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プラチナの季節


ずっと子供のままでいたかった。
すっと3人で笑い合っていたかった。
だけど大人にならなければならない。
たとえ、望まなくても。

それを意識し始めたのはゲンカクが亡くなる数年前だった。

街で夕食のおかずについて頭を悩ませながらふらついていた時に偶然耳にしたのだ。その噂を。
『ジョウイが街はずれの盲目の少女に恋をしている』
寝耳に水とはまさにこのことか、と、急いで事の真偽を確かめるべくジョウイの家へ向かった。
ジョウイの家はキャロの街唯一の貴族の住まう豪華な家で、表玄関から訪ねるといつも決まって白い目で見られる。
ジョウイの父はもちろんの事、ジョウイと母親以外は村はずれに住まう親のいない孤児である自分たちとその養い親であるゲンカクをよく思っていないらしい。
それを知っている彼女はいつものように裏に回る。裏口に当たる厨房にいる料理長やそのお手伝いをしているおばさんとは、子供の頃から仲が良く、ジョウイを訪ねるときの通用口となっていた。
裏口の2,3段ある階段に座り込んで、お手伝いのおばさんにジョウイを呼んできて貰う。その間彼女は料理長に入れて貰った紅茶と手作りのお菓子を頬張る。
「ナナミちゃんはいつもおいしそうに食べてくれるから、作りがいがあるよ」
「だっておいしいんだもん。ね、私にも作り方教えて?」
「そ・・・それは・・」
「ね〜ね〜じゃ、レシピで良いから!モンキに作って上げたいの!」
「仕方ないな、じゃぁ・・ちゃんと書いてある通りに作るんだよ?間違っても砂糖と塩を間違えたり、分量を多めにしたりしちゃだめだからね?味が薄いと思っても、それだけはっっやっちゃだめだからな?」
何故か力説する料理長。
彼はアトレイド家に使えてもう30年は経っているベテランと言って良いほどの腕前を持っていた。
身内はおらず、独身のままの彼にとってジョウイとその幼なじみであるモンキと目の前で期待を込めた眼差しで見ている元気な少女ナナミは、実の子供のような孫のような存在であった。
今まで何度かナナミにせがまれて料理を教えていた。
レシピをどんなにわかりやすく書いても、手取足取り教えても、出来上がった物は殺人兵器になりかねないシロモノであった。
もう教えてはいけない、と被害を目の当たりにするたびに痛感してやまないのだが・・ナナミのお願い攻撃にそれはそれは弱かった。
無邪気に笑うナナミの笑顔はかわいらしくて、つい思わず以前の失敗や後悔を忘れて願いを叶えて上げたくなるのだ。
今回もナナミの手に乗ってしまう料理長であった。
「うんっ!ありがとう!」
手渡されたレシピを見て、とても嬉しそうにお礼を言う。
後に料理長はそれによってもたらされた被害に神経性胃炎になりかけたという・・。

「ナナミ」
「あ、ジョウイ」
いつ来たのか、厨房の出入り口で呆れたように見ているジョウイが立っていた。
「料理長・・・またですか?・・」
「え?あ、いや、ジョウイ坊ちゃん・・」
「坊ちゃん、と呼ぶのはやめてください。僕たちだけのときは呼び捨てで良いですよ」
そういうジョウイの目は優しげだ。子供頃からこっそりとおいしいお菓子などを貰ったりしていて彼にとっては実の祖父のような感じなのだろう。
「ナナミ・・今度は何のレシピだい?」
「ん?”キャロットケーキ”のレシピだよ。すごくおいしかったの!」
「・・・キャロット・・にんじん・・」
「ぼっちゃ・・あぁ・・ジョウイはにんじん嫌いだったな。好き嫌いしちゃだめですよ」
「そうそうっ、ジョウイも食べてみる?おいしいんだよっ」
ナナミは皿に残っていた食べかけのケーキを差し出す。ジョウイは微かに顔色を青くする。
「そ、それよりナナミ何か話があるって?」
「あ、話をそらしたーおいしいのに〜。よしっ今度ナナミちゃんが作って上げるよ」
「・・・・・」
墓穴を感じてジョウイが黙り込む。ナナミの手料理を食べるならば、料理長のを食べておけば良かった、と後悔した。
「話?あぁそうそう忘れるところだった!ジョウイ!」
「な、なんだい?」
急に立ち上がって迫ってきたナナミの勢いに後ずさる。
「ジョウイ好きな人が出来たってホント?」
「え?」
「街で女の子達が噂してるの聞いたの!相手の子は・・・」
「な、ナナミ!!外で話そう!!」
料理長そしてお手伝いのおばさんの2人が興味深そうに見ていた。それを目に留めてジョウイは慌ててナナミの手を引くと裏口から出ていった。

