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あなたがわたしにくれたもの(1)

「オーホホホホホッ!痛いのは、最初だけだから安心してッ・・・すぐに気持ち良くなるわァ・・・・ふふふふッ」
重圧感を伴う、どこか重苦しい雰囲気のある広間・・・化人創成の間に、オカマの声が響き渡った。
その声の持ち主は恍惚とし、どこか潤んだ目で、対峙する《宝探し屋》を見つめ、麗しく微笑んだ・・・。

対する《宝探し屋》――葉佩は、不思議そうに小首を傾げた。
(・・・・意味がわからない・・・)
とりあえず立ちはだかったまま、こちらの反応を待っている朱堂を放置して、隣でだるそうに突っ立っている皆守に浮かんだ疑問について聞いてみる。
「なぁ・・・甲太郎、俺ってやっぱり頭悪い・・?」
「あぁ」
「あぁ・・って・・そこで、普通なら違うって言うのが友達ってもんじゃ!?ためらいもなし?なしなん!?」
「・・・・・・、俺はウソはつけない性質なんだ」
「うぅ、かまち!かまちなら、違うって言ってくれるよね!」
「・・・・・・ごめんよ、九龍君。僕もウソは・・・」
「かまちまで!?そうか・・俺バカなんだ・・・やっぱり・・・うぅ・・・」
無慈悲な友人の返事に途方にくれる。
皆守はやはり目を合わせないようにしながら、さりげなく先を促してきた。
「それで、頭が悪いからどうした?」
「・・・・・・・うッ・・・」
心臓を抑えてうめく。あぁ、眼から汗がッ!と大げさに言うと、背後に立っていた取手が、更に追いうちをかけた。
「皆守君!そんな本当のことだからって連発したら九龍君が可愛そうだよ・・・」
「お前のほうが酷いと思うがなぁ・・」
「・・・・・・・・あうぅぅぅ・・・酷い酷いよー」

