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叔父さんと僕(九龍編)
第2部・その5

「あ〜疲れた」
朝からいっぱい喋って疲れちゃった。あれから叔父さん達のお土産を包んでもらって、売り場のおねーさん達に御礼をしたらケーキを食べていきなさいって言われてご馳走されちゃって・・・・、あぁでもすごくおいしかった。
結構時間立っちゃったけど、心配してたりするかなぁ?
でも見に来ないってことはまだ大丈夫かな・・・?
怒られないと良いなぁ・・・。
壊れたドアを・・・、これ弁償しなきゃだよね・・・・お父さんどんな開け方したんだろう・・、出るときと同じように苦労して中に入ると、仁王立ちしたお父さんと、部屋の片隅に転がっている叔父さんが見えた。
え、えっとー・・・・・・お父さん怒ってる・・?
叔父さん、なんか凄い顔だし・・・顔腫れてるし、怪我もしてそう・・・。
うぅ、怖いよぉー!お父さんかんかん?プンプン?怖いけど、何でもないように出来るだけ普通に声かけよう・・そうしよう!
「朝ご飯おいしかったぁ〜!あ、お父さん、これ買っちゃった」
笑顔笑顔、叔父さんがいっつも『可愛い』っていう笑顔を頑張って作って、買ってきたお土産を差し出した。
「・・・これは・・・」
「お父さんにプレゼント!」
ドキドキしながら伺うと、お父さんは一瞬驚いたみたいだけど、嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑ってくれた。
「ありがとう・・九龍・・」
「えへへ」
良かった、喜んでくれたし・・・怒ってないみたいだ。
ふぅ・・・・次は、えっと・・・叔父さん・・・・。
「・・・・・わぁ・・・・叔父さん・・・・」
近づいて見ると、叔父さんの顔はかなり凄いことになってた。
「お父さん、ちょっとやりすぎ・・」
「・・・・お前を泣かせた罰だ」
「・・・うーん・・・。まぁいいか」
お父さん、パフェのために怒ってくれたんだぁ・・。そうかーお父さんも食べたかったのかな?わざわざ注文してくれたんだもんね。
俺のためって言ってるけど・・・泣いてないよ?怒ってたけど、ちょっと怖かったけど、嫌われたかな・・?とか。そのことかな?
うーんうーん・・・・わかんないけど、パフェと昨日の俺のために怒ってくれた、のかな?
ちょっとやりすぎだけど、でも・・・・・嬉しい。
ふと視線を感じて下を見ると、寝そべった叔父さんが恨めしそうにこっちを見てた。
うわー・・・・・・・何その眼ー!やさぐれてる!拗ねてる拗ねてる!もう一押ししたら家出しちゃいそう!じゃなかったら、ずっとおんぶお化けみたいに背中に張り付いてきそうだよー!
もう・・・しょうがないなぁ・・・。
叔父さんの頭をそっと持ち上げて膝の上に置く、重い・・・けど、我慢我慢。
「お父さん、叔父さん手当てするから、冷たいタオルと救急セット持ってきて?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ・・」
うっ、お父さん凄く嫌そう!でも・・・・お願いッ!じぃ〜っと見ると、ため息をついてお父さんは出ていった。部屋に戻って持ってきてくれるみたい。
ひとまずは安心かな・・?
んで・・・・叔父さんに目線を移すと、ポカンとしてた。どうしたんだろ?
