傍らに居る葉佩から気負った力が抜けた。 眼は閉じているが、姿勢を正し喪部に対峙する姿はあの遺跡で見た姿そのもので。 冷静さを取り戻したようだと、喪部に気づかれないように安堵した。 2メートル程先に立つ喪部は悠然と笑っている。 (・・・・喪部・・・・) 自分の中に今でもある、どす黒い暗い想いが広がっていく。 喪部の手で、無理やり暴かれた『守るべきだった場所』。 真の解放・・・、墓守の『大切な想い出』で封じている化人を倒し、『想い出』を解き放ったのは、葉佩だったが。他の墓守と違い、おぼろげに思い出していたはずの自分に襲い掛かったのは・・・・・。 解放の爽快さなどあるはずもなく。 ・・・・・苦しみだった。 あの時、あの区間に連れて行かれなかったのは・・・気がついていたからなのか・・。 今でもそれは聞いていない。 だが、墓を暴いた喪部に対する憎悪は今もある。 (葉佩に暴かれることを・・・・望んでいた。その邪魔をし、横槍をいれたこいつが・・・) 「クククッ・・・2人とも良い顔をしているね。ぞくぞくするよ・・」 「相変わらずキモイなぁ、お前」 葉佩が平然と切り返す。 「ツレないじゃないか・・・・葉佩、キミはその身体の事はどこまで判っているんだい?」 「・・・・お前の言い方ってさ・・なんでそんなに・・・」 エロいんだ・・・と小さな声で呟くのを耳にして、皆守は不覚にも噴出した。 「な、なんだよー!」 「さぁな」 『エロイ』という単語を口にするのが恥ずかしかったのだろうが、赤くなりながら小さく言うあたりがお子様らしい。 「そこまでスレてないと、汚してやりたくなるね・・・ククッ」 「――ッ!」 思わず、傍らに居る葉佩を強引に背後に押しやった。葉佩は葉佩で、呆然と喪部を見ていた。 言われた言葉の卑猥さに石化しているようだ。 「そこまで警戒されると、・・・悲しくなるよ・・・ククッ」 喪部は、背後に押しやられた葉佩を見て愉悦に満ちた笑みを浮かべた。 (――吐気がする) こいつは、危険だ。 警鐘をならす勘が告げる。身体を更にずらし、喪部の視線を遮った。 「御託はいいッ!こいつが何だって言うんだ、何故狙う?」 「――それは葉佩が秘宝の在り処を指し示す秘文を持ち、鍵として組み込まれてしまっているからだよ」 「秘文・・?鍵、だと?」 「秘文は在り処を指し示しながら、それ自体が鍵。葉佩は偶然にも秘文を、その身体に・・・刻んでしまったんだよ・・」 クククッと気味悪く笑った喪部は、ひょいと横から顔を出した葉佩を見ている。 「葉佩、悪いようにはしないから、僕と一緒に来るといい」 「だ、誰が行くかーッ!」 「・・・おいで、葉佩」 「手招きするな!てか、その猫なで声で言うな〜〜〜ッ!」 フゥーッ!とまるで猫が毛並みを逆立てているような威嚇声を出しながら怒鳴るが、ぎゅうと掴まれた腕の力で葉佩の心情が窺い知れた。 「ツレないな・・残念だよ。大人しく来てくれるんなら、真綿にくるむように大事にしてあげたのにね」 「うぅ・・・・モリリン、お前の言葉は全部寒いッ!」 「キミが僕を愛称で呼んでくれるんなら、僕もその愛に応えてこう呼ぼうかな・・・九龍」 「あわわわ・・・甲太郎、甲太郎ッ!あいつ怖いッ」 「酷いな、九龍。怖いだなんて・・。ククッどうしてそんなに震えてるんだい?寒いんなら暖めてあげるよ」 「ひぃぃぃ〜〜」 とうとうしがみ付いて来た葉佩は、本当に震えていた。 今は目が見えてない分、声と気配に過剰に怯えているのかもしれない。 「・・・・・・こいつをからかうのはやめろ。