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捏造未来長編「九州ヘボハン漫遊記」
序章「桜とカレーとジャージと鬼」
その6


喪部の気が狂ったかのような嘲笑の後、その姿は忽然と消えた。
「九龍ッ!!!!!」
皆守の声に、その本人を反射的に見る。彼は上を見て叫んでいた。
(――上かッ!!!)
見上げると、上空高く飛翔した喪部が、ゆっくりとフェンスの向こうに着地した。
掻き消える鬼である証の角。
「九龍ッ!!!」
「九龍ッ!」
フェンスに駆け寄るが、その1メートル程手前で皆守は急停止した。
その傍らに並ぶ。
「――ッ!卑怯な・・・」
ぎりッと思わず唇を噛み締める。
フェンスの向こうに降り立った喪部は葉佩の頭に銃を突き付けていた。
威嚇だろう。だが近寄れば、こちらを狙ってくるに違いない。
「クククッ・・・どうかな。形勢はあっさりと逆転したようだけど・・・・感想を聞きたいものだね」
「九龍を・・・どうするつもりだ・・」
硬質な皆守の声。彼の怒りは根深くなるほど、静かに静かになっていくようだ。その静けさこそ、恐ろしいと夕薙は思う。
「ククッ・・・いい質問だ。キミ達の姫君は・・僕と共に来てもらうが・・その前に」
がしゃん、とフェンスに葉佩の身体が叩き付けられる。もう一つ微かな音に夕薙は気がついた。
(・・・・・この音は・・・・)
「っあっ!」
突然の衝撃に驚きうめいたその身体を、フェンスに喪部は両手で縫い止める。
「九龍ッ!」
「貴様ッ!」
その動きに、意識を引き戻し、叫び、拳を握る。
両手を抑えつけられ、拘束される姿が、あの日の無力な自分に重なって見える。
(ヤメロ・・・ヤメロッ!!!)
白くなるほど、握り締めた拳から血が滴り落ちた。
「クククッ・・・痛みに顔を歪ませるキミは、最高にいいよ・・九龍」
「この・・・ッ・・・変態ッ」
「九龍、キミの身体を僕によく、見せてくれないか・・・?」
「うッ・・・・せ、セクハラ!?」
「おどけてみたって無駄だよ、九龍。キミが嫌がること、痛がること、全て僕はやって見せるよ・・ククッ」
「うぅ、キモイ、キモイィィィーてかその発言ありえねーぇ!」
「言葉責めが苦手なんだね?いい事を知ったよ・・」
「あう・・・・うぅ・・勘弁してくださいッ・・てかじゅーぶん、言葉責めしてるからッ!!」
「・・・・・ところで、コレはどうしたんだい?」
「え・・・ぎゃぁっ!痛い痛い痛いー!」
怪我をした左腕の怪我の部分を喪部は容赦なく握り締めていた。痛みに、暴れ出す葉佩を難なく押さえつける。
「暴れると、もっと酷いことをしてしまうよ・・?九龍」
「うぅぅ・・・痛い痛いよー」
痛みに竦んでいる葉佩を愉快そうに眺め、その上着を両肩からすべり落す。
ビリビリと腹の辺りが破かれた無残なシャツを見て、喪部は不愉快そうに眉根を寄せた。
「そのシャツは僕の美意識に反するが・・・まァ良い・・どうせ脱ぐんだからね・・」
「痛い痛い・・・って、え、何それ、何その問題発言!!」
「キミが秘文の在り処を教えてくれれば、全部脱がなくてすむよ・・」
「ちょ、おい、待てよッ!?もしかして言わなかったらここで、剥くの!?」
「・・・・キミはもう少し自分の立場を考えたらどうだい?」
不愉快そうに眉根を寄せた喪部は、左腕の傷を苛んだ。
「え・・ってあッ!痛いッ!本気で痛いッ!サドサドッ!!ぐりぐりすんな!」
「キミは本当に・・・・どこまでも口が減らないんだね」
「やめっ、痛いッ!!!ごめんごめん!許してー!いたいー!」
「そう・・・ククッ・・初めから大人しくしていれば、大事にしてあげるよ」
喪部は恥も外聞もなく許しを請うた葉佩を、愉悦な笑みを浮かべ見ながら、その血を舐めた。
「キミの血の味は高級なワインよりも美味だね・・ククッ」
傷を強引に開けさせられたそこは、どくどくと血が溢れ滴り落ちている。
(九龍ッ!!!)