「ちょっとッ!!あんた達ッ!アタシのことを無視しないでちょーだいッ!」

「あッ、忘れてた」
「ッッキィィィィーッ!このアタシを素で無視するなんて・・・・ッ!」
『いや、本気で忘れてたよ、ごめんね、もげみちゃん!』と思いながら視線を返すと、頬を染めウィンクをしてきた。
バチコーンと音がしてきそうなそれを、凝視する。
(・・・まつげ・・・すごいなぁ・・・)
「あらん・・・潤んだ目で見ないでッ・・茂美、燃えちゃうッ!」
くねくねと身をくねらせる朱堂を、皆守が思いきり顔を顰め目をそむけた。
「もげみじゃないのかぁ・・・」
「お前なぁ・・・ワザと言ってたんじゃなかったのか」
「俺一度思い込んだら間違いっぱなしとかよくあるんだよなぁ・・・気をつけないと・・」
「・・・・それで、何を聞こうとしてたんだ?」
「あーんっとね、なんで痛いの最初だけで、後は気持ち良くなるのかがわからないんだけど・・」
「・・・・・・・・・・・・・俺に聞くな」
思いきり嫌そうに、言う皆守を小首をかしげて見やる。
どういうことだろうか・・・。
「九龍君・・痛みが快感になるっていうのは・・・・つまり・・その・・」
「取手、無理するな」
「僕にはっ、僕には言えないッ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・オホホホホホホホホホッ!なんてッ!なんて、可愛らしいのかしらッ!」
「は、はいぃ?」
急な高笑いに一歩後退すると、背中に皆守が当たった。
「怖いのか?」
「いや、なんか、びっくりして」
「・・・・・・・・・・ヤツの戯言は無視してさっさと倒せよ。殴り倒せば黙るだろうさ」
「うーん。そうなんだけど、かまちや椎名ちゃんみたいに、何か抱えているのかなって思って・・」
「・・・・・・・九龍、アレに何かあると本気で思うのか?」
「人を見かけて判断しちゃいけないって、言ってた!」
「・・・・誰がだ?」
「え・・・・・」
問い返されるとは思ってなくて、びっくりした。
誰が、の答えは、尊敬する「おっさん」・・・・・血の繋がった叔父さんなのだが・・・。
そう答えようとして、ふと躊躇った。
軽く答えれば良いことなのに、躊躇し言えない自分に動揺した。
(そういえば・・・叔父さんが入院してからずっと・・・呼んでない・・)
『人を見かけて判断しちゃいけないぞぅ〜坊主。良いか?内面を見てやれ?人を見る目を養うんだぞ』
優しく言って頭を撫でてくれた。
その優しい手が、力なく地面に落ちるイメージを、ぎゅっと目を閉じてやり過ごす。
どくん、と心臓の音が聞こえた。
(さっきも・・・口にしようとして・・・言えなかった・・)
「おいッ!」
「・・・・・え?」
突然大声で呼びかけられてハッとし、正面を見る。
両肩に手をかけて、真剣な顔でこちらを見ている眼にぶつかる。
「・・・・・大丈・・ッ・・・・・・・・ちッ・・・・・朱堂が来るぞ・・・構えろ」
「う、うん」
何かを言いかけて、舌打ちした表情は、苛立っていて怖かった。
反射的に構えた銃を収めると、皮の鞭を取り出す。
(・・・・・・今は、感傷に浸ってる場合じゃないッ!)
片手に鞭を持って、気持ちを切り替える。
心の奥底に押し込めた、それに対しての恐怖心で手が震える。
(・・・・・しっかりしろよ、俺ッ!)
「オッホッホッホ・・・・怖いのね・・?大丈ー夫ッ!、アフターケアはばぁっちりッだからッ!」
「・・・朱堂ちゃん」
「なぁに?葉佩ちゃん」
「悪いけど、俺はここで倒れちゃいけないんだ」
「まァッ!自信があるとでも言うの?その震えた手に潤んだ瞳・・・・強がる貴方も、痺れるけれど・・・貴方はアタシには勝てないわッ!」
その言葉に、ふと目がさめた。同時に震えも収まる。
自分の中の、自分らしい感覚を取り戻し、血が巡っていくのを感じる。
(そうなんだよな・・・)
「自信はないよ、最初から」
謙遜などではなく、情けないほどの事実。嫌になるほどの現実。

――できそこないに、何が出来る
――・・・・・を助けることなど、お前などに出来るはずがない
――お前には、向いてない

思い出せば出すほど、嫌な声。
「そう、そうなんだよ。俺は、自信もない。実力もない。ハンターだって根性で受かったようなものだよ」
「金もないな」
背後でアロマを吸いながら、ダルそうな声で皆守が言った。
「それは余計だッ!まぁ・・・そうなんだけどね」
少し顔を、背後に向けて笑いかけ、正面を見つめなおす。
「・・・・・だけどね、どんなにどん底にいても俺は・・・・」
鞭を腰に直し、銃を取り、手早くリロードする。
「気合と根性と愛と正義とど根性で、這いあがってやるッ!」
「根性とど根性の違いはなんだ・・」
「そこッ!みみっちぃツッコミしてないで、戦闘開始ッ!!」
「――ッ・・お、思わずアタシが飲まれちゃったわッ!やるわね・・葉佩ちゃん!」
「ふふんッだッ!・・・俺はね、『できない』とか『お前には無理だ』とか言われると・・」
ジャキッィ!と構え、撃つ。
狙うは、足。
「――ッ、くぅっ!」
朱堂が避けるのを予測して、その位置へ銃を容赦なく撃つ。
「何が何でも、どんな方法を使っても、どんな手を使っても」
朱堂が銃を避けるのに意識を取られた隙に駆け寄り、低い姿勢から顎めがけて掌底を放つ。
「ぎゃうぅーーんッ!」
打ち上げた朱堂を容赦なく蹴り飛ばし、間合いを開き対峙した。
「・・・はぁはぁ・・・俺は、ソレを成し遂げて見せたいんだ」
「・・・・・・それは、簡単に言うと・・・負けず嫌いなだけなんじゃ・・・」
「うん、そうだよ、かまち」
「盛大な意地の張り方だな」
「そうとも言うけど」
「まァ・・・ヘボハンらしくて良いんじゃないか?」
「また言った!ソレ、言い返せないからムカツク」
「ほぉ・・・言い返せないのか、じゃぁこれはどうだ?”へっぽこハンター”」
「ぐゥッ・・・そ、それは・・・・・・・・」
言いよどむと、皆守が急に走り寄ってくる。
そのまま無言で、ぐいっと首の襟元を掴まれて、ぐいぃっと背後に倒される。
「うわッ・・・あぶなッ」
ビュンと鋭いダーツが、頭が合った空間を飛びぬけていく。
「手がかかる奴だな、ホントに」
「あぅー・・・・お世話になりますゥ〜」
椎名の言い方を真似てみると、ベチッとデコピンをくらった。痛い。
「言いからさっさと倒せ・・・・俺はいい加減眠いんだ」
「ほいほいっ!」
「ブルズ・アイッ!」
「おっとッ!」
飛んできたダーツを避ける。横目で見れば同じく避けたらしい皆守が、ゆっくりと体勢を立て直していた。
(・・・・・・・・あれを避けれるんだから、凄いよなァ・・)
そう思ったことにふと引っ掛かりを覚えるが、頭を振って意識を朱堂に合わせる。
再び気合と共に飛んできたダーツを避け、ムチでその腕を捕らえた。
「あぁんッ!」
「痛いけど、ごめんねッ!」
引き寄せて手加減なく、殴りつけた。素手なので、威力はそうないはずだ。
「うごぁぁッ・・・!」
倒れ伏した朱堂の身体から黒い砂が立ち上り、H.A.N.Tがうるさいほどの警告音を出した。
第二ラウンドの始まりを告げたのだった。


