大和誕生日祝い&Tシャツ通販記念
「ささやかな喜び」
金曜の夜は何かと騒がしい。 翌日が土曜で、外へ出ることが出来なくともひと時の開放感が溢れるのか、すれ違う奴らはどこか晴々としていた。 こういう騒がしい雰囲気は嫌いではない。 「あれ?大和・・・何笑ってんのー?」 一階の風呂場の隣に面する洗濯場と呼ばれる部屋の入り口から九龍が顔を出していた。 片手を挙げて挨拶し、近寄ると、両手に籠を抱えるように持っているのが目に入る。 「笑っていたか・・・?」 「笑ってたよ。なんかちょっと嬉しそうに」 そう言いながら、九龍の方が嬉しそうに笑っている。 「キミの方が嬉しそうだが・・・?」 「うん。嬉しい」 そう言うと、照れたように踵を返して洗濯場に引っ込んでしまった。 「嬉しい・・・?」 不思議に思いながら、洗濯部屋に入る。 「あれ?大和も洗濯?」 部屋に入ると、九龍が驚いたように振り向いてこちらを見ていた。 手に衣類を山ほど詰めこんだ籠を俺も持っていたんだが・・・気づかなかったらしい。 「あぁ・・・ここ最近雨ばかりだからな・・、明日は晴れるという予報だから溜め込んでおいた洗濯物を干してしまおうと思ってな」 「あ、俺と同じ考えだ」 「そうなのか?」 「うん・・・・・・なんかいいよね」 九龍はそう言うとまた、嬉しそうに微笑んだ。 その隣に並び、九龍が使っている隣の洗濯機の蓋を開き、衣類を押しこむ。 「何が良いんだ?」 それとなく、聞いてみると・・。 「友達と共通するトコとか見つけるとさ・・・嬉しくならない?」 何気ない一言に、心底から揺さぶられるような・・・衝撃を感じた。 「そう・・・か?」 とても自然に自分もそうだと思った。 いったい・・・いつからだ・・・?九龍に心を許しているのか・・?俺が・・。 内心の動揺を隠して、洗濯機に水を入れるための蛇口に手をかけたときだった。 「え・・・・うぎゃぁー!?」 何故かホースが盛大にはずれ、溢れ出した大量の水は周辺に降り注ぐ。 「――ッ!」 慌てて蛇口を捻り締めるが・・・・・。 「うぅぅ・・・・あーぁ・・びしょ濡れだぁ・・・・」 辺りの一面水浸しだが、直撃した九龍は全身頭からずぶ濡れだ。 慌てて洗濯籠を漁り、確か1度しか使っていないはずのバスタオルを取りだし九龍に被せてやる。 11月初旬の水道水は近頃の急激な冷え込みの効果もあって、冷水だ。 このままでは風邪を引かせてしまう。 「あぁ、すまない・・九龍・・」 ごしごしとタオルで水滴を拭き取ってやりながら謝る。 「わッ!大和力入れすぎ・・・ッ」 「悪い・・・・寒いだろう?かなり冷たい水だったようだな・・」 俺にも若干かかったが、水はとても冷たかった。 このままでは本当に風邪を引かせてしまうことだろう。 「寒いというか・・・、びっくりした」 タオルの下から見える九龍はどこか青ざめていた。 「大丈夫か・・・?真っ青だぞ」 「大丈夫だよ。ちょっとびっくりしてたのと・・・色々溜まってたのもあったし・・・・」 「疲れてるのか・・・?」 「雨がずっと続いてたから、ちょっと・・・でも大丈夫」 そう言って笑った顔は、血の気がない。 そんな顔で大丈夫だと気にするなといわれても、気にしないでいられるか! 「・・・こんなに冷え切ってて、どこが大丈夫なんだ!」 タオルを被せたままの冷たい身体を引き寄せて背中を撫でてやる。 摩擦してやれば少しは違うだろう。 「・・・・・やっぱり・・・」 「やっぱり?」 その後何か言っていたが小さ過ぎて聞こえなかったので聞き返すが、聞かれたくなかったのか黙ったまま何を言わない。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 さて、どうするか・・。 わずかに震えている冷たい身体をこのままにすれば、確実に風邪を引くだろう。 