走れない理由
「レイン?レインだろ!おい、久しぶりだなぁ!!」 「ビクトール?」 バナー村に滞在して一ヶ月、レインは毎日ぶらぶらと釣りをしてすごしていた。 いつものように釣れない釣りをして陽に当たってぼんやりしていたら、近づいてくる人々の足音と気配に気がついた。別に何か悪いことをしたわけではないけれど、僕は人に探されていて、見つかったらこの街から出なきゃなぁ・・と振り向かずに考える。 けれど声を掛けてきたのは意外な人物で、正直驚いてしまった。 ビクトール・・この熊によく似た人物は3年前の「解放戦争」の折りに一緒に戦った仲間で、最後の戦いの中フリックと共に行方不明になっていた男だ。 あの2人が簡単に死ぬわけがなく、流れてきた風の噂で彼らが無事に生きて都市同盟で戦っている事をすでに知っていたのだが・・。 「元気してたか?飯食ってたか?」 「ビクトールさん・・お知り合いですか?」 ビクトールの傍らに立つ、黄色いスカーフに赤い胴着を着た意志の強そうな印象的な瞳の少年がビクトールと自分を見比べながら話しかけた。 どこかで見かけたような聞いたことがあるような服装だな・・・。 「おぉ、こいつはぁ・・」 その時慌ただしい足音と共に「坊ちゃん坊ちゃん!!!!」という声が近づいてきた。 一緒に旅をしているグレミオだ。いつも騒がしいグレミオだけど、今日は一段と騒がしい。どこか切羽詰まったものを感じて僕は立ち上がった。 「どうしたんだい?グレミオ」 走り寄ってきたグレミオは周りなど見えていないのだろう、あわあわと手をばたつかせて何かを必死に伝えようとしている。 「おい、グレミオ。落ち着けよ」 見かねてビクトールがいさめる。 「はっ・・はいっ!・・・って、あああぁ・・貴方は!!!」 「ははは!!驚いたか?向こうには・・・」 「熊が出たー!!!!!!!!坊ちゃん坊ちゃん!!ししし・・死んだフリを!!」 「熊じゃねぇ〜〜〜!!!!!!!」 グレミオは聞く耳持たず、僕を抱きしめるとそのままその場にごろりと寝ころぶ。熊を前にして死んだフリは正しいと思うけど、その前に殺っちゃった方がはやいんじゃないかい?守ってくれるのは嬉しいんだけど苦しい。 「ぐ、グレミオ・・・苦しいよ」 「しっ!黙って坊ちゃん。良いですか?じっとしていれば恐くないですからね・・」 そう言いながらも震えている。グレミオの方が怖いんじゃないか・・。 「グレミオ・・熊じゃないよ」 「おい!グレミオ!!3年ぶりに会って置いてその態度は何だ!!!」 「あ、あの・・・ビクトールさんは熊に似てるし熊の冬眠前みたいに食べるけど、一応熊じゃないですよ」 「えっ?」 ビクトールの怒声には反応しなかったグレミオが僕と僕らの傍にしゃがみこんだ少年の声に我に返る。 そして恐る恐る顔を上げる。 「おや、ビクトールさんでしたか!」 (おや、じゃないだろうが・・グレミオ) 「・・・・!!!!ということは・・ぞ、ゾンビ!!!!」 どこから取り出したのか粗塩をビクトールに向かって振りかける。 「うがぁぁ〜〜〜!!!!」 頭に来たらしい熊・・じゃないビクトールがグレミオのマントを掴む。 そのままぐいっと首元を締め上げる。 「ぐっぐぇっ」 「び、ビクトールっ!ますます熊っぽく見えるよ!!!!」 「ビクトールさん!本当の熊さんになっちゃいますよ!!」 「え?」 「あれ?」 「気が合うね」 「そうですね」 同じようなセリフが重なって僕は改めて彼を見た。何となく親近感を憶えた。 「ちっ・・てめぇら・・揃いも揃ってこのナイスミドルなビクトール様を熊呼ばわりしやがって」 ナイスミドル・・意味が分かって言ってるのかい? それよりもグレミオは・・。グレミオは真っ青な顔をして肺に空気を取り込んでいた。 