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叔父さんと僕(オヤジ編)
第2部・その4

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


絶句。


「ぎょわ〜〜〜〜ッ!?」
あぁ、いかん、日本語が喋れません!なんだこりゃ!!!
俺はソレから慌てて眼をそらした。コレはちょっと見てられない。
良い年したおっさんになったと思ったが、俺・・・・これは見れないわ。無理、無理です!
「どうした?」
聞いて来た兄貴に何も言わずにソレを突き出した。思わず指でつまんで差し出す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッ!」
兄貴もひたすら絶句。
そりゃそうだろう・・・・・。
俺を殺意のある眼で睨みつけて、苛立ったようにジッポで火をつけるとすぐさま灰にした。
ご丁寧に灰を踏んでいる。
「言っておくが・・・俺じゃないぞ?それ・・・」
九龍が持ってきた『さすらいの絵描きのおねーさんから貰った絵』の内容は。
・・・・・あぁ・・・説明もしたくない。
絵はすばらしく巧いんだが・・・、まぁ漫画チックな絵だけどな・・・だからこそ、見てられねぇー!

「九龍ーーーッ!!!!お前は今日どこで何をしてきたー!」

あぁ、兄上様。さすが御父上でございますな・・?
俺の台詞を取るなよなァー!
俺も兄貴の後を追って、部屋に入った。部屋に入ると、カレーをこの上もなく幸せそうに食べている九龍が居た。可愛いんだが、欠食児童もかくやと言った感じだぞ・・・。そんなに腹が減ってたのか・・。
「もふふふーもふっー」
「九龍、ちゃんと食って言え」
「・・・・・んと、寝てた」
「・・・・・・・寝てたぁ!?どこでだ!」
「公園でー。起きたらさすらいの絵描きさんが居て絵を描いてて、あいのこくはくけいかく教えてもらった」
く、九龍ちゃん・・・・・。
俺と兄貴はその場に崩れ落ちる様にして項垂れた。
「お、お前な・・・・田舎じゃないんだぞ!?わかってんのか!?」
「えー・・・それくらいちゃんと判ってるよ、叔父さん」
ぷく〜と頬っぺたを膨らませてムッとした九龍は、俺を下からじぃ〜と怒ったように睨みつけてきた。
おーお、生意気なお坊ちゃんですねェェー?あぁぁ・・・くそぅ、そんなところが、滅茶苦茶かわええ・・・・ッ!!
「デレデレデレデレッ!しまりないッ!」
「うぉぉぉッ!いてーッ!」
いてぇよ!!!お兄様!!!いきなりケツを蹴るとはッッ!!
「・・・・?叔父さんどうしたの?」
九龍がカレーを食べる手を休めて、俺を見ていた。カレー・・・・おまえ・・・・2皿目じゃ・・・。問いかけようと口を開くと、何を思ったのか俺のほうにズイッとスプーンを突き出してきた。
「叔父さんも食べる?はい、あーん」
「食べるッッ!!!!!あ、あーんv」
もう条件反射ですよぅぅぅ!?食うさ!食うに決まってるだろ!?
まぁ、「あーん」は実は今まで何度もやってきたやり取りなんだけどな!小さい頃にそうやって飯食わせてたら、いつのまにか真似するようになったんだけどな・・・すげぇー・・可愛い。
「おいしい?」
「おいちぃぃ〜〜〜〜v」
あーもー!可愛い可愛い!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・九龍?お父さんにも一口貰えないか?」
「いて、いてててててッ!」
頭の上に手を置かれてぎりぎりと締め付けられる。殺意を感じて俺は本能的に怯える・・・。こえぇ・・・。
「お父さんも?お腹減ってるんなら・・・少し食べたけど・・・」
「いや、それはお前のお代わりのために頼んだものだ。お腹減ってるんだろう?食べれるだけ食べなさい」
「うん!じゃぁ・・・一口、ね?はい、あーん」
「・・・・・・・・・うまいな」