体調も悪いようだしな・・・。 風呂の利用時間は何時から何時までだったか・・・まだ使えたはずだよな・・・? 「九龍、寒いんだろう?風呂で温まってきたらどうだ」 「・・・・・これ以上はちょっと・・さすがにきついかも・・」 「そんなに具合が悪いのか?」 「そうじゃないけど・・・・」 風呂に入るのも辛いのか、これは風邪を引いてしまっているのかもしれないな。 「とりあえず、その濡れた服を着替えよう」 「着替え・・・」 九龍の視線は自分が持ってきていた洗濯籠の中に入っている衣類に向けられている。 あぁ・・・・・。 「全部、濡れてしまったな・・・」 「うーん・・洗濯するつもりだったから、別に良いんだけど・・部屋に戻るのも面倒くさいしなぁ・・」 「仕方ないな・・・・・・」 濡らしてしまったのはこちらの責任だしな、幸い俺の服は無事だ。 確か一度も着ていないが、シミがついてしまったので洗おうと持ってきていたものがあったはず・・・。 「お、あった・・・、ほらこれに着替えてくれ」 「え?」 「着替えだ。濡れたまま部屋に戻るつもりか?」 「あー・・・そっか廊下が濡れちゃうか・・・。でも、これ着ちゃって良いのか?」 九龍は手渡された服を広げながら聞いてきた。 あぁ、言いたいことが何となく判った。 「同じモノは何着も持っているからな」 緑色のいつも着ているTシャツは半袖だが布地自体はしっかりしている。 さすがにそれだけでは寒いだろうと、一度着ただけの学園指定のジャージ上下も九龍に渡す。 「あ、ジャージだ」 「サイズが大きいかもしれないが・・・、そのままでいるよりはマシだろう」 「・・・・・うん、判った。ありがとな、大和」 手に持った服を見て九龍が嬉しそうに笑った。 「いや・・・」 先ほどの『嬉しい』といい、このことといい・・・、九龍はストレートに感情をぶつけてくる。 人の目をまっすぐ見て話し、そして・・・笑いかける。 それはとても自然で、九龍と居て煩わしくなったりする感覚が全くない。 九龍は何時も驚くほど自然体で、気がつけば最近よく近くに居る。 一緒に居て心地よいというか・・・・。 情報を引き出すためだとか、遺跡探索の進行具合の監視だとか・・・・、自身に言い訳をしていた時期もあったが。 俺はきっと、こいつと居るのが苦痛ではないのだろう・・・。 今までも友と呼べる友人は居たが、その誰とも違う。 今までの友人は、多少仲が良いだけだった・・。事実、卒業後は音信すらない。 俺としてもその方が気楽で都合が良かったし、煩わしい対人関係に気を使うより、自分の身体のことや治すための手がかりを探すだけ精一杯だった。 他人のことを考えている余地などなかった・・・はずだったんだが。 「俺も・・・変わったな・・・」 「なにがー?」 きょとんとして首を傾げる九龍に、早く着替えろと促し洗濯機に寄りかかる。 九龍は視界の隅で、堂々と着替えを始めた。 これ大きすぎー!とか、屈辱!とか騒ぎながら着替えている。 「キミは友達は多いほうなのか?」 床や壁がずぶ塗れなのが目に入って、吹かなければな・・・・と意識の片隅で思いながら聞いてみる。 「友達は・・・・今はいっぱい出来たよ」 幸せそうに微笑んだ九龍を見て、無意識に・・・・・それを言葉にした。 「・・・俺も・・・か?」 ・・・・・言ってしまって、気まずくて眼をそらす。 ・・・・何を言ってるんだ、俺は・・・。 第一、俺は九龍を利用するつもりで近づいた癖に・・・更に『友達ごっこ』に混ざるつもりか・・・? 甲太郎のように・・・・。 「大和!」 「なッ!」 急に腕を引っ張られて、驚く。 いつの間に近づいたのか九龍がすぐ近くでこちらを見ていた。 「返事聞いてないなァ・・・もしかして、照れてる?」 「・・・・なんのことだ・・・?」 「大和って普段くさい台詞とか平気で言うのに、言われるの・・・えーと・・慣れてない、とか?」 