「・・・叔父さんが悪いんだからね!パフェ食べるから・・」
だからお父さんも怒ってたんだよ?
「それ・・・は、わるかったって・・」
「うーん、ちゃんとあとで倍返しでご馳走してね?」
そう言うと、叔父さんは俺を見たまま、何か考えてるみたいで何も言わなかった。
「聞いてるー?」
「聞いてる聞いてる」
「ホントにー?」
あ、すごく慌ててる。おどおどしてるのがわかるから、面白過ぎる。
「ホントホント。お前のためなら何だってする!だから・・・な?許してくれよ」
「んーどうしようかなぁー?」
簡単に許しちゃうとつまんないしなぁ・・・・とか思ってたら、急に鼻を押さえて顔をしかめたからびっくりした。
「叔父さん?・・・どこか痛いの?」
怪我が痛いのかな!?
・・・・ごめん、悪乗りしちゃったかも・・。
お父さんにお仕置きされたせいで、顔とか腫れちゃってるし。しゃべるのも痛いんじゃないかな・・?ごめんね・・。
おでこに手を置いて熱を測ってみようとしたけど・・・うーん、わかんないや。
「だ、大丈夫ッ!」
・・・どこが大丈夫なんだよ。顔、パンダみたいになってるのにッ!
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと・・・・キライってやっぱりウソだからね・・・?」
「ッ!」
だから、ごめんね・・・叔父さん。
「・・・・怒ってた・・・?」
怒ってるよね・・こんなにボロボロだもん・・。
突然、叔父さんが膝の上から身を起こして、正面からぎゅうと抱きしめてきて苦しい。
「・・・・・怒るわけないだろ?なんで俺が怒るんだよ・・・お前を怒らせたことにビビって1人寝の寂しさに泣いてたくらいなのに」
え・・・・・。本当?寂しくて泣いたって・・・・。
パフェ食べたりしなかったら怒ったりしなかったのに。バカだなぁ・・・叔父さん。
あれ?そういえば、昨日も・・・・『バカだよね』って思ったよね。嫌われたって2人とも思ってて不安で・・・・。
「なんか、昨日と同じやりとりかも?」
「そういやそうだな・・」
あはは、もう・・・バカだなー。でも、叔父さんが怒らせるからだよ!昨日のは・・・痛かったけど。パフェは食べたりしなかったら怒らないのに!普通に食べたいって言ってくれたら分けてあげたのにー!半分こして食べれば良いしさぁ・・。
それに食べられたこと怒ったけど・・・・。
「あのね・・・、同じだったよ・・・怒ってたけどね!」
叔父さんがすぐ諦めて部屋にいっちゃったから・・・寂しかったんだ・・。
多分、部屋間違えちゃったのも・・・無意識かも。
ずっとずっと一緒に居たから・・・帰るところって・・・ここだから・・・。
暖かい腕の中に居ると、凄く安心する。ここに居ると何があっても大丈夫だって思うんだ。
「叔父さん、今日は・・・移動でしょ?ずっとこうしてて良い・・・?今日だけで良いから・・」
どうしてかな?今日は素直に言えた。いつもは・・・、意地張っちゃったり、恥ずかしくて・・言えないんだけど。
どうしてだろう?さっきの優しくしてくれた人達を見送ったら・・・寂しくて・・・、それでかな・・?
「も・・・・・ッもう離さないぃーッ!!!」
えへへ、嬉しい!うん・・・ぎゅっとしてて、ね?寒いし・・。
子供っぽいけど、良いや!今日は自分を許してあげるんだ!
叔父さんの肩口に顔を寄せて目を閉じた。気持ちが良い。眠くなっちゃう・・・。

