その嵐は、爆音と共にやってきた。 本拠地を揺るがす程の爆音に、部屋にいた「しろくま軍」の軍師シュウは、頭上を見上げた。 「・・・・!!」 爆音は一度だけ、音の大きさからして、かなり近い。 (上・・・?モンキ殿の部屋か?敵襲か!?) 慌てて部屋の扉を開け、一歩踏み出したところに階段を降りてくる足音に顔を向ける。 「大変です!シュウ軍師!!」 モンキの部屋の前を警護する2人の兵士のうちの1人だ。声を上げながら慌しく降りてきた兵士は、シュウを認めると彼の前まで走ってきた。 「大変です!大変です!大変が大変で大変ですって!!!」 相当慌てているらしい。何を言っているかさっぱりわからない。 「落ち着け、馬鹿者が」 「す、すみません」 「何事だ!?敵襲か?」 シュウは兵士の格好に目を向けた。兵士は全身埃と爆発のときに被ってしまった石材の粉にまみれていた。 「あ、いや、敵襲ではありません!あぁっでも!大変なんですよ!モンキ様が!」 「モンキがどうした!また倒れたのか?」 兵士の切迫した様子に、モンキの身を案じる・・・が、 「いえ、怪我も倒れもしてませんけど!!大変なんです!!!」 兵士の言葉に内心安堵する。 兵士はまだかなり慌てているらしく要領をえない。シュウはいらついたように足音荒くエレベーターへと向かった。 爆発音自体は、それほど珍しいことではない。日常茶飯事とも言える。 この本拠地に集う豪傑達は一体何を思って何の基準で、仲間に誘っているのか・・・ユニークな者達ばかりなので、喧嘩も騒ぎも、珍しいことではないのだ。 (この忙しいときに一体何なんだ) エレベーターのボタンに手のひらをたたきつけ押す。 今日はつかの間の休日で、連日軍議などで忙しいシュウにとって今日ほど貴重な一日はなかった。 色々やることはたまっているのだ。 愛猫のシャンプー、読書、散類している書類の整理・・・あぁ、ベランダの花の鉢植え達の世話をしなくては。わざわざ、ラダトの実家から運んできたのだ、他の者に世話を頼みたくないし、何より枯らしたくはない。そろそろ土を入れ替えてやる時期だな、あぁ肥料はその辺の兵士に言いつけて持ってこなくては・・・・。 チーン、と軽やかな音を立ててエレベーターが開く。中へ入ろうとして、シュウは立ち止まった。 「乗らないの?シュウ」 エレベーターには先着が居た。その人物は「くま軍」のリーダーモンキで、シュウが今から様子を見に行こうとした相手なのだが・・・いつもと様子が違っていた。服装、言葉どれも変わりはないのだが、その瞳はすわっていた。 腕を組み、エレベーターの狭い室内に座り込み(俗に言うヤンキー座り)シュウを見上げる目線は危うげだ。 「も、モンキ殿・・・いかがしたのですか?先ほどの爆発音は・・?」 軍師たる者いかなる場合でも冷静であれ!と普段アップルやクラウスに言う割に、シュウはかなり動揺していた。 言いしれない迫力がモンキから感じられる。直感で「これはやばい」と悟った。 「爆発音?何の事?」 声は普段通りなのだが、眼孔はシュウを睨み付けたまま。気のせいか殺意すら感じられる。 「それより、僕、シュウに会いに来たんだけど・・」 モンキは手をシュウに差し伸べた。『立たせて』と言う合図らしい。 「・・どうぞ」 シュウはその手を取ると引き立たせて上げた。少しよろけるその背を支える。 モンキは立ち直るとシュウの手を振り払い、固まってしまったシュウを腕組みをして睨んでいる。 その迫力にシュウは無意識のうちに後ずさった。 「何用でしょうか?」 平静を装って聞くが、モンキにはばればれだったらしく、 「ちょっとね」 ニヤリと笑った。 ぞくっ、と背筋に寒いモノが走る。が、ここで引いてしまえば軍師としての立場が弱くなる。 