「でしょでしょ?おいしーよねッ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
なんっーか・・・ジェラジェラジェラシー!九龍の「はい、あーんして」は俺だけの特権だったのによぉー!
そういや、さっき俺が見た2人も、お茶とか飲みあっててええ雰囲気でございましたよね・・?
あぁ、あれか・・?本物の血の繋がりには勝てないってか・・?
懐にある、「法律的には親子」になれる魔法の紙切れをそっと服の上から撫でた。兄貴がこれに、サインするとは思えないが・・絶対に無理だとは思ってるが・・・、以前、市役所に行った時誘惑に駆られて手にとって以来ずっと持っている。
まぁ気休めなんだけどな・・・、「お父さんv」とか呼ばれてみたいとかいう叔父さんの可愛い夢だ、夢ッ!
俺が親父だったらなぁ・・・・・・・、日曜日には必ずどこかに連れていってやって、傍に居てや・・・・・って、今とかわらねぇか・・・。だけどな、自己紹介の時、「叔父です」とかより「おとんです」とか言ってみたいんだよッ!確かな繋がりがあるみたいで、良いじゃないか・・・。憧れる・・。
でもってご近所のおばはんに「いつもお父さんと一緒で良かったね?九龍ちゃん」って言われて九龍はうれしそーに笑ってくれるんだろうな・・。
「叔父さんです」だと、「可愛そうな子」とか言われてたからな・・。九龍はいつも、それを言われると俺を気にして「そんなことない」ってしょげるんだよ・・。俺と居てあんな顔をさせて良いものだろうか!?否ッ!良くないッ!!
・・・ってことで、「お父さん」に俺はなりたいィィィー!!!
「だいたい、お前には危機感というものが無いッ!」
うぉッ!?びびった・・・。俺が「お父さんドリーム」に酔いしれている間に、兄貴はまだ説教を続けていたらしいな。
何故外で寝たらダメかとか、小さい子に説教してるみたいで笑えてくる・・。
「あ、あるよッ!罠とか見つけるの得意だしッ!」
「その危機感じゃないッ!遺跡以外での危機感だ!」
「遺跡以外で危ないことって、そんなにないっ!」
プク〜とむくれた九龍のカレーはすでに無い。もう食ったのか?早ッ!相変わらず異次元胃袋だな・・。
「いいか!?今の世の中は危ないヤツだらけなんだぞ!?」
「・・・・・・・・お兄様、何故俺を指差しておられるのでしょうか?」
兄貴の指は俺をビシッと指差していた。なんですかー?その指はー?
「えッ!?叔父さんって・・・ナマモノで腐っちゃうだけじゃなくて・・・危ないんだー・・・」
「なッ!?」
ちょ、ちょっとまてぇええええーーーーーいッ!そ、そこの可愛らしい九龍ちゃん!!!
「く、九龍ッ!何納得したように頷くんだ!」
「だって、叔父さん・・・・・・・・・、危ないし」
「俺のどこがー!?」
俺は叫んだ。えぇ、叫びますよ!なんで、どうして!?危ないだと!?
そりゃたまーーーーーーに結婚願望と九龍愛が混ざって妙な白昼夢を見るけどな!全然危なくない無害なエコマーク付きの叔父さんなんだぞ!?
「九龍・・判ってくれたか・・・。そうだ、危ないんだぞ?こんなのが、うようよしてるから、もう公園や他の場所で寝たりしたらダメだからな?」
こんなの、と、俺を指差すなーーーーーッ!!!!
凹む。本気で凹む。泣くからな?泣いちゃうからなッ!?
「はーいッ!判りましたッ!」
あぁ、良いお返事デスネェェェェーー!?
俺は自棄になって、九龍の目の前に置かれているパフェに手を伸ばした。
「え・・・・あぁぁああああッ!?」
九龍が叫ぶが食う。食ってやるッ!叔父さんを苛めた罰だー!!!!!
バグバグっと食べて・・・って言っても半分だけだけどな。意地悪じゃないぞ!?・・・可愛すぎて意地悪なんて、とてもとても出来ませんッ!これは腹いせだ!叔父さんのちょ〜〜っとした可愛い腹いせだー!
しかし、俺は九龍をみた瞬間後悔した。