「は・・・?」 九龍はとても楽しげに、ニヤリと笑った。 「夕薙大和君は、僕の親友でーす!」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 今・・・・・・何て言った・・・? 「あれ?今度は照れないの?」 小声で「ぇーなんでーつまんない」という九龍を無言で見つめる。 というか、言葉が出ない。 『友達だ』と言われるのなら、予測はついたが・・・・。 『親友』とは・・・・・な・・・。 「ちょ、ちょっと、ちょいと!真剣な顔で睨むの止めよーよー」 「睨んでないが・・・」 「うぅ・・・・無言でじぃーーーーーーーーと見られるの・・・ちょっと・・」 思わぬことを言われて驚いて凝視していただけなんだが・・・。 九龍はこっちを見たり、眼をそらしたりして落ち着かない。 ははぁ・・・・・なるほどな。顎に手をやって笑いながら揶揄してやる。 「照れてるのか?九龍」 「えっ!?て、照れてない!」 「照れてるんだろ?茹で上がったカニみたいだぞ」 言うと、九龍は思ったとおり、真っ赤になってぶんぶんと顔を振って否定した。 「・・・ッ!そんなことないッ!気のせい!大和老眼!」 「ろ、老眼だと?おいおい、俺はまだ20歳になったばかりだぞ?」 「ろーうがーーん!!」 「九龍・・・、キミはド近眼だったな?」 「ろ、老眼よりはマシ・・・だし・・」 「そうかな?メガネーメガネーとよく探してるだろ?」 「見えないんだから仕方ないだろッー!?」 「老眼よりも近眼の方が苦労すると思うけどな」 「・・・・・・・ッ!い、今全国に何人も居るド近眼の人たちにも喧嘩売った!黒塚とか!夷澤とかにも!」 「キミこそ、全国何万人もいる老眼の人間に喧嘩を売ったな」 そう言うと、きっと九龍は売り言葉に買い言葉で、キーキーと猿みたいに怒り出すだろうと・・・思ったのだが・・。 「・・・・・・・・・・・あ・・ッ!」 何かに気がついて九龍は壁の方を向いて、昔CMで猿がやっていたような反省のポーズを取って黙り込んだ。 「九龍?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・千貫さんもごめんなさい」 「おい?」 「ダメだよね、自分はそうじゃないからって違う人をバカにしたりするのは・・・うぅ、ごめんーッ」 どうやら『老眼の誰か』・・・恐らく複数・・・に・・・思い当たったらしい。謝りながら反省している。 何となくその姿を眺めながら、こみ上げてくる笑いを止めることが出来なかった。 「や、大和・・・ッ!えっと・・・」 本当に見ていて飽きない奴だな・・・。表情がくるくる変わる。 怒ったり笑ったり、落ち込んでみたり・・・、ここには居ない人間のことを気遣って反省する辺り素直過ぎる気もするが・・・。 じっと見ていたら、困り果てた九龍が何を言おうかと迷っているようだったのでそれとなく話をそらしてやる。 「・・・そういえば、そのTシャツ似合ってるぞ」 「へ・・・・・?あ、これか・・・ぶかぶかだけどね」 見なれた緑色のTシャツの上にジャージを着込んだ姿は、意外なほど似合っていた。 大き過ぎるのか、ジャージは袖を2重に巻き上げている辺りが微笑ましい。 「あの・・・・さぁ・・」 「何だ?」 急に言い難そうにそわそわとする九龍を見下ろす。 珍しく目を合わせてこない。 「・・・・親友って・・・勝手に思っちゃってるけど・・・・ダメかな・・・?」 「・・・・・・・・・・・」 それを今更聞くのか・・・、正面から・・・・。 「勝手に俺が思ってるだけだから・・・、別に押しつけてるとかじゃないから・・」 無言なのを怒っているからだとでも思ったのか、慌て出した九龍を見てため息が出た。 ・・・・・この歳で真正面から親友云々とかいうものを、まさか自分に言われるとは思っても見なかった・・。 そもそも、子供の頃から・・・そこまで友情関係を結んだ記憶はない。 ・・・・・、何とも照れくさいというか・・。 「・・・・・・俺のこと、嫌いとか・・・?」 「は・・・?」 ついショックが大き過ぎて聞き流していたようだ。 いつの間に「嫌い」がどうのとかいう話になったんだ? 「そっか・・・・ごめん・・・」 見ると、悲しそうな顔になって俯むいている。 「ち、違うぞ、九龍」 「・・・・・無理しなくていいよ」 「違うといってるだろ・・ッ」 「・・・・本当に?」 近づいて肩を掴んで目を合わせる。 九龍は正面からじっとこっちを見てきた。 受け止めてやりながら、頷く。 「俺はお前のことが・・・・・・」 ゴトッ!バザッ!バタッ! 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お、お前ら・・・」 嫌な予感に振り向くと、甲太郎が強張った顔をして立っていた。 足元に洗濯籠が落ちている。 それだけではない・・・。 ・・・・甲太郎の背後に倒れている紫色のスカーフの・・・・・朱堂・・。 何故か血溜まりの中で倒れている。 そのうえ、床に何か血文字で書いて力尽きたらしい・・・凄惨な現場だ。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 何となく九龍を見てみる。 顔を赤くして茫然とあちらを見ていた。 甲太郎を見ると、眼が合うが、そんなに嫌そうな顔をしなくても良いんじゃないか?甲太郎・・。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺の見えないところでやってくれないか・・」 「それは妬いてるのか?」 「なッ!!アホか!・・・・・ッ!」 甲太郎が何かに・・・俺の横に居る九龍を見てはっとした。 どうしたんだ?と思い、見てみると。 「・・・・・・」 何故か大泣きしてる九龍が居た。 「く、九龍・・・?」 何故泣いてるんだ?正直驚く。 「・・・・・・・ちッ!」 隣で舌打ちして、髪を掻き毟り・・・やがてため息をついた甲太郎は、九龍の頭を引き寄せてポンポンと叩いてやる。 「・・・・・・・・おい、どうした・・九龍」 「・・・・・・・・」 「なんで・・・泣いてるんだ・・・?」 「お前が何かしたんだろ?俺が知るかッ」 冷たく言うくせに、態度はまるで違う。 小さい子供にするように、頭を撫でてやっている。 「し・・・・・」 「「し・・・・・?」」 「・・・・・・・しげ・・・・・・・・・・・・・みちゃんが、死んじゃったー!」 ひっく・・・と泣きじゃくったまま、そう言ったのを確かに聞いた。 「・・・・・・・・」 「・・・・・・・・」 「ど・・・どうしよう、どうして?急に鼻から血を噴出して・・・・茂美ちゃん・・しんじゃダメだよー!」 九龍が朱堂に駆けよってその身体をゆさゆさと揺さぶるのを眺めながらため息をついた。 「大和・・・九龍の服は何だ・・・」 「この周辺を見て事情を推理してくれ」 「・・・・水をぶっ掛けたのか?」 「正解。さすがだな、天香のシャーロック・ホームズ君」 「・・・・・それで、何を言いかけてたんだ・・・?」 「気になるのか?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 黙り込んだ甲太郎を置いて九龍に近づいた。 ギャラリーは興味津々とこちらを見ているが、見なかったことにする。 「九龍、朱堂は貧血で倒れてるだけだ・・、あまり動かすな」 「・・・・・ホント?良かった・・」 「それでな・・さっきのことなんだが」 「さっきの?」 きょとんとして首を傾げた九龍は、先ほどのことを忘れているようだった・・・。 