逃げるわけには行かないと、背筋をのばし正面に立つモンキを見据えた。 「シュウ、頼みがあるんだけど良いかな?」 問いかけの形だが、目つきをみれば強制だと言うのがわかる。 「シュウは元交易商人でしょ?それも腕利きの」 腕利きの、と強調しているが、声は普段となんら変わりはない。 「えぇ・・まぁ」 「昨日僕に軍資金の事で相談しに来ただろう?あれから僕考えたんだよね」 昨日、シュウは軍議で出された問題点を帰ってきたばかりのモンキに話した。本当ならば出席しなければならない軍議だが、モンキはほとんど参加していない。毎日遠くの街へ出かけては夕方もしくは翌日に戻ってきて軍議の報告を聞いて休む暇もなくまた出かけるといった生活を送っていた。 昨日も日が沈み疲れ果てて仲間と共に戻ってきたモンキを捕まえて、軍議結果報告を延々と2時間にかけて話したのだ。その時モンキに「これは早急に解決して下さい」と言っていたのが軍資金の事であった。 「確かに僕が仲間を連れてモンスターを倒し回った方が軍資金を多く稼げるし、強くなるし、一石二鳥三鳥なんだろうけど、それだけじゃいつもの額ぐらいにしかならないと思うんだ」 すい、と一歩シュウに近づく。シュウはつられて一歩後退する。 「武器や防具の手入れをしなきゃだし、紋章も買いそろえなきゃならない・・それじゃあ、足りないよね」 にっこりと微笑む、がいつもの無邪気な笑顔ではなく・・・冷ややかな微笑みであった。 じりっ、とシュウは後ずさる。嫌な予感がする。 「戦って仲間を集めて、武器や防具や紋章をそろえて・・・その上交易までしてたら寝る時間もないよね」 「・・・街には立ち寄るのですから・・それほど手間はありますまい」 「他の街まで行かなきゃならなくても?」 「・・・」 「そこでね、普段何もしてない・・・ううん。暇な人達で、交易をやってもらおうと思うんだ」 「それは良い案ですね」 「そう思うだろう?それでね、シュウ」 「・・・はい?」 「シュウにその人たちのリーダーを頼みたいんだ」 「私は忙しいです」 「・・・・・」 にこっとモンキは微笑む。ぞくっと鳥肌が立つ。 「そういえば、こんなものがあるんだよね〜目安箱の投書」 がさりと服の下から取り出したのは数枚の紙。 「ん〜と・・・そこの兵士さん」 紙を開いて読もうとしたが、何かに気づいてモンキはシュウの部屋の前に立ち惚けている兵士を呼んだ。 「は、はいっ」 上の階でモンキは何をしたのか・・兵士は青ざめ緊張した。過剰な反応である。 「この投書読んでくれないかな」 モンキは投書を兵士に差し出した。兵士は戸惑ったように投書とモンキの顔を交互に見た。 「お願い」 声は普段道理・・・だが、その目は笑っていなかった。読まないとひどいめに合うぞ、と目は語っている。 「よよ・・読ませていただきます」 モンキのそばへ行き、その手から恭しく投書を受け取る。 シュウは嫌な予感がするものの、モンキから投書を奪い取る事も出来ずじっと立ったままであった。 「こほん・・えー・・・・・”シュウ軍師は毎朝お気に入りマグカップでないとダメらしい。ちなみにクマさんカップと言う噂は本当なのか?リサーチ頼むぜ!”・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰からのだ?」 長い沈黙の後ぼそりとシュウは聞き返した。 「シーナさん・・・・です」 怯えた兵士、だが気になるのかちらりちらりと紙面から顔を上げてシュウを盗み見る。 「シュウ?どうしたの?手が震えてるけど?」 さすがは軍師というのか、腐っても軍師というのか表情は無表情のままで、変化はない。だが、よく見ると微かに本当に微かに手がぶるぶると震えている。それを目ざとく見つけてにこにこと邪気のない笑顔を浮かべながら聞いてくるモンキはやはり凶悪であった。 