「・・・・・・・・・・・・・・キライ」

げげん!九龍・・・・そ、その表情は・・・・。あの、凄まじく怒ってる?怒ってる?怒って・・ます・・?
なんっつーか・・・大魔神そっくりなんですけど・・・?雰囲気つーか怒りのオーラが・・。
何度か見たことあるけどなー!?並べてみるとそっくりだったんだなー!?すると、俺が大魔神こぇーってのは・・・怒った九龍を思い出すからとかか!?叔父さん、納得!

「おっさんキライッ!あっち行ってしっし!」

おっさん!?
あっち行ってしっし!?
ガァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン・・・。

「く、九龍・・・」
「知らないッ!」
「ごめ・・・」
「キライ」
「新しいやつ頼んでやるから・・・なッ!?」
「あっち行って!」
くろぅぅぅぅぅー!!!!!!!ダメだ、滅茶苦茶怒ってるー!
俺があわあわしているうちに、俺は九龍に押されて廊下に追い出された。ちょ、ちょっと待て!
「くろ・・・・ッ!」
バタン!と鼻先で扉が閉められガチャン!と鍵をかける音がした・・・・・・・。
閉められる寸前、大魔神の満面の笑顔を見ちまった!ひーッ!ダブルショックー!
「追い出されちまった・・・・はは・・・」
俺はその扉にすがり付いて耳をはりつけた。九龍がそこにいる気配がすんだよ!
おーーーい!とどんどんと叩いてみるが、ガチャガチャッと音がして扉が開く・・・はずもなかった・・。
聞こえてきたのは・・・。

「今日は一緒に寝るか?九龍・・」
「うん・・・」

・・・・聞こえてきたのはこんな声・・・。
九龍の照れちゃってる声に、たやすく顔つきを想像できて俺は泣いた。羨ましい!羨まし過ぎるッ!あー・・・可愛いんだろうなぁー!?親子仲良くおねむですか!?
うーらーやーまーしーぃぃぃー!!!叔父さんも混ぜてくれ。どうせだ、川の字で寝ようぜ!?な!?
どんどん!と叩き、カリカリカリカリカリカリと引っかいてみたが・・・・、気配は遠ざかっていった。
・・・・・・・無視ですか・・・ッ!?
「ごめんよー?九龍ちゃーん?」
あーけーてぇ〜開けてヨー!あーけーろぅ〜!開けてくださいッ!
ドンドンドン!叩いても叩いても、九龍達の気配は身動きしない。完全無視っすか!?
暫くそこで粘ってみたが、近くの部屋で出入りしたおばはんに不振な目でまた見られたので、独りっきりの寂しい部屋に俺は戻った。

明日、俺・・・孤独死かも?
「うぉぉぉぉーーーーッ!俺のバカたれー!」
ええいッ!自棄酒だー!!!!!
なんつーか・・・失恋したての女子大生みたいだな、俺!
せっかく九龍と仲直りしたのによぅー!俺のバカバカバカバカバカッ!食べ物の恨みは怖いつーのは、前あんなに思い知ったはずだったのになぁ・・・・。またやっちまうとは、俺のバカッ!
「うー九龍ゥ〜ッ!」
あぁ・・・・でも、でもなぁ・・・・。

