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心が痛むわけ〜存在否定〜
後編


「泣くなとは言わないが。鼻水をつけるな」
「ほえ?」
気が付けば、自転車の前まで来ていた。
「・・・泣いても良いが、声を耐えて泣くな」
「アーロン?」
呼ぶと養い親はいつもは見せない優しい笑みを見せた。
ティーダが珍しいものを見てびっくりしているうちに、アーロンは荷台に小さな身体を乗せる。
「どっこらしょ」
気の抜けた掛け声とともに、自転車に乗りこむ。バランスを崩さないようにゆっくりと前に進む。
「おっさんくさい・・」
涙声で呟く。
その声のお陰でティーダは落ちついた。あまりにもアーロンに似合わない掛け声に涙が引っ込んだと言うべきか。
「・・・・あのさ・・」
「何だ」
「・・もう少し座るところ上げたら?」
「これで限界だ」
アーロンの乗ってきた自転車は亡き母親が愛用していた赤い色の自転車で、荷台には子供が乗るための座席が付けたままになっている。10歳のティーダがようやく乗れるくらいの大きさではあるが、怪我をしていなければ絶対に乗らなかっただろう。
窮屈そうに自転車を扱ぐアーロンに、ティーダはどこか心が軽くなった。
「自転車買えば良いのに」
「ママチャリだろうが、使えるものは使いこむのが礼儀だ」
「ママチャリ・・」
「個人的にも色が好みでなかなか気に入っている」
「そうっすか・・」
「今では相棒だ」
ママチャリに乗るアーロンを見たのはこれが初めではないが。いつも大事に手入れしているのを見ているティーダはなるほどと言った面持ちでうなずいた。
暫く無言が続く。
「怪我はどんな具合だ?」
「足が痛い・・・」
「病院へは一度家に帰ってから連れて行く。昼もまだだろう」
「うん。お腹減った・・」
ティーダはアーロンの背中に頭をつけた。額の傷が痛んだが、気にしない。
「・・・どうして何も聞かないの?」
「聞いて欲しいならな。・・だが無理に話そうとするな、言葉が浮かばない時は誰にでもある。そういう状態で無理に言葉にしようとすれば、思っている真実とはかけ離れた言葉になりやすい」
「・・・・」
「・・・お前が言いたくなったら言え。いつでも聞いてやる」
「もし・・その内容がさ、すごく悪いことだったら?」
「内容にもよるが。言葉にすると言う事は反省もしくは後悔をしているのだろう?」
「・・・あ・・呆れちゃったり、見そこなったり。・・き・・」
「き・・?」
「キライになったり、する?」
顔を上げ、前を向くアーロンを見る。
その言葉を口にするのは、とても勇気がいった。
「・・呆れる事はあるかもしれん。場合によっては見そこなうこともあるかもしれないな」
「・・・」
「だが、それでお前を嫌ったり見捨てたりするほど俺は度量は狭くないな」
何故か自信ありげに断言するアーロンを、ティーダは不思議そうに見た。
「狭そうに見えるけど」
「あぁん?」
アーロンは振り向き、じろりとティーダを一瞬にらんだ。
「(この辺とか)」
「それとも何か?『こんなジャリとはもう付きあえん!』とちゃぶ台を転がして実家に帰れば良いのか?」
「・・・・ジャリって・・・・・・何のテレビ見たの」
「良いところだったんだ」
どこか残念そうにアーロンが言う。
「昼メロ・・。ごめん・・・って、んなドラマ見るなよ、おっさん!」
「何を言う。11時の3分じゃないだろう看板に偽りありまくるクッキング番組に今日の料理再放送、思いきりテレビに生電話、そして昼メロ。このコンボははずせん」
「コンボって・・・」
「お前も悩みがあるならモンタ・ミノに話してみると良い。お前相手でもやはり『若いんだから』と言うのだろうか。興味あるな」
何故か熱く語るアーロンにティーダは呆れた視線を投げる。脱力とはこの事か。少年は身を持って体験をした。
「・・・・アーロン・・」
「もれなくテレカが貰えるぞ?お得だと思わないか?しかも運が良いとゲストのとらえもんの声優と話せるぞ!!」
くるりと振り向いて
「お前好きだろう?」
「好きだけど・・って前!前向いてー!」
「そうか。俺はチャイアンが好きだ」
「うん、似てるよね」
「シュネオはエンケに似ているな」
「誰だよ、それ」
「近所の犬だ」
「あ、そう・・・」
アーロンなりの励ましたのだろうか。
そう思いたい・・。