「昨日酒を飲み過ぎたんだ」 「ふぅ〜ん・・・でも僕としてクマさんじゃなきゃだめなのか、ウサさんのじゃないとだめなのか、猫さんじゃないとダメなのかを知りたいなぁ・・・」 「(!!)そのような噂にいちいち関わっている暇はありませんぞ、モンキ殿」 「・・ちゃんとリサーチしなきゃ、ね。リーダーとしての務めだし」 「・・・・」 目線を傍らの兵士へと向ける、眼差しは次を読めと語っていた。 ごくり、と喉をならす。リーダーとして表舞台へ立つときは毅然としているが、普段は気さくで素直な子供なのだ。誰にでも気兼ねなく声をかけ、笑いかける、が今はその姿は一変し冷ややかな眼差しに兵士は生きた心地もしなかった。 「・・”最近シュウ軍師がシロをずっと見つめています。何故なんでしょう。僕はとても不安です”・・・・・キニスンさん」 横目で盗み見るが、美形の軍師は表情さえも変えず微動だにしなかった。 モンキも何も言わないので、兵士は3枚目をめくった。 「”シュウ軍師はズラだという噂があって夜も眠れません”・・フリードさん」 心の中で『あ、これ気になるなぁ』と思いながらシュウをちらりと見てみる。 (うっ!) 見れば唇の端をつりあげて、にやりと笑っていた。心なしか空気が重くなっているようである。触らぬ軍師に祟りなし、と兵士の間では有名なことわざを思い出した。俺、生きて帰れるだろうか・・と普段は信じていない神に祈った。 「モンキ殿、くだらない噂をわざわざ聞かせるために来たのですか?」 「ううん、交易の事で相談しに来たんだよ」 「私は筆頭軍師としての役割がございます。交易について詳しい者なら他にもいるでしょう」 「・・・僕は知ってるよ」 「何をですか?」 「僕が居ない間も軍議だなんだ、やってるけどそのほとんどが情報待ちで暇してるって事をだよ」 「確かに各同盟国との定期連絡は早馬を使った書類のやりとりですし、情報待ちですが・・・・・この城の運営や軍内部の運営など何かと忙しいのですよ」 「・・・賄賂・・・・」 「・・・・何のことでしょうか?」 「ちんちろりん・・・確か・・勝率の約4割・・」 「・・・・・・・・・・・・」 兵士は戸惑った。何故か自分はこの息苦しい空間に立ち合っているが、この話題からするといてはまずいのではないだろうか。 よし、こっそりとそこの階段から下の階に・・・と兵士が移動しようとしたときモンキから声が掛かった。 「は、はい!」 「あともう2枚あっただろう?読んで貰えるかな?」 兵士を振り向いたモンキの表情はまるで捨てられた子犬のようであった。兵士は今の話を聞いていたせいか、良いように誤解する。つまり『今日のモンキ様何か様子がおかしかったけど、ずべては信じていた軍師に裏切られて傷心のあまりの出来事だったんだ』と。今までの暴走はすべてそのやりきれない想いのせいに違いない、と。 兵士は自分がモンキに頼られていると思い、任せて下さい!とばかりに残りの投書を読み上げる。 「えーと”シュウ軍師がフランダースの犬で泣いてました。ぜひ犬を飼って上げて下さい。”エミリアさん」 「シュウっておもしろいよね」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「それでは最後の一枚をお願いするよ」 「はい!」 がさりと投書のたばをめくり兵士は固まった。 「どうしたのさ?」 「いっ・・いいえ・・そのこれを読むんです・・か?」 「そうだよ」 「・・・(ごくり)”この前珍しくシュウ軍師がレストランで食事をしていたんですが・・・・・・・・・・・”」 顔色を紙のように青白くさせ、額には汗が噴き出している。投書を持つ手はがたがたと震えている始末だ。 「どうしたの?」 モンキが笑顔で問いかける。 