あなたがわたしにくれたもの(3)
(まったくッ!世話の焼けるッ!) 給湯室、寮の一階を逃げまわった朱堂は、そのまま玄関から外へと飛び出した。 「オホホホホホッ!はぁ・・・・はぁ・・・・・シゲミ、ファイトォォォォォオオオオーッ!」 「いっぱぁーつ」 幾分息を乱しながらも、化け物並の肺活量で叫ぶ朱堂の声の後に、続く暢気な声。 「・・・・・・ヘボハンめ・・・」 (何を暢気にほざいてやがる・・あのバカタレめ) 朱堂の脇から時より見える頭を、怒気をこめて睨みつけるが、気づきそうにもない。 走りながら何度も放っておこうかと迷う。 (何故俺は、雨の中全速力で走るオカマを追いかけてるんだ・・・) 放って見捨てればいいのに、何故自分は、あのバカを見捨てられないのか・・。 それは自分でもよく判らない。 判らないが・・・・。 (これはきっと後から後悔するからだ。人として人類として、当然の事をしているまでだ) 今この時のことも、給湯室の引き出しの中のことも、それだけのことだ。 目の前で連れて行かれたから ・・・・その先で何をされるかが想像つくから。 目の前で行き倒れられたら迷惑だから・・・・。 (それだけの、ことなんだ・・) 深い意味なんて、ないはずだ。 「シゲミ、ブーストオーーーーンッッッ!オカマの底力見せたるぜよッ!」 更にスピードを上げる朱堂を、呆然と見送った。 小雨の中、濡れて滑りやすい石畳の通学路を、すたたたたっと走り抜けていく。 (・・・・・・・・やっぱり・・・・・・・異星人・・・なのか・・・?) 人間業とは到底思えない。 ただでさえ、人一人抱えているのに。例え葉佩が軽いといっても、50キロはあるだろう。 その荷物を持ってこのスピードに持久力。 「・・・・・・・化け物か・・・」 (いや、変態か・・・) はぁはぁ、と息を乱しながら立ち止まる。完全に見失った。 「どこ・・・行きやがった?」 「オカマの脚力、ナメたらあかんぜよォォォォォッ!!!」 「あっちかッ!」 声のほうへ走りながら、デジャブを感じる。 数日前は、葉佩も一緒に走ってたな、と思いながらその姿を追いかける。 方向転換した朱堂は、まっすぐ寮に向かっていた。 「おい、給湯室で、皆守と朱堂が、葉佩を取り合って大暴れしてるらしいぜ!?」 「あれ?さっきは、夕薙が葉佩を襲ってるのを朱堂が目撃したとかで大泣きしてたけどなぁ?」 「俺が聞いたのは、夕薙と皆守が葉佩を取り合ってたってヤツだけなんだが」 退屈な土曜日の午後、外は雨で軽い散歩すら出来ない若者達は、自然寮のTVルームに集まってくだらない話に花をさかせていた。 それを横目でみながら、給湯室へと向かう。 (・・・ずいぶんと、噂が広がってるな・・) 聞こえてくる噂に耳を済ませば済ますほど、途切れない話に苦笑した。 (甲太郎が眉根を寄せて不機嫌になる顔が浮かぶな・・) ふと窓の外が視界に入る。小雨になってはいるが、窓にも水滴がついていた。 (甲太郎か・・・・) この数日で皆守は驚くほど表情が豊かになったと思う。前と同じく、無関心で無気力なところも健在だが、葉佩と共にある姿は怒ったり呆れたりと表情の変化が以前と段違いだ。 あの夜、泣いて森へと逃げた葉佩を追いかけてきた皆守は・・・、あの無気力無関心の男が誰かを心配し案じるなど思ってもいなかった。 根は優しいのだろうが、それを表立って表さない男だと思っていた。 だが、それも判る気がした。葉佩は「光」と「闇」のどちらも持っている。 (いや・・・どちらも持ちうるからこそ、人間か・・・だが・・・) 墓守を救い手を差し出す優しさ。