喪部」 「ククッ・・・嫉妬かい?僕は、彼に愛を囁いているんだよ・・邪魔しないで欲しいな」 「――この、変態が・・・黙れッ」 ザッと蹴りを入れようと後ろ足に重心を移したときだった。 「だ、だめだっ!!落ち着け!甲太郎!」 「九龍・・」 しがみつく力で引き戻されて、体勢を戻す。 我に返り、力を抜く。 「挑発に乗るなッ」 小さな押し殺した声に、覚る。 喪部のすべての行動の目的はこちらの挑発。 葉佩への判りやすい挑発こそは、抑えたが・・。 (挑発の目的は、引き離すことか・・・) 喪部は依然として愉悦に満ちた笑みを崩さない。 (どうでる・・・?逃げるにしても、この無防備さはなんだ・・?何かある・・のか?) 油断なく構えていると、ふと、背中にしがみつく様にくっついている葉佩が背中に指を滑らせた。 くすぐったい、とこんな時に遊ぶなと、蹴りをいれようとし思いとどまる。 背中に書かれているのは、文字だ。 喪部に気づかれることがないように、殺気を出し睨み付ける、振りをした。 無言の応酬を割って入ったのは携帯の音だった。 短く鳴り響いて、消される。 「クククッ・・・さて、そろそろ良いかな・・」 「まさか・・・?」 「おや、さすが察しが良いね・・。ここ周辺は包囲している。逃げても無駄だよ」 「くそッ!今までの寒い会話も時間稼ぎだったのかーッ!」 「キミはどう受け取ろうと、僕の言葉には偽りはないよ・・九龍。そんな顔をしないでくれ」 「んなッ!」 ねっとりとした視線を絶句し硬直した葉佩に投げる。喪部は楽しげに笑う。 「そこの『お友達』・・・いや、キミを守る「ナイト」、彼を傷つけたくなかったら――ッ!?」 「黙れと言っただろう?」 ビュッと風を斬る音のすぐ後に、重い音が硬いものに激突したような音がした。 皆守の蹴りが、喪部の腕に受け止められていた。 「俺を傷つけたくないんなら、お前の元へ大人しく行け、とでも?」 「・・・・・そのとおりだよ・・・ッ!」 「――ッ!」 ふいに距離を詰められ、胸元への重い一撃に、皆守は吹っ飛んだ。 見切り逸らしてもエネルギー・・氣の塊に飛ばされる。 「甲太郎ッ!」 「来るなッ!」 (――化け物めッ) 鳩尾が熱い。吐気がこみ上げてくるのを必死に抑える。 「甲太郎、喪部の攻撃は受けちゃダメだ!あいつの攻撃は・・・・ッ!?」 気を取られていた葉佩に、喪部が迫る。が、捕まえられる寸前にバク転をし逃れる。 「目が見えてないという話なのに、その身のこなし・・変わりはないようだね・・・」 その場で身を起こし立ちなおした喪部は、嬉しげに葉佩を見やった。 「・・・どういたしましてッ!」 「クククッ・・・そんな変わらないキミだからこそ――どこまでも堕としてみたくなる・・」 「お、おまわりさーーん!変態さんがいますよーッ!」 「もう一度言う。九龍、大人しく僕に元へおいで・・。そうすれば誰も傷つかなくてすむよ」 「誰も傷つかなくても、俺には傷がついちゃいそうだから遠慮しますッ!」 「お、おいッ!く、九龍!アホなこと言ってないで逃げろ!」 「・・・へ?なんでそんなに慌ててるんだよ・・・甲太郎」 「お前がアホなことを言い出すからだろうが!いいから行け!」 墓穴を掘るような発言を自覚なしに・・いや、理解すらしていまい・・・口にする葉佩の背中を声で押す。 「クククッ・・・さすが面白いね、九龍。ご希望通りにしてあげてもいいよ・・・キミが泣き叫ぶ姿を見てみたい」 「うぅぅ・・・・・痴漢ーっ!」 