そっと 悲しみに こんにちは
(後編)
「九龍・・・?どこだ?」 森の中に入り、辺りを見渡す。虫の声にホーホーという鳥の鳴き声に、都心であることを忘れる。 月明かりに照らされていても、鬱蒼と茂った藪や木々。 暗い森は、墓も近いとあってか、普段から近寄る人間は居ない。 「――ッ・・・・ひっ・くッ・・・・」 そろそろ学園を囲む塀が見えてくるかというところで、微かな気配と押し殺した鳴き声に足を止める。 (・・・・こっちか・・・?) 声は、雑草や雑木が密生した場所から聞こえてきていた。 「おい・・・?」 強引に足で雑草を踏み倒し、覗き込めば、そこは円状に開けた場所で、大樹の根元に葉佩は膝を抱えて座っていた。 「こんなところに居たのか・・」 声をかけると、ピタリと泣き声が収まった。 膝に顔を埋めたまま、葉佩は返事をしない。こちらのことは認識しているようで、安堵する。 (・・・・無反応が・・・・一番怖い、からな・・・) 人は深く傷つくと、涙すら出ない。あるのは、深い深い虚無だけ・・。泣けるのはまだ良い。 涙には自浄作用がある。 自分にも覚えのある虚無感が、罠を解除した後の葉佩にはあった。 自分の中の虚無は、その理由を失った今も奥底にありつづけて消えない。 (お前が抱えているそれも・・・・・同じなのか・・・?) 聞いてみたい気持ちを、点したアロマの香りで落ちつかせ、葉佩の元へ足を踏み出した。 「九龍・・?」 数歩の距離を開けて立ち止まる。泣いているのを見られたくないから、逃げたのだろう。 その顔を覗き込むような行為をするつもりはなかった。 ふと、葉佩が身じろいだ。 「・・・・・・・・・・・み・・・」 涙を拭いながら、顔を上げていく。その声は涙声でくぐもっていた。 「みぃ〜・・・・・たぁ〜なぁぁぁーッ!」 「なッ!」 怒鳴り声と同時に両足を葉佩の両腕で掴まれる。咄嗟に背後に身を引いたお陰でバランスを崩し、葉佩もろども地面に倒れ込んだ。 「あッ、いたッ」 「つッ・・・・・・」 受身も取れなかったせいで、強か地面に身体の左側面を強打してうめく。 葉佩はなおを両足に縋り付いているので、その左腕が犠牲になったようだ。 「・・・おいッ!いきなりなんだ!」 「何って・・・・・泣いてるの見たから逆襲」 「・・・・逆襲って・・・・・おまえな・・・」 呆れたように言うと、葉佩は両足に縋り付いたまま顔を伏せた。 「だって・・・普通は・・・恥ずかしいじゃん・・」 「泣くのを見せるのがか?」 「うん・・・それにさ・・・俺・・・さ・・」 「良いから、話も聞くから、手を放せッ!」 「あぁ、うん・・・・あ、汚れてる!おケツのとこ汚れてるー!」 「・・・ケツ言うな・・・・って、なんだと!?」 「『おケツ』って・・・・・丁寧語だろ?違うのか?」 「・・・・・・・・・・・・尻でいいだろ」 「『ケツまくって逃げるぜよッ!』とか言う人が居たんだけど」 「だから、『お』がつけば丁寧語だと思ったのか・・・」 「うん!トイレも「おトイレ」言うし?「お便所」とか、「お便通」とか!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何故全部トイレ関係だ・・」 「偶然です!」 「・・・・100パーセントワザとだろ、お前」 「良いじゃん!和ませてよッ!」 「和むかッ!・・・ちッ!・・・・決めた。俺は明日サボるからな、お前のせいだぞ」 「え、なんでそうなんのッ!」 「俺はジャージを着て登校とかは絶対したくないからな」 「えージャージ良いじゃん。動きやすくて」 なおもジャージの良さについて語ろうとする葉佩を無視して、その隣に腰を下ろす。 汚れはかなり酷く、洗濯は必須なので諦めた。 「・・・・ジャージはもういい・・・で?」 「・・・・へ?」 