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叔父さんと僕(オヤジ編)
第2部・その3

しかし。しかしだ!しかししかしだー!九龍は俺を見てくれた!
ハーレールーヤァァーーー!!!!ヒャッホーーーイ!
さっきまでは全然見てくれなかったのよ!あんな酷いことを言った俺を気にかけてくれたんだぞ!?
俺は自分の部屋に転がる様に入ると、ベランダへ一直線に走った。
「よっしゃぁー!」
ベランダは柵で区切られているだけで、繋がっていた。まぁ柵で隣に行けないようになってるんだが。
俺の愛の前に、こんなもんは屁だ、屁!
身軽にひょいと柵を越えると、隣のベランダに降り立つ。兄貴もまさか、ベランダから来るとは思ってないだろう!
ベランダから部屋を覗くとカーテンは引いてなかったのか、開いていて丸見えだ。
ちっ・・・カギはかかってるか・・・。
九龍は・・・・っと、おぉぉぉぉぉぉいぃぃぃー!!!!そこの仲良し親子ー!
あぁ・・・くそぅ・・・どこからみても、仲良し親子だぜ・・ッ!羨ましいー!
中では九龍と兄貴は、和室の座卓のところに並んで座り、ものすごく仲が良さそうに肩を寄せ合ってパンフレットみたいなものを2人で見ていた。
九龍が兄貴に急須でお茶を淹れてやったりしている。
九龍は、緑茶好きなんだよな。あの歳で渋い趣味だぜ・・・。
あんまり飲むと眠れなくなるからなァ・・・?
うぅ・・・叔父さんにも淹れてくれ・・・というか、部屋に入れてくれ〜気づいてくれ〜おーい!
どんどん!と叩くと、はっとした2人と眼が合った。
九龍は嬉しそうに、兄貴はものすご〜〜〜く嫌そうな顔をしていた。
「あーけーろぉ〜」
九龍が兄貴に何か言ってるな?あぁ・・・『開けて良い?』って聞いて・・・・・・・もしもし九龍さん。お父様に許可を取る必要はないザマスよ?
叔父さーンvとか言って、駆け寄ってきてくれたら、叔父さん嬉しいんだけどなァ・・・?
う・・大魔神が来た・・・。うぉー顔こぇーーー!
九龍、お前こんなのと一緒にいてよく怖くないな?俺なら泣くぞ?
ジロリと睨まれ、ピシャリ!とカーテンを閉められた。
九龍の手前、俺を叩きのめすことはやらないってことか・・・。
しかしよぉ〜〜〜、寂しいぞ?
俺はまだ九龍にちゃんと謝ってないんだぞ?許してくれた・・かなぁ?とかいうレベルだぞ?
そんなあやふやなままで寝れるかっての!あけーろー!九龍に会わせろー!!!
どん、どん、どどん、どんどんどどどどん!と、リズムカルに窓を叩いてみる。
本当は割って入りたいが、さすがにマズイだろうしな・・・。
あぁ・・・しかし寂しいぞー?
叔父さん、どこかの兎みたいに寂しくて死んじゃうぞー?
惨めに体育座りをしてみた。あぁ・・・俺、はまりすぎ!座ったまま、猫がやるように、がりがりと窓を引っかいてみる。
ネコの声真似でもするか・・・?暇だしなぁ・・・・。
そんな事を考えてたら、突然窓のカギが解除される音がして、開いた。

「叔父さんー?何してるの?」

「く、九龍ッ!!!!」
あぁ、俺のマイハニィー!!!さすが天使ちゃん!お前の背中に天使の羽根が見えるぞ?
九龍を、素早い動きで抱き込む。
「わっ!」
「捕まえたぞぉ〜〜〜ッ!」
そのまま、九龍を座らせる。逃がさないぞッ!
「逃げないよ?多分」
お?リラックスしてる感じだな?さっきまでの焦燥感がもうないようで、安心した。
やっぱ、驚かせたのかまずかったか・・・。
しかし、しかしだ・・・・。
「多分ってなんだ・・・」
「逃げなくても、お父さんがいるから、ね〜?」
ね〜?と可愛く背後に言う九龍の、視線の先に、兄貴が腕組をして座っていた。
こぇええーーーーーッ!
