叔父さんと僕(九龍編)
第2部・その3
「お父さん、お茶淹れたよ〜」 2人分の湯のみにお茶を淹れる。お茶葉も高そうなもので、匂いも良い。 あー中身、貰って帰ったら・・・ダメかなぁ・・・・?歯ブラシとか、タオルとか・・、勿論ユニットバスに備えてある奴は・・・持ちかえるとして・・。 コレは、袋か何かに中身をいれて・・・・持ち帰ろうかなぁ? お父さんと並んで座卓に座ってお茶を飲む。ふぅ・・・落ちつく〜。 このお茶おいしい!やっぱり頂いちゃおう! あ、お茶菓子あるよ!おまんじゅう。おいしそう〜! 「九龍、何を食べるんだ?お前は・・・まだ夕飯食べてないだろう?」 「うん、そういえば、そうかな?」 そうそう、お腹減ったー!今日は泣きすぎて体力を消耗した感じだよ。 俺の涙腺っておかしいよなぁ・・・? 何て言うのか・・・言葉が出なくなって、その変わりに涙が出るみたいなんだよなァ。 うー・・・・癖だったりするのかな? 「九龍?お菓子だけじゃなくて、しっかり食べないとダメだぞ?」 「うん。俺はカレーでいいよ〜!あとね、甘いもの!」 「仕方がないな・・・、夜食用にサンドイッチも頼んでおくからな?」 「うん!」 「デザートは・・・チョコバニラパフェでいいか?」 「うんうん」 お父さんとにこやかに笑い合ってると突然、窓の方から物音がした。 どん!って音に、そっちを見ると、叔父さんが顔をべったりと窓に張りついていた。 「あ、叔父さんだ」 あははは、変な顔だ!叔父さん、何してるんだよ?何か言ってる気がするけど・・・? 「開けてきて良い?」 「ダメだ。あれはヤモリだ。見たらダメだぞ?」 「かべちょろ?」 「・・・・九龍、それは方言だ・・」 叔父さんは、確かに、かべ・・・ヤモリみたいにベターとくっついてる。 見ていると、お父さんが立ちあがって叔父さんの方に近づいた。 開けてあげるのかな?と思ってたら、ビシャッ!とカーテンを閉めてしまった。 「おとーさん・・意地悪だ」 「・・・お父さんは、お前を泣かせたことを、怒ってるんだよ」 「・・・・・おとうさん・・」 嬉しい。自分のために、誰かが怒ってくれるってことが・・・嬉しい。 「ありがとう・・・」 そう言って笑うと、お父さんは少し照れたように目をそらして、俺の頭を撫でてくれた。 とても優しいお父さん。すごく好きだよ・・・。 2人で向き合って笑い合ってると、窓の方からどん、どん、どどん、どんどんどどどどん!と、リズムカルに叩く音がした。 「また騒ぎを起こすつもりか、あのバカは」 「警察呼ばれるかなぁ?」 「・・・・いっそ、つきだすか?」 「ダメ!・・ね、開けてあげようよ」 「ダメだ」 今度は窓をガリガリと猫が引っかいているような音がしてきた。 叔父さん・・・何やってるんだろ? 「おとうさん、叔父さんと話しをさせて・・・ちゃんと謝ってないから・・・」 「・・・・・・・・大丈夫なのか?」 お父さんは優しいなぁ・・。心配、してくれてるんだなぁ・・。 「大丈夫だよ。・・・・あ、カレーがきたら教えてね、戻るから」 少し笑いながら言うと、お父さんはちょっと目を見開いて、同じように笑った。 「あぁ、呼んでやろう・・・・行っておいで・・お父さん、ここで見てるからな?」 何か合ったら、こっちに来なさい、と頭を撫でられた。 「はーい」 元気に返事をするけど、本当は・・・どきどきしてる。 怖い・・・けど、お父さんもいるし。叔父さん・・怒ってないみたいだから・・・。 