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叔父さんと僕(九龍編)
第1部・その4

駆け出して、言われたとおりに駐車場前まで来てみた。
走りながら、色々考えてた。
叔父さんの言葉が嬉しくてにやけちゃいそうになる自分が怖い。
だって、嬉しかったんだ、とっても。
起きている俺に、正面から「愛してる」って言ってくれたのは・・・初めてだよね・・?
「愛してるぞー!」とかはあったし、「好きだぞ」とかもあったけど。真面目に真正面から言われたのは初めてだ。
俺だって言うの恥ずかしいと、思う。それくらいは、判ってる。
叔父さんは・・・・俺のこと、お荷物じゃないって、重荷なんかじゃ絶対にないって、言ってくれた。
俺のこと愛してくれてるって、言ってくれた。
とっても嬉しい。
走りながら「えへへへへへ〜」とかにやけちゃうくらい照れちゃうけど嬉しい。
だから、叔父さんの『相棒』になれるように、また頑張れる。
あ、叔父さんの車と、お父さんの車、発見!
駐車場に隣り合って止めてある車を見つけた。
「んで・・・・・自動販売機・・・ないかなぁ・・・?」
きょろきょろと見渡す。駐車場の入り口の脇に、自動販売機が見えて駆け寄ろうとしたけど・・・・立ち止まる。
(ん・・・・?何か、おかしい・・・?)
人気が全然ない。
この辺の道は入り組んだところにあるらしいけど、駅前だし、駐車場前なら一人や二人は、人影が見えるのが普通のはずだよね。
東京へ来てから、これだけ人気のないのははじめてだ。
それに・・・・・・人気がないはずなのに、視線を感じる。
一人じゃない。数人の。
俺は、なるべく平然と気づかないフリをして自動販売機の前まで歩いていった。
お財布を、懐から出すフリをして、叔父さんから渡されていた小振りのナイフをそっと手の平に出した。
カツン、と背後で音がして、気配がした。
「えいッ!」
ガツンと後ろ足で蹴って、飛びのく。
そこには黒いスーツの男が一人、足を押さえてうめいていた。
「何か用?おっさん」
「こ、このクゾガキ・・・ッ!」
その男が唸ったとたん、同じように黒いスーツを着たオジさんたちが現れた。
何人だろう・・・・?3,4・・6人・・。
「お前、葉佩小五郎のバディだろ?」
「そうだよ!んで?何か用なの?おっさん達」
なるべく平気なフリをして、喋る。本当は、怖い。何者かは知らないけど、強そうだった。
「生意気なガキだな、悪いが一緒にきてもらう」
「お前さえ押さえれば、お前の叔父と父親は手を出せまい」
叔父さんと、お父さんへの足止め狙い、なのかな・・・?
どうしよう、ここから逃げなきゃ・・・。
また叔父さんの足を引っ張っちゃう・・・。
足手まといには、なりたくないッ!
「誰が一緒にいくもんかー!」
一番近くに居る人にナイフを投げる。
「おっと・・・・危ないガキだな」
簡単に避けられた。
けど、それは予測してた。相手が避けて体勢を整えるうちに、ダッと走り出す。
「待てッ!」
「ヤダよ・・ッ!」
タックルしてきた人を飛んで避けて、近くの建物の屋根まで飛びあがった。
「あ、このガキ!」
「ピョンピョン飛びやがって!!!この!」
屋根に飛び乗って、身を起こそうとしたとき、真横から石が飛んできた。
「わッ!」
石が右腕に命中して、身体のバランスが崩れた。
落ちる!!!