俺が泣かせるようなことをしたら、どうなることやら・・・・。
あれだな?多分、海に沈むんじゃないか・・?
まぁ、俺も泣かすのは本意じゃねェ。泣き顔は好きなんだけどなぁ・・可愛いし。
でも笑顔が一番好きなんだよな。
「叔父さん?」
無邪気に首を傾げる九龍に、なんと切り出すか・・。
「あのね・・・あのね・・・、嫌いだって言ったのは・・・ウソだからね?」
「――ッ!なッ!?本当か!」
あの言葉は俺に心をずっと蝕んでたからなぁ・・・。うわ、すげぇ嬉しいんだが・・?
「ごめんなさい・・・怒ってない?」
もじもじと、言い難そうに謝る九龍を、俺は少し涙眼で見ていた。
あぁ、俺泣いてるぞー!マジ安心したんだっての!
九龍をぎゅっと抱きしめて、ほっと息を吐いた。
「良かった・・・お前に嫌われてたら、俺は死んでたぞ・・?」
あぁぁぁぁ・・・良かった。嫌われてたら、叔父さん、明日には冷たい身体で部屋で死んでたところだぞ?でもって、新聞の片隅に「ホテルで孤独死39歳独身男」とか書かれちゃったりとかしちゃったりするところだったぞッ!?
俺の心の中で万歳コールが聞こえてくるようだぜ。あぁ良かった、マジでよかったー!
ふいに腕の中で身動ぎした九龍が、俺を見て・・・・・・・笑った。
お、おぃ・・・・・なんで、カメラないんだ!?兄貴ーーーカメラー!!!!とか言いたくなるくらい。
俺の心のメモリィは増えていく一方だぜ。あぁ念写出来るものなら、すぐにでもするんだが!
あぁしかし・・九龍、お前の笑顔をまた見れて良かった・・。
「・・・やっぱ笑ってる方が、お前らしいな・・・・可愛らしすぎるッ!」
「可愛い可愛いって言われてもなぁ・・俺もう14なのに・・」
「大丈夫だ、お前はどこから見ても、11、12くらいにしか見えない」
「――ッ!ばかッ!」
あ、いかん。地雷をまた踏んでしまった!今回は可愛らしい地雷だが・・・・。
あの言葉のことを、謝ってないからな・・・まだ。
ちゃんと謝るからな?遺跡のことも・・・ちゃんと話してやるから、安心しろ。
でもその前にだな・・・・・・・・この可愛いのに、構い倒しますッッ!
九龍は、腹が立ったのか、俺の腕を抓ろうとしている。
この子は昔から、何か腹が立つことがあって報復するとき、直接的な暴力とかではなく、こんな小さな可愛らしい嫌がらせをしてくるんだが。
まぁ、ポカポカとかバシバシとか叩かれたりもするが。
たいていが、こんな小さな嫌がらせなんだよなァ・・・。
少しばかりちくっとするが、その仕草が可愛くてそっちの方が大打撃だ。あー可愛いィ〜!
「おぉ〜いてぇ〜いてぇ〜よ?九龍ちゃ〜ん?」
あぁ、ヤバイ。顔が、俺様の美貌が、でれんと崩れている気がするなァ・・。
「もぅーーッ!」
俺の顔を見て、更に腹が立ったらしい・・・あぁでも、ぷんすかしてる九龍は、本当に可愛い。
九龍は、俺の服を捲ると、冷たい手で腹を掴んできた。
ちょ・・・ちょっとまて、お前の手冷たすぎるッッ!そっちで大打撃だぞ・・・?
うひ〜〜とか言いそうなのを、我慢する。言ったら最後、九龍は悪ノリするに違いない。
九龍は、俺の腹を掴み、伸ばそうとして「あ、あれ?」と声を出して首を傾げている。
何をしようとしたかを判って、俺は内心脱力した。
以前といっても・・まぁ・・・俺が仕事を完全に再開する前のことだな。俺は家庭の仕事と九龍を育てることに全力を尽くしたんだが。
それまでの運動量とは比べ物にならないくらい、動いてなかったんだよな。
しかも俺は大食らいなもんだから、自然と腹に贅肉が溜まり、何かの拍子・・多分、九龍と遊んでやってたときか?
