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叔父さんと僕(オヤジ編)
第2部・その2

「ここにも居ねぇ・・・・・」
レストランの入り口から中を見渡してみたが九龍の姿は無かった。支配人やホテルの従業員に聞いてみたが、見ていないらしい。
あぁぁッ!マジでどこいったんだ!?
九龍ももう14歳だ。小さな子と違って迷子になっても戻っては来れるはずだ。
外か・・?いやでも、外出てたら、見咎められるだろうしな。
九龍は目立つんだよ。外見は可愛らしいしな。何かと目を惹きやすい。
成長期で少しずつ大きくなっているが、どうみても小学生にしか見えないとかいわれたこともあるみたいだしな。そんな子が一人で外へ出ようとしたら止められるだろう、さすがに。
・・・あと他はどこだ・・・?もしかしたらもう戻ってるかもしれない、か?
そう思い階段方面へ向かうと、階段を上り出す人影が見えた。
「居たッ!」
浴衣に着替えているが、あれは九龍だ!
この俺が九龍を見間違うはずがない!
俺は人目も気にせずに猛ダッシュで九龍を追いかけた。

しかし、九龍は足が速い。スタスタと階段を上っていく。待てこら!待て〜!
「ぜーはー・・・」
階段を3階分上がったところで、息が切れた。考えたら俺ずっと走ってないか?
九龍は俺が近くにいるのに、まったく気がついていない。
九龍〜九龍〜九龍ちゃーーーーーん!こっち見やがれー!!!
俺の念が届いたのか九龍は4階の途中で止まった。
俺は急いで上に登る。手すりの向こう側の九龍は、手に持った飲み物をぐいっと一気に飲むと、ふーっとかため息をついてやがる・・・。
おい!俺にいい加減気づけ!!!
「・・・・ぜぇーーーぜぇ・・・・みつ・・・・けたぜ・・」
4階の踊り場まで後数歩!俺はやっと声を出した。
しかし九龍は気づかずに階段を上り出した。こらぁぁぁーーー!待たんかー!
「見つけたぜッッ!!!!」
一気に踊り場まで駆け上る。九龍は俺にやっと気づいて目を丸くしていた。
俺達の距離はわずか5段差程度。逃がさねぇぞッ!
九龍の持っていたタオルがバサッと落ちた。
もう片方に持っていたペットボトルが水音を立てて転がって俺の足元まで来た。
それを合図に、俺は、床に勢いよく膝を落としながら大声言った。
「悪かったッッッ!!!」
「・・・・・・ッ!」
土下座をしようとしたとたん、九龍は踵を返して脱兎のごとく逃げていった。
お・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、おい・・?
「お、おい!?九龍ー!?」
なんで、逃げるんだ!なんだそのマジ逃げは!おいおい可憐だな・・・・って惚気てる暇はねぇよ!