早過ぎないか・・・? 「・・・・・・親友」 「あ!忘れてた!」 「・・・・・九龍・・・・忘れるの・・早過ぎるぞ・・」 「え、だって・・・しげみちゃんが血を噴出して倒れるからびっくりして・・」 思わず深々とため息をつく。 背後で甲太郎がしみじみと「やっぱ、トリ頭だな・・・」と呟いてる言葉に心の中で頷いた。 「・・・九龍・・・、俺は・・」 九龍に向き合い、先ほど言いかけた言葉を口にしようとして詰まる。 ・・・・大事な友人だと、思っている・・・が、それを口にするのは・・・どうしてか憚れた。 俺は九龍を、利用している。 九龍があの遺跡を巡り、奥へ奥へ入り込むのを待っている。 傷つき苦しむ九龍を見ながら、俺は何もしていない。 九龍が・・・そう、確かにあるはずの秘宝の元へ辿り着くのを・・・・俺は待っている。 横から掻っ攫うためだ・・。 ・・・・この忌まわしい呪いを、解くために・・・・。 「ごめん」 言いよどんだ俺を九龍が澄んだ眼で見つめていた。 「ごめん」 「・・・・・・なぜ・・・謝る・・」 「困ってるだろ?・・・だからだよ」 「俺は・・・」 「うん、判ってる。大丈夫だからさ、あんまり思いつめるなよ・・・なっ?」 九龍は明るくそう言うと、立ちあがり俺に背を向け、洗濯機の方へ歩いていく。 「ま・・・」 待ってくれ、と、言おうとして、言いよどむ。 呼びとめて、どうする・・・? 無意識に拳を握り締め、立ちすくむと、俺に背を向けた九龍の大きな独り言が聞こえてきた。 「・・・・・・・大和って、やっぱり恥ずかしがり屋なんだなぁ・・・・」 「九龍・・・・・・・・・・・・それは独り言なのか・・・・」 思わず脱力しながら、声を絞り出して突っ込むと、 「え・・?わっ!き、聞こえてた・・・?」 本当に驚いたように、あわあわと慌てこっちを見て赤くなった。 そうか・・・聞こえてないと思ったのか・・・。 「そんなでかい声で聞こえないとでも思ってるのか、アホ」 九龍の隣の洗濯機を操作しながら、甲太郎が呆れたように言うが、俺も同感だ。 「あ・・ッ!甲太郎も、もしかして・・・・やきもち妬いてくれてるとか・・・?」 「・・・・・・・・・」 「えーーっと・・・甲太郎、・・・・その足・・・何かなァ・・・?」 「お前を蹴り飛ばすための・・・足だッ!!!」 甲太郎は容赦なく九龍を蹴った。 「ぎゃぁーーーーッ!」 飛ばされる方向へ走っていき、吹っ飛ばされてきた九龍を受け止めてやると、背中に何かが当たった。 「・・・・・・?」 ガツン!と音がしたが・・・・? 音がした個所を振り向く間もなく、何に当たったか判った。 「冷たッ!!!」 「・・・・・・またか・・・」 またも水道管に取りつけられているホースの部分を外してしまったらしい、冷たい水道水が俺の背中を直撃した。 今日はもしや水難か何かなのか・・・? とりあえずまた具合が悪くならないように、九龍を水の当たらない方角へいささか乱暴に突き飛ばし、水道水を止める。 どうやらホースが外れただけだったようだ。 「九龍、濡れたか?」 「ううん、大丈夫だけど・・・大和ずぶ濡れじゃん・・」 「あぁ・・・どこかの誰かのせいでな・・・」 じろりとこちらを見ていた甲太郎を睨むと、さすがに悪いと思ったのかバツが悪そうな顔をしていた。 「早く拭かなきゃ風邪・・・・ッ!」 九龍が慌てて、甲太郎に突進した。 「お、おい・・・?」 一体、何を・・・と思っていると・・・。 「これ貸してッ!伸ばして返すから!」 「ばッ、バカッ!!伸ばされてたまるかーッ!」 甲太郎の服なのだろう・・・紫色のセーターを引っ張りあっている。 確かに俺が着たら、伸びるだろうが・・・・・九龍・・・・。 「じゃぁ、これでいいからー!」 今度は紫のバスタオルを掴み、持っていこうとするのを甲太郎が慌てて止める。 「誰が貸すか!!!」 