「モンキさんは、随分長いこと無理をしてきたみたいですね・・・身体の疲れによるストレス、睡眠不足。情緒不安定。後は、この年頃特有の病でしょうかね」 倒れたモンキを医務室に運び込みホウアンがモンキの右手に包帯を巻きながら症状をシュウに話していた。 「病?何かご病気を?」 「いいえ・・・貴方にもあったはずですよ。いずれトウタにも訪れるんでしょうかねぇ・・」 「俺にも合った?」 「まだわかりませんか?”反抗期”ですよ」 「・・・それも関係していたのか?」 「えぇ。そうみたいですね」 包帯を巻き終わり、その手をそっと掛け布団の中に戻してやる。モンキはまだ意識が戻っていない。 「疲労もあったんでしょう。このところ、ろくに休んでなかったようですし」 「・・・気付かなかった」 「軍師殿を欺くほどモンキ殿はシュウ殿を気にしていたんですね」 「・・・何を言っている?」 「この軍を背負うには・・この子の身体も精神もまだ子供です」 「・・・・・」 「ですが、それは彼自身が決めたこと。このことはモンキ殿もよくわかっていることでしょう」 「後悔していると?」 「そうは言ってませんよ・・一人で立つのは辛いけれど、誰かが支えてやれば良いことです」 「俺は自分の職務をまっとうしている」 「えぇ、貴方がこの軍を支えていることは存じてますよ。ですが・・モンキ殿を支えていると言えますか?」 「・・・・・・」 「あなた方には会話が足りない。もっと話をしてみるといい」 「何?」 「・・・・モンキ殿。落ち着きましたか?」 ホウアンがそう声を掛けるとモンキが目を開いた。だいぶ前から起きていたらしい。 「うん・・・何をやったかは覚えてるよ」 「そうですか。喉が乾いたでしょう?お水です。お飲みください」 「ありがとう・・・」 モンキは起きあがるとホウアンから水を貰う。くびくびと勢い良く飲んでいく。 「しばらくここで休んでいきなさい。・・・話しでもしながら」 「ホウアン先生・・」 「シュウ殿、後はよろしくお願いします。トウタ、診療しに行きますよ」 「はい、先生」 仲の良い師弟はそろって出かけていった。 「話を聞いていたのですか?」 沈黙するモンキにそう話しかける。こくりと頷くモンキは俯いたままだ。 (・・・苦手だ) 子供と距離を置いてしか話したことがない。元々子供は嫌いだし、モンキも「リーダー」として考えていて、『子供』扱いをしたことがなかった。 (今更何を話せと?) シュウは、モンキの青ざめた顔を眺めた。 (・・・・・痩せたな) 以前はもっと、ふっくらしていたような気がする。 そういえば、笑い顔も、最近見たことが無かった。以前は良く見ていたはずなのに。 (あの”笑顔”しか・・・覚えてないな・・) 先ほど見た、儚い笑顔。思い出せるのはその笑顔しかない。 思い返せば、いつも、萎縮していたような気がする。 「・・・・」 「・・・・・」 しばらく沈黙が続いた。 「・・・シュウ」 沈黙を破ったのはモンキで相変わらず俯いている。 「何でしょうか?」 「・・・・ごめんなさい・・」 「・・お気になさらずに。貴方は”病気”だったと、皆にも伝えました」 「ありがとう」 モンキは顔を上げるとシュウに微かに笑い掛けた。 その笑顔を見て何故かまた思い出した。 『いたずらする子供はその対象に構って欲しいからなのよね』 『リーダーシュウ軍師になついてるんだな』 『リーダー寂しいのかな・・』 自分は説教ばかりで。立場のことばかり考えていた。 最近、たびたび倒れるモンキを、よく叱っていた。心配していたからだ。 『貴方は、自分の地位が、立場がまるで判っていない!』 自分の言葉を思い出して、酷く罪悪感を感じた・・・。 「イライラしてたんだ・・・」 レストランで言われた言葉を思い返してるときに、モンキがぽつりとつぶやいた。 「イライラしてモヤモヤして・・・何もかも壊したくなって・・・悲しくなった」 「モンキ殿・・」 「シュウを見たらそれが激しくなって・・・本当はね、泣きわめきたかったんだよ」 照れたように呆れたように笑う。 「・・・モンキ・・・」 ”殿”がシュウから抜けたことにほんのわずかだが、モンキは目を見開いた。 「俺は子供が好きじゃない・・お前のことを子供だと思ったことはない・・」 「・・・子供扱いは・・僕も望まない」 「モンキ?」 