九龍が俺の腹の贅肉を掴んで、「叔父さん・・・・これ、さんだんばらって言うんだよね?」とか言って来た・・物珍しそうに俺の腹に指で触りながら。
かなり、ショックだった・・・。
あれから必死で腹引き締めダイエットしたぜ・・血も滲じむ努力の成果、俺の腹は見事に筋肉がついている。
「フッ、九龍、甘いぞ?不二家のケーキ並に甘いぞゥ?」
「な、なんで、引き締まってんの!?」
「ふははははッ!叔父さんに不可能はないのだよ?九龍君」
もうーそりゃ大変だったぞ?まぁ、お陰で、仕事を再開した時はとくにブランクを感じずにすんだんだが。
「むー・・・・えいやッ!」
「うごぉっ・・・・」
く・・・・・・・・九龍・・・・・お、お前・・・いきなり何するんだ!
「ハリボテとかじゃないのかー。凄いなァ」
ハリボテってなぁ、お前・・・俺はここに腹を見せに来たんじゃないんですけど・・ね?
「く・・・九龍・・・・お前なぁ・・・・」
脱力して九龍を見ると、何故かキラキラした眼をして俺を見上げてきた。
「・・・筋肉の作り方教えて!」
「う・・・えぇぇえええ!?」
「うえええ?」
「く・・・・、九龍、お前はムキムキになりたい・・・のか?」
「うん」
「うん!?」
や、やめとけぇーーー!!!!いや、お前がムキムキィ〜でも野太い声になっても、俺の愛は変わらないんだけどな?
でも・・やめてくれ。叔父さんの夢を壊さないでくれ。
九龍は兄貴とその母親の体質をばっちり受け継いでいるらしく、筋肉がついてもどこも細い。
内心、ムキムキはちょっと嫌だなと・・思ってしまっている叔父さんだ。
格闘系は基本的なことに毛が生えた程度しか教えてないしなぁ・・・。
もう少し大きくなったら、次の段階のを教えてやるつもりだが・・・・。筋肉の作り方だけは、教えたくないぞ?
頼む、それだけは勘弁してくれ!
「2、3年後には・・・髭生えてて、声渋くて、ムキムキで、腕ぶっとくて、でも引き締まってて、あ、やっぱ爽やかだと良いな〜」
はいぃ?え、何ですか・・?突然・・・。
なんか突然話が飛んでないか?ええっと・・?2、3年後には・・?誰のことだ?
良いなァ〜って、なんで、そんなに夢を見るような顔をしてるんだ!?
もも・・・・もももも・・・もしかして・・・?
俺は九龍の両肩を掴んで、正面から真剣に問い詰めた。
「・・・・・・・・・好みのタイプなのか?」
「はいぃぃぃ?」
「そんな奴が・・・好きなのか?」
そんな・・・髭生えてて!声渋くて!ムキムキで!腕ぶっとくて!でも引き締まってる、爽やかタイプが好みなのか!?
ん・・・・おぉぉぉ!?もしもしも・・・・もしかして、もしかしてもしかしてッ!

「お、おれのこここここここ・・・・・・・」

俺のことか!?と言いかけて、背後の気配に固まった。
「・・・・・・・・・・九龍、少し眼を閉じていなさい」
はッッ!?俺はその声に、思わず見上げると。
窓辺には大魔神が、なまはげのように降臨していた。
わ・・・わるいこはいませんよぅ〜???
「はーい」
九龍は素直に眼を閉じた・・・瞬間、思いきり顔面に向かって凶器・・・・げ、九龍に渡した俺の愛の形、特注の小振りな投げナイフが飛んできた。
ビシッと、壁に突き刺さる。薄皮一枚切ったようで血が流れた。
・・・・・・・・・・こぇえええーーー!
「おれのこ・・・?なんだ?」
「えー・・・こけこっこ?」
「そうか、ニワトリか」
「そうそう・・・・・そうでございますよ・・・」
一気に頭の熱が冷めた。兄貴は俺を睨みつけたあと、九龍の頭を撫でて元の位置まで戻っていった。
あぶねェ・・・すっかり忘れてたぞ、あいつの存在。恐ろしや〜ッ!
肝を盛大に冷やしていると、ふと九龍がぽやんとした顔をして、ため息をついているのに気がついた。
あ・・・?どうしたんだ?
