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捏造未来長編「九州ヘボハン漫遊記」
序章「桜とカレーとジャージと鬼」
その1

「うぉっ平日なのに、この人出はなんじゃー・・」
思わず声に出してしまうほどの人波に、葉佩は呆気に取られて立ち尽くした。
入り口から頭上を彩るのは、桜の花々。春風に舞う桜の花びらが幻想的で、美しい。
しかし・・視線を桜の木元へやれば、あちらこちらにブルーシート。その上に群がる人々。遊歩道は行き交う人並みでいっぱいだ。
(サラリーマンも大変だなァ・・・)
周囲を見渡して目に付いたブルーシートの上にポツンと座り、桜をぼんやりと眺めているスーツをびしっと着込んだ男性や女性の姿を見て思う。
平日の午後3時過ぎ。
きっと勤務時間が終わるまで場所取りをしているのだろう。よくよく注意して見渡せば、同じように場所取りをしている人達が、飲食い騒ぐ人並みの中に見てとれた。
「こりゃぁ、探し出すのが大変だなァ・・」
もう一度周囲を見渡し、桜の木を見上げると葉佩は大きくため息をついた。

2005年4月12日。待ち合わせ場所の都内の公園は桜の花見見物で賑わっていた。
(うーむー、どうしたものか・・)
待ち合わせ場所は大雑把に公園内を指定したものの、細かい場所までは指定していなかった。平日なので人も少ないだろうと思っていたのだが、桜を愛する日本人の心を侮っていた。
腕時計を確かめる。3時12分。待ち合わせの時間は3時で、12分も遅刻をしていることになる。
(もう帰っちゃったりとか・・・してないよなぁ・・甲太郎・・)
待ち合わせの相手は、お世辞にも我慢強いとは言いがたい。いや、むしろ短気だろう。天香に居た3ヶ月の間に何度蹴られたことか・・。
(あいつの蹴りは痛かった・・)
きっと遅れた罰でまた蹴られるに違いないと、想像だけですでに泣きが入りそうな気分になった葉佩は急いでH.A.N.Tを取り出した。とりあえずメールを打って迎えに来てもらうほうがてっとり早い。
この人並みで無闇に捜し歩きまわれば迷子になるのは確実だ。
H.A.N.Tを開き、片手で文字を打ち込もうとした時だった。
「葉佩九龍、だな?」
「・・・・ギョェー!?」
「・・ぎょぇ・・?・・プッ・・ふ、振り向くなよ?」
背後から低い押し殺した声とともに、背中にあたる硬い物体。
『銃かな?』とか『いつのまに背後に!』とか思うこともなく、葉佩は純粋に驚いた。
それこそ心臓が口から出てきそうなくらい驚いた。
咄嗟にあげた奇妙な奇声に、背後の人物は不覚にも笑ってしまったらしい。声が笑いで震えている。
「ふ、ふ、振り向きませんッ・・・ってか、な、なんなん!?」
「・・・・・・・・落ち着け」
「ハイッ・・・それであのぅ・・・?」
「葉佩九龍だな?」
「はい、そうですよ。偽名っぽいけど、本名ですよ」
「本名だったのか・・葉佩の「佩」の字がなかなか変換出なくて苦労したぞ」
「スイマセン・・よく言われます・・・」
「まぁそれは良い。それよりも、葉佩九龍で間違いないんだな?」
「何遍も言われると、ペンネームとかハンドルネームとかっぽく聞こえてくるから嫌だなぁ・・」
「誤魔化すなよ?」
「いや・・・誤魔化すとかでなくてさ・・。間違いなく本人だから、続きをどうぞッ」
「お前に用がある。おとなしく付き合ってもらおうか」
「竹で?」
「は?」
「・・・・すいません。冗談です。お付き合いしますんでスルーしてください・・」
「竹・・・?あぁ竹で突き合うという意味か・・」
「冷静に解読してないでッスルーしてッ!滑った駄洒落ほど寒いものはないからっ」
「いや・・案外、面白いぞ?」
「そ、そうっすか?ちょ、ちょっと嬉しい・・かも?」
「よかったな、と和んでいるヒマはない!何も言わずに歩けッ!」
「はーい」
返事をしつつ、葉佩はニヤリと口元に笑みを浮かべた。
(甲太郎の伝言でも持ってる人かと思ったけど・・このネタへの返し具合・・・・絶対確実にレリックドーンだな!)
天香以来、レリックドーン《秘宝の夜明け》に対し、間違った認識を持ったままの葉佩であった・・・。


