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叔父さんと僕(九龍編)
第1部・その2

「う・・ん・・・・?」
ふと眼を開けると、目に映ったのは、夕暮れの空だった。
「あれ・・・?えっと・・・・?」
身を起こして、思い出す。あぁ、ふね寝してたんだった。
「あ、動かないでくださいー!?」
「えっ!?」
突然の声に、顔をそちらへ向けると、変な女の人がエンピツを掲げてこちらを見ていた.。
地面に直に座って、その膝にはスケッチブックが置かれている。
「え・・・あ、あの?」
「あぁん、動いちゃダメッ!寝てて寝てて!」
「はいぃ?」
「そうね、その上着、3番目のボタンまではずしてくれるかしら?」
「んと・・・・こう?」
「そうそうそうー!!!オッケイィ!でもって、寝て!」
「こ、こう?」
「そうそうそうー!!!オッケーッ!」
女の人は、妙に興奮してエンピツを走らせる。
「んと・・・おねーさんは、何してるの?」
「おねーさんは、キミの絵を書いてるのよ!」
「そうなんだぁ・・ありがとう」
「いえいえいえいえいーっ」
「いえーい?」
「ふむ。いいのが描けたわッ!次はそうねぇ・・・」
「ねぇ、おねーさん」
「何かな?少年」
「それ、見せて?」
「えっ!?いや、キミが見るのは早いと思うのよねッ!?」
「???どうして?」
「え、いや、うん。ともかくそうなのよ!」
「そうなのかぁ・・」
「そうそう!それじゃおねーさんは行くわ!おねーさんはね、さすらいの絵描きなの!」
「おぉ、格好いいねー!」
「でしょでしょう!?それじゃ・・・・っとそうそう!キミ!」
「はい?」
「失恋しても、めげちゃダメよ!」
「しつれん〜?」
「泣いてたでしょ?寝ながら・・・好きとか言ってたわよ?」
「え・・・・・・・わわ・・・」
うわっ恥ずかしいッ!なんで、この人、そんなの見てるんだよッ!
それより、いつから居たんだろう・・・?
でも、それよりちょっと・・・えっと・・・・。判らない。
「し・・・しつれん・・・・・って・・・・ナニ?」
「はい?」
「だから、シツレンってなに?」
おずおずとお姉さんに聞くと、何故だか妙にニヤっとした。
「・・・・・・失恋って字は?わかる?」
「わかんない・・」
「字はね、こう書くの」
地面にでかでかと「失恋」とおねーさんが書いた。
「あぁ、字は知ってた〜」
「そう、偉いわね〜意味は?わからない?」
「うん・・・」
「恋は?」
「池の鯉なら」
「違うッ!!!!恋ってのはね・・・誰かを思って胸が苦しくなったり、切なくなったり・・・その人のことを想って止まらなくなることよ」
「切なくなる・・・って?」
「胸がキュッと締め付けられたりするような感じかしらね・・?」
「胸が苦しくなるってのと、同じ意味なんじゃ・・」
「微妙に違うのよッ!それで、キミ、好きな人はいるのよね?」
「うん、いるよ」
「・・・・ん?親とか友達に対しての好きじゃないわよ?」
「うん、親じゃないし、友達じゃないよ」
叔父さんだもん!
「その人とは、どこまでの関係なの?」
「どこまで・・・・・?」
「1、手をつなぐ、2、肩を抱く、3、ほっぺにチュー4、抱き合う、5、キス以上・・・さぁどれッ!」
なんだろうか、おねえさんは、妙に鼻息が荒い。
「うーんと・・・4・・・?」
「まぁ、やるわね、少年!」
「う、うん?」
何をやるんだろうかと思うながら頷くと、おねーさんは、メモを片手に話を進める。
「相手の人はズバリ年上でしょ?」
「えっ!?スゴイ!おねーさん、もしかしてえーと超能力者?」
「ふふふん!といいたいところだけど、キミ、寝言で言ってたから」
「え・・・ッ!」
「おじさん、が好きだってね?」
「ええええっ!?言ってた!?言ってた!?」
「えぇ、思いきり言ってたわよ」
「わ・・・・・・・・・」
どうしよう・・・・・・わたわたと、両手をばたつかせて誤魔化してみる。
「恥ずかしがることはないわよ?で?おじさんって、どこのおじさん?何歳くらい?どんな関係?」
「叔父さんは・・・、俺を育ててくれたんだ・・とても強くて格好よくて、暖かい人、だよ」
あぁ、言ってて何だか照れてきた。なんで、見知らぬ人に話してるんだろう・・。
「ふむふむ・・・養い親かぁ・・何歳年上なの?ねぇねぇ?」
「うん、もうすぐ39になるのかなぁ・・・?んと・・・25歳年上・・かな?」
「まぁぁー!萌えだわ萌え!!!」
「も、もえー?」
もえ・・・・?ってなんだろう・・・・・燃え?燃えるってことかなぁ・・・でもなにが・・・?
このお姉さん言うこと難しいなぁ・・・さすが、さすらいの絵描きさんってことなのかなー。
「キミはおじさんが、好きなのね?」
「うん」
「愛してるのね・・・?」
お姉さん、なんか、鼻息が荒いよ・・・?妙な気迫に数歩後退りした。
「愛・・・・」
「してるわよね!?」
ふと、先ほど夢で見た叔父さんの声を思い出した。
「うん・・・・・俺も・・・・大好きだよ・・」
「・・・・・・・・ッ!キミッ!!!」
「わっ!?」
急に肩を掴まれてびっくりした。お姉さんは、興奮した様子で、がくがくと揺すぶってきた。
「キミ、それそれよ!!!!その表情で、それを言いなさい!?良いわね!?愛の告白計画!」
「う・・・うん?」
えーでも、叔父さんに面と向かって言うのは、恥ずかしいよ・・。
最近とくに、叔父さんの前だと素直になれなくて困ってるのに。
叔父さんは、「反抗期か、九龍も成長したな」って嬉しそうに言ってくれてるけど・・・・。
「あと・・・そうねぇ・・・・「キスして?」とか「抱きしめて?」とか・・・・」
キスってあれだよね?あれ・・・あれだよ、テレビとかで見たことあるし・・。
叔父さんと、あれするの!?
ほっぺたとか、おでこじゃなくて!?
あ、でも似たようなものなのかな・・・?
「いい?少年。私が言う中で、なんでもいいから言って見るのよ!?」
「うん?」
「お前が欲しい・・これは貴方が欲しいとかがいいかもね?」
「うんうん」
傍に居て欲しいってことかな・・?だったら・・・言えるかなァ・・。
「あと・・・「キミの作ったお味噌汁が食べたい』とか「一緒のお墓に入りたい」とかは・・・・」
御味噌汁食べたい?お墓に入りたい??
お味噌汁は・・・いつも言ってるようなことなような?お墓はあれかなぁ・・遺跡のことかな・・?
「言ったらまず、引かれちゃうわねぇ・・・あぁ、あとは・・コレが良いわね。いい?少年、『おじさんがほしい』っていうのよー!」
「おじさんがほしい?さっきのと、同じじゃないの?」
「微妙に違うかしらねぇ・・」
「はないちもんめ?」
「・・・・・ちがうけど、似たようなものよ!」
「よく判らないけど、判ったー」
「よし!それじゃ、おねぇさんは、さすらいの旅に出るわッ!」
「いってらっしゃい〜」
「うふふふ、上手くいったらこの公園に遊びに来てね?おねーさんよくここでぼんやりしてるから」
ばいばい〜と手を振るお姉さんに手を振って見送った。
なんだか嵐のような人だった。賑やかな人は好きだけど、起き抜けで混乱してる感じもする・・。
ふと足元に紙が落ちてた。お姉さんの落としていったスケッチの1枚らしい。
ピラリとひっくりかえして見てみる。
「・・・・・・・???」
これ、さっき描いてたヤツなのかな・・?寝てるし、俺と同じ服着てるし。
なんか、変な絵だった。
絵を裏返したり逆さから見たけど、よく判らなかった。
まぁいいか。叔父さんに絵描きのおねーさんから貰ったって言ってあげようっと。