普段クラスでとても楽しそうにしている葉佩の周囲は光に満ちている。 温かなそれに対して、時々見せる寂しげな表情。 先程見せた悲痛とも言える表情に、自分も見覚えがあった。 無力な自分、目の前で大切な人達を奪われた、苦しみ。 (葉佩・・お前も、俺と同じ想いを背負っているのか・・?) 葉佩の抱えるものは判らない・・・・が、気になってしまう。 (近づきすぎてはならない、はずなのにな・・・) 葉佩を利用し、秘宝へと近づくためには・・・・余計な気遣いなどあっては邪魔なだけなのに。 頼りない小さな子供のような、悲嘆を抱え怯えたような様子に、励ましてやりたくなるのを、皆守の手前もあり必死に抑え込んだ。 そう思う自分に動揺し、それを聡い皆守に覚られない様に慌てて出てきたものだ。 (情が・・・移ったのか・・・・?) 非情になりきれない自分を戸惑いながらも認めてやるしかない。 葉佩を手助けするのは、秘宝のためだとか、利用するためだとか、言い訳をするつもりはない。 (俺は、あいつのことが、気に入ってるんだろうな・・・) フッと苦笑を浮かべ、視線を正面に向けた時だった。 「オーホホホホホホホホホホホホホホホホホホッ!」 びゅんッ!と文字通り風のように朱堂が目の前を走り抜けていった。 「・・・・朱堂か?」 しかしもう一人その腕の中にいたような・・・・。 「まさか、な・・・・」 皆守が近くに居たのだ。そんなことはさせないだろうと思うが・・・しかし・・・。 朱堂の後を追うように足音か近づいてきた。 「・・・・大和ッ!追えッ!」 「甲太郎!それじゃ・・・まさか・・・」 「あぁ・・そのまさかだ」 「攫われたのか・・・・何をしてるんだ、お前がついていながら」 「仕方ないだろッ!まさかあんな・・・・強行手段に出るとは、思ってなかったさ・・」 走ってきた皆守は激しく息を乱していた。濡れてもいる上に、部屋着の裾は泥が跳ねていた。 「それはそうだな・・・外まで追いかけたのか?」 「あぁ・・・あのオカマ、校舎のほうへ逃げてたんだが、急に方向転換しやががって・・」 「・・・しかし、人一人抱えているのに、このスピードはすごいな」 二人並んで走り出しながら言うと、 「化け物だな・・・」 「宇宙人、という噂も合ったが・・・」 「・・・・ッ!」 「あったが、まぁ噂だろうな」 「・・・・・・」 朱堂は部屋へ向かっているのか、階段の上から高笑いが響いてきている。 階段を駆け登るのはさすがに辛い。自然足の歩みが遅くなる。朱堂は少しもスピードが落ちたように見えない。体力も尋常ではないらしい。 「・・・しかし、葉佩の体重の軽さは問題だな」 もう少し重ければ、朱堂は早々と捕獲できたはずなのだ。 「あいつ・・・また痩せたのか・・」 「53キロだとか言っていたが」 「痩せすぎだな・・・」 「ここ最近は食べているが、数日前までは食べてなかったとか言っていたな・・」 「あぁ・・あのバカ。この前屋上で行き倒れてたぞ・・」 「行き倒れか・・今日も100円すらないとか言って、内職に励んでいたが・・・そこまで金欠なのか?葉佩は」 「あいつは・・・」 皆守を横目で見ると、難しい顔をして歩を進めていた。 「あいつのことは・・・俺に聞くな、聞きたいんなら本人に聞くんだな」 「そうか、そうだな・・・だがその前に、助けてやらないとな・・」 そう口にしたとたん、朱堂の部屋の方角から、朱堂の興奮した声が響いてきた。 野次馬が部屋の前に集結しているのを押しのけ部屋の前に立つ。 「鍵がかかっているか・・・」 「どけッ!!!」 皆守が前に出、ふっと重心を後ろ足に移動させた。そしてそのまま蹴りを放った。 