「あぁ・・・疲れた・・・雨まで降ってきやがるとはな」
身体に付着した水気を手のひらで払う。
遺跡を出て一悶着合った後、急に振り出した雨に、全身水浴びをしたかのようにずぶ濡れだ。
「うぅぅぅ・・・・さ、寒いッ」
寮の階段を並んで上がりながら、葉佩は青ざめてぶるぶると身体を震わせている。
(やっぱり怪我してるな・・)
一見普通に見える足取りだが、片足を持ち上げ段差を上がるとき・・・・左足が軸足のとき、葉佩が何かを耐えるような顔をしている。まるで、さりげなく足を庇っている。
(足首、か・・・?いや・・・・・左肩も、か?)
左側をとにかく庇うように、遺跡から歩いてきたのを思い出す。
遺跡を出るときも、ロープを持つ手は右手を使い上ってきていた。
這い上がったときに、左肩を抑えてもいた。
「・・・風邪を引く前に、風呂にでも行って温まって来た方が良いんじゃないか?」
「こ、甲太郎こそ・・・、風呂行けば?」
「そうか、開いてなかったな」
「そうそう」
「・・・・・とかいうとでも思ったか?お前鍵開けていつも使ってるだろうが」
「うぅ・・・・目ざといなァ・・」
「で?どこを怪我したんだ?どうせばれるんだ、さっさと白状したほうが身のためだぞ」
「・・・・・・本当に目ざとすぎる・・」
葉佩は苦笑いを浮かべ、それでもどこか嬉しそうな顔つきで両手を上げ降参の意思をしめした。