「そんなに慌てなくても良いのに」
「はぁはぁはぁ・・あんな、所で話してっ!」
「このくらいで息が切れるなんて、運動不足だよ」
「・・・もう良いよ・・。で?何なんだい?」
彼らは道場の裏、いつも3人が遊ぶ大きな木の元へとやってきていた。
「ジョウイ、どうして何も言ってくれなかったの!?」
「え?」
急に笑顔から怒りの表情に変化したナナミに押されて2,3歩後ずさる。
「ジョウイに好きな人が出来たって・・・どうして相談してくれなかったの!?」
「ちょ、ちょっと待って!何なんだい?それ・・」
「とぼけるの!?街の人たちに聞いたんだよ。ジョウイが盲目の女の子に恋してるって」
「盲目?ラウド隊長の妹さんの事かな?」
「?ジョウイ?」
「ナナミ、その噂だけど根も葉もない噂だよ」
「ホント?」
「確かにモンキと2人してよく話し相手になりに行くけど、僕らはそういう仲でも、そんな感情もないよ」
「え?え?じゃぁ、ジョウイはただ話をしに行っていただけ?」
「うん。何だろう・・彼女のことは可愛い妹って感じかな?」
「そうなんだ・・・」
「多分僕とモンキがよく話をしに行くから、そういう噂が立っちゃったんだろうね」
「じゃぁ、私も行っても良いかな?」
「あぁ、今度ナナミも連れてきて欲しいって言っていたから、一緒に行こう」
「うん!」

噂を聞いたとき心の中がざわざわした。何だかわからない不安?焦り?よくわからない。
ただ、嬉しくない・・・それだけはわかった。
ジョウイが離れていくようで。
ジョウイに置いて行かれそうで。
ジョウイを取られてしまったようで。
ジョウイに対してそういう感情は一切ないよ。カッコいいから、キャロでも女の子にモテモテだけど、よく嫉妬されて陰口を言われたりもしたけど、私とジョウイはそんな関係じゃないんだよ。友達、幼なじみ、親友、そんな言葉でも表せないくらい、温かい気持ち。
家族愛にも似ているし、そうでもない。
友達・幼なじみ・親友・仲間・・・家族、そのどれもが当てはまるようで一つじゃはっきりしない。
ただ、一緒の時間を思い切り楽しんだり笑い合ったり、駆け回っていたり、していたい。
ずっとそうでありたいな。

「ジョウイは・・・恋ってどう思ってるの?」
ナナミは安心してほっと息をつくと、背後の大木に背を預けて座り込んだ。
「ナナミも女の子なんだね。ナナミからそんな言葉が出るとは思わなかったよ」
「それってどういう意味よっ!」
「そういう意味だよ、ナナミ」
笑っているジョウイを上目使いに睨む。
「ごめんごめん。ええっと・・恋?僕の初恋話聞きたいのかい?大昔に言った記憶があるけど」
「ちゃんと覚えてるよ。確か王族関係の女の子なんだよね?あの別荘に来てたっていう」
「そうだよ」
「その時・・ジョウイどんな気持ちだった?ドキドキした?」
「・・・・したよ」
「ふぅ〜ん・・・。モンキも好きな女の子とかいたりするのかなぁ・・」
「ナナミは?」
「えっ!?私っ?」
面白いほど取り乱すナナミを見て、微笑みながらジョウイはうなずく。
「・・・・まだ、いいやって・・思うよ。そりゃね、憧れるけど、でも、まだ・・・このまんまでいいなって想う」
「僕もそう思うよ。好きな人が出来たら自然と考えたりするんだろうけど・・今は強くなりたいな」
「モンキとジョウイと一緒に居られたら、それだけで十分だもん・・」
「ナナミ、ナナミがもし好きな人が出来たら僕とモンキには必ず言うんだよ」
ふとジョウイが真剣な目をしてナナミを見つめた。
「?もちろんだよ!ジョウイもちゃんと言ってね」
「うん。僕もちゃんと相談するよ。だからナナミも」
「約束だね!」
「うん」
幼い子供同士の小さな約束。小指を繋いで指切りをして笑い合った。
幼い春から夏にかけての衣替えの季節だった。