「お前、鳥頭って呼んでも良いか・・・・・・」 さっきまで泣き叫んでいたり、ブルブルと震えていた人物とは思えないほど、すでに飄々としている。 (今泣いたカラスがもう笑ったとかいうけどな・・・早過ぎだろ・・・) それでも葉佩はこうやってバカをやっているほうが「らしく」て良いなと思う自分に気づいて、内心頭を抱えてみたくなった。 「・・・・・えーっと・・・」 隣り合って座り膝を抱えた葉佩は、言いよどんで「あー」だの「えー」だの言いながら、地面に「の」の字を書いていた。 「何か言いたいことがあったら、今言うんだな。他の時だと俺は寝るからな」 「うー・・・・・・・そのッ・・・・取手は・・?」 「取手はお前が放り出した荷物の番をしている」 「あうぅ・・・ッ・・・」 皮肉を込めて言うと、葉佩は頭を抱えた。 「逃げた理由は判った・・・・それで、言いたいこととやらは?」 「・・・・・・泣かないって、決めてたんだ」 「・・・・・」 一瞬呼吸を止めて、まっすぐ真剣な眼差しでこちらを見て、静かな声で言う葉佩は、どこか遠くを見ているような風に思えた。 何も聞けなくなり、口を閉ざす。静かに促すと、葉佩は両手を握り締めて続ける。 「・・・・・どんなに・・・辛いことが合っても、絶対に・・」 「さっきの・・・・石碑調べてたとき・・言ったのは・・・それか?」 「あぁ・・・うん。どんなに大変でも・・・そのためなら・・・」 「そのため?」 「・・・・・・・・ッ」 「おい?」 何かを言葉にしようとして葉佩は固まった。パクパクと言葉もなく、口が動く。 「ッ・・・・・ッ!」 「おいッ!もういい!落ちつけ!」 両肩を掴んで揺さぶると、こちらを見て息を呑んだ。 「・・・・・・・・・・・ごめん・・・」 「もういい」 「ごめん・・」 「もういいって言ってるだろッ!黙ってろ!」 情けない表情をした葉佩の顔を肩口に押し付けると。再び落ちた涙には気がつかない振りをした。 「落ちついたか?」 「・・・・・・・・・なかないって言った傍から・・・・・ごめん・・汚しちゃった・・・」 「・・・・謝るな・・・・・泣くのは・・・悪いことじゃないだろ」 「・・・うん・・、まだ・・・口に出来ないみたいだ・・・情けないな」 自嘲するような笑みを浮かべて無理に笑おうとするのを、取り出したハンカチをその顔に当てて阻止する。 「それやる。鼻噛むなり、なんなり好きにしろ」 「・・・・・・・これ・・・ハンカチというかミニタオルなコレまで紫なのか・・」 徹底してるな、と少しほぐれた様笑みを浮かべた葉佩は、その布を目に当てた。 「・・・・好きな色だって、そう言っただろうが」 「そうだった・・書いてもらったメモにも書いてあったっけ・・」 「・・・・・・・・・」 何も言わずに、アロマを灯した。鎮静作用のあるこの香りが、起伏の激しい葉佩に効けばいいと思う。 「・・・・あの遺跡、あんなトラップがあるなんて・・・びっくりした・・」 「今までにもあっただろうが」 「・・・・うん、でも・・・身の危険を感じた罠はここでは初めてだったから」 (ここでは・・・か・・) 葉佩のトラウマは具体的には判らないが、いくつかのパーツでその姿はおぼろげに見えていた。 遺跡のトラップ、それも命に関わる程のもの。 葉佩が口走った「おじさん」という存在。 視力が大幅に下がるほどの怪我をしたという、葉佩の左目。 うなされる様に口にしていた、自分のせいだという言葉。 (・・・・・誰かを失った、のか・・・?いや・・・・) 協会とやらに引き渡されている大金。 毎月払うという、金額は10万20万ではありえないだろう。 そして葉佩が思わずもらしたというような「そのためなら」という言葉。 (・・・・・・生きては、いるのか・・?) そうあって欲しいとも思う自分の気持ちに、もう動じることはない。 (・・・・認めるさ。