「・・・ほれ、入れ」
部屋の鍵を開け、ドアを開ける。促すと何故か背筋を伸ばして腹式呼吸の見事な発声で。
「亀急便デース!」
「お前は何かしらネタをやらないと落ちつかない芸人なのか?」
「・・・・はい・・・大人しくします・・・だから、その、ぶっそうな足をおろしてハニィー!」
「蹴って欲しいんだな、そうなんだな」
「いやいやいやいやッ!違いますッ!」
足を上げて脅すように言うと、葉佩は頭を抱えて部屋に入り、その真中辺りに座り込んだ。
そのまま、ぐったりと上半身をベットに凭れると、緩慢な動作で装備を解き出した。
右腕だけで器用に装備を解く。やはり左肩を庇うようにしている。
「シーツが濡れるだろうが!いいからまず拭け!」
バサリとその頭に紫色のバスタオルを投げつける。葉佩はそれを受け取ると、タオルを見、
「バスタオルまで紫だ・・・・・」
「悪かったなッ!それより、濡らしたとこ自分で拭けよ」
「あい・・・」
ごそごそと頭を拭きだした葉佩を背に、学生服を脱いで部屋着へと着替える。汚れた学生服のズボンを足から引きぬいたところで、視線を感じ背後を見てみると。
「・・・・・?なに見てる・・・」
葉佩が興味津々という顔をしてみていた。
「パンツまで紫?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・一度死んで見るか?」
「そ、その格好で足上げると大変危険です!」
「ッ!・・・・・・・・後で覚えとけよ・・・」
「・・・ちょっとした冗談だってばッ!」
ぎゃーぎゃーっとわめくのを聞きながら着替え終わると、その頭を掴み容赦なくデコピンを食らわせた。
「ぎゃぃひーッ!」
「ふんッ!・・・・で?どこ怪我してんだ?」
「いっったぁ・・・・うぅ怪我は・・・魂の井戸で治したからナイデスヨ?」
「・・・・・・・・行きだけだろうが。帰りいつ寄った?」
「・・・・うぅ・・・」
「俺を誤魔化せると思うなよ?・・・・ここか?」
「うわッ!」
ぐいッと乱暴に足首を掴み、持ち上げる。葉佩が身体を支えようと、ベットに縋りつく。
咄嗟に右腕をついて左肩を打ち付けないように庇う。
(やっぱりか・・・・・まァとりあえず、こっちが先、だな)
着替えと共に用意していた救急箱を傍らに引き寄せ、中から消毒液を取り出した。
そのまま裾についているチャックを引き上げ、靴下を脱がす。
「お前、本当にジャージしか着てないな・・」
学校でもジャージ姿が圧倒的に多く、学生服を着ている姿は、初日しか見たことがないような気さえする。
「いっ・・・・着てて楽だからさ・・・・・痛ぅッ!」
足首を少し上を持ち上げると、呻き声が上がるが気にせずにしげしげと患部を眺めた。
「・・・・歩き方が妙だと思ったら、これか」
アキレス腱の辺りから裂け、足首は酷く腫れていた。
「天照大御神とかいう奴の攻撃を避けたときのか」
「・・・・・・よく見てたなァ・・・」
「あの後からお前、銃を苦労して使ってただろ?別によく見てなくても、そのくらいは判るさ」
自分の膝に、葉佩の足を乗せ、患部に向かって消毒液を振り掛けた。
「ッッッッ!!!!」
「腱は切れてないな・・・」
「うん・・・・危ないとこだった」
「だが、これは結構深いぞ?今からでも保険医呼ぶか?」
「・・・・・・・・・・明日自力でいくから・・・」
「そうか」
(・・・どうも、あの姿を見てからやけに・・・・)
気になってしまうのは何故だろうか。
こうやって世話を焼くことにも、前程抵抗感はない。
「とりあえず止血はしたが・・・・これは明日更に腫れるぞ」
「怪我の上から湿布ってダメだったッけ?」
「知るかよ・・・怪我はあまりしたことないんでな」
「うーん・・・かぶれると悲惨だから、貼らないでおく」
膝の上から葉佩の足を下ろすと、立ちあがる。
「他には、ないのか?
「うん、ないない」
葉佩は治療された足を指先で撫でながら、「ありがとう」と礼を言うと、帰ろうと身近に合った装備を引き寄せている。
その身体を容赦なく捕まえると、その軽い身体をベットに放り投げた。
「みぎゃぁッ!?」
「・・・・・・・お前な、俺を誤魔化せると思うなよ、とさっきも言っただろうが!」
その身体の上から体重をかけて抑え込む。
葉佩の右腕が押しのけようと暴れるのを、片腕で封じる。
「・・・・観念すれば、やめてやるが?」
「怪我してないって!」
「なるほどな。やってもらいたいんだな」
「いッ!?」
ジャージの上着を脱がすべくチャックに手をかける。その時、左鎖骨の辺りを触ると、葉佩の身体が小さく跳ねた。
余程痛いのか、顔を顰めて、目尻には涙が浮かんでいた。
チャックを下まで下ろし、前を掴みはだけさせる。
左鎖骨周辺は変色し、内出血でどす黒くなっていた。折れているかもしれない。
(・・・・・これ、よく我慢できたな・・)
「ぎゃぁ・・・やッ・・・触るなッ」
「暴れるなッ!」