暫くして家の前の坂道になった。
昇り始めてアーロンはひどく無口になる。
ぜぇ、はぁ、うりゃ、そりゃ、どりゃぁー!と、掛け声を上げている。
「アーロン降りようか?」
「座っていろ」
「だって汗かいてるよ」
見上げた首筋に汗がだらだらと流れている。
「青春の汗だ」
「おっさんなのに?」
「うぐっ」
「息荒いよ?」
「・・・・・」
「坂道の昇りだし、降りて歩くよ」
「足怪我してるだろ。無理をするな」
「でも」
「見ていろ!これが青春だ!どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁー!」
立ちこぎで一気に上り詰める。
「わっすげぇ」
自転車はよろよろしながらも、駆け上りそこでアーロンは足をついた。
「・・・・・・・・・」
はぁはぁと酸素を吸いこんでいるアーロンに、ティーダは吹き出した。
「・・・泣くか、笑うか、どちらかにしないか?」
「え?」
「どうして良いか判らんのでな」
どうやら自分は泣きながら爆笑していたようで。笑いすぎての涙じゃないのは、明白で。
「ごめ・・」
「謝ることじゃないだろ?・・ほら帰るぞ」
そのまま走り出す自転車、風を感じる。
ティーダは首を巡らせて右側に広がる青い海を眺めた。空の青空を写し、太陽の光をキラキラと反射させている。いつも帰りに通る道なのに、感じが違う。
この時間に帰るのは初めてだからだと、ティーダは気が付いた。
「聞いても良いか?」
「え?」
「・・・何時からだ?」
「・・・・・・・」
「言いたくなければ、言わないで良い」
通り過ぎて行く景色をティーダは束の間眺め、アーロンに視線を戻した。
「きっと、呆れる・・」
小さな声で呟く。
胃がちり、と疼くような痛みを発する。
(痛いのは胃じゃなくてココロかな・・・・)
「呆れるような事なのか?」
「・・・」
「・・・ティーダ」
暫しの無言の後、アーロンは静かに声をかけた。前を向いたまま、意識だけは背後の小さな存在に向けて。
「目を閉じてみろ」
「え?」
「目を瞑って見ろ」
「・・?」
怪訝な顔をして首を傾げたが、ティーダが目を瞑るまでアーロンは何も言わないと言う事が判って大人しく目を閉じる。
目を閉じると、太陽の光を感じる。そして不完全な暗闇に不安を覚える。
自転車の荷台の上の不安定な場所だから、更に不安を覚える。だけど、確信があった。アーロンなら大丈夫だと。
「耳を澄ましてみろ」
「え?」
「何が聞こえる?」
ティーダは言われたとおり耳を澄ました。
「波の音」
「それから?」
「鳥の声、えっと・・・テレビの音」
「それだけか?」
「自転車の音、あっ小石をはねた?」
「もっと遠くの音にも耳を澄ましてみろ」
「う〜ん・・風の音とか、車の音かな?」
「そうか」
「もう開けて良い?」
「あぁ」
「何なの?」
「後で教えてやる」
アーロンはそれっきり押し黙り、不思議そうにティーダはその背中を眺めた。

家に到着し、自転車から降り立ったとたん悲鳴を上げた。
「いたぁぁいー!!!!!!!」
「バカか」
「なっ!!!」
「左足で着地するバカが何処にいる。あぁ、ここに居たな」
「ひ、ひどっ!」
アーロンはティーダの抗議を鼻で一蹴すると、ひょいとその小さな身体を持ち上げた。そのまま荷物のように肩に担ぐ。
「ぎゃぁぁっ!」
「うるさい」
「せめて抱っこしてよ!」
「それはようするに、巷で有名な『花嫁抱き』か?」
「うっ」
「しても良いが、荷物もあるからな。我慢しろ」
「しても良いのかよ・・・」
何故だか疲れてティーダは大人しくなった。アーロンは微かに笑うと、カギを開け家の中に入る。
荷物(ティーダを含む)をいささか乱暴にソファにおろすと、そのまま歩いて部屋の主な窓をあける。今日は風も緩やかで気持ちが良い。
「あんたさー酷いよなぁ〜」
「優しくされたいのか?」
「・・・気持ちが悪いからされないで良い」
憮然とティーダは言い放つ。本当は恥ずかしいからなのだが・・。
再び微かに笑うとアーロンはキッチンへその足を向けた。