「ちッ、遅せぇな・・」
公園の広場のベンチ脇に立ち、皆守は苛立ったように携帯を仕舞いこんだ。
先ほど確認した時間は3時15分。待ち合わせの時間から15分も経過している。
(迷子にでもなってるんじゃないだろうな・・・?)
大いにありえる。あれでよく《宝探し屋》になれたなと、何度も思うくらい、葉佩はヘッポコトレジャーハンターだった。
今思い返しても、よくあの学園の遺跡を最後まで突破できたものだと不思議に思う。
遺跡の中で迷うのは当たり前、銃を壁に当てて兆弾させ、自分に当てて怪我をする、足元に爆弾を投げつけて大怪我をする、宝壷を壊して中身を手に入れられなくてへこむ、梯子を使わないで落ちてダメージをくらう、状態異常にかかって死線を味わう・・。
(・・・・・よく生きてたな、あいつ・・・)
振り返れば振り返るほど、奇蹟としか言いようがないほど、葉佩は毎度どこかしら怪我をしていた。
ふと、はらはらと舞い落ちる桜が目に入る。見上げれば白っぽい満開の花びらと、綺麗に済んだ青空がのぞく。

ザァァァー・・・

風の音ともに木々が揺れ、風に舞い上がる。
舞い散る桜吹雪が、解放されたあの日の雪に重なって見えた。
夜明けの、暁の光、解放の光。
二つの光に照らされてはらはらと舞い落ちる雪。
積もり始めた雪が照らされて、白銀色に輝いて。
『・・・・・・・・・・・・・・・生き・・・てて・・・・よかった・・・』
あの遺跡から双子の<力>で崩れ去る遺跡から生還して、呆気に取られた自分に葉佩はそう呟いて、抱きしめてきた。
静かで振り絞った声と、力のこもった両腕、歪んだ表情は、きっと永遠に忘れられないだろう。
言葉にこもるのは、生きていてよかったという喜び。
声にこもるのは、安堵の気持ちと泣きたくなるくらいの悲嘆。
表情にこもるのは、怒りと・・・・・・・。
すべての感情は、あの言葉に集約されていた。
『おまえが死ななくて、生きていてくれて、良かった・・』
自分の周りにずっとあった薄い幕のような殻が、壊れたような音がして。
白銀に輝く世界が夜明けとともに広がり、モノクロに見えた世界が瑞々しい彩りを持つようになった。
空も、大地も、緑も、以前は硬質な背景にしか過ぎなかった。
それが今では・・・。

(ちッ!あいつが遅いから妙な考えに・・・)
頭を振って思考を切り替える。
今日この場所と日時を指定してきたのは、他でもない葉佩九龍本人だ。
ドタキャンされることはないだろう。・・・多分。
(・・・・メールくらい、よこせッ)
もう一度携帯を取りだし、メールを確認をしようとした時だった。
「おーすっごい桜と人だなぁ〜」
(・・・・この能天気な声は・・・・・)
急いで声の方向を見れば、数十メートル離れたところに葉佩は居た。
「やっぱ桜って日本人の心を刺激すると思いません?」
(・・・・・・電話でもしてるのかと思ったが・・?誰と話してやがるんだ?)
桜の木に邪魔されて姿が見え隠れする。どうやら移動しているらしいが。
面倒くさいが呼び寄せるか、と一歩踏み出し見えた葉佩の姿に口を閉ざした。
葉佩はぶつぶつとしゃべりながら、歩いていた。それは良い。
問題はその背後にピタリとくっついて歩く黒いスーツに黒いサングラスという怪しい出で立ちの若い男だ。
(・・・・・・・・・まさかな・・・)
ふと横切った考えから意識をそらす。考えたくもない。
そう・・・こんな事を考えるのはとてつもなく嫌なだのだが・・・その姿はまるで満員電車で痴漢をするような姿に見えたのだ・・。
最近では男でも危ないと言う話は耳にするが。するが・・・しかし・・・・。
(・・・・?)
よくよく見れば、葉佩とその怪しい男を見ているのは自分だけではなかった。
「・・・ちょっとあの二人怪しいんじゃない?」
「あのひと男よね?あの子も小さいけれど男のコよね?満員電車でもないのにくっついてるなんて、もしかして痴漢!?」
「ちょっと警察呼んであげた方がいいんじゃない?」
「かわいそうにあの子泣いてるわ」
(・・・・泣いてる・・・か・・・?)
通行人の言葉に葉佩をじっくりと見てみるが、当の葉佩は眼にゴミでも入ったのか立ち止まってこすっている。背後霊のような男もピタリとくっついたまま立ち止まり、甲斐甲斐しくもハンカチを差し出していた。
「あら?意外とやさしい?あっ!もしかして、ボディガードとお坊ちゃまってのはどうかしら?」
「でもあの子、そんなに良いものは着てないわよ?アディダスのジャージじゃない・・。」
(・・・・・・・あいつはまだジャージを着てるのか・・・・・)
確かに葉佩はジャージ愛好家とか自称しているだけに、持っている服もほとんどジャージだった。
天香時代は、学校指定のジャージを5着以上持ち、常に着ていたのを思い出す。
「あ、行っちゃった。痴漢とかじゃなかったのかしら?」
「そうねぇ。でも知り合いや付き添いとかでも、あの距離は怪しいわよね」
「最近はその手の話も人も増えたしねぇ」
世の中には、男がすきだとか言う種類の男も、居るし居たが・・・と思わず朱堂の顔を思い出して、心底嫌そうにため息をついた。
「追うか・・・」
前を歩く葉佩たちから少し離れて、皆守は歩き出した。
(ちッ・・・・・面倒なことにならなければいいが・・・)
そう思いながらも、自然と浮かんでくるのは笑み。
変わらない葉佩の姿が、嬉しかった。