「モンキじゃないか!!どうしてこんな所に?」
「ちょちょちょっと・・」
「元気してたか?」
「ちょっとー!どちら様??」
命からがらミューズを抜け出して、コロネの宿屋で一休みしようとした時だった。
モンキがキャロの街へ戻ってくるまでの少しの間旅を共にした旅の一座と再会した。宿屋の廊下でモンキを見つけて嬉しそうに駆け寄ってきた、アイリと呼ばれる少女を見て、直感してしまった。
(モンキの事が好きなんだ・・)
その後ナナミが”義姉”と知ったときのほっとしたような表情。
リィナに冷やかされて赤くなった顔、恋とは自覚していなくても「好き」だという気持ちを如実に表していた。
可愛いな、こんな娘が大事な弟を好きになってくれて嬉しいな、とも思うけれど・・・正直複雑な心境だった。
ちり、と灼けつくような痛みが胸に刺さった。

「ね?モンキはアイリちゃんの事、どう思ってるの?」
アイリ達旅の一座と合流し、何故だか同盟軍のリーダーに一任され、周りの流れが激化し争い傷つきながらも人々の安らげる場所として、かって古城であったこの本拠地でつかの間の休日を過ごしていたとき、モンキと2人して牧場へやってきていた。
どこまでも澄み渡る空を見上げて隣で同じように見上げているモンキにふと聞いた。
「え?アイリの事?どう・・・って?」
「好きかどうかだよ」
横を向き弟の瞳をのぞき込む。モンキはその視線に戸惑ったように目線をそらした。
「好きだよ」
ぎこちなく言う。けれど慌てて「友達として好き、って意味だよ!」と付け加える。
「ホント?」
「ホント!!第一、今はそう言うこと考えてる時じゃないんだ。僕は・・」
俯いてしまった弟の頭をぽんぽんと軽くはたく。皆の前では毅然と前を向いて、どこか遠くに行ってしまったような、寂しい気持ちを抱いていただけに、年よりも幼さの残る仕草に心が軽くなるような温かい気持ちになった。
「うん。うん・・・わかってるよ」
「ナナミ・・・でもどうしてそんな話を突然するのさ?」
「え?」
「もしかして・・・ナナミに好きな人が出来た・・とか?」
「ち、違うよっ!」
「本当?」
「ホント、ホント!!」
「・・・良かった。僕ナナミに好きな人が出来て相手が変な奴だったらジョウイの分もパンダにしなきゃだもん。どうしようかと思ったよ」
「パンダ?」
「うん。僕が右目でジョウイは左目担当でね、いっせーので思い切り殴るんだよ、顔を」
パンダ、つまり顔を思い切り力の限り殴りつけ、目元が青く晴れ上がり目の回りがまるでパンダのようになることを指す。
「・・・・モンキ・・」
「もちろん変な奴じゃなくても、やるつもりだけどね。だから、ナナミ好きな人が出来たらちゃんと言うんだよ」
どこかでそんな約束をしたなぁ、とナナミは思い出し笑いをしながら「うん」とうなずいた。


ジョウイが結婚した、そう聞いたのはラダトの街に王国軍が集結しているところを偵察に行った先でであった。
クラウスに呼び止められて、振り向くと近づいてきたクラウスが「ジョウイがジルと挙式を行う」と告げた。
帰ってきて作戦会議が終わった後もナナミもモンキも口を閉ざしたままであった。