(はぁぁ・・・・)
ティーダはキッチンに消えたアーロンを目で見送ると、小さくため息をついた。
そして右手でくしゃりを髪を掻き揚げ握り締めた。
「あぁぁ〜」
(何もかもばれちゃったな・・きっと)
多分聡いアーロンの事だ。あの現場を見ただけで自分が苛めを受けていることを悟っただろう。
誰よりも何よりも知られたくなかったのに。
心が悲鳴を上げる。他愛もない会話で目をそらしていても、目の前にあることからは逃げられない。
判ってる。判っているけど。
アーロンの前で弱音なんて吐きたくなかった。
心配をさせたくなかった。
(・・・・ホントは、呆れられるのが怖いんだ)
自分でも気が付いてる。
見捨てられるのが怖いんだ。
自分を見て欲しい人が、自分にあきれ果てて、見なくなることが怖い。
子供らしくないのは、わかってる。
悟り過ぎだろうと自分でも思う。
けど・・・・・考えずには居られない。
相手のことを。
相手が・・・呆れたらどうしよう、とか。
相手が不愉快に思ったらどうしよう、とか。
相手が自分のことを嫌いになったらどうしよう、とか。
出会ってから3年。アーロンはずっと自分のそばに居てくれた。
アーロンが見ていてくれたから、自分はここまで来れたと思う。
(だから、余計怖いんだ)
「おい」
「うわっ!」
いきなり目の前に暖かな湯気を出す自分のマグカップを突き付けられティーダはのけぞった。
「考えすぎるとはげるぞ?」
「は?」
「飲め。お前の好きなホットレモンだ」
「あぁ、ありがと」
とりあえず受け取ってから、はた、と気がつく。
「・・・あんたの方じゃん、はげるなら」
思わず憮然と返す。下から睨みつけてみると、自分を面白そうに眺めている。
「んだよ」
「いや。お前は大丈夫だなと思ってな」
「そりゃそうだよ!俺はげるような髪質じゃないもん!」
あんたの方がハゲそうだよ、と切り返しかけて気がつく。
”大丈夫”の意味合いに。
「・・・・」
「どうした?」
「・・どうしてそう思うんだよ?」
アーロンはその質問に答えずにテーブルの前に座りこんだ。
「ね。どうしてだよ」
「ティーダ、足をみせろ」
「は?」
「怪我。ヒビならば、添え木をせねばならんしな」
答えをはぐらかされたように思えて、ティーダは眉根を寄せた。けれど、素直に足をアーロンに向ける。
「・・・暫くブリッツは出来ないな」
「・・・・・・」
「とりあえず応急措置だけでもしておくか」
保健医はすぐに病院に連れて行くものだと思い、措置も間に合わせ程度だ。このままでは怪我は悪化しかねない。
アーロンは懐から包帯や添え木、湿布など次々と取りだし並べて行く。
(どこにしまってるんだろう・・)
ティーダはぼんやりと、その手並みを眺めた。
「・・・俺さ、苛め・・に合ってるんだ」
ぼんやりとしたまま、ティーダは呟いた。
「苛めって言っても・・無視とか・・・そんなんだけどさ」
アーロンは何も言わずに湿布にハサミを入れている。
ティーダは何も言わない養い親を見ながら、続ける。
「俺が弱いからかな・・」
昔母親に読んでもらった絵本を思い出す。小さな毛色の変わったヒヨコと普通の兄弟達の話。
毛色の違うヒヨコは毛色のせいで苛めに合う。
子供に「弱いものいじめは悪いこと」というのを教えるためだけの絵本。
今の自分は「弱いモノ」で「毛色の変わったヒヨコ」なのだろう。
今なら小さなヒヨコの気持ちがわかる。
(−−−−悔しい)
言う事で自分は「弱いもの」だと認めなくてはならないから。
子供にだってプライドくらいは、ある。
小さな芽生えて間もない自尊心。
絵本の中のヒヨコの気持ちがわかる。
「弱いもの苛め」の対象にされていると言う事だけで、とても悔しいことを。ヒヨコは最後は逃げて、哀しい最後を迎えていた。とてもとても可愛そうなお話。
そんな風に言われても嬉しくない。
同情をされたいわけじゃない。
そんなのは、惨めだから。
悔しくて惨めで、哀しいから。
「自分で弱いと認めるのは良いことかもしれないが、弱いのを理由にすれば負け犬になるだけだぞ」