「九龍・・?どうした」
「えへへー好きなのー」
「・・・・・・・はいぃ?」
なんだ・・・・その物凄く幸せそうな表情は!何が好きなんだ!!!!
もしかして・・・・・さっきの続きか?だよな?だよな?好きなタイプのことか!
「・・・そうか、好きか・・」
「うん!」
嬉しそうに頷いた九龍を見て、更に俺は舞いあがった。
もう一度聞かせてくれ!!!
「俺が理想のタイプなんだな?」
叔父さんが理想のタイプだよ!とか言ってくれ。幸せで死ぬかもしれないが・・・。
しかし、九龍は不思議そうな顔をして小首を可愛らしく傾げた。
「へ?」
「へ?って・・・・お前・・・・」
もしかして・・・・もしかしてよぉ・・・、お前違うことを考えてたのか・・・?
「カレーの話でしょ?」
「何故カレーだ!!!」
いつどこでカレーの話をしたんだ!!九龍、お前が時々わからねぇ・・・・。
あぁ・・・空飛んでいたのが一気に落とされたような気分だぜ。なんだよ、俺が理想のタイプですとかいう話じゃなかったのかよー!
「えー違ったのかぁ・・・カレーの話してると思ってたんだけどなぁ」
「俺はカレーを恨むぞ・・・」
今日からカレーは俺のライバルに認定してやるッ!こんちくしょーっ!
ハァーーッ!と大げさにため息をついてみる。ついでに恨めしそうに見てやるぞ〜ッ!
九龍の肩を抱いたまま、じっとりとした眼で見ていると、九龍は俺を見て何か考え込んでいるようだった。
ほれほれほれ、叔父さんいじけちゃったぞ?復活の呪文は知ってるだろ?言ってみ?な?
ふと視線を感じて眼を上げると、兄貴と眼が合った。
その口が「ざまみろ」と動いて、腹が立つ。カレーに負けたからか!腹立つなぁ、おい!
あぁ余計凹んだぞ・・・いじいじといじけてみる。
「叔父さんー?」
「はぁ・・・・・どうせ俺よりカレーが良いんだよな・・・」
わざとらし〜〜く言ってみると、九龍は大きな眼を瞬かせた。なんだその顔、可愛いな、おい。
俺は拗ね拗ねとしたフリをしながら、九龍を見ていた。
俺のことすごく気にしてるな?俺を観察するようにじっと見てくる仕草が愛しい。
ふと、九龍が動いて俺の腕を掴んだ。両手で掴まれて、ぎゅうっと力を込められる。
「お・・・・おい・・?」
血を止めるつもりかぁ!?さすがにちょっと、痛いデスケド・・・?
九龍は俺の腕を掴んだまま、見上げてきた。背筋を伸ばすようにして、近づいてくる。
頬っぺたにちゅーでもしてくれるのか?とでれ〜となりそうなのを、抑えてみていると。
「いてぇー!」
・・・髭を引っ張られた。短めの無精髭を掴んで引っ張るなよ・・・滅茶苦茶痛いんだぞ!?怒るぞ!?
しかし九龍は触りつづける、無視なのね・・?九龍ちゃん・・・。
しかも何故か、耳元に視線を感じる・・。モミ上げを撫でられる。
何に興味を持ってるんだ、お前は・・。
「叔父さん?」
「九龍・・?いったい・・・」
何なんだ・・・?何がしたいんだよ、お前は。そう続けようとした言葉は呼ぶ声に遮られる。
「叔父さん」
「なんだよ?」
「叔父さん」
「・・・・九龍?」
「えへへ・・・叔父さん」
「九龍・・」
なんだなんだ?小さい頃と変わらないな?返事してやると、嬉しそうな笑顔になるところは・・変わらない。
「・・・・そんなところが好きだなぁ・・・うん、とっても・・」
「・・・ッ!」
お・・・・・・・・・・・・・・・・・おい・・・九龍・・・お前は・・・。
お前は叔父さんを殺す気か!?心臓がとまりかけたぞ!?今度はカレーのことじゃないんだよな?俺のこと・・・なんだよな?