背後から押されるように歩いて、たどり着いた場所は桜の木もまばらで人気もない公園の片隅だった。
(人払いでもしてるのかなー?)
周囲を眼だけで見渡す。周囲に気配が・・・。
(3人?4人?・・・・全部で5人か・・)
壁際に押され、ようやく振り向くと。自分の背後に居た人物と目が合う。
(うわ〜〜〜ッめっちゃ怪しいぃー!すげーっ!)
全身黒のスーツに黒いサングラス、そして黒い帽子。ここまで怪しい格好をした人物を見たのは初めてかもしれない、と葉佩は感動した。
ここまでの道のりでさぞ目立ってたことだろう。はっきり言って、周囲から浮きまくっている。スーツ姿の人間も沢山居たが、まるで葬式にでるようなスタイルで花見にきている人間は居なかった。
「葉佩九龍、ここまで大人しくついてきたということは、我らの用件も知っていると思っても良いな?」
「え?何の事?」
とぼけたように答えると、周囲に散っていた気配が退路を断つように回り込んできた。
全員見事なまでに、同じ格好だ。怪しい集団である。
自分の立ち位置を把握する。背後にフェンス、前方は木と茂みで囲われている。
(とすると、両横どっちかだな。正面の茂みを乗り越えても良いけど、こけたら最後だしな)
ここまで逃げずに、大人しくついてきたわけは、人ごみの中で抵抗をすれば大騒ぎになるだろうからで。
今の日本でそれは、テロと思われても仕方がないご時世だ。
(それに・・・甲太郎にばれちゃうと・・・なぁ・・。せっかく久々に会うんだし。目的が目的だしさ・・。穏便にすませたいじゃん)
「とぼけるか・・・それは身のためにはならないぞ」
「まぁまぁ、そんなにいきり立ちなさんな。どうせあれでしょ?秘文のこと、だろ?」
(んと、右側に2人、左横に一人、正面に一人、か・・。もう一人はどこだ・・・)
気配はするのだが、最後の一人は姿を見せない。
「そうだ。無用な怪我をしたくなければ、大人しくしてもらおう。暫くすれば迎えが来るのでな」
(・・・・まずいな・・。これ以上増えるとさすがにとんずらもキツイかも)
もう一人の場所さえわかれば、逃走ルートも決まるのだ。逃げ足には自信がある。
「まぁ痛いのは嫌いだしなぁ・・・。ところで、おじさん達って何者なん?」
「・・・とぼけているのか?」
「いや、こんな新米の子供だぞ。本気で知らないんじゃないか?」
目の前の男の言葉に、答える者が居た。正面の男の後方から歩いてくる。
(----5人目!)
葉佩はその姿を見とめ、口元に笑みを浮かべた。
(子供だと思って甘く見てるんだな・・・・。よしっ作戦開始ッ!)
「うぅ・・・・。新米とか子供とかッ!俺気にしてるのにぃー!」
しょぼん、とした風に肩を落とす。視線を足元に落とし、張っていた気を抜いて無防備を装う。
「確かにさ。俺あんたたちが何者か知らない。秘文が狙われているのは教えてもらったけど、誰に、とか全然教えてくれないんだよ!ありえないよね!?」
「そ、そうだな・・・」
勢い良く顔を上げ正面の男をじっと見る。男は少々怯んだようで、どことなくこちらを心配そうに見ている。
(多分この人、兄弟が居るっぽいな!?)
直感で覚る。そういえば、ここに来るまでに眼にゴミが入ってこすっていたらハンカチを差し出してきたりと何かと面倒見がよさそうな風だった。
(ねらい目、だな)
「協会もケチくさいんだよな・・。未だにバディの仕事を依頼してきたりとかするし」
「ふむ」
「あちらのハンターのバディが病気だからとか、こっちのハンターのバディが怪我したから、とか言ってさ!」
「どこも大変なんだな」
「うちもそういえば、そうだよな・・。日本中心活動契約なのにやれアメリカいけとか、韓国いけとか」
「うんだぁ〜、おまけにぃ〜給料もぉ〜支払日すぎてから〜とか〜多いべなぁ」
「俺なんか、先月のミッションの報酬、明細全然あってなくて文句言ったら計算ミスだとよ」
ターゲットである自分が無防備だからだろうか、他の男達も話に乗ってきた。
(チャンス到来!だなッ)
活き込んで失敗した。