「理由になんて、してないっ!」
目の前が真っ赤になって言い返した。悔しくて。
「俺は弱いかもしれない、苛められるほど小さな存在かもしれない!・・・だけどっ!」
アーロンは目線だけで先を促す。思わず激昂した激しさにティーダは荒く息を吸いこんだ。
「だけど・・・・・・負けたくないって今も思ってる」
「ふっ、さすがジェクトの息子だな」
「なっ!」
「暴れるな、包帯が巻けんだろうが」
「なんで、あいつが、関係あるんだよ」
「あいつは負けず嫌いだからだ。どんなに負けてもどんなに酷い目に合っても、堂々と胸をはっていたな」
異邦人だと、堂々と言うから。周囲からは白い目で見られていたし陰口もされていた。
それはブラスカも同じで。
けれど彼らは一度も負けたことがなかった。堂々と胸を張って生きていた。
(それを羨ましくも思ったことがあったな)
「あいつは・・・いつもそうだったよ!お酒飲むのを皆に色々言われても、がはがは笑って楽しんでださ!」
「あいつらしいな」
「だけど・・あいつは・・」
認めたくないけど、強かった。
色んな人達の声を物ともしないで、その実力で黙らせた。
「血は遺伝する。お前が望もうと望まずとも、その身体にはあいつの血が流れてるんだ。・・あいつに出来てお前に出来ないことはない」
「あいつの血を利用しろって事?」
「子供は親の血を受け継ぐ。が・・親は2人だ、つまり2人分の可能性があると言う事になる」
「アーロンがよく言う無限の可能性?」
アーロンはその言葉に微かに苦笑いを浮かべると、足の包帯をテープで固定する。
「諦めるのは簡単だ。負けを認めるのもな」
「俺は嫌だ。負けないで良い時に、諦めちゃダメな時に、勝負を捨てたくない」
「たがな。見極めも大事だぞ。深みに入りすぎて戻れなくなる事だってある」
「・・・そうかもしれないけどさ・・」
アーロンはその小さな頭に手をやった。
「理不尽を、受け入れるな」
「え?」
「誰もが諦めていても、お前は諦めるべき時じゃない時に諦め様とはするな」
それがとてもみっともなくとも。滑稽であろうとも。
「でも・・わかんないよ」
「先ほど目を閉じ、何が聞こえた?」
「?」
「普段聞こえない音も拾えただろう?」
「うん」
「それはな、聞こえていても意識をしていないからだ。意識しなければ、無音と同じだ」
「それで・・?」
不思議そうな顔をするティーダの髪を掻き混ぜるように撫ぜる。
「お前は苛められていると、弱いと言ったが・・・・・俺にはそうは見えなかった」
「・・・・」
「泣いたのは、あれが始めてか?」
ティーダは戸惑ったように首を振った。
「・・初めに無視された時に・・一度だけ」
「そいつらの前で、か?」
「違う!」
「お前は泣き虫だと、思っていたがな」
「っ!!!違うって!!」
「そうだな。お前は違うようだな」
「そうっす!」
お得意のガッツポーズを見せて笑うティーダをアーロンは柔らかい眼差しで見つめた。
(・・・この役はお前がやりたかっただろうな・・ジェクト)
「お前を可哀相だとは思わん。それはお前に対して貶しの言葉同然だからだ」
「アーロン・・」
「お前は戦っている。今も傷つきながらも諦めていない」
「・・うん」
「雑音が多くなれば心の目で周囲を見ろ。周りの奴らの考えを読め、想像しろ」
負けないために。
「お前の武器はお前の力だ」
「俺の力?」
「得意なもの何だ?」
「・・ブリッツ」
「お前は素早いし、運動能力もずば抜けている。スタミナが足りないのが弱点だがな」
「・・あんた10歳のガキに大人の体力を求めるなよ。今!発育中なの!」
背も伸びるもん!と悔しそうに付け足す。
「他にもあるが・・それはお前が見つけて行くものだ」
「え?」
「堂々として居ろ、ティーダ。堂々と、お前はお前の力で、居場所を勝ち取れ」
言葉には出さずに目で伝える。
(ここに居てずっと見守っていてやる)
「・・・もちろん」
ティーダはアーロンの手の平をパンと音を立てて叩き、不適に笑った。