抱きしめてくれたし・・。 大丈夫、だと思う・・。 カギを解除して、そっと窓を開いた。 「叔父さんー?何してるの?」 「く、九龍ッ!!!!」 「わっ!」 「捕まえたぞぉ〜〜〜ッ!」 急に腕が伸びてきて、ぐいっと引き寄せられた。 どこかにぶつけるかな?と、思わず目を閉じる。けれど叔父さんの身体に当たって痛くなかった。 そっと、目を開けると、すごく近くに叔父さんの顎が見えた。叔父さんの肩口に顔を押し付けるようにして、座り込まされてた。 「逃げないよ?多分」 ちょっと、まだ怖いけど。ちゃんと話をしなきゃ。 叔父さんと一緒に、遺跡に行く。 ちゃんと言わなきゃ。 「多分ってなんだ・・・」 だって、混乱してわからなくなっても・・・・。 「逃げなくても、お父さんがいるから、ね〜?」 お父さんのほうを、見ると、腕組をしてこっちを見ていた。眼が合ったので笑いかけると、一瞬だけ微笑んでくれた。大丈夫だよ・・・ちゃんと。話せる。 「叔父さん?」 叔父さんのほうを見ると、何故か青ざめていた。どうしたんだろ? まぁ、いいかな・・。よし・・・ゆっくり、落ちついて・・・。 深呼吸して、言った。 「あのね・・・あのね・・・、嫌いだって言ったのは・・・ウソだからね?」 「――ッ!なッ!?本当か!」 「ごめんなさい・・・怒ってない?」 叔父さんは、こっちをみて呆然としているようだった。 肩を掴む手が、少し震えてる。 ん・・・・?お、叔父さん・・・なんか、うるうるしてるんだけど! 涙が落ちてきそうで、拭おうと手を伸ばすけど、急にぎゅぅっと力を込めて抱きしめられて出来なかった。 「良かった・・・お前に嫌われてたら、俺は死んでたぞ・・?」 叔父さん・・・叔父さんも、怖かったんだ・・・?2人してお互いがお互いに嫌われたんじゃないかって・・・思ってたのかぁ・・。 うわぁ・・・何て言うか、バカだね、俺達って。 思わず笑うと、叔父さんは何だか変な顔をして固まった。 「・・・・?」 「・・・やっぱ笑ってる方が、お前らしいな・・・・可愛らしすぎるッ!」 「可愛い可愛いって言われてもなぁ・・俺もう14なのに・・」 可愛いより格好良いが、良いなァ・・。 「大丈夫だ、お前はどこから見ても、11、12くらいにしか見えない」 「――ッ!ばかッ!」 気にしてるのにッ!!!ムカ〜〜っときたので、しっかりを俺を抱きしめている腕を抓ってみた。 「おぉ〜いてぇ〜いてぇ〜よ?九龍ちゃ〜ん?」 ダメだ、叔父さんの筋肉硬すぎて抓んでも痛そうじゃない。 しかも、物凄く嬉しそうな顔をして、でれっとしてるし・・。 「もぅーーッ!」 こうなったら!と、叔父さんの弱点その1、出っ張っているお腹の贅肉を抓んで伸ばしてみた。 前、これをしたら、数日間くらいずっと気にして、腹筋とか色々やって引き締めようとしていたのを覚えてるから。 「あ、あれ?」 「フッ、九龍、甘いぞ?不二家のケーキ並に甘いぞゥ?」 「な、なんで、引き締まってんの!?」 叔父さんのお腹に合ったはずの贅肉は綺麗さっぱりなくなってた。 驚いて、思わず・・・叔父さんの半袖シャツをめくってしまう。じっと見ると、感触と同じくらい引き締まったお腹が見えた。 「ふははははッ!叔父さんに不可能はないのだよ?九龍君」 「むー・・・・えいやッ!」 自慢気に笑う叔父さんのお腹に、容赦なくパンチを入れてみる。 「うごぉっ・・・・」 「ハリボテとかじゃないのかー。凄いなァ」 「く・・・九龍・・・・お前なぁ・・・・」 「・・・筋肉の作り方教えて!」 