「大変なんだな〜レリドンもー」

「「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」」

「あッ!?やばっ!」
「小僧・・・」
「貴様」
「レリドンって略すのかぁ・・丼物みたいで変じゃねぇ?」
一人着眼点が大幅にずれた男が居るが、ツッコミをいれる余裕はない。
すでに周囲の男達は、戦闘態勢に入っている。
「小僧、お前とぼけていたな?」
「あははー。いや、前にそんな団体さんのお名前を聞いたのを思い出しただけで・・・」
「・・・・葉佩九龍、やはり無駄口をたたいている暇はないようだな。暫くの間、寝ていてもらおうか」
「あははははははーーーー・・・やだなぁ、おっさん、その物騒なものは何よ」
「スタンガンだ」
懐からスタンガンを取り出すのが2名。
「麻酔銃だ」
腰に隠していたらしい麻酔銃を取り出すのが2名。
「昏睡薬いり注射器だ」
「ッ!?ちょっ!?注射器はヤバくない!?」
慌てて注射器を構える男を見る。
(うわぁ・・・目がやばいよー)
思わず後ずさると、その視線に気がついたスタンガンを構える男が
「こいつはその手の危ないモノのマニアなんだ。これでもまだマシなほうだぞ?」
と真顔で話す。一体他にどんなものが・・・・・と口にしたらおしまいのような気がして葉佩は目をそらした。
(うぅ、ともかくヤバイのねー)
気を取りなおし、身構え・・・・行動を起こした。
「先手必勝ーっ!!!!」
地面につくくらいに低くしゃがみこみ、正面の男に足払いを仕掛ける。
驚いて他の男達が動く前に、葉佩は足を払われ倒れてきた男の脳天に容赦なくかかと落しをくらわせた。
「まずは一人討ち取ったーッ!」
「このッガキがッ!!」
バッシュ!と音が鳴る寸前、葉佩は前転し飛んで来た麻酔針を避ける。ゴロリと一回転し、スタンガンを構える男の足元にすばやく移動すると、両手で地面を跳ね、その顎目掛けて下から蹴りを上げる。
「よッと」
「ッガッ!」
当たるが、浅い。痛みに仰け反った男に追い討ちを仕掛けようとするが
「うわぁっ」
「痛くないですよぉ〜」
「なッ!?へ、変質者っぽいよ・・?」
注射器を突き刺されそうになったので、背後に飛んで距離を置く。
(ちょっと、ちょっと待てっ!?こいつ気配しなかったぞ!?)
危ないモノマニアは、不気味な微笑みを浮かべて隙を伺っているようだ。
「小僧、大人しくすれば許してやるぞ」
「ぐ・・・・ゆ、ゆるせるかッ!舌を噛みそうになったんだぞ!?」
「大丈夫〜舌噛んだら一瞬で治る薬があるだべよぉ〜」
「つ、謹んで辞退しますッ」
「おい、戯れている暇はないぞッ!こいつを逃したら俺達の春のボーナスはないッ!」
「な、なんだって!?」
「マジ?」
「そんな・・・・ボーナス当てにしてたんだぞ!?娘が今年高校生だから物入りだったんだぞ!?」
「最近の学校の制服もバックも教科書も高いからなァ・・」
「昔に比べたら素材からして違うしな」
「にしてもお前・・そんなに大きな娘さんが居たのか」
「あぁ、嫁さんに似て美人でよ〜お父さんは毎日、いつどこの馬の骨が手を出してくるかと心配でよ〜」
「おいおい、そういうけどな。お前だってその嫁さんの父親からすれば馬の骨なんだぞ?」
「うッ・・・そりゃーそうだけどよ・・・・なんかそう言われると馬の骨の気持ちがわかるっていうか・・」
「まァまァ、あとで花見でもしながら一杯やろうや」
「だなぁ。俺達だって酒飲んで騒ぎたいよなァ」
「と、言うわけだ・・・大人しくお縄になってもらおうか」
「・・・・何逃げようとしてるんだ、小僧!」