ぎりっと、唇を噛み締めた。
「どうやら僕のところの下等な連中が、やったようだね・・・・九龍、キミの身体を勝手に傷つけたヤツはすぐにでも始末をしよう・・」
「何を言って・・・?」
「明日にでも物言わぬ腐れた身体になって、海に沈んでいるだろうね・・」
「お前・・・自分の部下を・・殺す気か!?」
「部下・・?使い捨ての駒でしかない連中のことかい?所詮は無能な集団さ」
「だってあいつらは、お前のことを上司だと思ってつくし・・・ぐっ!?」
首を握り締められて葉佩は息を止めた。
「・・・・僕はその手の言葉は虫唾が走るほどに嫌いでね・・口にするやつも衝動的に消したくなるんだ・・・」
「ぐっ・・・あっく・・るっし・・」
「やめろッ!!!」
「九龍ーーっ!」
首から手を離したとたん、ドサリとフェンスにもたれ掛りながら崩れ落ちる。
はぁはぁと、酸素を吸い込んでいる、その首にはくっきりと手形が残った。
その身体を喪部は強引に引き上げる。
「さぁ・・九龍、その身体に刻まれた秘文を見せてもらおうか・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・」
「生憎と、脱がせる趣味はないんだ。秘文の在り処を言わないのなら、脱いでもらおうか・・」
「はぁ・・・ぬ・・がせる・・趣味まで・・・あったら・・・世間様に公表してやったのに・・・」
「まだ減らず口を叩けるのか・・・クククッさすがだよ、九龍」
生意気そうな口を利きながらも怯えた様子に、喪部は嘲笑を浮かべ笑った。


(・・・・銃を、手放したな・・・)
それに気づいたのは、2人同時だったようだ。
夕薙も、緊迫し溢れ来る怒りに視線で人を殺しかねないほど殺意の篭った眼差しで喪部をみているが。
銃を手放し、喪部が落した瞬間夕薙の視線が銃に落ちていたのを感じた。
完全に有利な立場に立っていると思っているらしく、喪部は葉佩の身体をフェンスに押しやった瞬間、銃を落していた。
優越な立場に酔っている喪部は気づくまい。
誰よりも何よりも、油断ならない相手は、その身体で抑えつけている葉佩九龍本人だと言うことを・・。
(九龍・・・お前なら、最後の最後まで、諦めないだろう)
その身体もその心も、何からも、守りたいと思う気持ちは本当だ。今の自分の糧だとも思える。
だが・・・。弱そうに見えて、どこまでも粘り強い彼の姿を知っている。
どんな逆境でも、覆して勝利を掴む彼を何度も見てきた。
きっと彼なら・・・起こしてくれるはずだ、奇蹟という名の大逆転を。
(・・・・九龍・・・)
その背中を見る。痛みに苛まれている姿が痛ましい。
「ころしてやる・・・ッ」
小さく呟く夕薙の声の暗さに、その怒りの大きさを知る。見なくても、怒りに全身を漲られた夕薙の気配が伝わってくる。
チャンスはわずか一瞬だろう。
皆守は怒りを静かに静かに、水面下に押し込むと、身体の立ち方を変えた。
夕薙がこちらを一瞬だけ見る。
「――ッ!いたいっ!」
強引に怪我の部分を掴まれ、悲鳴を上げる葉佩の声に、そちらを見る。
「クク・・・ッ痛みに泣き叫ぶキミの姿・・・イイね・・・実にイイヨ・・」
「そりゃ痛いから泣くさー!うぅッ・・・・今度合ったら豆ぶつけるからなッ!」
「今度・・?面白いことを言うね、九龍。キミはこのまま連れて行くつもりだ。帰しはしない」
「なんか・・なんか・・・俺が危ないッ!俺逃げて!」
「ククク・・ッ逃がしはしないよ・・」
「秘文のトコ教えるからさ・・・もうちょい離れてぇーっ」
「ようやく観念したんだね・・キミの抗う姿が見たかったが・・・」
スッと下がる喪部。葉佩は再度ずるずるとその場に座り込んだ。
「うぅ・・・出血多量で目が回る・・・」