「う・・・えぇぇえええ!?」 「うえええ?」 変なの?どうしたのかな。 「く・・・・、九龍、お前はムキムキになりたい・・・のか?」 「うん」 「うん!?」 そうなんだよなぁ・・・どんなに力をつけても、筋肉はちょこっとしかつかないし、食べても食べても太らないから体重増えないし。 だからスピード頼りの戦い方を叔父さんに教えてもらったけど。 でもやっぱり力が欲しいし、ムキムキっとした腕とか、憧れる。 「2、3年後には・・・髭生えてて、声渋くて、ムキムキで、腕ぶっとくて、でも引き締まってて、あ、やっぱ爽やかだと良いな〜」 あぁ、憧れる。そんな風になりたい。 というか、なってる、はずだ!多分・・・頑張れば・・。 そんな事を思っていたら、叔父さんが両肩を掴んで、真剣な顔つきで言った。 「・・・・・・・・・好みのタイプなのか?」 「はいぃぃぃ?」 「そんな奴が・・・・・・好きなのか?」 叔父さん・・・叔父さんの言ってること、判らないよ? 両肩を掴まれたまま、引き寄せられる。顔、近いッ!でも、凄く真剣なんだけど・・? 「お、おれのこここここここ・・・・・・・」 おれのこ?ここここ??? 叔父さん、日本語忘れちゃったのかなー?なんか、顔つきも、熱っぽいし。具合悪いのかな? 「・・・・・・・・・・九龍、少し眼を閉じていなさい」 お父さんの声がして顔を上げると、何時の間に近づいたのか判らなかったけど、窓のところに立っていた。 眼を閉じてなさい・・?よく判らないけど、眼を閉じる。 「はーい」 眼を閉じると、ビシッという音と、叔父さんが息を呑むような気配がした。 「おれのこ・・・?なんだ?」 「えー・・・こけこっこ?」 「そうか、ニワトリか」 「そうそう・・・・・そうでございますよ・・・」 なんだぁ・・・。お腹が減ったとかいうことなのかな?チキンカレーじゃないんだけどなぁ・・・。 カレーはやっぱり、普通のが好きなんだよな、中辛くらいで。 あぁ、お腹が減ったかも。早く来ないかなーカレー。 「九龍・・?どうした」 叔父さんに声をかけられて、顔を見て笑う。 カレーを待ってるんだよ、叔父さん。 「えへへー好きなのー」 早く来ないかなァ・・・あぁすごくお腹減ってきた。 「・・・・・・・はいぃ?」 あれ?叔父さんもカレー好きだよね?いつもお代わりするしね? でもどうしてそんなに驚いてるんだろ・・・。 「・・・そうか、好きか・・」 「うん!」 改めて聞かれるとなんか、照れてくるなァ。 叔父さんと一緒にずっと居るから、今更なんだけどね・・・・ってあれ?叔父さん俺の好物知ってるはずだよねー? あぁ、カレーがこんなに好きだって知らなかったとか? 叔父さんを見上げると、妙に赤い顔をして嬉しそうにしていた。 「俺が理想のタイプなんだな?」 「へ?」 理想のタイプ?カレーの話じゃなかったの? 「へ?って・・・・お前・・・・」 「カレーの話でしょ?」 「何故カレーだ!!!」 「えー違ったのかぁ・・・カレーの話してると思ってたんだけどなぁ」 「俺はカレーを恨むぞ・・・」 あ、叔父さんが少し傷ついたような顔してる!あ・・・拗ねだしたッ! ハァーーッ、とか、わざとらしくため息をついて、恨めしそうにこっちを見てる。 こうなると、叔父さんはとッッッッても鬱陶しいんだよなぁ。 昔家で掃除してたら叔父さんが付きまとって来て、邪魔だったから「叔父さん、邪魔ッ!」って言ったら、一日中拗ねちゃってたし。 