天蓋つきのベットに優しく下ろされて、身体がマットに沈む。 (うわ~~ふっかふかー!) 部屋の中は淡いピンク色で埋め尽くされていて、自分が横たわるベットのシーツもピンクだ。 天蓋からかかる白っぽいレースもピンク。 (甲太郎は紫づくしだったからなぁ・・意外と気が合うんじゃないかな) そんな事を思いながら身じろぎすると、香る薔薇の香りに、皆守のラベンダーのほうが好きな香りだなと思う。 「うふふふふ・・・・・ふふふふふふ・・・ダーリン・・心配しないでねッ」 「朱堂ちゃん」 「シゲミと呼んでッ!ダーリン・・」 身体の上に伸しかかってきた朱堂は、頬を染めながら、てらてらと光る自分の唇を舐めた。 (あぁ・・・アゴ割れてるの、やっぱ気になる・・) 「じゃぁ、シゲミちゃん・・・」 「なぁに?ダーリンッ!」 「俺まだ眠くないんだけど?」 「・・・・・・・まぁ・・・・だ・い・た・んッ!寝るだなんて寝るだなんて寝るだなんてッッ!キャーもぅッ、ダーリンったらッ!」 3度も繰り返す重要性はどこにあるんだろう、とぼんやり考えながら朱堂を観察する。 くねくねと身をよじらせる朱堂は、息が荒い。 (柔らかい身体だなァ・・・・骨入ってるのかなー軟体生物みたいだ・・) ごそごそと、すでにはだけていたジャージの上着を肩から滑り落とされる。 「はっ!葉佩ちゃん!この怪我ッ!?」 「うん?あぁ・・・ちょっと、ドジっちゃって」 「まぁまぁぁぁぁッ!!・・・・・・・・・・・・・・・ゴクリ」 「シゲミちゃん?鼻息が当たってくすぐったいんだけど・・・・・・・ん?」 至近距離に近づかれて、その顔をまじまじを見上げる。 「だ、ダーリン・・・あんまり見ないでッ!シゲミ、シゲミ・・・・・てれちゃうぅん~」 (顔が赤くて、眼が涙目で・・・うわー睫びしばしだなぁ・・・ひっぱりたい・・) そっと手を伸ばして朱堂の顔に触れる。更に顔が赤くなり、鼻息が荒くなる。 「シゲミちゃん・・・」 「キャッ!」 そっと顔を寄せると、小さな悲鳴が上がる。 それに少々驚きながら、更に近づくと。赤くなった朱堂が大きな眼を閉じた。唇が突き出ているようなきがした。 「ちょっと、ごめんね」 「ダーリン・・」 「九龍ッッ!やめろッ!」 「九龍ーッ!早まるなッ!」 「葉佩、すげぇ・・」 「葉佩、勇者!」 「葉佩王バンザーイ!」 皆守と夕薙の必死の声と、他の知らない連中の声に、意識を取られて手加減を忘れていた。 ゴツンッ! 「いっ!」 「ぎゃうっ!」 声にビックリして額同士で頭突きしてしまい、慌てて額を抑えて身を放す。 「あいたーっ!火花が飛んでる・・・うぅぅぅ・・・・シゲミちゃんの石頭・・」 「ダッ、ダーリンッ!酷いわッ・・・ぐぅぅぅ」 ふかふかする布団に倒れてうめくと、ぐいっと引き起こされた。 視界が反転して気がつけば、夕薙に荷物のように担がれていた。 「あぁッ!ダーリンッ!」 手を伸ばして悲痛に叫ぶ朱堂を見て、安心させるように笑って見せた。 「シゲミちゃん、風邪引いてるみたいだから、暖かくして休んだほうが良いよ」 「ダ・・・・ダ・・・ダーリン・・・・・・なっ・・・なんて、優しいのかしらッ!」 その言葉にうるうると両手を前で組んで、ベットの上で乙女座りをする朱堂を、夕薙と皆守が呆れたように見ていた。 「九龍・・お前今何をしようとしたんだ・・・?」 皆守が幾分身体を引きながら聞いてくる。 「え?おでこで熱を測ろうかと・・・」 「・・・・・・・熱」 「だって、顔が赤いし、息が荒いし、脈拍も速そうだったから・・」 「・・・・・・あきらかに違うと思うんだがな・・」 「・・・・・・・・・・・天然か・・・?」 