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嵐の中で会いましょう・おまけ
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「ところでさ、シュウ。僕言い忘れてたんだけど」
「どうしました?」

場所は医務室。夕日のオレンジ色が窓の外を染めている。少し冷たい風が開けっぱなしの窓から入ってくる。
モンキのベットの隣に、トウタが昏睡していた。大人4人に潰されたせいで。
ホウアンは夕食を取りに行ってこの場にはいない。

「・・・・ちんちろりんと、レストランの賄賂は何に使ってるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「長い沈黙だね」
モンキはシュウを、ニヤニヤと笑いながら見上げた。
「・・・・・・覚えていましたか・・・・・・」
「そりゃーもちろん」
モンキは口端を上げて笑うと、懐から紙束を取り出した。リッチモンドの調査書らしい。
「言い訳はしないでね。お見通しだから」
「・・・・何に使っているか、までは?」
「判らなかったみたい」
「そうですか・・・そうでしょうね・・」
ふぅ、とため息をついた軍師を見上げて、モンキは首をかしげた。
「判りました。よく聞いてください」
「うん」

「修繕費用と食材代金 です」

「・・・・・・・へ?」
意外な言葉にモンキは、ぽかーんと間抜けな表情でシュウを見上げた。
「修繕費用?」
「はい」
「食材代金?」
「はい」
「えー?・・・・・着服してないの〜?」
信じられない、というような声を出したモンキの前で、シュウはがっくりと脱力した。
「・・・・着服して欲しかったんですか・・・」
「普通はするよ〜?」
「普通は、しません!」
「僕なら、するもん!」
へそくりあるもんね!と胸を張って得意げにいう主君を見て、ここには居ない彼の元気な義姉を思い出した。
(そっくりだな・・・)
「一割くらいはしてるよね?」
「してません」
「嘘っ!!!信じられない!シュウって絶対悪代官タイプと思ってたのに!」
「・・・はぁー・・・・」
思わず大きなため息をついて、額に手を置いた。顔にかかった髪の毛を押しやる。
「修繕費用は、今回貴方が破壊した部屋に用いられるでしょう」
「あー・・・・そういえば・・」
壊しちゃったっけーと、ぽりぽりと頭の後ろを掻いたモンキに、構わず続ける。
「食材代金は・・・・・・・・・・・・・」
「代金は?」
「ナナミ殿の・・・食材代金、です」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

部屋に沈黙が下りた。モンキはシュウを見上げた姿勢のまま固まっている。
「・・・・あの・・謎の物体Xの・・・材料費用・・・なんだ・・」
モンキは毎日朝食と昼食、そしておやつと夜食は、ナナミのお手製料理を食べていた。
「もう慣れたけど慣れたけど・・・・・」
ベットに突っ伏すモンキの背中をシュウは撫でてやった。
「あんなモノに使うくらいなら、僕にお小遣いくれたっていいじゃん!!!」
「・・・モンキ・・・・」
「しょんべん小僧〜ぅ!らくがき〜!」
突っ伏したまま、じたばたと暴れるモンキ。
(子供だ・・・)
シュウはその真横に立ったまま、額に手をやった。ため息をついた。
「シュウは、あれを毎日食べてないから、良いよね!」
「はぁ?」
大きなため息が癇に障ったらしい。モンキはがばっと顔を上げてシュウを睨んだ。
「僕はもう慣れたけど、時々ものすごいものもあって、大変なんだよ!」
「・・・・・・そうか・・・・・」
ふとシュウは何かに気づいたように顔を扉のほうへ向けた。
「俺も、味わうことになりそうだ・・」
「へ?」
顔をかしげたとたん、扉は乱暴に開かれた。

「モンキ!聞いたわよ!倒れたんだって?お姉ちゃん心配しちゃったよ〜!あ、でね、身体に良いものを作ってきたから!ちゃんと食べて元気になってね!」

「な、ナナミ・・・・」
物凄い勢いでしゃべり、ベットに駆け寄ったナナミは、心配そうに義弟の顔を覗きこんだ。
「な、ナナミさん・・・・重いです・・・」
「ホウアン殿・・・」
ナナミお手製夕飯を載せたワゴンを引きならが入ってきたホウアンはよろよろと、顔色悪く、その場に座り込んだ。
「あ、ごめんなさーい」
「・・・・・・こ、この匂いは・・・」
強烈な匂いが、スープをいれているらしい鍋から漂ってくる。
「・・トウタ・・・先生はもうだめっぽいです・・」
よろよろと、口元を抑えたままホウアンはさり気なく、扉から出ていった。

「「あっ・・・・・」」

「逃げたね」
「逃げましたね」
「ずるいよー!!!!!!」

その後彼らは仲良く隣り合って寝こみ。
ホウアンはその看護につきっきりだったという・・・・。
・・・その頃ナナミが、倒れてしまった2人に、おかゆを作るのだとはりきって厨房に篭っていた。
嵐は当分、過ぎ去らないようである・・・・・。

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