ダッと走り出した葉佩に、残忍な笑みを浮かべた喪部はゆっくりと獲物を追うために歩き出す。 「俺が相手だ、悪く思うなよ」 その進路を塞ぐように、皆守が立ちふさがっる。 喪部の愉悦に満ちた表情が、凍り、不愉快そうに変化した。 はぁはぁと自分の息が荒い事がやけに気になる。 視力はまだ回復していない。眩しい光の世界を、手探りで走る。 不思議と足取りには迷いはない。気配を辿り、避け、全速力で目的地まで走る。 「キャァァァーッ!?」 「な、なんだっ!?」 「おい、なんだよっ!」 突如と上がる悲鳴に怒声。子供の泣き声。 「まてっ!!」 (――右ッ!) 速度を緩めずに、左へジャンプし走りつづける。避けたそこに、怒声を上げ捕まえに来たらしい人物が転ぶ音がした。 「あーーーもぅッしつこいぃぃー!」 先ほどからずっと、続いている反復横跳びあり、幅跳びありな、追いかけっこに、遺跡で培った持久力すら根を上げる。 どこまでもどこまでもしつこく追いかけられる。 (甲太郎は、大丈夫かな・・) 足手まといな自分を庇いながら勝てる相手ではない。喪部の手ごわさは身にしみて知っている。 本当は共に逃げる予定だった。 けれど、誰よりも早く、先を読んだ皆守が叫んだ。 『行け!』と。 奴らの目当ては自分だ。少なくとも、喪部以外の人間は自分のほうを追いかけてきている。 (・・・・・それに怪我をさせられないから、手段も甘いしな) 秘文が「何処に」刻まれているかは、知らないらしいと、よんだ。 鍵の役割も、秘文自体が鍵のそのものなのか、刻まれた人間が必要なのかは判っていないのだろう。 無傷で捕らえようとしているのか、武器もどれも甘いものばかりだ。 (甲太郎・・・) 心配でたまらない。けれど信じる。1対1なら負けるはずはない。きっと。 (・・・・実際、喪部よりも甲太郎のほうが手強かったしな・・) 「きっと・・・大丈夫だ」 だから、自分は、逃げることだけを徹底的にやり遂げる。 目的地にはまだ遠い・・。 「ふん、下等な墓守にしては、やるじゃないか・・・」 「へらず口だけは、止まらないんだな」 互いに立って居るが、息が乱れて荒い。よろけているのは疲れからか・・。 怪我はない。エネルギーの塊、氣と呼ばれるモノの攻撃は初めだけで。後は銃と見切りやすい近接攻撃。すべて紙一重で避け、攻撃の隙をカウンターで攻撃した。 (最初こそは不覚を取ったが・・・。だが、この体力は何だ・・?) 攻撃のすべては当たっているはずなのに、相手は倒れない。 化け物じみた体力に、疑惑の念が起こる。 (・・・・こいつは本当に喪部か?) 喪部の正体は知っている。葉佩があの後・・・レリック・ドーンが学園を襲い撤退した後に、H.A.N.Tに記載されたデーターを見せてくれたのを覚えている。攻撃方法も、その弱点も覚えている。 だが、いくら鬼だとしても、骨を折りかねない攻撃や頭に直撃を受けて、平然としていられるのはおかしい。 「せいッ!」 「ッぐぅッ!?」 再度攻撃をする。交互に軸足を入れ替えて蹴りの連撃をお見舞いする。ガードされる腕を足ではじき、腹、胸、の後に力をこめた重い蹴りで顎を蹴り上げる。 視界に風に舞う桜吹雪と、フワリと紫の裾が舞い、落ちる瞬間、蹴り上げ空中にいる相手の腹を更に重い蹴りで吹き飛ばした。 ズガン!と重苦しい激突音がし、喪部の身体は桜の木に激突した。 「――はぁ・・・はぁ」 荒く息をつき、足を下ろした。 「おい・・・・?」 なんの反応も示さない相手に、慎重に近寄る。 ピクリと指が動き・・・・・・・瞬間、一枚の符に変化した。 