「え?何が・・・?ところで、二人とも追いかけてきてくれたんだ」 荷物持ちで抱えられ、頭に血か上るのを感じながら。それでもお礼は言わなくてはと、頑張って口にした。 「・・・・ありがとう」 なんとか笑いながら言うと。何故か二人は視線を逸らして長い沈黙の後、ぼそりと言った。 「・・・・・・・・・・・・まぁ、成り行きでな」 「・・・・・・・・・・・・そうだな」 二人はまたわかりあったかの様な風で頷き合う。 (・・・・・仲良いなァ・・・羨ましいぞッ!こんちくしょーっ) 目障りなギャラリーが、何か言っている。 睨んでは散らすが、雨で暇をしていた連中は一匹見つけたら30匹のようなモノの法則のように、わらわらと沸いてくる。 (・・・・月曜日もさぼるか・・・) 八千穂辺りが耳ざとく聞きつけ、教えに来なくて良いのにわざわざ言いに来るに違いない。 皆守は深々とため息をつき、歩き出した。 「これは・・・・どんな噂になるんだろうな」 椅子にぶつけた足の怪我が開いた葉佩を背負い、後方からついてくる夕薙が何処か楽しげに笑いながら言う。 背中の葉佩が能天気に「噂って?」と聞いているのを聞いて、頭が痛む。 「お前・・・そんなに鈍くて良く・・・・・」 ハンターでいられるな、と危うく口にしかけて黙る。夕薙を見れば面白そうに見ているのが癇に障る。 「ムカッ!俺は鈍くないぞーッ!これでも直感は高いんだからな!」 「直感?」 「あぁ・・・えーっと数値でわか・・・・」 「ッ!」 ビシッと葉佩の額から痛そうな音がする。 「いったぁっ!!な・・・いきなり玉ねぎ投げるなよッ!」 先程給湯室で拾ったまま持っていた玉ねぎを咄嗟に投げた意味すら気づかないで葉佩は怒る。 (鈍い、鈍すぎる・・・こんなんで、本当にやっていけるのか・・・?) 「・・・・九龍、お前はもう少し気をつけたほうが良いぞ」 注意と警告をしようと口を開きかけて止める。 (・・・・・大和?) 「え・・・」 「お前はあまりにも迂闊だし」 「うッ!」 「隙が多すぎるし」 「ぐっ!」 「抜けているし」 「げふっ!」 「この前も何もないところで、こけてたな?」 「ぎゃぁっ」 「まぁ・・・お前らしいのだろうが・・・気をつけろ・・いつ誰が何処で、狙っているか、判らないんだからな・・?」 立ち止まり、3段上の階段中腹に居る夕薙を見上げた。 (・・・・・・・嫌な顔だ) 夕薙は、口元に自嘲めいた笑みを浮かべていた。 自分こそがジョーカーだと、葉佩を傷つける存在なのだと、言葉にせずに語っているようなものだ。 葉佩はきっと気づかないだろうが・・。 自分も同じモノを持ちうるからこそ、嫌な顔だと思った。 (鏡を見ているようで・・・・反吐が出る・・・) 「・・・・うん・・・判った気をつける」 「そうしてくれ・・・・・・・なんだ?甲太郎。何か言いたそうな顔だな?」 「いや、別に」 「そうか・・・?何か言いたそうに見えるがな」 「気のせいだろ。目薬でも注した方がいいんじゃないか?」 「そうか・・・ッ!九龍!」 背負った葉佩を急に怒鳴る。器用に片手で葉佩を支えたまま、首筋を掻きむしった。 (なんだ・・・・?顔が赤いが・・) 「落とされたいのか、お前はッ!」 「だってさー」 「だってじゃないッ!」 「何やったんだ?こいつは」 「首筋をぞわ~と、くすぐられた」 「・・・・・・・・・・・・・・・九龍、ここで落とされたら大怪我どころじゃないぞ」 「だってさぁ・・・甲太郎と・・ゆ・・夕薙ってさ・・・仲良いしさッ!」 ぶす~っとした顔つきで言う葉佩は、とても同じ歳には見えない。 「どこの小学生だ、お前は」 「天香の?」 