時計を見てみると、すでに夕方の6時半を過ぎた頃だった。
「・・・・・うぇぇええ!?6時半!?」
叔父さんと約束した時間が6時だよ!?どうしよう、急いで駅まで行かなくちゃ!
きっと待ってる・・。
慌てて荷物を整えて、走り出す。駅が近いのか、電車の音が聞こえていた。
走りながらいろいろなことを考える。
あいのこくはくけーかくは、とりあえず置いといて。
リュックの中の『不合格』通知がともかく重かった。
夢で見た叔父さんはとても優しい。
どこにも行かないと。ずっと一緒に居るって約束してくれた。
あの卒業式に指切りして交した約束・・。
だけど、頼れるくらいの存在になりたくて。
叔父さんの隣に居ても、釣り合うくらいの、守られるだけじゃない、存在になりたくて。
・・・・でも今回もダメだった。
(うぅ〜〜〜落ち込むよぉ〜〜〜!)
足取りが重くなって、自然ゆっくりと駅に辿りついた。
7時にもう、近い。
「叔父さん・・・どこかなぁ・・・」
待っててくれてるかな??
駅の入り口付近の車を眺めるけど、目当ての車はない。
(あ、叔父さん誰かとお酒飲むかもとか言ってたなぁ・・・)
じゃぁ、車じゃないかも・・・?
駅の待合所や、2ヶ所ある出入り口を見て歩く。
「・・・・・・・・・・居ない・・・?」
叔父さんが、居ないはず、ない・・・。
もう一度ぐるぐると走って捜す。見つけられないはずない。
叔父さんならどこに居たって目立つから、遠くからだって判るはずだし!
(・・・・居ない・・・・)
もしかして、怒って、帰っちゃった・・・・・?
ぶるっと身体が震えた。あぁ、どうしよう。もしかして、落ちちゃったの・・・知ってるのかな・・・?