『叔父さんのこと・・・・・・とっても・・・大好きです』

思い出してにやける。あれは俺、生きてて一番嬉しい言葉かもしれないな・・。
九龍らしいっていうか・・。可愛いすぎて、どうしましょうッ!?
あーぁ・・・ここに九龍が居ればぎゅううぅ〜として離さないのになぁぁーッ!今ごろ仲良く親子で寝てるんだろうなァ・・・。あぁ、寂しい・・・。
「うぅ〜くろうぅ〜・・・・・」
俺はベットに転がり不貞寝を決行ッ!!!芋虫のように布団にくるまって、寝た。夢の中くらい可愛い子ちゃんの夢を見たいものだぜ・・・・。


「んごごごごーんごごー・・・・うへへ・・・まてまてぇ〜い・・・・・・・・ん?」

良い夢を見ていたのに、俺は突然眼を覚ました。見ていた夢は勿論・・・・言わずもがなだ。
上半身を起こすと・・・、あぁ、枕カバーに涙の跡が・・・。泣きながらあんな素敵な夢を見るとは、俺って器用だな。
あーしかし、俺ッたらッ・・・、泣いちまうとはな。九龍ちゃんったら、叔父さん泣かせて悪いんだー!とか言ってみたいが・・・また嫌われそうだな・・・・。
苦笑いを浮かべ、時計を見れば真夜中4時。なんでこんな夜中に目が・・・・・って・・・。
「――ッ・・誰だ?」
誰かが、ドアの鍵を開けて入ってきた。俺はどうやらその気配で目が覚めたらしいが・・、戸口のドアが俺の声とともに、ぎぃ〜と開く・・・。
「へ・・・?く、九龍・・・?」
ぼんやりと立っていたのは、俺が愛して止まない九龍だった。
「うにゃ〜・・・ねむー・・・」
俺の元へふらふらふらと歩いてきて、ベットに身体を投げ出すと、もぞもぞと動いて俺の布団にもぐりこんだ。ぎゅうっと俺の服を掴んでしがみ付いてくる・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・ッ!」
か、かわええぇえーーーー!!!!!もそっとする仕草とか、やっぱ可愛い。マジかぁわゆぃッ!
「・・・くろう・・・?」
「・・・・・」
九龍は完全に寝入っているのか、すーすーと穏やかな寝息しか聞こえない。
もしかしてさ・・・お前、わざわざ鍵開けて、俺の所に来てくれたのか・・・?
俺が、寂しいんじゃないかとか思ったとか・・・・?
じわりと胸に競りあがってくる想いは・・・・。
愛しい・・・・・。
「九龍・・・・九龍・・さっきはごめんな・・・?」
小さくて軽い身体を抱き寄せ、頭を撫でてやると、嬉しそうに笑った。
子供の頃から変わらない笑顔。
俺が守りたい思い願う、何よりも大事な・・・秘宝。
「んー・・・・・叔父・・・・さん・・・」
なッ!なんですかッ!思わず正座したくなるのを押さえ、俺は耳をすませた。
てか、寝言か?寝言なのか?続きはなぁ?なぁ?
「・・パンツ・・・・」
パンツ!?ぱ、パンツがなんですか!?
「えー・・・・やだぁ・・・・」
もしもーし?九龍ちゃん・・・・キミ何の夢をみてるんでしょーか?暫く耳をすませてみたが、寝息が聞こえるだけで続きは無いらしい。
パンツが一体どうしたっていうんだろうか・・・謎だ。
まぁでも幸せそうに寝入ってる姿に、幸せを感じる。あー幸せだ〜!天国だ〜!
「・・・・・おやすみ、九龍」
もう一度強く胸元に抱きしめると、気持ち良さそうに寝ている九龍に釣られるように、俺も深い眠りへと落ちていった。