や、やべぇ・・・凄まじく嬉しい・・。
目の前で俺を見て、九龍がまた笑った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・何故カメラがないんでしょうか!くそッ!可愛すぎる!
俺が九龍を抱きしめようと動くと、九龍は更に追い打ちをかけてきた。
「叔父さんみたいに、なりたいなって思ってたみたいだ」
「く・・・・・・・・・九龍・・・」
「叔父さんみたいに、強くなりたいって思う・・・」
うわっ・・・・ちょ、ちょいとッ!あぁぁぁ・・・幸せで眩暈が・・・。
抱きしめて良いか?あぁもうぎゅっとしてやる!と腕を広げようとしたが、その前に九龍に片手を掴まれた。
小さな手で包み込まれる。
・・・・震えてる・・・。
「・・・力もない、頭だってそんなに良くない・・、試験だって・・もう、3度目だし・・落ちたの」
俺は顔が強張るのを感じた。
「九龍、俺は・・・ッ!」
咄嗟に呼びかけた声は、九龍の首を振る動作に塞がれた。
「事実だよ、叔父さん・・・。言われたとき辛かったけど・・」
九龍は俺を見て・・・笑った。
更に掴まれた手に、力がこめられた。
「だって本当のことだもん。足手まといだし、試験にも・・・落ちた」
「九龍!」
「聞いて!判ってるから・・叔父さんが言いたいこと」
「・・・・・」
「・・・叔父さん言ったじゃないか・・・立ちあがる強さが原動力になるって。自分のことを、ダメだって落ち込むより這いあがる強さが大事だって・・」
震えている手が、痛いほど九龍の気持ちを表していた。
「足手まといでもいい、少しでも叔父さんの力になって見せるから・・・置いていかないで」
「九龍・・・」
「俺の理想はね?強くなって、叔父さんの隣でちゃんと自分の力で、歩きたいんだ」
「・・・・・・・」
「強くなりたい。叔父さんに頼られるくらいに・・・、手助けできるくらいに・・・」
「・・・・・・・」
「叔父さんを守れるくらいに、強くなりたいんだ」
「九龍・・・」
「だから、置いていかないで。危ない所だって判ってる・・・そんなところに、一人で行かないで・・」
お願いだから、と、呟いて俺を見上げる九龍は揺るぎない眼をしていた。
真剣な、痛いほど力強い意思を込めた眼に、俺は圧倒されちまった。
・・・・九龍、何時の間にそんな眼をするようになったんだ・・・?
降参だ・・・。参った。参りました。
あぁ・・・・もう・・守られるだけの子供じゃないんだな・・?
九龍に掴まれていない方の腕で九龍を抱き込んだ。
少し体温が高いな・・・緊張してるのか?
「・・・強くなったんだな?九龍」
「え・・・?」
「あんなに泣いてたのにな?」
「なッ・・・叔父さん、誤魔化さないでよッ!」
ぶすっとむくれる仕草が可愛い。
「本当はな・・・・連れて行きたくないんだ・・」
「――ッ!」
「あぁ・・・そんな顔をしなくて良いぞ?」
掴まれた手を、逆に握り返してやる。大丈夫だと、伝えるために、優しい仕草で包み込む。
「俺もな・・?お前を守りたくて溜まらないんだ」
それこそ、真綿に包んで外にすら出したくないくらいだぞ?傷一つつけたくない。
「・・・・だが、お前は俺の相棒でも、あったんだよな・・?」
「叔父さん・・・」
「お前と約束した。お前が俺と一緒に行きたいと言ったあの日に」
「うん・・・・そうだよ!」
「九龍・・・いや、相棒。次の遺跡は危険だが、付いて来れるだろうな?」
「うん!」
「頼りにしてるぞ?」
「してして!」
可愛い・・・・尻尾が見えたらぶんぶん振ってそうだな?
「いいか?俺より前には絶対に出るなよ?」
「はい」
「俺の指示には従うこと」
「はい」
「愛してるぞ」
「はい・・・・・ぃ?」
あぁもう可愛すぎる!眼をまるくしてるところが、凶悪的だ!
しかし、九龍の可愛らしさは、俺の想像以上だった。
「えっと・・なんだったかなぁ・・・・あ!そうそう・・・・・叔父さんが欲しいです」
「ゲホッゴホッグフッ!」
今何て言ったァァァーーーーー!?????