ずッッッとうじうじ言うから、腹が立って「叔父さん鬱陶しいィッ!」とか言ったら、家出するし・・・。 近くの公園のブランコにずっと寂しそうに座ってるのを迎えに行ったなぁ・・・。 うーん・・・どうしよう? お父さんを、チラッと見てみると・・・・あ、笑ってる。 何か楽しいことでもあったのかな? 助けてくれそうにないから、俺がどうにかしなきゃなのかぁ・・・うーん。 「叔父さんー?」 「はぁ・・・・・どうせ俺よりカレーが良いんだよな・・・」 ダメだ。完全に拗ねてるよ!もーもー!いい年したおっさんのくせにー! ・・・・でもこんな叔父さんは嫌いじゃないけどね。 だってなんか・・・いじいじしてると、可愛いかも・・とか? いや、うん、言うと叔父さん・・・きっとショック受けそうだから言わないけど。 それにしても・・理想のタイプって何だろう? うーん?もしかしてさっきの話かな? 理想のタイプ・・・って訳じゃないんだけどなァ・・。そんな風になりたいというか、未来予想図? あれ・・?でも・・・・でもさぁ、爽やかなのとか、引き締まってるとかは・・当てはまらないけど・・。 他のは叔父さんに当てはまる、ような? えーえーッ!?叔父さんみたいに・・・なりたいのかなぁ・・・? お父さんみたいになりたいなーとは思ったことがあるけど・・うーん? じっと叔父さんを観察してみる。あぁ・・・拗ねまくってるから今は全然あれだけど・・・。 そっと手を動かして、叔父さんの腕を掴んでみる。両手で掴んでやっとなくらいに、太い・・というか、筋肉が凄い。 「お・・・・おい・・?」 叔父さんの顔を見上げて身体ごと近寄った。 髭・・・・を引っ張ってみる。痛いとか言われたけど、無視して触る。何て言うのかなァ・・・熊髭?これ、モミ上げと繋がってるような?どこまでが、髪の毛なんだろう・・・?境目がわからないや・・。 あと何だっけ?そうそう声・・・は。 「叔父さん?」 「九龍・・?いったい・・・」 安心する声・・・好きだなァ・・。 「叔父さん」 「なんだよ?」 「叔父さん」 「・・・・九龍?」 「えへへ・・・・・・叔父さん」 「九龍・・」 小さい頃から、変わってないんだ・・。呼ぶと、ちゃんと返事してくれるところ・・・。 「・・・・そんなところが好きだなぁ・・・・・うん、とっても・・」 「・・・ッ!」 あ、赤くなった。さっきまで拗ねてたのになぁ・・。 変なの、と面白くなって笑う。 笑いながら気がついた。2つくらい条件からはずれるけど、でも・・・俺は。 「叔父さんみたいに、なりたいなって思ってたみたいだ」 「く・・・・・・・・・九龍・・・」 「叔父さんみたいに、強くなりたいって思う・・・」 あぁ・・・そうだった、ちゃんと言わなきゃいけないことを・・・忘れてたや。 なんか、他の事に気を取られちゃうと、すぐ忘れちゃうんだよなぁ・・・なんでだろう。 大丈夫・・今なら言えそう。 叔父さんと目を合わせたまま、叔父さんの手を掴んで、ぎゅっと握り締める。少し手が震えた。 「・・・力もない、頭だってそんなに良くない・・、試験だって・・もう、3度目だし・・落ちたの」 そう言うと叔父さんははっと顔を強張らせた。 何か言おうとするのを首を振って、封じる。だって・・・聞きたくない。 「事実だよ、叔父さん・・・。言われたとき辛かったけど・・」 「九龍、俺は・・・ッ!」 「だって本当のことだもん。足手まといだし、試験にも・・・落ちた」 「九龍!」 「聞いて!