「丁度迎えの車もついたようだ・・さぁ九龍、キミの秘文を見せてくれ」
車の音がし、喪部達の近くで停止する。
「あ、普通の車じゃん・・・バスで団体さんで来たと思ってたのに」
「キミの鋭い観察眼はどこへ行ったんだい?」
(元からないだろ・・・・そんなもんは。こいつはボケボケとあるがままに人を信じて疑わないヤツだぞ・・・。あればそもそも、こんなところでピンチにはなってねぇだろ・・)
思わず心の中でツッコミを入れる。
言われた葉佩も、少し眼を見開いている。その眼が何かを見た。
(・・・眼が・・・見えてるのか・・・車が見えてるようだしな・・)
「・・どこ行ったんだろ・・行方不明になったまんま戻ってこない感じだよ、俺の観察眼」
「謙遜してるのかい?キミは僕の優れた遺伝子で認めた《宝探し屋》だよ・・ククッ・・・それをもう少し誇りに持って欲しいものだね」
「どういたしましてッ!・・・で?」
「・・・・素直なキミに教えて上げよう。車は三台あるんだよ」
「・・・へぇ・・・」
「勿論キミには僕と同じ車に乗ってもらうけどね・・・さぁ、下らない話はそこまでにして秘文はどこだい?」
「そんなに今見たいのか?後でゆっくりでも良いんじゃない?」
「僕が知らないとでも思っているのか?秘文は、持ち主が気を失っていると現れない・・そうだろう?」
「よく知ってるなぁ・・・。そうだけど、車の中とかで見れば良いじゃん。俺こんなところで脱ぐの嫌だし」
「そんな事を言って、ロゼッタに応援でも頼むつもりだろう?移動中は悪いけれど寝てて貰うよ」
その時フェンスに背中を預け、座り込んだ九龍の、血を流しダラリとたらしたままの左手が動いた。
くいくい、と手招きをしている。
(――合図!)
喪部を睨み付けたまま、観察する。
喪部は葉佩との会話に酔っているらしく、自分と夕薙を意識すらしていない。
恍惚とした顔で葉佩を見つめている。
(――吐気がするッ・・)
じりじりと胸の底で焼け付く苛立ちを抑える。目の前にだけ集中する。
隣の夕薙も、殺意を隠そうともせずに、睨み付けているが、合図に気がついたのか、身体の立ち位置を気づかれないように移動させた。


「そうかぁ・・・じゃぁ・・・良いよ・・はぁ・・・血が、流れすぎて朦朧としてきたから・・・見るならさっさとしてくれ」
投げやりな言葉に、喪部は愉快そうに笑う。
「クククッ・・・・愁傷なキミも、可愛げが合って良いね・・少し物足りないけど、ね」
この位置からは葉佩の顔は見えないが、喪部によって開かれた傷から流れる血は止まっていない。
力なくたらされた腕は、血まみれだ。
(九龍・・・・ッ)
見ていられなくて、目を背けたい・・・が、一瞬のチャンスのために。
痛みに震える何よりも大事な友の姿を見つづけた。
傍らの、皆守もまた、九龍からの合図を受け取りいつでも動けるように身構えている。
「秘文の在り処は・・・」
葉佩は静かに怪我をした腕を持ち上げる。
「こっちの腕の・・・ッッ・・・お前が、傷を無理やり開かせるから・・・すんげ、痛いッ・・」
喪部は痛そうに歯を食いしばり、シャツを腕から抜こうと悪戦苦闘する葉佩を見ている。
「・・・キミが痛みに苦しんで涙を浮かべる姿は・・」
「それはさっきも言ったッ!!何度も言わないでいいッ!それよりさ、このシャツ破いてくんない?そっちが早い」
「・・・フン、僕に頼み事かい?・・・まァいいさ、その顔色だとそろそろ気を失ってもおかしくないからね」
「判ってるなら・・・はぁ・・・急いでくれない?」
「・・キミを僕の隠れ家へ招待するよ・・キミもきっと気に入るはずだ」
何かを想像し、残忍な笑みを浮かべ喪部は葉佩のシャツに手をかけた。
ビリッと布を裂く音と・・。

「――ッ!!?」
ズガーンッ!!