「グレミオ、こんな元気なゾンビがいるわけがないだろう?」 「ぞ、ぞうでずね・・」 「で?何がどうしたんだい?」 「えっ!あっあっ!大変なんですよ!!!良いからすぐに宿屋の方へ!!」 「ちょっ・・」 グレミオはいきなり立ち上がると僕の手を取り、ぐいぐいと引っ張っていく。ここで下手に反抗すると後々まで厄介なので大人しく付いていった。後を振り向くと呆気にとられている熊・・・・じゃなくてビクトールと少年。僕は来い来いと手招きした。 バナー村唯一の宿屋ははっきり言って狭い。その場所に沢山の村人達とビクトール達の連れてきたメンバーが揃っていた。フリックが僕を見て一瞬目を見開いた。けれど今は旧知の仲間との再会を楽しむ余裕もない場に、目配せだけをして黙り込む。 「坊ちゃん!大変なんですよ!!」 「どうしたんだい?」 「コウが!!コウが!!」 コウ・・確かあのルカ・ブライトを倒した同盟軍のリーダーの服装の真似をして、僕とそのリーダーと間違えてる宿屋の子だよな・・。 「さらわれたんですよ、坊ちゃん」 「お、おらは見ただ!!山賊だったぞ!!!」 「熊みてぇな・・・・あんれ!こっちも熊だんべよ!!」 「コウを返して!!!」 「おいおいおいおい・・・」 ビクトールとことん熊呼ばわりされている。怒るべきか呆れるべきか、対応に困っているビクトールに助け船を出したのはグレミオだった。さっきまでは粗塩だの熊だの何だの言ってたのに、立ち直りが早すぎるな・・いつものごとく。 「しかし何でコウを?」 「・・あの山賊もしかして・・」 「あぁ・・ありえるな・・」 「だとしたら大変だっぺ!」 「そんな、そんなー!!!」 村人が言う言葉に宿屋の看板娘エリが弟を心配して顔を伏せて泣き出した。 「そんな・・・・・ロリコンになんて!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 「ロリ・・・・」 「コン・・・・」 確かにあの子は可愛い顔をしていたが・・。 「それは大変です!坊ちゃん!こうしては居られません!!助けに行きましょう!!」 グレミオは何故かかなり興奮していた。ど、どうしたんだろう・・。 「坊ちゃんが子供の頃それはそれは可愛くて、いつロリコン・ショタコンの方にさらわれるか、と冷や冷やしてたんですよ・・」 目がどこか遠くを見ている。幼い日の僕でも思い出してるんだろうか・・。 「行きますよ!!坊ちゃん!えーと・・」 グレミオは出入り口に向かい、そこに立っていた少年の顔を見て何かをためらった。 「君の名前は?」 「モンキです」 「ではモンキ君!君も一緒に来て下さいますよね!!!ね!!!」 「え・・あ、はい」 (モンキ・・?もしかしてこの子はっ・・) その時だった。急に右手の手袋の下が熱くなり紋章が発動した。魔法を使うときの発動の仕方ではなく、誰かの魂を喰らおうとするような・・あの忌まわしい感覚。 呪われし紋章ソウルイーターは宿主の一番身近な人間を糧に好むという、この場合は一度は食われたグレミオではなく・・初対面の今名前を知ったばかりの少年・・モンキが標的だった。僕はとっさに自分の身体で衝動を押さえ込む。紋章の力が体内で小爆発するような感覚に僕は膝をついた。 「ぼ、坊ちゃん!!」、 グレミオが慌てて駆け寄る。息が荒くしばらくは返事できそうにない。僕はグレミオに微かにうなずいて、先を促した。 今は僕よりもロリコン変態にさらわれたコウが心配だ。 「一緒に・・」 「はい」 やっと言えた言葉を彼は理解してくれた。力強くうなづくと、僕らは外へ出た。 本当は彼と一緒にいるのは危険なのだろう・・だが、妙な確信めいた物もある。 ”ソウルイーターはモンキの魂は喰らえない” 同じ真の紋章は紋章を知るという。