判ってるから・・叔父さんが言いたいこと」 「・・・・・」 「・・・叔父さん言ったじゃないか・・・立ちあがる強さが原動力になるって。自分のことを、ダメだって落ち込むより這いあがる強さが大事だって・・」 叔父さんはなにも言わない。真剣な顔をして、見てくれている。 「足手まといでもいい、少しでも叔父さんの力になって見せるから・・・置いていかないで」 「九龍・・・」 「俺の理想はね?強くなって、叔父さんの隣でちゃんと自分の力で、歩きたいんだ」 「・・・・・・・」 「強くなりたい。叔父さんに頼られるくらいに・・・、手助けできるくらいに・・・」 「・・・・・・・」 ぎゅうっと、繋がれた手を握り締める。 「叔父さんを守れるくらいに、強くなりたいんだ」 「九龍・・・」 「だから、置いていかないで。危ない所だって判ってる・・・そんなところに、一人で行かないで・・」 お願いだから、と呟いて。叔父さんを見つめた。 判って欲しい。軽い気持ちじゃないんだ。 いつだって、いつだって思ってる。強くなりたいって。 力は足りないけど、でも・・・でも!一緒に行きたいんだ。 意思を込めて、揺るがない意思を込めて、叔父さんを見つめた。 暫くして、叔父さんが身動ぎしてため息をついた。 俺が掴んでいない方の腕で、優しく抱き寄せられて叔父さんの胸元に頭を押し付けられる。 優しい仕草で、頭を撫ででくれた。 「・・・強くなったんだな?九龍」 「え・・・?」 「あんなに泣いてたのにな?」 「なッ・・・叔父さん、誤魔化さないでよッ!」 ムッとして叔父さんを見上げたら、楽しげに笑われた。 そして、ふいに真面目な顔をして呟かれる。 「本当はな・・・・連れて行きたくないんだ・・」 「――ッ!」 びっくりして、思わず息を呑むと・・・掴んでいた手を解かれて握り返された。大きな手に包まれてる。 「あぁ・・・そんな顔をしなくて良いぞ?」 叔父さんは、俺を見ながら優しい眼をしてゆっくり喋っていく。 「俺もな・・?お前を守りたくて溜まらないんだ」 「・・・・・・・・」 叔父さんも・・・なの?俺と一緒? 「・・・・だが、お前は俺の相棒でも、あったんだよな・・?」 「叔父さん・・・」 相棒・・・って言ってくれた・・・。 遺跡以外で、そんな風に呼んでくれるのは・・・滅多にないから。すごく嬉しい。 「お前と約束した。お前が俺と一緒に行きたいと言ったあの日に」 「うん・・・・そうだよ!」 覚えててくれてるんだ・・・。 「九龍・・・いや、相棒。次の遺跡は危険だが、付いて来れるだろうな?」 「うん!」 勿論!頑張ってついていく!どこまでも・・・ついていくよ、叔父さん。 「頼りにしてるぞ?」 「してして!」 どうしよう。すごく嬉しい。頑張るよ、頑張るよッ! 「いいか?俺より前には絶対に出るなよ?」 「はい」 「俺の指示には従うこと」 「はい」 「愛してるぞ」 「はい・・・・・ぃ?」 え、ええーっと・・・、すごくビックリした。不意打ちとは卑怯なり! あぁでも・・・叔父さん、俺すごく嬉しいんだよ?本当に・・・連れていってくれるんだよね・・? その言葉もね、すごく嬉しい。 どうしよう、何かいわないと・・。「愛してます」でいいかなぁ?照れるけど。 迷って少し身体を動かしたら、カサリと紙の音がした。 あれ・・?あぁ!そうそう、浴居の下に履いてるハーフパンツのポケットに入れておいたんだった・・。さすらいの絵描きのおねーさんに貰った絵。後で叔父さんに上げようっと・・・。 ん?