ちょ、ちょっとまて!!!それはどこで覚えたんだ、九龍ー!
俺が凄まじく慌てていると、九龍は更に追撃を開始した。
「あと・・えーと・・・お味噌汁が食べたいです」
「・・・・・・・・・・は?」
味噌汁?腹が減ってるのか・・・?
「一緒のお墓に・・・?違うか、遺跡に入りたいです」
「はか・・・・?いせきぃ・・・?」
「あと、何だっけ・・・?」
「俺に聞かれても・・・」
「あ!」
「あ?」
「・・・・・でもやめとこう・・・うん・・」
なんなんだ・・・一体・・・。顔を赤らめて照れる姿は可愛すぎるぞ?それより九龍!お前どこで何を見てきたんだ!?ド肝を抜かれて、俺の心臓麻痺でも起こしそうなんだが・・・叔父さん殺害計画か!?
問い詰めようとすると、九龍は特大の爆弾を放った。
「叔父さんのこと・・・・・・とっても・・・大好きです」
「――ッ!!!」
凶悪な顔だった。少し俯き加減で、幸せそうに微笑みながら・・・・そんな事を言うなぁぁぁぁーーーー!
俺は九龍を愛して愛して愛して愛して、止まないヤツなんだぞ!?
叔父としてだ、叔父として!養い子のこの子は俺の子供だー!!!
だが・・・・・・・・・・・・・・・・ヤベェ・・・。
リーンゴーーン!と鐘の音再び・・・・あぁ聞こえるぜ。
あぁ、あの鐘を鳴らすのは俺だったか・・。
ウェディングマーチまで聞こえてきたぞ・・・。
あぁ・・・・・九龍・・・幸せになろうな?とか、何を言ってるんだ、俺!
病める時も健やかなる時も、愛しつづけちゃいますとか・・・・・あぁ、俺、止まれ・・・てか誰か俺を止めてくれー!

「九龍、カレーのことは?」

ゲッ!!!!!!!!!!!!!
凄まじく冷たい冷気の漂う声がした・・・。窓辺に立つ大魔神は、張りついた笑顔でそこに仁王立ちしていた。
その眼は「死にたいらしいな?」と、ギラギラと殺意を宿していた・・。
あぁ・・・九龍、俺は死ぬかもしれないぞ・・。
「カレー!?大好きー!」
あ・・・!?ちょっと・・・・九龍ちゃん・・・。
「叔父さんとカレーはどっちが好きなんだ?」
「え?えーっと・・・お腹減ったから、カレー」
く、九龍ちゃーーーん!!!
「おいしそうなカレーがあっちにあるぞ?さぁ、食べてきなさい」
「はーい!」
もうすでに、カレーしか頭のない九龍は、俺の腕を振り解き・・・・酷い酷いよ!叔父さん泣くぞ!・・・立ちあがると、何か思い出したように、懐から紙を出すと、俺に手渡した。
「・・・・・・なんだ・・・?」
「さすらいの絵描きのおねーさんから貰ったー」
「さすらい・・?」
兄貴も不思議そうな顔をしている。
さすらいってなんだよ・・九龍。
俺としては、今この場からさすらいたい・・・・てか逃げねば、H.A.N.Tに死亡を確認されかねない。
九龍は俺達に構わずにさっさと、愛しのカレーの元へと走っていった。
あぁッ!それにしても。俺の今の気持ちはまさに・・・・振られた男か、愛妻に逃げられた旦那のようだ・・・。
あぁ・・・・・・くそぅッ!いじけるぞ!?
行かないでくれ、と泣いても、腹を減らしている九龍は見向きもしないだろうな!あの子は飢えるとイノシシになるからなぁ・・・。
いつだったか、あの子が大事に残していた唐揚を俺が食べてしまったことがあるんだが・・・。一週間くらい、「キライ」「あっちいって」「邪魔」「うるさい」しか口を聞いてくれなかったんだよなぁ・・・。
あの時は本気で泣きましたが、今回も邪魔するときっとそうなるだろうな・・。
うぅ、カレーめぇ〜〜うらむぞぅ〜!
俺は内心しくしくと泣きながら、とりあえず、九龍に貰った絵をやらを見てみようと開いてみた。


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