彼からはその特有の力の存在と輝く何かの存在を会ったときから感じていた。それにより守られている。 「レインさん!!!どうか、どうか!変態山賊からコウを!!」 エリは宿屋から僕らを追いかけてきて、そう泣き叫ぶように言った。 「大丈夫ですよ」 グレミオが優しい表情でそう言う、僕はその隣で少しだけ微笑んで頷いた。 「さぁ!!急ぎましょう!!」 バナーの峠道の入り口でグレミオが斧を振り回して吠えた。 「グレミオは同行者だよ」 「なんですと!!!」 「メンバー一杯なんで、一番レベルが低いお前は同行してろって」 「ごめんなさい」 メンバーは6人。すでに5人連れていたモンキのメンバーに僕が一時的に入る形になる。彼らのレベルは47が平均で、僕はレベル63。何故1か2か、低いだけだったビクトールとフリックのレベルが下がってるのだろうか?きっとさぼっていたんだろうな・・。 「おい、聞こえてるぜ」 「・・・鍛錬はしていたが、生活に追われてな・・」 フリックの重い言葉に別れてからの彼らの生活がどんなものかわかったような気がする。大変だったんだね・・フリック。 「坊ちゃん!!私も戦えます!!」 グレミオが斧を握りしめて僕に詰め寄る。そうは言うけど・・戦力的に見ればグレミオは見てるだけで戦闘には参加しない方が良いんじゃないかな・・。レベル・・36だし・・。 「グレミオ、ここは急ぐのが先決なんだ・・」 このまま不平不満ばりばりのグレミオを連れていけば、戦闘に乱入してくるのは目に見えていた。 じっと上目遣いにグレミオを見上げる。 「だから僕を見守っていてよ」 「は・・はい!!坊ちゃん!」 子供の頃からおねだりやお願いをするときに使っていた手は今も有効らしい。 ビクトールが『この狸め・・』という視線で見ていたが、あえて無視を決め込んで先へ進みだした。 おかしい。 おかしい・・。 走り出したモンキ達の後を追いかけながら僕はそう思って溜まらなかった。 おかしいのだ。 変なのだ。 ピタリ、と気が付けば足が止まっていた。 「?どうしたんですか?」 先頭を走っていたモンキが何故か一番に気が付いて戻ってきた。他の仲間達も歩みを止める。 「どこか具合でも悪いんですか?」 と、モンキの後から近づいてきたトウタ・・あのリョウカンのお弟子さんのその又お弟子さんらしい。黒いカバンの中に救急道具と武器である石が詰まっているとかで、すごい怪力らしい。 と、ぼんやりどうでも良いことを考えていたら、モンキが右手をかざそうとした。紋章を使うつもりらしい。 「ち!違うよ!!どうもしないって!」 モンキの正体はすでに判っていたけど、軽い自己紹介の時にその紋章のことも僕は見抜いていた。だから出来るだけ戦闘の時は協力攻撃で片づけるようにしていたし、回復はナナミというモンキの元気な姉かトウタに任せていた。 出来るだけ使わせたくなかった。 「怪我とかじゃないよ・・体調だって万全だし」 「じゃぁ・・?」 「・・・・・・・」 がしぃ!!と目の前に立つモンキの肩を掴んだ。 「君・・左手か額に何か付けてる?」 「えっ?えーと額に蒼い門の紋章と、左手に雷の紋章を・・」 「・・・見せて」 僕は有無も言わせずに額に掛かる髪の毛を上げてそのおでこをじっくりと眺めた。僕の知らない紋章だけど、あの紋章ではないのは確かだ。続けて左手の手袋をはずして雷の紋章を見てみる。それは僕もよく知っている紋章で言うまでもなくあの紋章ではない。 「・・・あの?」 僕の勢いにたじろいでいるモンキが恐る恐る聞いてくる。 「おい?どうしたんだ?」 ビクトールとフリックも近づいてきた。 「・・・おかしいんだ」 「あん?」 「何がだ?」 「何がおかしいんですか?」 「坊ちゃん?」 僕は彼らの顔を見渡した。 