「ケチッ!!!」 「お前に言われたくないッ!」 「俺はケチじゃないーッ!」 「いい加減にしろッ!!!」 「---ッ!」 「わッ!びっくりした・・」 思わず怒鳴ると、九龍と、甲太郎は動きを止めた。 「・・・・部屋に戻って着替えてくるから、ここを拭いておけ」 「はぁ?なんで、俺が・・・」 「甲太郎、お前が蹴らなければこんな事にはなってなかっただろう。じゃぁ、頼んだぞ」 洗濯部屋は辺り一面水浸しだ。 これは気合を入れて拭き掃除せねばなるまい・・。 部屋へ戻ろうと、踵を返すと、シャツの裾を背後から引っ張られ引きとめられる。 「・・・・九龍?」 「風邪引いちゃうって!これ返しとく!」 自分の着ていたジャージの上着を、俺に向かって押しつけてくる。 「いや・・・俺は大丈夫だ。お前もさっきまた少し濡れただろ?」 着ていろと、押し返すが九龍は引く気はないようだ。 「甲太郎から何か巻き上げとくから平気」 「巻き上げる・・ってな・・・」 背後で甲太郎が何か嫌そうに言っているが、聞き流す。 「大和、身体・・弱いんだからさ、着て!」 「判った判った・・・」 真剣な顔をして心配そうに俺を見上げてくる九龍に頷き、ジャージの上着を手に取った。 着ると安心したように笑う。 「暖かい飲み物でも買ってきてやるよ」 「ホント?ラッキー!俺、緑茶大好きだからよろしくー!」 「そうなのか?俺も緑茶にはうるさい方なんだが・・」 「そうなんだ?なんか・・嬉しいかも・・・」 そうか・・・そうだな。 九龍の言っていたものがわかった気がした。 「そうだな・・嬉しいな」 笑って頷くと、九龍は嬉しそうに微笑んで手を振ってくれた。 振り返して部屋を出るときに、甲太郎を見ると・・・嫌そうな顔をして九龍に何かを投げつけていた。 あいつも、素直じゃないな・・・。 いつか、九龍に、大事な友なのだと心から言える日が来るだろうか・・。 俺が九龍を利用していることを知ってしまっても・・・あいつは、変わらずに笑いかけてくれるだろうか・・・。 遺跡の最深部が開かれる日は、近い。 俺と九龍が敵として向き合う日も・・・近い・・だろう。 だが、今は・・・・。 共通した好きなものを、味わいながら、ぶつくさと文句を言いながら手伝うへそ曲がりと一緒に、掃除でもするとするとしよう・・・。 <終わり> ****おまけ*** 九龍「ひっくしょーーーーーん!」 皆守「うぉッ!こっち向いてするな!」 九龍「仕方ないじゃん・・寒いんだから」 皆守「そりゃ・・・12月近いのに半袖じゃなぁ・・・」(じろじろと九龍の足から頭までを眺める) 九龍「・・・・?なに?」 皆守「・・・・・・・・・・・・・・・・・ふん」 九龍「あ、なんか、いや〜〜〜〜な笑い方した!!!!」 皆守「気のせいだろ」 九龍「したー!絶対した!やな感じだった!」 皆守「似合わないな、と思っただけだぞ」 九龍「な・・・ッ!大和は似合うなって言ってたよッ!」 皆守「まぁ・・・可哀想だと思ったんじゃないか?」 九龍「そ・・・ッ・・そんなことない・・・と思う・・・けど・・」 大和「何を騒いでるんだ?・・・全然やってないじゃないか・・」 九龍「大和・・ッ!」(大和に駆け寄る) 大和「九龍?どうしたんだ?」 九龍「これ!これ俺に甲太郎がそれ!」 大和「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わからん・・・・」 皆守「・・・九龍、落ち着け・・・・」 九龍「だ、だって・・・・それがあれでこれで・・・・あうぅ」 皆守「・・・あぁ、面倒くせぇ・・・ちッ・・・仕方ねぇな・・・・・。大和、九龍の着てるシャツだが、似合うって本気で言ったのか?」 大和「・・・・九龍の言いたいことがわかるのか?」(ちょっとムッとしている) 皆守「あ?