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目覚めよ、と呼ぶ声が聞こえ
(パラサイトイブ)

目覚めよ

目覚めよ

・・・我らが同胞よ

・・めよ・・・

「ん・・?」
目覚めたとたん、窓の外から静かに聞こえてくる雨音が聞こえた。
遠くで鳥たちがさえずっている。
雨の朝。
私はそっと腕を持ち上げた。体中が重い。
全身に汗をかいている。
ここ数日前から風邪でも引いたのか、微熱が出ていた。
決まって夜になると体温が上がる。
喉が乾いた。
身体を起して立ちあがる。

素足のまま、キッチンに立つ。あぁ、朝食はどうしよう。
食欲ないな、抜いちゃおうかな。
蛇口をひねり、コップに水を入れる。生水はそのまま飲めば毒になる。
けれど、このマンションは技術的工夫がされているらしくて、そのまま飲んでも害はない。
・・・高い家賃を払っているから。
喉を鳴らして飲み干す。よほど喉が乾いていたようね。

冷蔵庫からパンを取り出す。食欲がなくても食べなければ。
・・・体力が勝負の仕事だから。
パンをオーブンに放り込んで、テレビのリモコンを手に取る。
付けると、味気ない音楽と共に騒がしそうなアナウンサーがニュースを読み上げる。

目覚めよ・・

「・・?」
声が聞こえたような気がした。
私はテレビのリモコンをソファーに放り投げると、閉まったままのカーテンを勢いよく開け放つ。
・・誰も居ない。
居るわけがないか。ここ、16階だしね。
ちょっと安心して、ため息をついた。
「雨・・」
ニューヨークは雨よりも曇の日が多い。
けれど雨も多い。遠く日本では水不足で大変だと言うのに。
雨は嫌いじゃない。
だけど・・・・

・・・めよ・・

そのときだった。
くらっと目の前が歪んだ。何?
「・・っ」
窓に手をついて倒れるのを防ぐ。それでも揺れる視界。
どこか遠くで水の音がする。
どこか遠くで水が湧き上がるような音が聞こえる。
鳥のさえずり。
原初の海。
すべての始まり。
我らの生まれた・・・・・・・・・

ダンっ!!!
はっと気がつけば、私はその場に座り込んでいた。
今の何?
ぼんやりと雨空を見上げた。
『12月・・クリスマス・・カーネギーホールにて・・』
耳がテレビの音を捉えた。そっちの方をへたり込んだまま見ると、
テレビは一人の女性を映し出していた。
『主演はオペラ歌手のメリッサ・・・・』
女性は舞台に立ち悲愴な表情で歌を紡ぐ。

aia deriva enteralas que 
vienen y van
come suenosmill

(凄い・・・)
テレビを通して、響き渡る声。
荘厳さすら感じさせる。
「メリッサ・・・」
12月・・そういえば、あの金持ちのぼんぼんがコンサートか何かに必死に誘っていたはず。
行って見ようか。

私はけだるいのすら、忘れて。
立ちあがり香ばしい匂いのするパンを取り出す。

出勤したら、連絡してみよう。
12月。

・・・・・・・・・今思えば、今まで興味のなかったオペラを垣間見ただけで、
此れほどまでに見たい要求に刈られたこと自体が、すべての始まりだったのかもしれない。

どこかで声がする。
目覚めよ、と語りかけてくる。



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