「――ッ!?」 呆気に取られて、符を見つめ、慎重に拾う。符は古ぼけた和紙で書かれていた。朱色の不可思議な文様が描かれている。 「・・・・とうとう、妙な術まで取得しやがったか・・・」 鬼に変生する時点で人としては見ていない。何があっても驚きはしないはずだったが・・・。 「ちッ!そうなると・・・・」 ぎゅっと手が白くなるほど、拳を握る。 (くそッ!こちらが囮かッ!無事でいろ・・・九龍ッ!) 合流地点へと走り出そうとしたとき、地に伏せたままの黒スーツの男達から声が聞こえ立ち止まる。 「・・・・・・?」 「ぎゃぁぁー!変た・・・・・・・・じ、上司が消えたぁぁー!?」 「忍者か!?」 「妖怪の類じゃないか?あれ・・・」 「妖怪ってゆーか・・・変質者だろ・・・きも・・・・いや、俺は何もいってねーぞ!?」 「聞こえたべよ〜」 「おい、内緒にしとけよ!」 「ちょっ、おいッ!静かにしろ!不審者さんにばれるだろ!?」 「寝たふりするんじゃなかったのかよ!」 「うぅぅぅ・・・・・・娘が変質者に言い寄られてるように見えて、寝たふりしながら俺マジ泣きしちまったよ・・」 「あ、さっきからぐすぐすっと言ってたの、嗚咽?」 「気絶中に見た夢もさ・・・娘が、頭に怪我しちゃっててよ・・」 「そ、それ正夢とかじゃ・・・」 「恐ろしいことを言うな!正夢だったら俺は今ここで血反吐を吐くぞ!?」 「それで?怪我は大丈夫そうだったのか?」 「それがな・・・・・・・・・ごふっ」 「お、おいっ、吐血してるぞ!?なにやってんだよ・・」 「・・・・気絶した娘を・・・・不審者さんにクリソツな馬の骨がだ・・・」 「ソレ、ボーナスさんとのいちゃつきぶりを見ちゃったせいなんじゃないか?」 「・・・・・・そうかもな・・・。馬の骨が・・・部屋につれ込んで。どどどどどどどっ・・ぐはっ」 「お、おい、舌噛むなよ・・・」 「オヤジ大丈夫か〜?」 「ど・・・なんだろ?部屋につれ込んだんだよな?あぁ・・・・・同衾か!?古臭い言い方だな!」 「おおおお・・、おのれー不審者似の馬の骨ェェー!許さんぞゥー!」 「・・・アホかッ!寝とけッ!うるさいッ!!!」 ドガッと全員を蹴りで沈め、走り出す。 (間に合えッ!!) 「はぁぁぁーっ!も、もうダメッ走れないー」 フラフラと近くに敷いてあったブルーシート(と思われるもの)に倒れ込む。 場所を確保するために、居た待ち人はこの騒動に危険を察したのか無人であった。 周囲に耳を傾ける。避難したのか、この周辺には花見客は居ないようだ。あるのは・・・。 「しつこいなぁ・・・・はぁー」 まばらな気配・・・数人の男達が、近づいてくる。 (・・・・・6人・・・か・・・一体何人連れてきたんだろう?トラックとかで来たのか?) まさか、バスとか?と、素朴な疑問を浮かべつつ、起き上がる。 眼は相変わらず役に立っていない。痛さと熱さは麻痺したのか、感じなくなったけれど。 (普段から眼、見えてないようなものだったけど。眼って本当大事だなぁ〜) 眼さえ見えるようになれば、逃げ一辺倒ではなく撃退し倍返しも出来るのにと、思い、ため息をついた。 「小僧、観念したか」 「うんにゃ?ぜんぜーん。まったくッ、してないよ」 「・・・・・良い態度だな・・・・怪我をさせるなとの命令だが・・・」 「あのね、おっさん。俺もいい加減頭来てるんだよ」 「無駄な抵抗をすると、でも?」 「うん。親友が危険な猛獣の引き付け役を・・・かってくれたから・・俺は、全力で、抵抗しなきゃならないんだ」 「友を犠牲に逃走か、笑わせる」 「・・・・・・・・」 「どうした?