だから

呆れられた・・・・?

どくんと、心臓が痛くなった。ぞくぞくと寒気がしてくる。柱を背にして座り込む。
(叔父さんは、そんなこと、絶対にしないッ!)
きっと、すれ違ったとか・・叔父さんにも事情があって、遅れてるだけだよ・・・きっと、絶対。
目尻にじわっと涙が浮かぶのを必死に我慢して、取り出した携帯電話で電話をかけてみる。
叔父さんに持たされた携帯電話は、ロゼッタ印の特注品だとかで。
性能は売られてるものよりも、良いとか、聞いてた。
どこにいても、電波は届くとかで。
プルルルル、プルルルル、と音が鳴る。
二回、三回、四回・・・・・・・・十回目のコールを聞いて、切った。
「なんで・・・出ないんだよ・・・」
目の前がじわっと、ぶれて、曇って見えなくなった。
ポタリと、涙が、自分の手の甲に落ちた。
「バカッ!!」
「あ・・・・・?んだと、このチビ!」
「え・・?」
俺の隣を偶然歩いてた高校生くらいの学ランを着た集団が、立ち止まってこちらを睨みつけていた。
「誰がバカだっていってんだよッ!」
「え・・ち、違うッ!」
「おい?このガキ、泣いてたみたいだぜ?」
「あ、本当だー!チビ、ママとはぐれたのかー?へへへ」
むかっときた。バカにしやがってッ!
俺はロゼッタのコンニャク男もだけど、人のことをバカにするような言い方する人が、大嫌いッ!
(・・・・・・自分がバカだから、余計にムカ〜〜〜とくるんだよなっ!)
「・・・・うるさいやいッ!このドテカボチャ!」
「なッ!んだと・・・・このガキ!」
「カボチャがいやなら、ピーマン!」
「そんなこと言ってねェッ!生意気だな!おい、ちょっと来いッ!」
ずりずりと腕を取られて引きずられるのを、暴れて引き離す。
「あっかんベェーーーーッ!!!」
ダッと走り出す。集団がぞろぞろと怒声をあげて追いかけてきた。
それを見ながら、携帯を取り出して、走りながらメールを打つ。
(もう・・・怒ったッッ!!!叔父さんのバカバカバカバカバカッ!)
約束、したのにッ!
ヤツ当たりをするために、人気のない路地に入り込んで、わざと行き止りに誘い込む。
叔父さんが教えてくれた護身術のお陰で、きっと負けないと思うけど。
・・・・・・・ほんの少し、ヤケになって・・・。
殴られたら、心配、してくれるかな・・・とも思った。
「叔父さんの・・・・・ばか・・・・」

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