「九龍、今日は叔父さんが運転する番なんだ・・・・・危ないからお前はお父さんと後部座席に乗ろう、な?」

へ・・・?あ、お父さん、何時の間にそんなとこに来てたの?全然気づかなかった〜!
「げッ!!!!また出やがったか!邪魔すんなー!」
もう!叔父さんったら、そんなこと言って・・・ちゃんと手当てしなきゃ腫れて熱が出ちゃうよ!?
「九龍・・・・俺は邪魔・・か?」
お父さんが差し出してくれた救急セットを受け取りながら、首を振る。そんなことあるわけないよ!せっかく持ってきてくれたのに・・。
ほら、お父さん傷ついちゃったじゃないか!もうッ!
「叔父さん!お父さんに酷いこと言わないでよッ!」
「く、九龍・・・」
「お父さん、一緒に後ろに乗ろうね」
「あぁ、そうだな」
良かった。あんまり気にしてないみたいだ。
お父さんと笑いあってると、叔父さんが身体を離してなんか拗ねたような顔をしてこっちを見てきた。
あぁもう、判りやすいんだからッ!
しょうがないなぁ・・・。
「叔父さん・・・?これ、お土産!」
「へ・・・・?お、俺にも・・・くれるのか・・?」
小さな紙袋に入った包みを手渡すと、興味津々って感じで封をしてるセロテープを開けてる。
なんか、子供みたいだよ、叔父さん。
「お父さんとお母さんには色違いの腹巻きあげたんだけど、叔父さんはよく鍵をなくすからキーホルダーにしたんだ!」
ちりん、と鈴の音がして叔父さんがキーホルダーを持ち上げた。
「どう、かなぁ・・・?可愛いでしょ?」
目を丸くして狸をじぃーと見つめてるけど、どうなんだろう?叔父さんにあげるには可愛過ぎるかもしれないけど、可愛いのとか好きだよね?
「あぁ・・・・九龍ッ!!!嬉しいぜッ!」
本当に嬉しそうしてるのを見て良かった、って思う間もなく、ぐいっと身体を背後に引き寄せられて立たされた。
ん・・?あぁお父さんか。何かと思ったよ。
「うぉぉっ!?」
ごちっ!って大きな音がした。もしかして・・・また顔打ったんじゃない・・?大丈夫?叔父さん・・。
「九龍、そろそろ出発するから荷物を一緒にまとめよう」
「え、でも叔父さんの手当てまだだけど・・」
「自分でやれるだろう・・・・さぁ、行こう」
あれ・・・?お父さんもしかして、や・・・やきもちとか・・・焼いてくれてたりとか・・・してる・・・?気のせいかなぁ・・・?
でも肩に置かれた手が、力こもってるし・・どうなんだろう?わかんないや。
そうだと、嬉しいかも・・・とか思ったりするけどね。
だって、お父さんと叔父さんが仲良さそうにしてると・・・俺だって焼いちゃうし。
でもお父さんはこんな子供っぽい気持ちなんてないよね?
「うん。判った〜!」
叔父さんの手当ては、さっさと荷物まとめてから・・・また来るから!
「え、ちょ、もう行くのか!?お、おぉぉぉぉいー!!!!!」
「叔父さん、またねー!」
少し待っててね!すぐ戻るから!