一発の銃声の音がし、喪部が肩を抑えて背後に倒れ込む。
「バカだなぁ、手負いだからって油断しすぎだよ、モリリン」
葉佩が銃を右手に構えたまま立ち上がる。
「グッ!?」
体勢を整えようとする喪部を、葉佩は容赦なく撃つ・・が、背後に跳ばれ、かわされる。
「甲太郎ッ!!!」
大声で呼び、フェンスの近くで両手を前で組み歩幅を広げる。
「行けッ!」
「あぁ」
一言で通じる事に、どこか嬉しさが込み上げてくる。
両手を組んだ手に、足をかけるのを待ち、投げるように持ち上げる。
その勢いを借り、ジャンプする。高飛びの要領で背を逸らしぎりぎり跳び終えると、地面に綺麗に着地した。
葉佩は、喪部に銃を突きつけたまま目をそらさない。
その左斜め前に、皆守は立ち葉佩の動かない左側を庇うように身構えた。
「ククククッ・・アハハハハッ!面白い、面白いよ!九龍!さすが・・・さすが僕の愛して止まない《宝探し屋》だね!」
「俺は寒くてキモくて仕方がないけどな、変態め」
「いつのまに銃を手に取ったんだい?僕としたことが気がつかなかったよ・・。ククッ、僕の意表を突くなんてね・・」
緊迫したやり取りの中、フェンスをよじ登る。
2メートル程度のフェンスは、意外と登りやすい。
上まで上ったところで、ふと周囲を見渡した。
「九龍・・・囲まれているぞ」
「判ってる。てか、とっとと、降りてきてよ、でっかいマッチョなおサルさん」
その減らず口に、眉根を寄せた。
急いでその傍らに降り立つ。
「・・・・ひどいな・・・よっとッ!俺はお前を心底から心配していたのに・・大丈夫か?」
「大和には隠し事できないなぁ・・・わはは」
「お前は・・・辛いときほど、軽口を叩くからな・・・」
心配をかけたくなくて、悲しいときは笑い、苦しいときは楽しげに、辛いときは何でもないように軽口を叩く。
それを見るたびに、胸が締め付けられるほどに苦しくなる。
肩を叩いて大丈夫だと、もっと心配をかけたって構わないんだと、言ってやりたい。
それは重荷でもなんでもないのだから。
けれど、今は。
(今は、感傷に浸る間はない・・)
「喪部・・・九龍の味わった痛みの分、痛みつけて、・・・殺してやるッ」
「あぁ・・・悪いが、俺は最高に頭に来ている・・本気で行く、覚悟を決めるんだな、喪部」


斜め前にそれぞれ庇うように立つ2人の背中を見て、葉佩は悲しみを感じた。
(・・・・殺すとか、そーゆーのは、ダメだ・・)
2人は、本気で心底から『自分のために』怒ってくれている。
(嬉しいけど・・・なんだろう・・・だめだよ、やっぱさ)
2人から伝わってくる殺意は本物で、彼らは本気で目の前の喪部を殺すつもりで立っている。
(2人は優しいから・・・相手がどんなヤツでも・・きっと・・)
きっと苦しむ。
そして自分の前では、何でもない風を装って笑うのだろう。
(俺はそれだけは、全力でやらせないッ!)
痛みと失血に朦朧とする意識を、意思の力で引き戻す。
絶対にここから2人を、身体も心も無事のままに逃がす。
(――なんたって、2人は秘宝扱いの・・・・親友達・・・だもんな!それを守るのが俺の仕事だッ!)