「待てぇぇぇぇーーーーいッ!」

「イヤッ!」
い、イヤ!?イヤだと!?
・・・・・・・・そんなに俺のことを嫌いになったのか?
そんなバナナ!イヤ違う、バカな!あれだけの事で・・・いや、九龍にしてみれば大事なんだろうけどよ・・・。
謝らせてさえ、くれないのか?
聞いてくれ。頼むから。逃げないでくれ、待ってくれ!
俺は追いかけた、そりゃぁもう、全力で。
時々走りながら振り向く九龍が、恐怖に怯えている様で俺のガラスの心は砕かれそうだが。
逃げる姿も可愛いが・・・・・・・・・・・待ってくれ〜!
「くろぉぉぉぉぉーーーッ!」
時々転びそうになる九龍に冷や冷やしながらも追いかける。
視線の先で、部屋の前についた九龍がカギを取り出して開けようとしていた。
待てーーー!行かせるかー!
「あれ・・・?」
しかし、開かないらしい。あぁ、そういえば、兄貴はカギしめて出てないし、俺もカギ持ってない。
つまり最初から開いてたってことだな。
九龍は知らずにカギをかけてしまったってことか。俺もついてるな!
「あ、開かないー!」
「捕まえたッッ!!!!!」
「ぎゃッ!!」
ぎゃっ!ってなんだよ・・・叔父さん泣くぞ?今の結構クリティカルだぞー?叔父さんの心に大打撃だ。
「はぁ・・・はぁ・・・・・・・捕まえたぞ、九龍」
痛むガラスのハートを宥めつつ、ドアノブを掴む九龍の手の上に俺の手を重ね、もう片方の手を九龍の脇の壁についた。
逃がさねぇぞ・・・・・というか、逃げないでくれ、頼む。
「なんで、逃げるんだよ・・」
「・・・・・・・・・・・・」
こら、可愛い顔を俯かせるな!それにしても細い首筋だな、おかしい・・・俺こいつにたんまり食わせてるはずなんだが・・・?
なんでこんなにひょろっとしてやがるんだ?
親父もひょろひょろしてやがるし、母親も痩せてるな、そういえば。
遺伝か?それでももう少し肉つけないと、俺が掴んだらポキッとかいきそうだぞ・・?
「九龍」
まぁそれは置いておくとしてだ。
「俺のことが、嫌いになったのか・・・・?」
あぁ・・・恐怖の質問だ。顎の下に手をやって顔を上げさせて目を合わせた。
頼むから、「叔父さん嫌い」はウソだって言ってくれ!!
叔父さんはな?お前に嫌われると、死んじまう兎みたいなヤツなんだよ!!
歌もあっただろ!?てかドラマあっただろ!?叔父さん歌っちゃうぞ!?
「・・・・・・・・・・・」
頼むから嫌いじゃないって言ってくれ〜〜〜愛してるって言ってくれたじゃないか。
ウソなんだよな!?な!?
「九龍・・・俺はお前に・・」
ウソだって言って欲しいんだ・・・いや、謝るのが先なんだけどよ?
土下座もするからさぁ・・・何でもするからさぁ・・・・嫌いじゃないって言ってくれないか?
「・・・き・・聞きたくないッ!」
き、聞きたくないですと!?言いたくない、じゃないのに内心ちょっとほっとしたが、頼む!叔父さんとお話してくれ!
「九龍ッ!聞いてくれ!」
あれは物の弾みで言っちまっただけなんだ。お前を貶そうとか、そんなつもりはミジンコもないんだ!
あ〜〜れぇ〜〜はぁ〜〜〜ちがうんだぁ〜〜〜!
聞いてくれ!聞いてくれ!頼むから許してくれ!
九龍は俺をしばらくじっと見ていたが、急にでかい眼に涙が溜まりだして泣き出した。
「あぁぁぁーー泣かないでくれ〜!」
掴んでいた手首を離して、抱き寄せる。
風呂上りだからか、暖かい。
シャンプーの匂いがいい匂いとか言ったら、確実に俺は変質者だな!
いや・・・普通に思うんだけどな・・。
だって可愛い可愛い可愛い(中略)甥っ子の九龍だぞ!?俺が育てたんだぞ!?俺としてみれば、全部可愛いんだよ!
決して世間様に後ろ指を差されるような、妙なもんじゃねぇよ。
「あそこです!変質者!」
違うっつーたろうが!俺はッ!善良な九龍の叔父さんなんだぞッ!
「少年が、襲われてる!」
「は・・?」
幻聴かと思ったが、違う。階段方面からホテルの従業員数名と、それを呼んで来たらしいおばはんが見えた・・。
おい・・・。もしかして・・これは・・。
「ちょっと、そこの人ッ!その子を放すんだ!」
若いホテルマンが俺に近づきながら言って来た。
これって、俺、変質者にされてないか・・・・?
「その小さい子を、物凄い勢いで追いかけてたんですよ?その男の子、悲鳴上げてました」
「警察に通報しますよ!?」
やべぇ・・・・・・・・・。
「ち、違うッ!俺はこの子の叔父だ!」
「胡散臭いな。いいから、その男の子を放してやるんだ!泣いてるじゃないか!」
九龍を見ると、こりゃまた凄いありさまだ。
涙を必死に拭う動作、押し殺した泣き声、震える身体、とどめはサイズが合ってなくてブカブカだった浴衣・・・もう盛大にはだけております。
・・・俺が何かしたような、感じだな・・・おい・・。
「この変質者め!」
ホテルマンが実力行使とばかりに俺を捕まえようと手を伸ばしてきたんで、九龍を抱きかかえて避ける。
咄嗟にやっちまったんだが・・・、うわぁ・・・警察呼ばれそうだな・・・やべぇーよ!
「この子の親は!?」
「たしかチェックインの時は背の高い40歳くらいの男性と一緒でしたが・・」
「おいッ!俺はこの子の実の叔父なんだって言ってるだろ!」
「・・・・・・・ひっく・・・・・」
俺が叫ぶと、九龍が腕の中で身じろぎした。
嫌がるように、俺の腕を放そうと弱々しく抵抗する。
・・・・・・・・く、九龍ちゃん・・・今ね、叔父ちゃん、ピンチなの?わかる?キミのその動作、叔父ちゃんを追い詰めまくりなんですけどもー。
「その子は嫌がってる!放してやれ!」
九龍の可憐な仕草は、俺への疑いを決定的にしたらしい。
突き刺さる視線、視線、視線。
うぉぉぉぉー!俺は変質者じゃねぇよー!!!
「放して・・・ッ」
九龍ーーー!叔父さんへの罰なのかー!?このタイミングでその泣き声でか細い声は、俺へとどめを刺すおつもりですかー!?
俺を見る群集の眼は、すでに道端の生ゴミを見る眼以下だ。
俺の心の声は、九龍にはミジンコ程度にも通じなかった。
九龍は俺の腕から逃れようと、暴れて、泣きながら叫んだ。