「・・・”ピーマンやトマトを残していました。キライなのでしょうか?”」 「!!・・・・・・・・・誰だ」 今までさほど動揺を表に出していなかったシュウが顔色を変えて兵士に詰め寄る。その勢いに押される兵士、だが投稿者名を言うことも出来ずに後ずさる。 「言え!!」 鬼気迫る表情で怒鳴る。今の今まで我慢してきた分が大爆発したかのようであった。 「・・・いっ、一般兵士です」 「それじゃ誰だかわからないね、シュウ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 シュウは掴んだ兵士の胸ぐらを放した。 「・・・ねぇ?一般兵士さん」 シュウから突き放されて尻餅をついた姿勢の兵士がさらに顔色を悪くする。土気色である。それとは逆にシュウはさらに怒りで赤くなり、「ほぉぉ・・・」と笑みを浮かべた。 「ひっ・・・そ、それはぁぁ〜〜!!!」 その後つんざくような兵士の悲鳴がくま城に響き渡った。合掌。 「シュウの好きな物って中華だよね」 「えぇ、そうですが・・何故それを?」 「料理対決アシスタントとしては審査員の好みくらいすべて把握してるものなんだよ」 「そうですか。モンキ殿のお好みは?」 「ナナミの手料理」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうですか」 陽の当たるテラス。ここはしろくま城内でも人が絶えない人気の場所である。 レストラン「しろくま亭」は今日も繁盛しており、本拠地にいるときはほとんど何かを食べてます、といった面々から、昼時というのも手伝って沢山の者達が楽しげに談話しながらおいしいお昼ご飯を味わっていた。 昼時の一番賑わう時間で空きテーブルも足りなくなり相席を求められるのが普通なのだが・・・4人掛けのテーブルに座るモンキとシュウのテーブルには誰も寄りつこうとはしなかった。 それもそのはず、2人とも今日はいつもと違う雰囲気で命が惜しくなければ近寄ろうとは思うまい。 表面上はいつもどうり、それどころか穏やかとさえ思われるのだが・・・空気が重かった。2人の笑顔は寒気すら模様する。 「ここに来るといつも恐いんだよね」 「どうしてでしょうか?」 「変な人が来てないかな〜とか、忙しいのに料理対決のアシスタントだよ!?僕は食事に来ただけなのに断れば食事させて貰えないまま外へ放り出されるし」 「・・・・・・・・」 「いつまでも後回しにしてたらろくなご飯も食べれないし、それで仕方なくアシスタントするんだよ。いつも」 「大変ですね」 「・・・・・でも何で僕なのかな?女の人は沢山居るのに、ねぇ?」 「さて?私は存じませんが」 「へぇ〜そうなの?」 「えぇ」 「レストランからの収入・・・こーんなに繁盛してるのにその辺のモンスター倒した金額くらいなんだよね」 「・・そうなのですか?」 「そうなんだよ。変だと思わない?」 「それが普通なのでしょう。・・料理も来たようですね」 ミンミンと言うウエイトレスが「お待ちどうさま〜」と運んできたのは、『あんにんどうふランチセット』と「チャーハン』であった。 おいしそうな匂いに2人とも押し黙る。さて食べようと箸を持ったところでシュウはモンキがじっと見ていることに気がついた。 「・・・お食べにならないのですか?」 「あぁ、おいしそうだな〜って思ってね」 「・・・少し入りますか?」 「あれぇ?どうしたの?今日は優しいね」 「・・・・・・・・・・」 「せっかくだけどいらないよ。さ、早く食べなよ」 モンキが笑顔で進める。今日のモンキの笑顔は曲者だと確信しているシュウは食べるかどうか激しく迷う。その時であった。 「うっ・・・・・」 「ま・・・まずいっ・・・」 ちょうど先程運ばれてきた料理に手を付けようとした者達が次々と倒れ込んでいく。 