「わわわわ〜〜〜ッ!!!」
落下のダメージを覚悟して眼を閉じた。ぎゅっと眼を閉じる。
「あぶないところだったな・・・・」
ポスッと誰かの腕に抱きとめられる。
誰の腕・・・?そっと眼を開けると。
自分を抱きかかえた人物と目が合った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・うみぼうず?」
視界にまず入ったのが、ツルツルと磨かれた頭だった。
「失礼な」
「あ、ごめんなさい・・・・」
素直に誤ると、オジさんはふと労わるような眼をして言った。
「ふん、怪我はないか?」
「腕が痛いけど・・・ない、かなぁ・・・?」
答えながら、さりげなく相手の服を見た。
(あぁ、やっぱりこの人も黒い服だ・・・・)
「腕・・・・・?血が、でているな・・・」
オジさんが呟くと、他のオジさん達が騒ぎ出した。
「な、何!?」
「おい、怪我させるなって言ってただろ!?怒れるリサールウェポン二人組みが降臨するぞ!?」

「おぅ!登場してやったぜ!!てめェーーら・・・・・・・俺の九龍に、何してやがる・・?」
「九龍ーーーッ!!!お、お前ら、俺の息子を、傷物にしやがったな!?」

「あ、お父さん!・・・・と、叔父さん」
「ちょ、ちょっと待て九龍・・・。何故俺を先に呼ばないんだ!」
「えーっと・・何となく?」
別に何かあるわけじゃないけど。
そんなことを考えていたら、俺を抱きかかえたままの坊主頭のオジさんが、すっと静かに移動した。
他の人達の背後に周りこむと、俺の首元にナイフを近づけて言った。
「悪いな・・・・人質になってもらう」
最初からそのつもりだったくせに・・・。
でもこの人は乱暴じゃない、とても丁寧な抱き方をしている。片腕なのに。
ナイフだって、絶対に当たらない位置にさりげなくある。
おかしな人だ。そういえば、屋根から落ちたときも、滑り込んで助けてくれたような・・・。だって、ほら・・スライディングしたせいで、汚れてるし・・・。
優しい人なのかな・・?試しに、言ってみよう。
「下ろしてくれない・・・?」
「ダメだ」
あぁ、やっぱりダメかァ。
仕方がないので、落ちない様に、相手の人にしがみ付くと。
すこし離れたところに居る叔父さんが唸り出した。
「うぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・・・」
がりがりと頭を掻き毟る。あ、かなり怒ってる、みたいかな?
ごめんなさい、また・・・・俺、足手まといになっちゃったよね・・・?
だから怒ってるのかな。ぎゅっと掴んだ服に顔を埋めたら、叔父さんが叫んだ。
「くくく・・・九龍ッ!離れろッ!!!」
離れろ?
顔を上げて叔父さんを見ると、なんか必死な顔をして慌てていた。
何だろう。わかんない。
「形勢不利だな・・・」
「え?」
「すでに3人沈まされた。強いな、キミの父親は」
言われて見ると、黙々とお父さんが、黒い服のオジさん達をほぼ一撃で叩きのめしていた。
「お父さん、格好良いんだ〜」
本当にそう思う。あんな強さがいつか身につくかな?
お父さんみたいに強くなったら、叔父さんの隣に居ても堂々と出来るかな?
「お、叔父さんだって、格好良いんだぞー!見てろよー!九龍ー!」
叔父さんが何故か張り切って、何だか大げさな動作で一人叩きのめした。
殴りつけたポーズのまま、ちらりとこちらを見ている・・・けど、叔父さん・・・それなんか・・・。
「格好・・・・いい?」
「な、なんで疑問系!?」
「だってなんか、変」
「変!?」
ガーーーンと顎がはずれそうなくらい、口を開けたまま立ち尽くす叔父さんの隙を、背後から襲いかかった人が居た。
「叔父さん!」
思わず目をそむけると、俺を抱きかかえた人がそっと呟いた。大丈夫だ、と。
「え・・・?」
「九龍、どうだ?叔父さんは無敵だろ?」
「叔父さん・・・ばかッ!危なかったじゃん!」
「ば、ばか・・・・・!?叔父さん・・・泣くぞ・・・」
そんな叔父さんを見ていたら、ふいに俺を抱えたオジさんが言った。
「・・・我々は撤退する。とてもじゃないが、キミの保護者達には敵わないようだ」
「・・・放してくれる・・・・・?」
もし、連れて行かれるのなら全力で抵抗しなきゃ。
叔父さんとお父さんが、じりっと、数歩近づいてきているのが見える。
「その子を放せ。あとはお前だけだぞ?」
「今すぐ放しやがれッッ!てか、何やってんだ〜ッ!」
静かに怒ってるお父さんと、怒ってるのがよくわかる叔父さんを見て、オジさんはため息をついた。
「この子は解放しよう。降参だ」
そう言いながら、俺にだけ聞こえる様に囁いた。
「すまなかったな・・・怪我をさせてしまって・・・」
そっと地面に下ろされて、怪我をした腕を取られた。
血の滲んだ腕を取られて、怪我を診てくれようとしたらしい。
袖を上げられる前に、叔父さんがダッシュで走ってきてあっという間にその腕に抱えられていた。
叔父さん・・・?もしかして・・・捕まっちゃったの、怒ってるのかな・・。
「べ・・・・・ベタベタベタベタベタ触りやがってッッ!!!!」
へ・・・・?触る・・・?