俺は・・・・・こいつといるのは、苦痛じゃない・・) だらだらと、くだらない言葉での応酬や、バカをやって笑う葉佩が、あまりにも自然に近くに居るのが。 この2週間たらずで、あたりまえになっていた。 (本当に俺らしくない・・・) 「・・・・・・・・、それでも進むんだろ?」 「うん、勿論!」 躊躇いのない言葉には、先ほどまであった触れれば崩れ落ちそうな脆い物は感じられない。 それでも、葉佩の心の奥底に根付いているのだろう。 「そうか・・・じゃぁ、そろそろ戻るか」 立ちあがると、葉佩が座り込んだまま両手を差し出してきた。 「おい・・・なんだ、その手は」 「手」 「・・・・・で?」 「・・・・引っ張ってー」 「お前な・・・・・ちッ仕方がないな」 手を掴み引っ張り上げようとすると、逆にその腕を引かれる。慌てて踏ん張ろうにも気を抜いていたために、適わず、葉佩の肩口に頭をぶつける。 「・・・・・・・・お前は何がしたいんだッ」 「取手と、みな・・・・・・・みなッ・・・・」 「は?」 首を巡らせて葉佩を見れば、完熟トマトのように赤くなった葉佩が視線を泳がせながら何かを言おうとしていた。 「こ・・・・」 「こ?」 掴まれたままの腕に力が篭っているのか、痛い。振りほどこうとし身体を放す直前、それは確かに聞こえた。 「甲太郎・・・・・」 「――ッ!」 突然呼ばれた己の名前に気恥ずかしさを感じ、慌てて身を放す。葉佩はそれには構わずに、こちらを見ながら、小さな声でもごもごと続ける。 「こ・・甲太郎と・・・取手と・・、2人が居たから、俺どうにか途中までは、どうにか・・・・動けたんだ」 「途中までかよ」 「・・・・仲間が居なかったら、部屋に入ったときに動けなくなってたと思う・・・」 「・・・・」 「バディは命綱っていうけど・・・本当にそうだなって思った」 「・・・・」 「甲太郎たちを守らなきゃって思いで、動けた」 「・・・・」 「この先も、きっと・・・死にそうな目に合う罠が、一杯あると思う・・」 「それでも進むのか?」 「進む。這いつくばってでも進む・・・」 「それなら、俺達を連れて行くんだな」 「・・・・・・・・・いいの・・かな・・?」 「お前が、罠を回避するなり解除するなり、すればいいことだろう?」 「・・・・・・・・・・できると思う?」 「思わないな。俺は却下な」 「なッ!!!」 「・・・・・九龍、お前は動けないとか言ってるが」 「え?」 「・・・諦めないとか言ってただろう?それがお前なんじゃないのか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・うん・・・」 立ちあがり葉佩を見る。立ちあがるのは手伝わない。 「・・・・・行けるだろう?」 行けないとは言わないよな、と揶揄して言いながら、発破をかけてみる。 (こんなところでしょぼくれて終わるやつじゃないだろ・・?) 葉佩はこちらを見上げ、一瞬目を見張るとニヤリと口元に不敵な笑みを浮かべ、勢いよく立ちあがった。 「誰に言ってんだよッ!俺は絶対諦めたりなんかしないんだからなッ!」 「まぁ・・・ヘボだけどな」 「くそ〜〜〜ッ!いつか汚名を復活してやるぅー!」 片腕を振り上げて気合を入れる背中を見てため息をついた。 「・・・・汚名を復活させてどうする・・・・・・」 「へ?違う・・・のか・・?」 言い間違いを指摘され、振り向くと赤くなりながら葉佩は視線をさ迷わせた。 「じゃぁ・・・・汚名を回復、か?」 「回復してどうする・・・・・・」 「汚名を奪還!」 「奪還するな!」 「甲太郎、俺を騙してない?」 「誰がするかッ!!!このバカたれヘボハンが!」 「なななッ!ば、バカたれだとぅー!」 葉佩のバカさ加減に頭を抱える。初対面の時からバカだバカだと思っていたが、ここまでバカだとは思わなかった。 正直バカだからこそ、一緒に居て気楽なのもあるのだが。 