あぁ、そうだ! 『あいのこくはくけいかく』!今こそ言うチャンスかな? 路地裏でも言ったけど、あれはちょっと恥ずかしかった・・・と思う。うん・・思う。 あのおねーさん、他にも色々言ってたよなァ・・・えーと・・・。 「えっと・・なんだったかなぁ・・・・あ!そうそう・・・・・叔父さんが欲しいです」 「ゲホッゴホッグフッ!」 でも水虫はいりません、とか言ったら泣くかなァ・・? でもこれって、どう考えても変だよね?欲しいって・・・何なんだろう?叔父さんは、叔父さんだから・・・もう身内だしなぁ・・・? あ、そういえば、他にもあったような・・・? 「あと・・えーと・・・お味噌汁が食べたいです」 「・・・・・・・・・・は?」 「一緒のお墓に・・・?違うか、遺跡に入りたいです」 「はか・・・・?いせきぃ・・・?」 「あと、何だっけ・・・?」 「俺に聞かれても・・・」 「あ!」 「あ?」 「・・・・・でもやめとこう・・・うん・・」 思い出した!『キスして?』だった・・・さすがにイヤだー! 叔父さんは酔っ払うと、タコ口で「うちゅうー」とかしてくるんだけど、あれ嫌いだし。あれのことだよね・・?さすがに嫌・・・かな?うん。 だいたい、どこにするんだろう・・・?おでことか頬っぺたとかなら、してもいいんだけど・・・よ映画とかTVドラマとかでやってる口にするヤツは無〜〜〜理ッッ!!恥ずかしいッ!それに多分、こ、こい・・・こいびとどうしとかじゃないと、しないと思・・うし・・。よく知らないけど・・。 あとは『抱きしめて』だったけど、もうそんな感じだし。これ以上ぎゅってされると、苦しそうだし。 他は・・・そうそう確か、『おまえが欲しい』か『あなたが欲しい』だったっけ・・・? でも叔父さんを『おまえ』とか呼べないし、『あなた』は・・・微妙だし。似たの言っちゃったから、良いかな・・。 あとは・・・そうそう! 「叔父さんのこと・・・・・・とっても・・・大好きです」 「――ッ!!!」 本当に・・あんな酷いこと言ったのに、嫌われてなくて良かった・・。 怒ってなくて良かった。 ・・・・遺跡のことを、許してくれてありがとう・・・。 そんな気持ちをこめて、言ってみたら恥ずかしくて照れてしまった。 あーうん、でもね、幸せ・・・。 「九龍、カレーのことは?」 あれ?お父さんがいつの間にかに、窓辺のとこに立っていた。 見上げて眼が合ったら笑いかけてくれた。 お父さんも、すごく好きだなァ・・。あとで言おうっと。 でも・・・その前に、カレー! 「カレー!?大好きー!」 遺跡に行けるようになって安心したからかな、お腹がとても減っている。 「叔父さんとカレーはどっちが好きなんだ?」 「え?えーっと・・・お腹減ったから、カレー」 大盛り頼んだけど、いっぱいあるかなー?今ならお代わりも食べれそうだけど。 「おいしそうなカレーがあっちにあるぞ?さぁ、食べてきなさい」 「はーい!」 カレー!カレー!カレーが手招きしてるよ〜! 立ちあがろうとしたら、叔父さんの腕がしっかりと掴んでいて邪魔になったので振りほどく。 叔父さん邪魔邪魔ー!勿論口にしないけどね。口にしたら最後、叔父さんはどこまでもいじけると思うから。 あ、そういえば・・・これ上げておかないと・・・・。 「・・・・・・なんだ・・・?」 「さすらいの絵描きのおねーさんから貰ったー」 「さすらい・・?」 投げるように叔父さんに絵描きのおねーさんの絵を上げると、カレーの元へ突進した。 |