どういう意味なんだろ。首を傾げたら、お父さんが近づいてきて頭を撫でてくれた。
『無事で良かった』って小声で言って来た。
お父さん、ごめんね、心配かけちゃって。
叔父さんも、ごめんなさい・・。
そう言おうとしたら、叔父さんがぎゅっと抱く力を込めてきた。
叔父さん、この前腰痛いとか言ってたのに・・・放してくれないかな・・・?
視線を送っても、叔父さんは気づかないでオジさんと会話を続けていた。
「怪我を見ようとしただけだ」
「うるせぇッ!!!九龍に触った時点で有罪だ!レリドンめッ!」
叔父さん、れりどんって何?丼物の一種・・・・??
「・・・・・お前な、この距離でまだ俺がわからないのか?」
「は・・・?誰だおま・・・・・え・・・・ってあぁぁッ!?」
「なんだ、知り合いか?」
知り合いなのかぁ・・・・。
叔父さんは、とても友達とか顔見知りの人が多い。
知らない人達と、知らない話で楽しそうにしている叔父さんは遠く感じられて、寂しい・・。
でも、こっちを見てくれないかな?と思うと叔父さんはちゃんと気づいてくれる。
邪魔してごめんなさい、と言うと、いつも頭を優しく撫でてくれる。
叔父さんのそんなところが、とても好きだなァ・・。
「あぁ・・・・まぁ、腐れ縁なライバルってとこか・・?なんでお前がここにいるんだ・・・・こんなしょぼいトコに・・・」
「しょぼい言うな・・・最近、若造に俺の座席を奪われてな、日本に流れて来ってワケだ」
「お前が・・・?若造に負けただと?年とったもんだな」
叔父さん達の話を大人しく聞いていたら、ふと腕を掴まれた、お父さんに。
そのまま見ていると、怪我を確認しようとしているらしく、袖をめくって腕を見ている。
さっきから少し痛いな、と思ってたけど・・・・。
お父さんが怪我の部分を指で押して、痛いか?と聞いてきた。
首を振ると、安心したようにため息をついて、そこをそっと撫でてくれた。
「今回の任務は、お前ら兄弟の邪魔をすることだ。この子を拉致して押さえようとしたんだが・・・うちの若いものが怪我をさせてしまった様だ、すまなかった」
「まぁ、そうだろうとは思ったが・・・」
ん・・・?何だろう。叔父さん達に見られたけど。不思議に思って二人の会話に耳を済ましてみた。
「それで?言いたいことでもあるのか?」
「忠告を、しようと思ってな・・・お前達が次に赴く遺跡だが。かなり危険だ」
「・・・・なんだと?」
「我らもまだ詳細は掴んでいないが・・・・、その子は、バディなのだろう?」
皆に見られて、ちょっとびっくりした。
何だろう・・・?と首を傾げると、叔父さんがぐりぐりと頭を摺り寄せてきた。
「ん?あぁ、良いだろ!可愛いだろ!」
「お前が田舎に帰って子供の世話を始めたと聞いたときは耳を疑ったが。なるほどな」
「・・・・・やらないぞ?俺のだから」
「うちの子だッッ!!!」
叔父さん・・・恥ずかしいよ・・・。
でも俺も叔父さんの子供で居たいって思ってるから・・・、お互い・・・まま?さま?だよね。
お父さんの言葉も、嬉しいよ・・・・えへへ・・・うちの子、だって・・。
俺には二人も「お父さん」が居ることになるのかな・・・?