何を笑う?そうか『友』という名の便利な駒でしかないと・・・・ぐはッ」 黒いスーツの男は、自分の失言を知る前に意識を失ったらしい。 葉佩は振り上げた拳を手元に戻して、眼を細めた。 「・・・・・あぁっもー!腹が立つッ!」 正面に倒れているはずの男の足を、ガツーンと蹴り苛立って頭を掻き毟る。 言われたくなかった言葉を言われて、思わず手が出た自分にも腹が立つ。 理性では判ってる。だから逃げることを全力でやり遂げると誓った。 (だけど・・) もし怪我をしてしまっていたらどうしようとか。 信頼をしているし、信じているのに、心が不安でざわめいて止まらなくなる。 (甲太郎・・・・・) 頭を振って顔を上げる。迷ってはいられない。 自分を囲むように近づいてきた複数人の気配に、意識を集中した。 (あぁ、あれを使うか・・) 先程、素手での攻撃は間合いを計れなくて攻撃が全部外れたことを思い出し、服の下に隠していた身につけていた武器を手に取った。 三節棍と呼ばれる武器で、最近ではこれを主流に使っている。 双節棍(ヌンチャク)に比べ、棍一本分間合いの遠近が取りやすく、攻守に優れている武器で、葉佩の戦闘スタイルに合うので愛用している。 ヒュンヒュンと基本的な動きを試した後、葉佩は静かに構えた。 「決めたッ!とりあえずおっさん達は、ここで寝てもらう!」 「やれるのか?この人数を・・」 「ふふふん。やらいでか!いざ、参るッ!!」 ちょっと自分の言葉の格好良さに惚れ惚れしつつ、走り出す。 周囲には黒スーツの男達しか居ないようで助かった。 鳩尾を狙って繰り出された拳を避け、その腕に棍を振り落ろす。骨を砕くかのような一撃に怯んだ男の顎を蹴り上げまわし蹴りで吹き飛ばす。 蹴りの隙を襲いかかる男達の顔面すれすれを棍が通りすぎ、驚き竦んだ2人の顎に棍がぶち当たる。 「ぐぉぉっ!?」 痛みに悶える隙をかかと落しで落し、もう一人は三節棍で殴り飛ばした。 「ッ!!!おい、近寄るなよ!」 「あと、2人か・・・どうする?おっさん・・俺は逃げるけど、追ってくるようなら悪いけど寝てもら・・・」 「おのれ!小僧!!」 ダァーーン!と銃声が鳴り響いた。 「――ッ!!!」 とてつもない熱さが左腕に走り、脳天を突きぬける痛みに、その場に蹲り身悶えうめいた。 「ッアアアっ・・・・いってぇー」 2メートル弱という至近距離で撃たれた弾を反射的に身体を逸らして避けようとしたが、間に合わずに、左腕を大きく抉ったらしい。 「いたぁッ」 血がボタボタと腕から滴り落ちる。 (痛みには慣れてる・・・はずないじゃん!痛いもんは痛いんじゃぁぁー!ハンターだろうが、何だろうが、痛いんじゃー!) 止血するために、左腕を右手で抑える。触るだけで、とてつもない痛みが走る。 「っぁ・・・・・・あ?え?」 痛みに泣きながら、顔を上げた。目の前に複数の気配、そして黒っぽい複数の人影。 眼前に迫る手に、怯んだ。殴られるのを察知して、歯を食いしばり目を閉じた。 (――捕まるッ!!!) 「九龍ッ!!!!」 逞しい声と共に、懐かしい声が聞こえ、それと同時に鈍い音が連続でし何かが地面に落ちる音がした。 この声・・・。 「や・・・・大和?」 おずおずと呼びかける。来るのは知っていたけれど、合流地点には遠いはずで。 どうしてここにいるのか、とか。ありがとう、とか。助かった、とか。甲太郎が、とか。痛くて死にそうだよ、とか。 色々と感泣極まって、弾けた。 |