「ここは高校だ、お前はとっとと小学校にでも帰れ」 鼻で笑う様に嫌みったらしくいうと、葉佩は同じように鼻で笑うと、何処か得意げに言い放った。 「俺はコレでも立派に16なんだからなー!」 「・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 「九龍、お前、何年生まれなんだ?」 夕薙が渋い顔をして言う。前を向いているので、葉佩は気づきもしないだろうが。 その顔にははっきりと、呆れと哀れみが混じっていた。 (・・・・九龍・・・お前、大和にまでバカだと思われてるぞ・・・) 「え?63年生まれだけど・・・」 「「・・・・・・・・・・・・・・・」」 夕薙と二人、顔見合わせてため息をつく。 その後、お互いに視線で、どちらが言うかを押し付け合う。 アロマを吸いながら、視線を逸らすと、夕薙が再びため息をついた。 「九龍・・・・俺はお前達より2つ年上だといったな?俺は今年成人したばかりだ。甲太郎達は二つ年下。つまり18だ」 「・・・・・・・・えーっと・・・・ってことは・・・」 「俺達と同年だとすれば、1986年か、遅生まれで1987年のはずだ」 「言いたいことわかったか?九龍」 夕薙が背中の葉佩に問い掛ける。視線を向ければ葉佩は夕薙の頭にしがみついて顔を伏せていた。 「ぐぅ・・・・・やっばいぃ・・・」 「・・・・九龍、髪を引っ張るのは止めてくれ・・」 そう言っても葉佩は聞いていない様で、「ぐぐぐぐ」と唸りっぱなしだ。 「・・・それで九龍、キミの歳はそれで間違いないのか?」 「自分の生まれ年も間違えるほどアホなのか、お前は・・」 「・・・・・えっと・・・オフレコにしててよ?」 「なんだよ」 「俺、本当に16なんだよ。1988年4月15日生まれなんだよ」 「・・・・本当ならば高1か・・・なるほどな」 「なるほどってなんだよッ!」 「ん・・?いや、甲太郎達と同じ歳にしては幼すぎるなと思っていたのでな」 「な・・・・・幼い・・!?」 「てか、ガキと言え。ガキと」 「が、ガキッ!」 「それにしても、よく書類を誤魔化せたな?海外で飛び級をしたとかではないんだろ?」 (飛び級できるはずがないと言っているようなものだな・・・嫌味なのか?) どうやら夕薙は自分の言った言葉の意味を深く考えていないらしい。 それだけ葉佩の馬鹿っぷりが周知の事実なのか・・・。 葉佩も葉佩で、言われた言葉の嫌味に気づかずに、頷いている。 「まぁヘビの道は蛇とかいうし」 「それを言うなら、蛇の道はヘビ、だ」 「そうともいう」 「そうとしか言わない」 「・・・・・まぁうん、そんなわけで、オフレコでよろしくー!」 元気良く言い放った葉佩を見上げ、ため息をつきながら言ってやる。 「・・・・・九龍」 「なに?」 「うしろ」 (まるでどこかの芸人みたいだな・・・) そんなことを思いながら、パイプでひょいと背後を差す。そこには・・。 「・・・・へ?」 ぐるりと落ちないように顔を背後にめぐらす葉佩は、そのまま固まった。 興味津々と顔に書かれたギャラリーが、携帯でメールを打ったり他のヤツに教えたりしている。 「オフレコ、無理だろ」 「ぎゃぁーーーっ」 葉佩は、地球の裏側に届きそうな墓穴を盛大に掘って、頭を抱えて呻き声をあげた。 「九龍・・・・俺はアレだけ気をつけろと言ったんだが・・・」 「はわわわわっ」 「聞いてないみたいだぞ」 「そうみたいだな」 「・・・・明日が楽しみだな」 はははは、と朗らかに笑いながら言う夕薙を呆れた眼で見てアロマを吸い込んだ。 「・・・・・・・・俺は暫くサボりたいがな・・・」 |