「放して!イヤッ!助けて、おとうさーーーーーん!」

呼ぶなぁぁぁーーーーーー!!!!
大魔神が、大魔神がッ!降臨するじゃねェか!!!
九龍、叔父さんを殺すつもりか!?そんなに俺が嫌いになったのか!?

「くろぉぉぉぉーーーー!」

あぁ・・・来たよ。これが逆なら俺は嬉しいんだけどな・・。呼ぶなら俺を呼んでくれよ・・九龍・・。
「九龍ッッ!!!」
「おとうさーん」
「九龍ッ!今、お父さんが助けてやるぞ!」
俺は悩んだ。九龍を手放すべきか、逃げるかで。
九龍を連れたまま逃げれる可能性は、大魔神の前だからなぁ・・・0以下だろ。
しかも九龍が俺から逃げようとしてるから、さらに無理だ。
俺は九龍には勝てないんだよ・・・。この子がこんな風に泣いてるのを、無視なんてできねぇんだよ。
殴られたり蹴られたりして、九龍が巻き込まれる可能性もあるからな・・・俺は手を放した。
そのまま万歳をして、降参のポーズを取った。
「・・・・ッ!お・・・お父さん・・」
ん?なんか、今俺が手放したことに、傷ついたような顔を・・・しなかったか?
まぁ、気のせいか・・・?九龍はそのまま、兄貴の腕に飛び込んでいった。
あー・・・・羨ましいッ!それは俺の役割だったのによ!
俺よりそっちがいいのか?とか、まるで恋人に逃げられた男みたいな台詞を吐いてみる・・。
あぁ・・・・・・・・・・はまりすぎだ。
「あぁ・・・・九龍・・・大丈夫か?」
「ひっくひっく・・・」
あぁ、九龍・・。ごめんな?叔父さんちょっと焦りまくってたから、怖がらせたんだな?
「観念しろ、変質者」
「へいへい」
「おい、警察呼べ」
若いホテルマンの兄ちゃんに両腕を拘束されて、連れて行かれそうになった時、兄貴が止めた。
「なにか?」
「あぁ、ちょっとな・・・、九龍?心配しないでいいから中に入っていなさい」
兄貴に殺されるのが先かもな。
九龍・・・幸せになってくれッ!
叔父さんは、お前に嫌いといわれた時点でもう死んでいるかもしれん。
九龍は、俺と眼が合いそうになると、慌てて逸らして、兄貴の言葉に頷いた。
部屋を開けようとして、開かなかったらしい。慌ててる。だからなーそれは閉まってるんだよ、もう一度カギをまわせ!
女性従業員がさりげなく横から手を貸してくれて、ドアを開けた。
彼女が何か言う言葉に、首を振って扉を閉めた。
九龍が完全に扉の向こうに姿を消すと、兄貴の顔が一気に般若になった。
「この・・・・・・・・・・・・ッ!また九龍を泣かせたかーッ!!」
バギィィッ!と耳元で盛大な音がしたとたん、俺は宙に浮いていた。
痛みというか、凄まじい熱さが、顔面に集中しているような感じだ。
何度目だろうなー殴られるの。明日俺の顔面腫れ上がってるんじゃないだろうな・・・?
あーぁ・・・でももう、どうだっていいや。俺の美貌が崩れようと、醜くなろうと。
九龍が、俺から離れていくのに比べたら、どうだっていいことだ。
「・・・・・・・っ・・く」
床で寝そべってうめくと、兄貴は俺の腹の上に足を乗せた。
「・・・・・・・うちの愚弟が迷惑をおかけした。この通り、仕置きしたので許してもらえませんか?」
「え・・・?本当に、その人は、あの子の叔父さん!?」
ざわざわと騒ぐ奴らに、平然と頷き、
「ちょっとした喧嘩をしてしまったようで。この愚弟が私の息子を怒らせたようで・・」
「本当、ですか・・?」
「ええ」
穏やかに言う兄貴と、ホテルマンとのやり取りの中。遠くにいるほかの従業員や、おばはんどもが何か言っていた。
「・・・本当にあの子の父親なのかしら・・?」
「でもお父さんって言ってたわよ?」
「あの2人が共犯で、あの子を騙してるとか・・だってどうみても・・・。誘拐犯だったりしないかしら・・!?」
おいおい・・・おばはんと、お嬢さんの想像は逞しいな・・。
言っとくが、兄貴にも聞こえてるぞー?暴れるぞー?
「・・・ですが、あんな状況は異常だと思いますが」
「あれは・・・たまたま不運な出来事が重なっただけで・・」
兄貴が言うが。群集はそう簡単には止まらない。
「いや、どうみても、あの人襲ってました!」
「あの子怖がってましたし!」
「そうだ、警察呼べ!」
あーぁ・・・、もう庇わなくて良いぞ?俺は一晩くらい警察のご厄介になってくるぜ。
カツ丼とかでるかもしれねぇしな?悪くはない・・・・・・かもな?
俺が、もう良いと口にしようとしたときだった。