朝。
俺は腕の中の九龍が身動きした拍子に目が覚めた。
「あれ〜?あれ・・・・?あれれ・・・?」
あぁ・・・・昨日のは夢じゃなかったんだな・・・。俺の腕の中で九龍は大きな眼を瞬いてきょろきょろしていた。
「おはよう・・九龍」
「何で叔父さんがここにいるの?」
ん?ダメだぞー?九龍ちゃん、朝はおはよう、だろ?
「おはよう・・?九龍」
繰り返すと腕の中で九龍は沈黙した。もしかして、まだお怒りなのかしら・・・・?
「・・・おはよう・・・・叔父さ・・・・じゃない・・えーと・・・知らないおっさん」
「ぐっ・・・・お、おい・・・なんだとー!?」
プイッと生意気に眼をそらした九龍に、いつも我慢強い叔父さんも、ちょっぴり怒髪天だ!
「おっさんとか言う子にはおしおきだー!」
「えッ・・・!うぎゃぁ・・・・・・あはははッ・・・や、やめてッ!」
九龍はこしょぐりに弱い。ものすごく弱い。肩を揉んだだけでくすぐったいらしく鳥肌を立てて逃げる。
「おしおきですー!」
こしょこしょと、脇の下をこしょぐる。どうだー!こしょぐりスペシャルだぞー!?
「やぁっ!あは・・・あははは・・・ッ!ごめんなさい〜!もッいやー!」
「ダメですー!うりゃうりゃぁ〜」
げらげらと笑い出して止まらない九龍は暴れる。その身体を自分の身体で押さえつけて、更にこしょぐってやる。ほれほれほれほれ〜!
「あは・・あはははははッ・・・や、やめてー!」

ズッバタァァァァァァーーーーン!!!!!!!!

「――ッ!?」
「ハァハァ・・・・・・へ?」
突然の轟音で、俺達は石化した。
何かが吹き飛んだ音がしたが・・・・・・・。
空気が張り詰め、心なしか嫌な寒さが漂う。あぁ・・・・いやぁぁぁな・・・予感が・・・。

ギィィィィィィ・・・・・・・・・・

ベットルームの扉が軋んで開かれた。
そこに・・・、立っていたのは・・・・・・。
「・・・・・す、清々しい朝でございますね〜お兄ちゃん・・・」
俺の顔は顔面蒼白だろう。血という血が顔からさぁ〜っと退いて行く感じだ。やべぇ・・・怖ッ!

立っていたのは・・・怒り度MAX越えてそうな大魔神様でございました・・・。

イッッヤァァ〜〜〜〜ンン!!!まじやば!!ヤバイ!殺されるッ!助けて助けておまわりさーーーん!
「おとうさぁ〜ん・・・・・たすけてー」
「ちょ、ちょい待てッ!九龍ちゃん、俺なんもしてへんやろ!?」
「お父さん・・・叔父さんが苛めるーッ!」
九龍は俺の身体の下から逃げ出そうともがきながら手を伸ばしている。