ここまでバカだと、哀れみすら覚えてくる。 「・・・・九龍・・・・いいか?バカでも足し算と引き算と、簡単な日本語を理解できれば生きていける・・気をしっかりもつんだ」 「んなななッ!!!何言ってんだよ!わ、ワザと間違えたに決まってるじゃんッ!」 「今度・・・・付き合ってやるよ・・勉強」 「だ、ダルダルな甲太郎からそんな言葉がでるなんて!俺ってそんなに、そんな!?」 「・・・・・・九龍、諦めるなよ」 「・・・・・へへっ」 動揺して、あたふたとしていた葉佩が急にピタリと動きを止めておかしそうな笑い声を出した。 「・・・なんだよ・・」 バカバカ言いすぎたか?と心配になって見ると。 「名前、呼んでくれてるなって・・・嬉しいなっと思って」 「なッ!!!」 「罠のときも、さっきも・・・名前呼んでくれて・・・ありがとう」 夜目にも判るほど、更に赤くなって視線を逸らしながら嬉しそうに笑う葉佩に、自分らしくなく動揺する。 (そういえば・・・自然に呼んでいたな・・) 己で気づかぬほど自然に。 言われるまで気づきもしなかった。 笑う葉佩に目を取られて、気まずくなり、慌てて目をそらした瞬間、眼前すれすれを鋭いナイフが2本横切った。 「ッ!?」 「あぁ、毒ヘビじゃん!」 はっとして、ナイフが刺さった場所を見れば、毒々しい色合いの小振りなヘビが、木に縫いとめられていた。 頭と胴体に鋭利で小さなナイフが刺さっている。 投げた動作の素早さに驚く。ナイフを飛ばす動作を悟れなかった。 「ここ、結構薬草とか生えてて良いなと思ったけど、やぶ蚊は多いし、毒ヘビまで居るんじゃ、危なくて昼寝するところには向いてないな」 「昼寝って・・・・・お前な・・」 「だって、誰も来ないし落ち着くじゃん」 「・・・それより、お前ナイフ持ってたのか・・・・」 (装備品はすべて脱ぎ捨てて来たんじゃなかったのか・・) だからこそ、心配して・・・・ (ちッ、違う、俺は・・・・・そう、抱き寄せたときに気づかなかったから、気になっただけだ) だいぶ短くなったアロマを吸う。ラベンダーの香りが漂ってくる。 「仕込みナイフだよ、ジャージの袖口に隠してあるんだ」 ほら、と袖を捲ると、腕の部分に薄いバングルのようなものを装着していた。 「俺、一番得意なの、投げナイフなんだ!」 「そうなのか?」 確かにコンバットナイフを常に携帯していたようだが。 「投げナイフの方ね、投げるんだよ。銃よりは命中良いと思う」 確かに、木の上から這い寄ってきていたヘビの頭と胴体を的確に貫いている。 「これだけは、目に頼らないで使える・・普段は使わないようにしてるけど」 そう言いながら、口元に笑みを浮かべ片手で大事そうに、バングルを撫でた。 「護身用にいつもこれだけは装備してるんだ」 「大事そうだな」 「コレさ、俺の大事な人に貰ったんだ」 愛しいものを見る眼差しで、バングルを片手でぎゅっとくるむ。 「大切な宝物なんだ」 木から、ナイフを引き抜く。ヘビがボトリと地面に落ちる。 (急所を一撃か・・・) 銃の腕のヘボさに対して、近距離攻撃の素早さと強さ。そしてこのナイフの腕。 しかし葉佩は普段ナイフを使っていても、投げずに斬る事しかしない。 投げナイフのこの腕ならば、墓守を一撃で殺すことも可能かもしれないのに、だ。 疑問に思いつつ、葉佩にナイフを手渡すと、受け取りながら葉佩は小さな声で呟いた。 「これさ・・・・」 「・・・?」 「コレを使うのは、身を守るときか、誰かを守るときだけ」 「・・・・」 「そう、約束させられた」 「・・・・・・・そうか」 「うん・・・・へへッ・・甲太郎を守れたことになるんだよなッ」 「・・・・さっきは油断していただけだ。いつもなら気づいていたさ、ヘビくらい」 「油断?」 「・・・・・・・ッ!」 まさか、葉佩に目を取られていたなんて言えない。 「甲太郎?」 