「皆守ちゃん!コレ貴方のライターじゃないかし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


軽いノックとほぼ同時にドアが開き、オカマが顔を出した。
ドアノブに手をかけたままの姿でピタリと制止した。

「ライター?あぁ・・・・落としたのか・・」
「うぅ・・・・痛い・・・」
葉佩が痛みのあまりに涙を流したとたん、オカマはムンクの叫びのような顔になり、

「・・・・・・・・・・・・・☆▲〇+*¥↑↓△■!?」

謎の言葉を叫んで逃げていった。
「なんだありゃ・・・・」
「『そんな関係だったなんて!シゲミショックッ!』だって」
「・・・・・あれでなんで判るんだ。もはや宇宙語だろ、あれは・・」
「・・・・・・同じ星に住んでるから」
「ッ!?」
(ま、まさか・・・・・・・いや・・・・・こいつの日本語の不自由さならあり得るか!?)
思わず身体を起こし、離れた。
過去のトラウマを思い出す。
あれは何だったか・・・・、近所だか身内だか、隣だか、恋人だかが実は火星人だったとかいう映画で。
思い出したくもない・・・。
そういえば、昼間保健室で寝ていたときに見た夢もこの手ので。
「・・・・・・・・・・・・お前ら、仲間だったのか・・・」
「え、あぁ・・今日からだけどね」
「・・・・・・・・・・何が目的だ?」
「・・・へ?」
「何人なんだ?」
「日本人・・・デスケド・・・」
「俺には言えないのか・・・?」
「あの・・・ええっと・・・」
「・・・・どこから来たんだ・・・・?」
「えッ!?ど・・・どこからって・・・ここに来る前はエジプトに居たけど・・」
エジプト!そうか、やはりピラミッドや地上絵は・・・。
「あれも、お前らの仕業なのか・・?」
「・・・・甲太郎さん、何を言ってるか、さっぱりなんだけど・・・」
「とぼけるのか・・」
「とぼけてないって!」
冷静に考えれば考えるほど、「葉佩異星人説」は的を得ているような気がする。
とくにあのオカマは手の平や身体に吸盤か磁石でもついているのかと常々噂されるほど、べったりと風呂場の窓に張り付いている。
見たところ、葉佩にはそのようなものはついてないようだが・・・。
「早く人間になりたいィー・・・・・あぁ、やっぱり素じゃやれないなーこのネタ」
「なりたいのか?」
「へ?いや・・・冗談だから・・」
葉佩が逃げないように抑え込んだまま、思案する。
昔見た映画や、TVでは異性人の体液や血の色は赤くないとかいう話だったな・・・。
「・・・・そういえば、血は赤かったな」
「え、そりゃぁ・・・赤いよ」
「・・・・・・・・・・・・確かめさせろ」
「はいぃぃぃー?」
よく見れば、首筋にも血がついていた。目に付いたその傷に触ってみる。
「ベタつかないか・・」
「ベタつかないって!」
「・・・・味はどうなんだ・・?」
この時、手にとって舐めれば良かったと、苦悩する羽目になることを、知るよしもなく。
身をかがめて首筋の傷に舌を這わせ、舐めてみた。
「味って・・・・・・・・・・わッ・・・・・わひょっ!?」
「・・・・・・・・・・・錆の味が・・・」

「悪い、甲太郎。朱堂がうるさくてな・・・一体どうし・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「九龍君、キミの名前を呼びながら朱堂君が泣いてッッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あぁぁーーーん!葉佩ちゃんッ!さっきのはまちが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

開かれたままだった扉に、夕薙と取手と朱堂が顔を出し、何かを言いかけたまま口をあんぐりを開けたまま硬直して立っていた。
瞬間、自分がした事の意味を理解する。
「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」
沈黙が支配する中で、一人だけ暢気な人間が居た。
「うぅ、甲太郎・・・・急に舐めるなんて・・・」
(赤い顔をして俯むくな・・・)