あぁ、なんて可憐なお姿でしょうか。俺に助けを求めてみませんか?宇宙の彼方からだって飛んでくるぜ!あぁしかし、・・・デジャブ・・・つい昨日の夜と・・・・同じだよな・・・・?
「・・・そこのバカ」
「うぉうっ!?」
キャー!なんて声だー!滅茶苦茶怒っていらっさるー!!!!
「九龍を離せ・・・」
笑顔が怖い・・・・。
「へ、へいっ!」
離したくないけどな・・・、このままだと確実に九龍が巻き込まれちゃうしな・・。
九龍の上からどくと、ごろんと身体を捻って床に素早く降り立ち、九龍はさささっと父親の影に逃げていった。あー・・・・それ、ちょっときっつい。その動作だけで叔父さん、HP(ヒットポイント)に大打撃ですよぉ〜?もう瀕死かもしれん。
「べぇーーー!」
「ッ・・・・く、九龍・・・」
九龍はしかも追い討ちをかけてきました!父親の脇から顔だけ出して、あっかんべーってしてきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・可愛いぞ、滅茶苦茶ッ!
ちょっと生意気だけど、良い!可愛い可愛い!あぁん、カメラ!何故ないんだー!今度からカメラは必須装備品だな!ケータイのカメラはいかん。小さいからな。
「九龍、お父さんがちゃんとお仕置きしておくから、朝ご飯を食べてなさい」
「はーい」
九龍は朝ご飯に心を奪われたらしく、スキップするような足取りで部屋を出て行こうとして、振り向き、俺を見た。
ニヤリと小悪魔ちゃんっぽい笑みを浮かべると、大急ぎで去っていった。
「可愛い・・・」
何て言うんだろうか・・。普段の素直で健気な明るい九龍も可愛いが、あんな小悪魔ないたずらガキんちょな九龍も、滅茶苦茶可愛らしい。
あぁ、俺昨日から「可愛い」しか言ってねぇ気がしてきた。一体何回言ったんだろうなー。
あー・・・・・・まぁ九龍が可愛いからな、しゃーないわなぁ・・・。
「今度こそ引導を渡してやろう」
「・・・・・・・えー・・」
「えーじゃないッ!九龍を真夜中に連れていくとはッ!このッこのッ!」
ゲシゲシを蹴られて、あまりの痛さに俺はベットから転げ落ちた。
「いていてッ!あーっ!言うけどな!俺がこっちに連れてきたんじゃなくて、九龍が自分でこっちに来たんだよ!」
「そんな訳あるかッ!鍵かけてたんだろうが!あの子が自力で開けたとでも・・・・」
「おい、お前のお子さんは、ピッキング、得意中の得意だぞ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「知らなかったな?はははは、勝ったー!ざまみー・・・」
「しねぇぇぇッ!」
「ぎゃぁーーーーーッ!!!!!」