「”僕”を見ていてくれたらいい・・・僕はリーダーなんてやってるけど、肩書きじゃなくて僕自身を」 「・・・わかった」 モンキはその言葉に何も言わずに嬉しそうに微笑む。 「ただし、無様な姿などこの俺に見せるなよ」 「うん」 シュウは誰にも見せたことがないような微笑みを浮かべると、モンキの頭をぽんぽんと軽くはたいた。 「・・・でも交渉はお願いね」 「!!!」 「どうやら・・上手くいったようですね」 「先生?覗き見なんて・・」 「トウタ、私は覗いてるのではなく心配して見守っているのですよ」 「そう言う割に・・何だか嬉しそうですよ、先生」 「おや」 師弟がこっそり見守る中、”子供”と”大人”は長いこと楽しそうに話していた。 「俺、あの軍師さんが照れてるの初めて見たぜ・・・あんな風に笑うんだな〜」 「おい、ビクトール・・・覗くなよ」 「お、重いですよ・・クマさん」 「先生・・ビクトールさんですよ」 「クマ言うなっ・・・おぉっ!」 「ど、どうしたっ!」 4人が注目した先には、寝かしつけようとしている最中なのか・・・遠くから見れば怪しい構図に見えるシュウとモンキであった。 モンキはシュウの首に手をのばしており、シュウの長い髪の毛がその表情を隠している。 「うぉっ」 「おやまぁ」 「ひゃぁ〜」 「・・・・・・ショタコンとかいうのだったのか・・・シュウ・・」 ばたん!!!!! 4人がドアにへばりついたせいか、それとも最近太り気味クマの体重の所為か・・ドアがはずれ、4人はそのまま部屋の中に雪崩れこんだ。 「・・・・・・」 「・・・」 モンキとシュウはそのままの姿勢で固まった。 「重いよぉ〜」 「・・・重いですねっ・・少し痩せた方が・・良いですよ・・クマさん・・」 「クマ言うな!!!」 「す、すまん、トウタ」 慌てるフリック、怒れるクマ、何故か冷静なホウアンと潰れかけのトウタ。 その眼前に不穏な空気をまとったシュウが立ちそびえた。 「・・・何をしている」 「あっ?そ、そのなぁ・・組体操の何だっけか?」 「え?あ、あれだ、あれ!!」 「ピラミッドでしょう」 「そうそう!練習してんだよな!!!」 「ぅぎゅ・・・」 「・・・トウタ殿が一番下の土台のか?」 「うっ・・」 「おや」 「トウタ!トウタが泡噴いてるぞ!!!」 慌てる面々(特にクマ)、誤魔化せない状況に青ざめ泡を噴く。 「シュウ・・」 その声に一同は視線を向ける。裸足で歩いてきたモンキがいた。何やら顔を赤くしてもじもじしている。 「モンキ殿起きあがっては・・」 「僕・・・・・・好きなんだ!!!!」 「「「は?」」」 「おや〜・・」 「ぎゅぅ・・・・・・」 シュウとビクトールフリックは目を丸くして動きを止めた。ホウアンだけが、楽しげに見つめている。トウタは目を回して一人倒れている。 その面々を前に、モンキは更にもじもじとしながら口を開いた。 「だからだから・・・お風呂・・」 恥らう仕草ではにかんだ。 「「「!!!」」」 「おやまぁ・・」 「ぎゅぅ・・・・・・」 「・・・に、置きたいんだ。買ってきて?しょんべん小僧」 「し、仕方ないですね、今度だけですよ」 「「紛らわしい言い方すんな!!!」」 「何してるんだ?」 「さて・・おばあちゃんにもわからないね・・」 医務室の側に立つリッチモンドとタキは医務室から聞こえてきた怒声に首を傾げた。 その後お風呂にシュウに買ってもらったしょんべん小僧が飾られたらしい |
【後書き・H16・3月改訂版】 この話は「戦場の花」→「嵐の中で会いましょう」という順番で読むことをオススメします。 時間的には、戦場の花後編で本拠地に戻ってきてから数日後くらいでしょう。 立場を重視する大人と、大人になりきれない子供を書いて見たかった・・だけかもしれません(笑) ちなみに、「嵐の中の〜後編」で女性向っぽい描写をあえてしております。 ワザとです。少女漫画的な効果を狙っただけですが、女性向っぽくて自分でも笑えます。あれは寝かしつけようとするシュウ(というか、多分会話切りたかったんだろう)と念願のしょんべん小僧を買って頂戴!と(彼は多分、自腹で買うのはいやなんだろうな、と・・)頼んでいる図です。 このサイトはノーマル健全名前の間には「アンド」マークしかないのがモットーのサイトです(笑)ということで読んでくれてありがとう! |