「ちッ!!いい加減に、墓に戻るぞッ!」 「あ、待ってよッ!」 墓へ戻ると、葉佩は駆け出した。取手に謝ってくる、とすれ違いざまに言いながら。 「もう少し、静かに行けよ。見つかるぞ」 「はぁ〜〜い」 判っているのか、いないのか・・・小さ目の声で返事をした葉佩は、慣れた手つきでロープをするすると降りていった。 「行動が騒がしいんだよ・・・ったく・・」 遺跡への入り口のロープ手前まで来て、ふと視線を感じた。人の気配。 「・・・・・・・・」 墓守小屋の方を見れば、月の光が遮られて暗くなっている小屋の横手に立ち、こちらを見ている墓守の老人と目が合う。 視線に殺気や、含むものは感じられない。 どうやら静観し見過ごしてくれるつもりらしい。 あちらも、下手に《生徒会》に関われないのだろう。その証拠に葉佩がここへ通うのを、初めてのとき以来は見てみぬ振りをしているようだ。 わざと見過ごしているのか、葉佩を泳がせているのか・・。 (どちらでも良いけどな・・) 自分だって監視と定期的な報告以外はしていない。 葉佩の足を止める気にはなれなかった。 「・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・」 静かに見合い、フッと笑みを浮かべロープを手に取る。相手がわずかに身じろいだ気配がしたが、そのまま遺跡へと降り立った。 「ごごご、ごめんッ!ごめん〜!」 降り立ったとたん聞こえてきたのは、葉佩の情けない声だった。 声を頼りにそちら・・・・魂の井戸のほうへ足を向けると、扉の前で葉佩が、顔を覆っている取手に謝り倒していた。 「泣かないで〜っ!」 盛んに困っている葉佩は、おろおろと取手を覗き込んでは慰めの言葉を口にしている。 「なにやってんだ・・・」 「俺達がなかなか帰ってこないから不安だったって・・・・ごめんね、取手」 「・・・・・・うん・・・・いいよ・・・気にしてないよ・・」 「うぅ、すごく気にしてそうだよ・・取手ッ!あぁ・・・どうしよう〜!甲太郎・・」 「皆守君のこと、名前で呼ぶようになったんだね・・・」 「え、あぁ・・・うん」 照れ笑いを浮かべた葉佩に、取手は悲しそうな目を向けた。 「・・・・・・二人、仲良くなったみたいだね・・・良いなぁ・・」 「え、う・・あぅ・・・えー・・・・・その・・・・取手も、名前で呼んでもいい?」 「うん、僕は大歓迎だよ・・・・・九龍君」 「・・・・・・・・!」 「九龍君?嫌かな・・・?」 「取手、九龍の顔を見てみろ」 葉佩は、照れているのか赤くなりながら片頬を押さえて笑っていた。 「良かった・・・・」 「へへ・・嬉しいッ!・・・ごめんな、心配かけて・・・かまち」 「うん・・・僕も嬉しいよ、九龍君」 微笑み合う二人を見て、アロマを取り替えて火をつけた。 (・・・・・・・・・・・・・・・) その2人の姿が、癪に障るなんてことは・・・・見とめたくない。 「甲太郎?どうした?眉間に皺が・・・」 「うるさいな、さっさと行くぞ!」 「あ、そういえば、すっかり忘れてたよ!ええっと・・・しゅどうもげみちゃん!」 「違うって言っただろうが!!」 「あうー・・・・・・・あかどうしげよし?」 「・・・・・・やっぱりお前は鳥頭だな」 「うー甲太郎が、苛めるー!助けてかまち!」 「・・・・・九龍君、あとで日本語の読み書きドリルあげるね」 「うッ!!かまちまで・・・」 「良いからさっさと行くぞ、ヘボハン!」 「ういーッス!よっし!リベンジいくぞぅ〜!」 区間への入り口の扉を開けるときに、葉佩は片手で大事だといったバングルを服の上から握り締め、祈るように目を閉じると、扉を開け放つ。 その姿には怯えた姿はもうない。 「あぁ・・・さっさと終わらせるぞ」 「よし!待ってろよー!ビューティーハンター!」 葉佩は諦めない一歩を踏み出した。 <終わり> |