「えッーえーとぉ・・・ばれちゃったか・・・」

葉佩は四人の男の、突如として始まったマシンガントークにこれ幸いとこっそりと逃げようとしていたのだが。
やはり目の前で堂々とは無理だったらしい。当たり前だが。
「あははー皆さん、怖い顔だなぁ〜ハイッ笑ってぇ〜」
「誰が笑うかッ!!小僧!いや、春のボーナス!逃がさぬぞ!者どもかかれぇー!」
「「「覚悟!春のボーナス!!」」」
「誰が、ボーナスじゃいっ!って、うわぁっ!?あぶなーぁ」
(麻酔銃がやっかいだなぁ・・・)
突進してきたスタンガンの男をかわす。銃を持つ一人は初めに潰したが、もう一人持つ男が居る。
スタンガンはリーチが短いので、回避しやすい利点がある。
残る注射器は・・・。
「痛くないだよぉ〜」
不気味な笑みを浮かべて・・・
「・・・・・・・なんで注射器が増えてんの・・・」
思わず呟いた。危ないモノマニアは両手に注射器を持ってニタニタを笑っている。
(とりあえず、可能なら武器は遠距離系の武器は潰して、逃げる、だな)
本当は全員ぶちのめしたいところだが・・・。
騒ぎを起こせばきっと。
(甲太郎が般若顔になって蹴ってくるに違いない・・・)
想像しただけでやっぱり泣きが入る葉佩であった。


「・・・・・・・・アホか」
怪しげな出で立ちの男と葉佩を距離を置いて追いかけて、皆守は木の陰に気配を消したまま一部始終を傍観していた。距離としては葉佩から3メートルも離れていないのだが、誰一人として気がつく人間は居なかった。
視線の先には5人の黒スーツの男達。そのうち、一人は気絶しているが。対する葉佩は低い姿勢のまま身構えている。
一見して真剣なやり取りに見えるが、聞こえてくる話の内容はバカバカしかった。
危うそうならば助けに入るかと、ずっと見ていたのだが・・。
(・・・何が春のボーナスだッ・・・帰るか・・)
ボーナスがどうのこうのと叫んでいる集団を見て、本気で帰ろうかと考え込んだときだった。
「あッ!いッッッたぁぁいィーーっ!」
「ッ!?」
悲鳴に、慌てて視線を上げると、葉佩が注射器が刺さった左手を振り回して痛みに悶えていた。
親指の付け根に刺さったらしく、なんとかはずそうとしている葉佩の隙を見逃す奴らではなかった。
「んげッ!」
膝をつき、無防備な葉佩の首筋にスタンガンが迫る。
葉佩は顔を上げるが、動けたのはそこまでだった。
「こッの、バカがッ!!!」
(間に合え!)
初動は遅くはない。葉佩が刺された瞬間に走り出していた。
だが・・・葉佩を庇い、攻撃に移る動作をする暇がない。
咄嗟に把握すると、皆守は葉佩の肩目掛けて飛び蹴り容赦なく食らわせた。
「んぎゃぁぁっ!?」
ズガン!と鈍い音がし、葉佩が木に激突する。
それに目をやる暇もなく、続けざまに、攻撃動作へうつる。
とび蹴りを放った勢いのままの不安定な体勢のままスタンガンを構えていた男の、突然の蘭入者に呆気に取られて隙だらけの頭目掛けて、上段蹴りを放つ。
フワリと濃い紫のジャケットの裾が舞う。
「ぐぉッ!」
葉佩同様吹っ飛ばされて、男は桜の木々に突っ込んだ。
「お、おいッ!?誰?それより!怪我させちゃマズイんじゃなかったっけかー!?ボーナスさんー!生きてるかー!」
「な、何奴!?それよりも娘の学材費用が!!!」
「ボーナスがぁぁぁー!大丈夫だべか〜!?」
驚く残り3人の男達だが・・・。
「・・・・・自分達の心配をするか、仲間を心配しろよ・・」
思わず追撃の手を緩めて、そう呟いたのだった・・。

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