「どうして走れるんだ!!!???」 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」 グレミオとビクトール、フリックは一様に黙り込む。モンキやトウタと言うと・・ 「え?」 「はにゃ?」 「えー?えー?どうしたの??」 少し離れていた残りの1人も近づいてきた。初対面だけど、そんなのを気にしない気さくな仲間だった・・人間語が理解出来るのかが謎なんだけど・・。 「ムムー?」 僕から見られているのが判ったのか、赤いマントのムササビはポーズを決めた。緑色のマントのムササビも居るとモンキから聞いていたので一度会ってみたいものである。(聞いたときにちらりとグレミオを見てしまったが・・) 今はそれよりも気になって仕方がないことがある。このままだと夜も眠れない。 「あ、あの・・マクドールさん走れなかったんですか?」 モンキが言いにくそうに言う。 「神行法の紋章、って言ってね、それがないと走れなかったんだ」 「・・?スタリオンの紋章に名前が・・」 「スタリオンの紋章は真がついてるからね、同じ紋章の高位紋章なんだよ」 「・・何かどこか悪いとか?」 トウタが僕の足下をちらりと見て言う。 「・・・不治の病なんだ・・きっと」 走れても早歩き(しかも驚異的な早さで)、これで病気じゃないと言えるだろうか? いや、言えない(反語) 「そ、そうだったんですか!坊ちゃん!!」 「はぁ?」 「グレミオ・・お前知らなかったのか?」 「何を言うんです!?このグレミオが坊ちゃんが掛かった病名を知らないわけ、ないではないですか!!!!!」 「はぁぁ?」 「じゃぁ、何で走れねぇんだ?」 「そう言えば、お前早歩きがやたら早くて走っていたところ見たこと無いな・・」 「あー?そういやそうだな。たんにお坊ちゃまだからかと思ってたぜ」 「はっ・・・言われてみれば・・」 「言われてみればってグレミオ・・」 「えーっと・・その神行法の紋章を今つけているからじゃないんですか?」 モンキがふと気がついたように聞いてきた。 「そうなんだよ!」 そうなんだ、僕が突然立ち止まって叫んだ理由はここにあるんだ。 「ないんだよ!!!」 ないのだ。ないのに走れた・・という事よりも・・ 「ビクトール!!手癖が悪いの変わってないんだね!僕は僕の物を盗られるの・・我慢ならないんだ!」 この熊には前科がある。僕はそう決めつけてソウルイーターを振りかざした。 「おいおいおい!!!ちょっと待て!!」 「ビクトール・・人の紋章を売り払う癖治ってないんだな」 雷鳴の紋章を下位の紋章に売り下げられたフリックが呆れたようにビクトールを見る。確かに僕はフリックに雷鳴の紋章を付けていた。ビクトールにも大地の紋章を付けて置いて上げたんだけど、どうやら等の昔に売り払ってしまったらしい。 「坊ちゃんの物を勝手に持ち出した上に売り払う事など、このグレミオが許しません!!」 グレミオが斧を構える。 「待てー!待てって!!俺じゃねぇよ!!!」 「他にダレがいるっていうんだ!」 「そうですよ!坊ちゃんは一度手にした物は死んでも手放したり落としたりしないんですからね!」 グレミオ・・・後で憶えていろよ。 「待って、僕さっきからビクトールさんの隣に居たけど、そんな怪しい素振りは見なかったよ」 モンキが熊の前に出てかばう。彼の目は嘘を付いているようではない。 「モンキが言うなら・・そうなんだね」 普段ならかなり怪しんだり証拠を出せとか言いそうな僕だけど、彼の言葉ならすんなりと信じられた。同じ星の元に生まれたからだろうか? 「あの紋章高かったのに・・」 「坊ちゃん・・そう言う事を言っている場合では・・」 「あの・・でもなくなったって気がついた時も走ってませんでした?」 