幸せと嬉しさで、顔がニヤ〜ッとしてしまいそうになるのを、両手で押さえていると。
とても、聞きたくなかった言葉が、耳に入ってきた。

「その子は、連れて行かないほうが良い。あまりにも危険だ」

――ッ!!!
思わず息を止めた。心臓に突き刺さった言葉がイタイ。
「・・・・・・なるほどな、そんなにやばい山なのか」
叔父さんの言葉が続くけど、それすらも・・・・。
嫌だ嫌だ、置いていかれるのは嫌だ。
オジさん・・このタコ坊主めッ!そんな事言うなッ!
じろっと睨みつけて、ぎゅっと叔父さんにしがみ付くと、叔父さんは宥める様に背中をたたいてくれた。
叔父さん・・・・・・判ってくれた・・・・?
「危険度は低めに設定されてはいるが・・・最後まで到達できた者がいない」
「まぁ、その方が俺としてはありがたいが」
「腐れ縁としての忠告だ。まぁ、ついででもあったがな」
「ついで?」
「俺は今日ここでお前らに倒されたことになる」
「は?」
「レリックドーンは年々やり方がエスカレートしている。もうすでにいっぱしのテロリスト以上だ」
「抜けるのか?」
「あぁ・・・・どこかで傭兵にでもなるさ」
「お前も子供つくって育ててみたらどうだ?可愛いぞー」
「それも良いかもしれないな・・・・それじゃ、九龍君、すまなかったな?」
びくっと身体が驚いて跳ねた。
睨みつけたのを、知っているくせにオジさんは、優しくそう語りかけてくれた。
慌てて頷くと、そっと手を掴まれて、丁寧に両手で持たれた。
な、何だろう・・・?
何をするのかと、見ていたら、オジさんは綺麗な動作で前かがみになると、俺の手の甲にそっと、口をつけてきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・?」
ぷよんとした感触がしたと思ったら、すぐに放された。
そっと手の平も解放される。
何て言うのかな?動作が流れる・・・?みたいで、格好いい。
ごめんなさい、タコ坊主とか言っちゃって・・・って誤ろうかとしたら、そのオジさんは、ひらひらと手を振って去っていった。
・・・でも今のって、何だったんだろう・・。
手の甲には怪我なんてしてないのになぁ・・・。
「・・・・格好いいおじさんだったねー」
思わず、口にしてしまうと。
「九龍ちゃん・・・叔父さんの方が5万倍は格好良いから!叔父さん、格好いいーっていってみ?」
お、叔父さん・・・、確かに叔父さんは格好いいと思うけど。
でも、素直に言うのはなんか、照れちゃって恥ずかしいから言わない。
あ、でも。
「お父さんも格好いいよー」
お父さんには素直に言える。本当に強いし、憧れる。
将来、お父さんみたいな強さが欲しいなァ・・・。
さっきの言葉は今も胸の底にあって重いけど。
・・・お父さんみたいになったら不安になんか感じないのにな・・。
「九龍、お前は良い子だな」
「えへへー」
誉められて嬉しくて頬を押さえた。顔がてれんと垂れちゃうんだよなぁ。
叔父さんは、なんかよく言うので・・えーっと・・・しにょうせい・・?しんぴょんせいがないから、あんまり照れないんだけど。
・・・あ、それでもね、言われるとすごく嬉しい。
だけど、お父さんは本当にお世辞抜きで言ってくれるから、言われると照れてしまう。
ふと、叔父さんに呼ばれた気がして見ると、どうしたのかな・・・何か考え込んでいる感じ。
「叔父さん・・・?どうかした?」
叔父さんにそう言うと、こっちを見て真剣な眼で見つめられた。
あぁ、もしかして、叔父さんったら、拗ねてるのかな?本当変なところで大人げなんだから・・。
まじまじと見られているので照れちゃうけど。
叔父さん、ちゃんと思ってるよ?
「叔父さんも格好良いよ!」
だから、安心してね。
そう思って、笑いかけると叔父さんは、優しい手で、そっと撫でてくれた。


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