彼は顔を上げ、おぼろげに見えている喪部を見つめたまま、不適に微笑んだ。
「・・・・・甲太郎、大和、2人とも下がってろ」
「ちッ!何いってやがる!」
「そうだ、九龍。お前の怪我は・・ッ!」
「あのね?きいてね?俺は、こいつのセクハラにドタマに来てんの。こいつのセクハラトークに俺の繊細な少年の初心な心が大怪我なのッ!わかるかー!?良いからそこをどけぇぇいッ!俺が相手をするんじゃーッ!」
一息に言いきったとたん、行動に出る。
きっと、すぐに身動きが出来なくなる。
「俺を本気にさせたな、こんにゃろーっ!」
ザザッと前に踏み出す。喪部も予想をしていたのか余裕の笑みを浮かべ身構えている。
ズガンッガンッと避けるのを想定して銃を撃つ、予想通り避け、わざと作った隙を作り敵をおびき寄せる。
「クククッ、動きがぎこちないね・・どうしたん・・・ッ!?」
「お前こそ、甘すぎなんじゃないの?不二家のケーキより甘いぞッ!!」
おびき寄せた獲物に、容赦なく左手で振るった三節棍で容赦なくその顔面を殴打する。
左腕からすさまじい痛みを感じるが、かまわずに追撃を加える。
「――ッーグッハッ!!!」
三節棍の、極めとも呼ばれる連撃をお見舞いし、最後の一撃で吹き飛ばす。喪部は受身も取れずに、地面に激突した。
「はぁ・・・はぁ・・ざ、ざまーみろっ!!!」
「・・・・ッ・・ボクが、甘かったようだね・・・それだけの傷で動けるなんて、ね・・その腕、いっそ切り落としておけば良かったか・・」
「――俺達がそれをやらせると思っているのか?」
「なッなにっ!」
「え、大和ッ!?」
いつの間に喪部の背後を取ったのか、夕薙が立っていた。
驚き振り向く喪部の身体が、一瞬後に空に舞う。
綺麗に決まった一本背負いに、背中を殴打し小さく喪部はうめいた。
「こ、この下等な連中どもがッ!!!」
鬼に一瞬で変生する喪部は、地面についた両腕と両足で、高く跳躍した。
「鬼にッ!?」
降り立ったのは驚き立っている葉佩の背後。その首目掛けて鋭い爪が迫る。
「あっ・・・!!」
「九龍ーっ!!」
素早さに避ける暇がない。
(やられるッ!!)
咄嗟に眼を閉じた葉佩の傍らに誰かが滑り込んでくる気配がする。
「!」
「俺も居ることを、忘れてないか?九龍」
ぐいっと襟元を掴まれて背後に引っ張られる。スイッとその眼前を、風が通り過ぎていく。
「・・・相変わらず、すごい見きりっぷりと避けさせっぷりだなぁ・・」
「俺が避けさせないと、お前は怪我だらけだからな・・・・・・ッはッ!!」
追撃してきた喪部の攻撃を見切る。葉佩を押しやって、足狙いで蹴りを放つ。
「本当に邪魔だね・・・皆守甲太郎、夕薙大和・・」
「邪魔だと思ってくれて光栄だよ、邪魔しがいがあるからな」
「大和・・」
「九龍、もう良い・・・・俺達に殺させないために、全て自分でやろうと・・自分を痛めつけるのは止めてくれ・・・」
「え、なんでわかっ・・・・?」
「・・・・お前の考えなんて単純で判りやすいんだよ・・・それよりも、くるぞっ!」
言われた言葉に、喪部を見ると、素早い動きで長く伸びた爪を振るってきた。
(あ、マズイッ!!)
意識が朦朧としてきているのか、反応が遅れたが、横手から伸びてきた腕に引き寄せられてそれを避ける。
「おっと・・・九龍、本当に大丈夫か?」
「ありがと、大和。うん、大丈夫!!」
「ならいいが・・・」
「心配性だな、大和は」
「友を思うのは当然だよ。無理はしないでくれよ?」
こんな時でも労わりと思いやりを忘れない夕薙の言葉に心が温まる。嬉しくなって微笑んだ。


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