モンキの言葉に僕はさっきまで感じていた疑問を思い出した。 「・・・いつのまにかに走れるようになっていたのかもしれないね」 日頃の行いが善かったんだろう。神様素晴らしい人生のお詫びに長年の悩みを解消してくれたんですね。 「坊ちゃん。坊ちゃんの走る姿をぜひグレミオに見せて下さいまし」 「うん!じっくり見ててよ!」 僕は走り出した。 「・・・・・・」 「・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・」 「ムー・・」 「ってか、それ早歩きじゃんか」 ビクトールの言葉に僕は衝撃を受けてよろけ、膝を地面についた。そ、そんな・・ 「さっきは、走れてたのに!両手をこう!こんな風に振りながら!右足と左足が素早く地面を・・・」 僕は言いながらどんどん自信をなくしていった。早歩きを勘違いしてただけなのかな・・。 「ね!モンキと一緒だと走れるとかじゃない?だって、私見てたもん!絶対走ってた!」 僕の後列に居たモンキのお姉さんのナナミが、僕を励ますように声をかけてきた。 「そうかもしれない」 姉の言葉に神妙に頷きつつ、モンキは僕を見ると、 「一緒に走ってみましょう!」 そう言うと地面に座り込んだ僕に手を差し出した。なんて良い子なんだ! 「それじゃ、よーいドン!って言ったら走ってね」 僕らは並んで立ち、走る構えを取った。 「よぉぉぉぉいぃぃぃ・・・ドン!」 気合の入った声を聞き、僕とモンキは走り出した。 必死だ。ものすごく必死だ。 僕は走って見せる!!!! 「はい!ゴールです」 「ムームムー」 ナナミから20メートルほど先に居たトウタとムクムクがゴールを告げる。 「はぁはぁ・・・・ど、どうだった!???」 「ぼ、ぼぼぼぼ・・・ぼっぢゃん!!!」 「うぁ!鼻水がつくー!」 息を整える暇もなく、グレミオがタックルしてきて地面に転がった。 なんだが知らないけど、涙と鼻水が一緒になってこぼれてた。き、汚い! 「グレミオはグレミオは・・・うれしゅうございます!!」 グレミオは懐から出した花の刺繍のついた自作ハンカチでチーンと鼻をかみ、涙をぬぐいながら言った。 「・・・もしかして・・」 僕が期待を込めて近くに居たフリックを見上げる。 「あぁ!ばっちし走れてたぜ!」 「!!!」 僕は嬉しさのあまりに声にならず、思わずガッツポーズを取った。 もうね、嬉しくて嬉しくて、今なら空も飛べるかも! 「坊ちゃん・・おめでとうございます!グレミオは嬉しくて嬉しくて・・ずびっ」 「グレミオ・・」 「あのさ・・・・水さして悪ぃんだけどよ・・」 ビクトールがあらぬ方向に視線をやりつつ、言いずらそうに立っていた。 「モンキが居なきゃ早歩きしか出来ないってことじゃねぇか・・?」 「!!!!!!!!そ、そうだったぁ!」 「び、ビクトールさん!!!!!!」 「坊ちゃん!坊ちゃん!!」 グレミオが慌てて僕を心配そうに気遣う。 「グレミオ・・僕は別に大丈夫だよ」 「坊ちゃん・・」 「紋章が無くても早歩きは出来るんだ・・進歩したと思うよ」 「坊ちゃん!えぇ!坊ちゃんの早歩きは世界一です!!」 「確かに世界一かもな」 「俺等が走るスピードと同じかそれより早いしな」 何だか嬉しくない励ましだけど、その分左手が空いたから良しとするか。 「それじゃ行きましょう!ロリコン退治に!」 「そうだね!ロリコンの魔の手から早く助け出さないとね!!!」 再び僕らは走り出した。僕の早歩きは彼らよりも少し早かった。 その後ロリコン変態山賊を退治して、僕は懐かしの故郷グレックミンスターへと3年ぶりに帰ったのであった。 相変わらず僕は早歩きでよく塀にぶつかっている・・・。 (終わり) |