「朝ご飯おいしかったぁ〜!あ、お父さん、これ買っちゃった」
「・・・これは・・・」
「お父さんにプレゼント!」
えー・・・現在俺はボコスカと殴られ蹴られボロ雑巾のように床の片隅に捨てられております。
先ほどH.A.N.Tが「血圧低下、心拍数低下、CPRを実施してください」とかいう警告をだしておりました・・・。遺跡じゃないのに瀕死ってどうよ!?
死ぬなら九龍の膝の上って決めてるの!てか置いて逝けないの!まぁ死なないけどなー。
顔が腫れて視界が悪いのを何とかこじ開けてみると、九龍が満面の笑みを浮かべて父親に何かを差し出していた。
「ありがとう・・九龍・・」
「えへへ」
どうやらお土産らしいが・・・、なんだ・・・?
良いなァ・・・おれもーおれも〜おれにもくれ〜。拗ねちゃうぞー?
「・・・・・わぁ・・・・叔父さん・・・・」
何かを渡した九龍は、俺のほうへ歩いてきて目の前に座りこんだ。
「お父さん、ちょっとやりすぎ・・」
「・・・・お前を泣かせた罰だ」
「・・・うーん・・・。まぁいいか」
いいのかよッ!九龍ー!お前オヤジに甘くないか!?俺に対してはきついのに!?
ひどーい!差別?差別なのか?やっぱり父親が良いのか!?
そんなことを思っていると、九龍は俺の頭をそっと抱き起こすと自分の膝の上に載せた。
ひ、膝枕ァァァー!?
「お父さん、叔父さん手当てするから、冷たいタオルと救急セット持ってきて?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ・・」
あ、滅茶苦茶嫌そうだ・・・。それでも言う通りしてやる辺り、兄貴も九龍には勝てないんだな・・・。
もしかして、最強?
「叔父さんが悪いんだからね!パフェ食べるから・・」
「それ・・・は、わるかったって・・」
「うーん、ちゃんとあとで倍返しでご馳走してね?」
いつもしてんだろーが・・。お前に貢がない日はありませんよ?
俺の財産はほとんど全てお前のために使ってるからな・・。贅沢させてやってるはずなのに、どうしてお前はケチなんだろうな・・。節約好きだし、安いもの好きだし。服だって良いもの着せたいのに、ジャージがお気に入りだし。
今着てるのだってばっちりジャージだしな・・、似合ってるんだけど叔父さんとしては、可愛い服とか今時の子みたいなのも着てほしいなぁと思うわけでありまして・・。
「聞いてるー?」
「聞いてる聞いてる」
「ホントにー?」
首を傾げながら笑ってる。何か良いことでも合ったのか、ご機嫌だ。
「ホントホント。お前のためなら何だってする!だから・・・な?許してくれよ」
「んーどうしようかなぁー?」
あぁもう、可愛過ぎる!楽しげに細められた眼とか!笑顔とか!
ヤバイヤバイです!は、鼻が!鼻がピンチ!感激のあまりに鼻血が出そうだぜ・・・。
「叔父さん?・・・どこか痛いの?」
俺が鼻の上を押さえて顔をしかめたのを見た九龍は、俺のおでこにそっと手を置いて熱を測るような仕草をした。その顔は心配そうに俺を伺っている。
「だ、大丈夫ッ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと・・・・キライってやっぱりウソだからね・・・?」
「ッ!」
今日のこの子、いつも以上にヤバーーーーーイ!朝からお前、何故、そんなに、可愛いのであらせられますか!!!!!!!!
ヤベー!兄貴に拷問されるより、ヤベェー!!!
死ぬ!俺が!失血死するぞ!?しちゃうぞ!?
「・・・・怒ってた・・・?」
そこで急に心細そうな顔をするのは反則!
俺は膝枕から名残惜しげに飛び起きると、九龍を正面から抱きしめる。
とたん、俺の腕の中で九龍は少し硬直した。
「・・・・・怒るわけないだろ?なんで俺が怒るんだよ・・・お前を怒らせたことにビビって1人寝の寂しさに泣いてたくらいなのに」
本音を暴露すると、九龍は驚いた顔をして・・・・笑った。
「なんか、昨日と同じやりとりかも?」
「そういやそうだな・・」
昨日の喧嘩っつーか・・昨日のは本気で焦ったけどな・・。お前を傷つけてしまって・・・。
しかも最後に怒らせちまうし。アホだな、俺!
「あのね・・・、同じだったよ・・・怒ってたけどね!」
俺が自己嫌悪に陥っているのを見てか、小さく付け足してきた。
同じだった・・・ってお前・・・、『寂しかった』ってこと、か・・・?
「叔父さん、今日は・・・移動でしょ?ずっとこうしてて良い・・・?今日だけで良いから・・」
「も・・・・・ッもう離さないぃーッ!!!」
お、お前・・・・俺を嬉しがらせて地に落す作戦とかじゃないだろうな!?
だが、もう遅いぞ!?聞いたからな!確かに聞いたからな!嫌だって言ってももう離さないからなー!!!
ぎゅうと抱きしめる力を増すと、九龍も俺にしがみついてきた。この甘えっ子め〜可愛過ぎる!あーもー!ラブ!!!