時にはくじける時もある。
時には膝を付く時もある。
だけど。
だけど、誰か1人でも見ていてくれる人がいるなら、君はきっと大丈夫。
君の中には力がある。
どんな小さな力でも、どんな力でも。
君の大切な強力な力になる。
君は君の力を信じて。
誰かはそんな君をずっと応援しているし、見守っているよ。

誰も居ない。そう思うなら周りをよく見てみて。
誰も居ない。それでも君は君の力を信じて見て。
君は君が思っているよりも、君には可能性があるから。
諦めるのは簡単だけど、諦めないのは苦難の道だけど。

君は他の誰でもない君自身で。居場所を勝ち取れる。


「おはよっ」
朝。教室で、廊下で、ティーダはいつものように挨拶をする。
ティーダは相変わらずなクラスメートを平然と眺め、席についた。
「お、おはよう」
「え?」
目の前に座っていた生徒・・バスケットの時に自分を仲間に入れた友達で。
・・・体当たりをした友達だった。
「その・・怪我大丈夫か?」
「あ・・うん。平気っす」
「・・・えー・・と・・・ごめん。謝ってもお前の怪我治らないけど。ごめん」
彼は眼をそらさなかった。真剣な眼でティーダを見、頭を下げた。
「・・・良いよ。大丈夫だし」
ティーダは相手が気にし過ぎないように無理に笑顔を見せた。
本当は、とても「痛む」怪我なのだけど。
だけど強がりではなく、相手の誠意に答えたいと思った。
自分は相手の謝罪の気持ちを受け取ったから、もう良いのだと微笑んだ。
「俺さ、お前のプレーにマジ感動しちゃって!」
「ブリッツの?」
「違う違う!バスケだよ!俺バスケ部なんだ」
「あぁ。バスケか〜」
「お前バスケ部入れよ」
「やだよ〜俺ブリッツ一筋なの!」
周囲が自分たちの会話を聞いている気配がしていた。
「勿体無いな〜良いじゃんどっちもやれば」
「きついって、死ぬっすー!」
「あははは。確かにうちの部活はきついからな〜ブリッツもだろ?」
「うん」
そんな他愛もない会話をして、授業のチャイムが鳴り先生が入ってくる。
瞬間、マズイと顔をし前を向きかけたバスケ部の彼は、ティーダを振りかえり
「今までごめん」
そう言うと、パッと前を向いた。
(び、びっくりした)
その事で謝られる事のことを想像してなかったからびっくりした。
なんだか嬉しくて、なんだがちょっと悔しい。
不可思議な気持ちのままに、ティーダは小声でだけど前の席の奴にだけ聞こえるようにささやいた。
「ありがとう」
何故かお礼の言葉が口に出て、ティーダ自身驚いたが、自分はきっと怒っているわけじゃないのだと気が付いた。
彼は彼なりに苦しんだ上で、イサーデやジュムラから何を言われても良い・・そんな覚悟で自分に声をかけたんだろう。
彼の「ごめん」その言葉だけで、自分は救われる。

(アーロンに早く伝えたいな)
口にはしないけど、本当はとても心配をかけていた。
(帰ったら言おう)
「俺は大丈夫っ!」って。
窓から見上げた空はどこまでも澄んだ青さで。
ティーダはその空を見、自分の手の平に視線を移した。
堂々と胸を張って生きてやる。
そして、この手で。
(この手で、勝ち取るよ)
自分の力を信じて。

<END>


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【後書き】
途中の文体の違うものは、見守っていた祈り子です。
って注釈いれないとダメな辺り・・・orz もっとうまくなりたいです。

【感想切望!(拍手)

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