「えーと。持って帰るもの・・・帰るもの・・・えっとぉ・・・・・・」
何を持ちかえろうかなァ?お茶葉は勿論だけどお風呂グッツとかぁ・・・。タオルとかぁ・・。
「九龍、お前・・・それ全部持ちかえるつもりか!?」
「え、うん!もちろーん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・タオルは置いていきなさい・・・」
「え、でも」
「歯ブラシや石鹸は買えば良いだろう?」
「えーでもー!」
「ダメだッ!置いていきなさい!」
「ちぇっ!けーち!」
お父さん口うるさいなぁーもうッ!でも怒られるといやだから、置いていこう・・・あーぁ残念!
でも、お茶葉とティーパックとかお砂糖とかはいいよね!?
ごそごそ袋を取り出して入れようとしたら背後で大きなため息をつかれた。
「ケチでいい!・・・・・・九龍」
「な、なぁに・・?」
コレもダメ?ね、ダメ・・・?このお茶すごくおいしかったんだよ・・、ダメかなぁ・・・?
下からじぃーとお父さんを見つめると、少し怯んだみたいに何か言いかけて首を振った。
「・・・・いや・・・・それをしまったら荷物は全部終わりか?」
やったー!にらめっこの勝利だね!
「うん!終わり!叔父さんの片付け手伝ってくるね!」
「・・・・あれはほっとけ」
「えー・・・叔父さん怪我してるのに・・・」
「あれは自業自得だ。自分で手当てくらい出来るだろ」
「お父さん・・・冷たい」
「うッ!」
「良いもん!勝手に行くから!お父さん先に行ってていいよ」
「はぁ・・・・、お前は本当、あのバカが好きなんだな」
あ、もしかして、さっき思った『焼餅』って・・・当たってたりするのかな・・・?
お父さんをじぃーと見てみると、はぁ・・・と大きなため息をまたつかれた。
「そんなに好きなら仕方が無いな・・行ってきなさい」
「お父さんは・・・」
どうしよう、聞いても良いかなァ・・・?違うって言われたらショックだけど・・。
「なんだ?」
「・・・・・叔父さんのとこへ俺が行くの・・・嫌?」
「・・・・・・・・」
真顔になってこっちを見たままお父さんは何も言わない。どうしよう、怒らせたのかな・・。
「・・・・・ごめんなさい、へんなこと・・」
「嫌だな」
「え・・・」
「嫌だ、と言った。お前があんなにもあの馬鹿になついて・・・・・・」
「お父さん・・・」
「俺が、お前の父親だ・・・この座はあいつには渡さない」
焼餅焼いてくれてるのは判ったんだけど。
この座ってどの座なんだろう?
「・・・うん。お父さんは、お父さんしかいないよ」
叔父さんは叔父さんでしょ?
それと同じでお父さんはお父さんだし。お母さんもお母さんだし。
俺だって、お父さんとお母さんの子供・・・ってのは変わらないよ!
「そうか・・・?あっちが父親だったら良いとか・・・思ってないか?」
「もー!疑り深いなぁ・・。お父さんはお父さんで大好きだよ!」
叔父さんがどうやってお父さんになるって言うんだよ?無理だよね?
叔父さんは叔父さんだから・・・好きなんだから・・・。
「そうか」
「うん、そう!」
本当はちょっと混乱してわかんないけど、頷いた。
嬉しそうに笑ってくれたお父さんがぎゅうと抱きしめてくれる。叔父さんとは違う匂い・・・。
叔父さんは凄く安心する暖かさだったけど・・・、お父さんは・・・最初からここにあったみたいな温もり・・って言うのかな?気をはらなくて良いし、焦らなくて良い・・そんな感じ。ちょっと、言葉に出来ないけど。
本当はどっちも好き。大好き。
頭を撫でられて、身体を離された。
「・・・・?」
「荷物は運んでおくから、叔父さんの方を手伝ってきなさい」
「うん・・・いいけど・・・でも・・」
嫌って言ってたよね・・・叔父さんのとこ行くの・・。
でも叔父さんもお父さんも大好きだから・・困っちゃう・・。
「お前は気にしなくていいから・・行っておいで」
「うん!判った。お父さん荷物お願いね」
あぁ、と頷いたお父さんに手を振って叔父さんの部屋に駆けこんだ。
廊下に出て、壊れたドアの前に立って中を伺う。

「・・・・・安心しろ・・、お前が望む限り傍に居るからな・・・九龍」

叔父さんからは見えてないと思うんだけど、ここからだとばっちり見えてる・・。
狸にちゅーってして、笑ってる。
我侭だけど・・・それでもね、傍にいて欲しい・・・。お父さんにも叔父さんにも・・、だって家族だから。
ちりんちりんと音を立てながらキーホルダーをつけてる叔父さんの顔は腫れてたけどとても優しい顔をしてた。
「叔父さーーん!」
呼びかけて走る。
ちりんちりんって歩くたびに涼しげな音を立ててる叔父さんにそのまま抱きついた。
2人して床に転んじゃったけど、庇ってくれた。
痛いってうめいてる叔父さんの耳元に、叔父さんにだけ聞こえるように・・・、小さい声で言うと。
凄く嬉しそうに微笑んで、頭を撫でてくれた・・。


『大好きだから・・・傍にいてね・・』


(第二部END)

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