「・・・・・・・↑↑↓↓←→←→○△!?」

朱堂が顔を歪め、形容しがたい奇妙な表情でまた謎の言葉を叫び、走り去っていった。
「んっと・・・『舐めるなら、アタシが舐めてあげるのにッ!』だって・・・」
「通訳するなよ・・・」
やっぱりお前も、宇宙人なのか・・?そうなのか・・・?
疑惑が頭をもたげるが、急に朗らかな笑い声に意識をそちらへ向ける。
「大和・・・」
「朱堂が言っていたのは、この事か・・・・・まァ、人の趣味や嗜好は人の勝手だ。外国だとそれが当たり前にあるからな」
「・・・・・・・僕も・・・九龍君が幸せなら・・・」
「理解を示すなッ!てか、取手、台詞と顔つきがあってないぞッ!」
取手の顔つきは、異常なほど強張り、こちらを睨みつけていた。
「しかしな、甲太郎。無理やりは良くないと思うぞ?」
「何の話だ!」
「葉佩、キミもだ・・。嫌なら嫌とはっきり意思表示をしなくてはだな」
「え、嫌じゃないから。びっくりしたけど・・・・嬉しかったし」
葉佩はきっと治療のことを言ってるのだろうが。
(この場面で、その言葉は、わざとなのか?そうなのか?意趣返しか?)
「そうか・・・なら、俺には言うことはないな・・・・」
「そうだね・・・九龍君、キミが幸せなら、僕は・・・・」
「うん・・?ありがとう・・?」
「後、扉は閉めてやれ・・・・・・・・風紀が乱れる」
「そうだね・・・見た人に、噂を立てられて、九龍君が悲しむことになるのは嫌だよ」
「まァ、朱堂が泣き叫んでたし・・・・・・・・、それにもう遅いな」
夕薙の声につられて扉を見れば、人だかり。

「おい・・・・・・・・・・・・やっぱり・・・」
「あーありえそうと思ってたぜ・・」
「でもさ、さっき朱堂が、葉佩に求婚されたとかいってたぜ?二股?」
「浮気じゃねぇの?」
「じゃぁどっちが本命?」
「皆守だろ」
「葉佩がつまみ食いしたのが、ばれちゃったのかー」
「てかさ、取手と夕薙なにやってんのかな・・?」
「葉佩を取り合い?」
「葉佩モテモテ!?」
「でも葉佩、朱堂を手篭めにしたんだろ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・お前ら、散れ」
低い声で一言、睨みつけながら言うと、目が合った野郎どもは逃げていった。
「・・皆守君。・・・・・・・風紀が乱れますので、ほどほどに」
「・・・・・・・・・・神鳳・・・」
男どもの背後に居たらしい神鳳が、フッと口元だけで笑い、扉をそっと閉めていった。
(・・・・・・・・・・・マズイやつに見られたな・・・)
きっと明日にも招集がかかるに違いない。その上、報告された生徒会長はバカ正直に信じるに違いない。
「・・・・・頭痛くなってきた・・・」
思わず呟くと、葉佩が下から心配そうに見て、更に誤解を招く発言で止めを刺した。
「・・・それじゃ今日はもう寝るか?一緒にこのまま寝ちゃおうか」
夕薙と取手の視線が強くなる。
(やめてくれッ・・・・・九龍、お前、わざとか?わざとなのかッ!?)
「それじゃ・・・僕もこれで・・・皆守君、九龍君を泣かせたら・・・わかってるよね?」
「俺も行くが・・・甲太郎、明日少し話がある・・・それじゃ」
二人が去っていくのを、何も言わずに見送った。
明日は部屋から一歩も出るまい、と心に決めて、葉佩への意趣返しをこめて、取り出した湿布をベタッと鎖骨に貼りつける。
「つ、つめたッ!」
「・・・・・・・・・・・・寝る」
葉佩を放置して、その横に横になる。
もう何も考えたくもなかった・・・・。

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