「叔父さんを連れて行かないでッ!」

バン!と扉を開けて飛び出してきた小さな身体が、俺に抱きついてきた。
慌てて抱きとめてやると、ぎゅっと首にしがみつく。
「九龍・・・・」
少し震えてる身体を撫でてやると、九龍は大きく息を吸った。
「ごめんなさい。叔父さんから逃げたのは・・喧嘩しちゃってたから・・・」
身体を離して、他の奴らに向き合った。
あぁ・・・・小さい体で俺を庇ってくれてるんだな・・・お前。
あんな酷いことを俺は言ったのによ・・・・。
「だから、だから、叔父さんは、変質者とかじゃないから、連れて行かないでッ!」
「本当なのか?・・・この人達に無理やり・・とかじゃないんだね?」
何て事を言うホテルマンだ。サービスマンがそれでいいのか?
「うん。お父さんも、叔父さんも・・大好き・・だから」
え・・・・・・お、おいー!?本当か!?まだ俺のことを・・・しゅき・・じゃない、好きって・・・言ってくれるのか!?
「騒いじゃって、ごめんなさい・・」
九龍がけなげにも頭を下げた。
その健気な態度に大人達の態度は一変した。
「そうか・・・、こちらこそ、誤解をしてしまって・・・本当に申し訳ありませんでした」
「いえ・・・」
「ご不快な気持ちにさせてしまったことを、お詫びいたします」
「・・・いえいえ」
兄貴がとっとと失せろという笑顔で応対してやがる。
まぁ、丸く収まるなら、それでいいけどな・・・。それより俺は・・・。
九龍に背後からそっと優しく抱きしめる。慌てさせないように、そーっとそーっと。
九龍がビクッと身体を震わせたが、今度は抵抗してこなかった。
「それでは・・・」
と、話が済んだらしくホテルマン一同が下がっていくのを見送る。
奴らが完全にいなくなったとたん!
ベリッ!と九龍から離された。
「お、おい!なにす・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・九龍?お父さんと、ルームサービスで何か食べようか?無料にしてくれるそうだよ」
九龍の肩を抱いて、護るように部屋へと連れて行く。
「ホント?じゃぁ、カレー食べたいなァ」
「そうか。他に食べたいものがあるなら何でもいいぞ?」
兄貴は俺をまったく見ない。無視ですかー!?俺の罅割れまくっているハートにまたもヒビが入るが・・・。
「あ・・・・お、叔父さんは・・?」
九龍ッッ!!!許してくれたんだな!?あぁ、なんて優しい子だ!
「あ?あれは生ゴミだから、捨てておけ」
「なまごみ?」
「腐敗するんだ。近寄っちゃダメだからな?」
「え・・・・・うん」
うん、じゃないだろ!ちょ、ちょっと待てェッ!そこで納得するな!
俺が駆け寄る寸前に、鼻先で扉が閉まる。ご丁寧にチェーンをかける音までした。
うわー・・・怒ってるぞー大魔神。
お、恐ろしいィィィ!!!

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