「九龍、今日は叔父さんが運転する番なんだ・・・・・危ないからお前はお父さんと後部座席に乗ろう、な?」

「げッ!!!!また出やがったか!邪魔すんなー!」
何コレ、何のパターンだ!!!俺が九龍とラブラブになるのがそんなに嫌なのか!?邪魔ばっかりしやがってー!!!今度は戦うぞ!九龍は渡さねぇッ!!!
大魔神は俺を見てふんと鼻で笑い、九龍を見た。も、もしや・・・。
「九龍・・・・俺は邪魔・・か?」
なんだその哀愁漂う父親の図は!!!!そ、そんなんでなー!俺の九龍がほだされるとでも・・・・・。
「叔父さん!お父さんに酷いこと言わないでよッ!」
「く、九龍・・・」
「お父さん、一緒に後ろに乗ろうね」
「あぁ、そうだな」
ま、またこのパターンか!?九龍ォォォー!!!!
にこやかに微笑み合う親子に惨敗です。
「・・・・・・・・・・・・」
あぁもういいよ、親父が良いなら、親父といくらでも仲良くしなさいッ!
俺は1人寂しく蚊帳の外から指くわえて・・・・。
「叔父さん・・・?これ、お土産!」
「へ・・・・?お、俺にも・・・くれるのか・・?」
九龍が差し出してきた包みを手にする。小さめの紙袋に入っているそれを開くと、中には狸のマスコット付き鈴のキーホルダーが入っていた。
「お父さんとお母さんには色違いの腹巻きあげたんだけど、叔父さんはよく鍵をなくすからキーホルダーにしたんだ!」
は、腹巻ってな、お前・・・・・・。
まぁ、そのセンスの微妙っぷりは小さい頃から変わりないな・・。お前がくれた誕生日プレゼント全部取ってあるが、お前がはじめてくれたプレゼントは大根だったよな・・・。それはさすがに食べたけどよ。
次に貰ったのが股引だったよな・・・。まぁ、エプロンやら薔薇の花束やら、マフラーやら、まともなものもあったけどな。
「どう、かなぁ・・・?可愛いでしょ?」
「あぁ・・・・九龍ッ!!!嬉しいぜッ!」
再び抱きしめようとしたとたん、スカッと空を切る。
「うぉぉっ!?」
俺はその勢いのまま、床にダイブした。いてぇ・・・。
「九龍、そろそろ出発するから荷物を一緒にまとめよう」
「え、でも叔父さんの手当てまだだけど・・」
「自分でやれるだろう・・・・さぁ、行こう」
「うん。判った〜!」
「え、ちょ、もう行くのか!?お、おぉぉぉぉいー!!!!!」
「叔父さん、またねー!」
またねー!じゃねぇよ!!!おぃ!!!!!
俺が必死に呼びとめてるのに九龍は大魔神とともに部屋を出ていった・・・。
そんなぁー!くそぅー!大魔神め!邪魔ばっかしやがってー!!!鬼悪魔!!
俺は心の中で・・・口に出して言うと襲来して来るはずだからな!怖いんだよ!悪いかッ!・・・文句を言いつつ、床に寝そべった。
「・・・・・・・・・・・・・」
仲直り、したんだよな?許してくれたんだよな・・・?
だよな、だよな?そうだよな・・・?
おまけに・・・。
「ずっと、こうしていたい・・・か・・・・くぉ〜〜〜!かわいいー!!!!」
床をバシバシと叩いて身悶える。可愛過ぎる!ひーッ!心臓麻痺でも起こしそうだ!
何があったかは知らないが、きっと良いことでもあったんだろうな・・。
あの子の心の奥底にある『恐怖心』。1人にされることへの・・・置いていかれることへの・・・『恐れ』。
不安を抱えてる心を、和らげる方法は・・・勿論傍に居てやることだろうが。
・・・・・・望むことだと、俺は思っている。
子供なんだから、もっと望んでも良いんだ。
あの子はすぐ自分の気持ちを我侭だと押さえこんで気にするからな・・・。
俺相手に遠慮なんかしないでくれ、と何度も言ったかいがあった・・。
『ずっとこうしてて良い?』
遠慮がちに聞いてきた顔を思い出してにやける。あーもー可愛いな・・。
俺としてはものすごく嬉しい。それこそカレンダーに記念日として毎年花丸をつけたいくらいに。
チリンと、手の中のキーホルダーの鈴が鳴った。
ソレを持ち上げてしげしげと眺める。狸は愛嬌のある顔をしていた。
「・・・・・安心しろ・・、お前が望む限り傍に居るからな・・・九龍」
お前が望まなくても、だけどな!
狸にちゅっとキスをして、車のキーにとりつける。
遠くで俺を呼ぶ声に返事しながら歩き出すと、ちりんちりんと涼やかな鈴の音が静かに響いた。


(第二部END)


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