あぁ・・こいつ、一つのことしか考えられないみたいだからな・・多分そうだろ」 大和「そうなのか?」 九龍「うんうん!ありがとう!通訳!生身のH.A.N.Tって呼んでやるー!」 皆守「遠慮する」 九龍「えーなんでぇ・・」 皆守「そんな珍妙な呼び方したら速攻蹴るからな」 九龍「蹴られるのイヤデス・・・」 大和「・・・・・・・ウオッホン!(咳払い)」 九龍「大和、風邪引いちゃった・・?大丈夫か?」 皆守「・・・・・わざとらしいやつ・・」 大和「(皆守は無視して九龍に笑いかける)九龍、俺は似合ってると思うぞ。良ければ貰ってくれ」 九龍「えっ!?ほ、本当に良いのか!?ジャージもか!?」 大和「九龍・・・ジャージをやるとは言ってない・・」 皆守「てか、ジャージの方を貰いたいのか?」 九龍「えッ!?ジャージ・・・じゃないのかぁ・・・・そうかぁ・・・【憂】」 大和「(ピンピロピロローン←好感度UP)・・・・ジャージは・・それとあと1着しかないんだ・・・Tシャツは・・貰ってくれ・・な?」 九龍「うん、貰えるものならなんでも貰う」 大和「そうか・・・出来れば着てくれると嬉しいぞ」 九龍「でもこれ、サイズ大きいから・・・ちょっと寒いかも」 大和「ジャージを着れば良いだろう?あれは暖かいからな」 九龍「お、さすがジャージ同盟の大和君!ナイスアイディアー!」 皆守「・・・・・学校で同じ格好はやめろよ・・・・・頼むから・・」 九龍「え、なんで?変・・・なのか・・?」 大和「いや、おかしくはないぞ?甲太郎は・・・まぁ色々と複雑なんだろう、気にするな」 九龍「??そうなのかぁ・・・じゃぁ、今度着てみよう・・・・・かなぁ」 朱堂「だ、ダメよ!だめよだめよだめよぉぉぉー!!!!!ダーリン!早まっちゃダメッ!」 九龍「え、しげみちゃん?何時きたの?」 皆守「さっきからそこに倒れてただろうが・・・」 九龍「あ、そうだったね・・・ごめんごめん、忘れてた」 朱堂「・・・酷い、酷いわッ!!!素無視!?シカトォォォ!?アタシのガラスのハートがこなごなになっちゃったわッ!」 九龍「ご、ごめん・・・・【悲】」 朱堂「あら・・・反省してるのね?ダーリンvそんな悲しげな顔をしないでちょうだい・・アタシもう怒ってないわ」 九龍「良かった【喜】」 朱堂「だ、ダーリンッッ!!!」(抱きしめアターーック!) スカッ 朱堂「ぶぎゃぁっ!?」(床にダイブ) 大和「九龍、あそこを拭いてくれ。俺はこっちを拭くから」 九龍「うん、わかった」 朱堂「・・・・・・ゆ、夕薙ちゃん・・・ッ!!!いえ、夕薙大和ッ!」 大和「なんだ?朱堂、今忙しいんだが・・」 朱堂「ダーリンは渡さないわッ!!」 大和「そうか」 朱堂「そ、そうか・・・ですって!?余裕かましちゃって、まぁッ!!!キー!!アタシ負けないからッ!」 大和「はははは、そうか、頑張ってくれ」 朱堂「お、覚えてなさいッ!」 九龍「あれ?しげみちゃん行っちゃった・・・」 皆守「九龍・・・、朱堂も言ってただろ?それ着て学校には来るなよ・・」 九龍「なんでダメなんだろう・・・?わかんないけど・・・まぁいいや、うん、そうする」 皆守「・・・・そうしてくれ・・・」 |
【あとがき】2006/9/6 大和誕生日おめでとうー!!!と9月1日にUPしたかったんですが、スランプだったのか全然書けなくて遅くなりました(泣) ということで、おめでとう!ほぼ一目惚れでした!お祝いできて嬉しいですv それにしても大和Tシャツ、通販開始ですね!【愛】 まさか「欲しいな〜」とか言い出した数ヶ月後(?)にピラミッド祭りで売りに出されるとは思ってもいませんでした(笑) 書いてて自分が前に書いた話の内容をすっかり忘れていたという、なんともあれな話ですけど、感想など頂けると涙を流して喜びます!(その辺ツッコミなしで・・・おねがいします・・・) |