「ど、どうしたんだ!!」 「まさかハイランドのスパイが毒でも!?」 「落ち着け!!ホウアン殿をここへ!!」 シュウが立ち上がり騒然とする皆に凛とした声をかけ、落ち着かせる。シーンとした周囲にある者の声が響き渡る。 「あぁ・・・・・・間違えちゃったみたいだね」 皆の視線がリーダーに注がれる。この緊急事態に何故これ程落ち着いているのだろうか?とまずそう思う。普段のモンキならば紋章を使い、シュウにしかられるという事態になるのだが・・。 皆の視線を一身に受けたモンキは座ったまま、残念そうに苦笑する。 「ハイ・ヨーにシュウの料理にだけ入れろって言ったのに・・・」 「「「「!!!!!!」」」 「大いなる恵み」 皆が驚いて呆然としたところでモンキが紋章を使う。座ったまま、無造作に。輝く光が倒れた者に降り注ぐ。誰もがその光景を見ながら『・・・手抜きだ・・』と思った。 「モンキ殿・・・何を入れたんですか!」 怒り狂う美形軍師を見上げ、モンキは肩をすくめた。 「ナナミ特製調味料だよ」 ナナミの特製調味料。それは彼女がどこからか積んできた薬草や怪しげなキノコをまぜた物である。 「シュウに、ぜひっ味わって欲しくってね」 「貴方は・・・わかってるのですか!」 「何を?」 「貴方は・・この城のリーダーなんですよ!リーダーが毒を盛るとは!!!」 「ひどい。僕は僕は・・・最近シュウがいらついてるから・・それに良く効くナナミの特製調味料を使って貰っただけなにに・・」 モンキは目を伏せる。 しかられた子犬がしゅんと耳をたれて泣いているようであった。その場にいる誰もが10代半ばの幼さの残る少年に同情した。 「それを・・・毒だなんて・・」 肩を揺らす、今にも泣きそうなモンキを見た周囲はシュウに冷たい視線を送った。 「・・・考えたら俺はリーダーくらいの歳頃の時よくこんないたずらしてたものさ」 「俺も。兄ちゃんの飯にトカゲをいれたことがあるぜ!」 「リーダーって言ってもまだ10代前半だしね・・」 「そのくらいの子供は悪さをするもんさ!それが仕事なんだよ」 「いたずらする子供はその対象に構って欲しいからなのよね」 「リーダー、シュウ軍師になついてるんだな」 「リーダー寂しいのかな・・」 「そうだよな・・俺等がリーダーくらいの歳の頃は遊び回ってたり、いたずらしていたり、してたもんなぁ・・」 「リーダー気にしなくていいぜ!また俺等で良いからいたずらしても構わないぜ!!」 「おう!いつでも来いや!坊主!」 モンキは立ち上がると、俯いていた顔を上げ涙を拭う仕草をすると、 「ごめんなさい・・」 そして泣き笑いのような笑顔をし「ありがとう」と微笑んだ。 完璧であった。誰もがモンキに対して文句どころかモンキを慰める言葉を口にする。 「シュウ軍師、子供のいたずらを本気で怒っちゃいけないよ」 「そうだぜ。ガキにとっちゃ愛情表現なんだからよ」 「子供は不器用なんだよ」 「怒っちゃだめだぜ!軍師さん!」 あっという間にレストラン内の者達を仲間にしてしまったモンキに内心舌を巻く。 いつものモンキならば素直に受け止めたかもしれないが、今日のモンキには裏がある。 シュウは考えを中断し、モンキに微笑みかけた。今は「軍師」として演じなければならない。本心を偽ることなど造作もないことだ。 「モンキ殿、もう良いですよ。・・・後はホウアン殿に任せて行きましょう」 入り口付近で中の様子を静観しているホウアンとトウタを見つけ、口実を作るとシュウはモンキの手を引いて歩き出した。 黙ってついてくるモンキを温かく見守る周囲に見送られ、彼らは出口へと向かう。 出入り口ですれ違う瞬間シュウはホウアンにささやいた。 「・・・モンキ殿の様子がおかしい・・後で看て貰えるか」 「わかりました」 |