・・・・・・すんごい怒ってるぞ・・・本気で怒髪天ボンバーだぞぉ・・末代まで後悔させられるぞーモリリン・・)
夕薙の声に、葉佩は萎縮した。
はっきり言って、本気で怒った夕薙を相手にするくらいなら、喪部を相手に戦ったほうが遥かにマシだと思う。
「・・・逃げ場はないぞ?前も後も抜かせはしない。抜けるとも思わないがな」
「逃げるとしたら、東側しかないが、むろん行かせるつもりはない。西はフェンスで行き止まりだ・・・諦めるんだな、喪部」
「ククク・・・アハハハハハッ!まったく、面白いな、キミ達は」
2人の言葉を静かに聞いていた喪部は、突然笑い出す。
「僕を囲んだだけで、追い詰めた気になれるとはね・・・ククッ・・まったくもって、愚かな『ナイト』達だな!九龍」
「――ッ!くぅっ」
拘束される力を増されて苦痛の声が漏れる。
顎をゾワリと撫でられ、不快感に眉根を寄せたとき。
「ッ!?」
瞬間、ぶわっと意識が飛ぶ。浮遊感が突如襲い、反射的に目を閉じて抱える持ち主にしがみ付く。
スタン、と軽い音がし、地面に足がつく。
何が起こったか、判ったのは、とても大事な2人の仲間の悲痛とも取れる叫び声を聞いたときだった。


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