夕食を食べ部屋へ戻る途中、デユナン湖を見下ろせる崖の前へやってきた。ヨシノが昼間精を出して洗濯した白い洗濯物がはためいている。夕焼けの空にすべてが赤く染まっていた。
湖の匂いを風の中にかぎ取って、何だか切なくなった。
風はミューズを逃げ出した日の、ジョウイと別れた日の風と変わらなくて、切なかった。
ジョウイが結婚
聞いたとき耳を疑った。
確かに結婚してもおかしくない年齢ではある。
貴族社会では当たり前な程。
自分もモンキもジョウイも、いつかそれぞれ結婚でもするのだろうとは思っていた。だけどそれは遠い未来だとどこかで思っていた。いや・・思いこんでいた。
別れても敵同士となってしまっても、いつかのようにまた3人で笑い合いながら居られると思っていた。
(だけど結婚なんて・・・)
結婚すれば何が変わるのだろう?名前?地位?居場所?・・自分自身?
もう一緒にいられないのかな?
もう戻れない?
(約束したのに・・ジョウイのばか!)
遠い日の約束。幼い約束。ジョウイはもう忘れてしまったのかな?
アイリの恋をするめを見たとき、ジョウイに好きな人が出来たと聞いたとき、そして結婚したと聞いたとき。
心のどこかで「嫌なもの」がざわりと音を立てた。
嫉妬、と呼ばれるモノなのかはわからない。ただ、寂しかった。
このままで居たいとどんなに駄々をこねても周りはナナミだけを置いていく。その場にナナミだけがしがみついても、一人取り残される。
恋をすれば大人という訳ではない。
結婚すれば大人という訳ではない。
だけど確実に大人の階段を上っていく、自分はこのままで居たいのに、置いていかれる。
(置いて行かれるくらいなら、自分から先に進んじゃおうかな)
ナナミだって女の子。恋に憧れる年頃である。そういう夢を見なかったと言えば嘘になる。
おまけにこの同盟軍には目移りしそうな程美男美女、美少女美少年そろっている。純粋にかっこいいな〜と思える人が多い。
だけど好きだなと思える人は居なかった。
恋をする前に、恋をする以前にたった一人であらゆる重圧と戦っているモンキが何よりも気がかりだったから。
戦場に出れば同じ祖国の人間を殺さなければならなくて、ハイランドの驚異に恐れ戦火から逃げまどう人々の希望を背負わなければならなくて、戦いの前線で仲間が倒れても涙を流すことも出来ず、悲しい事があっても表へ出すこともままならない。
引き受けると決断を出したとき、モンキを強引に連れて逃げ出そうと思った。あの時ならばまだ逃げれたのに、今のモンキはジョウイを助けようとしている。ジョウイの考えを読んだ上で助けようとしている。
戦い勝つ事で争いを裁き、その上で取り戻そうとしている。
側にいれば、どうしてもわかってしまうから、逃げようとは言えなくて。
それを近くで見守ることしか出来ない自分が哀しかった。
だけど、モンキ。ジョウイは結婚しちゃったんだよ。
だけど、モンキ。ジョウイは王族になっちゃったんだよ。
もう、戻れないかもしれない。昔みたいに3人一緒に居られないかもしれない。
もう2度とあの時に戻れないのかな?

「元気ないね」
「え?」
振り返るとシーナが少しだけ微笑んでナナミを見ていた。
「元気ないね、ナナミちゃん」
「ううん!元気だよ!」
「から元気は見てるこっちが痛々しいよ。どうしたんだい?」
シーナはナナミの隣に歩み寄るとその場に膝を抱え座り込んだ。ナナミも何となく座り込む。
「ん〜〜〜悩み多きお年頃なんだよ」
「俺も悩み多き年頃だけどさ、何々?恋の悩みかい?」
「似たり寄ったりかな?・・・ジョウイが結婚しちゃってびっくりしちゃって」
「ジョウイって言うとハイランドの何タラ軍団長で皇女様と結婚するって言う・・・?」
「うん。・・・寂しいなって思って」
「寂しい?」
「・・・変かな?」
「ナナミちゃん、そのジョウイって奴とは幼なじみなんだよね?」
「うん。そうだけど・・」
「俺さ、ナナミちゃんとそのジョウイって奴は好き合ってるもんだと思ってたよ」
「違う違うよっ!私とジョウイはそんな関係じゃないよ!!!」
ナナミは怒ったように声を大きくした。何故かはわからないが、そう言う事を言われるのがとてもイヤだった。ジョウイとナナミ、幼い頃からずっと共にいた。
大きくなるにつれて、女の子の注目を集めるジョウイの側にいるナナミに街の女の子達は激しく嫉妬した。よく陰口を言われたし、ジョウイとの噂も流れたりした。
だけどそんな事気にしてなかった。人は人、自分は自分、自分の素直な気持ちを大切にしているから、噂に流されて・・という感情もわかなかった。
ジョウイが、自分が、自然の流れでお互いを「好き」になったのならば、その気持ちを大切にする。
だけど・・誰かに流されて自分の想いすら流される事をナナミは良しとしなかった。
流されて「意識」するのならば、それは良いと思う。だけど当人達にそんな意識がないときにやられる噂は、自分たちの神聖な関係を汚されたようで悲しかった。
そんなんじゃないのに。違うのに。太陽の下で笑い合うように、一緒に過ごす一時がとても大切だと思えるような・・・そんな「大切な物」なのだ。それを端から見てそう見えるというだけで、心にもない噂にされて、誰かに何かを言われるたびに、ナナミはひどく寂しく悲しい気持ちになるのだった。
「違うよ・・」
悲しそうに呟き俯いたナナミにシーナは黙って肩に手を回した。はっとしてナナミがシーナを見るが、彼の表情はいつもの女の子をナンパしているときのような軽い感じではなく、まるで妹や年下の子供を安心させるかのようなものであった。
「思ってたけどな、さっき”寂しい”って言ったろう?あれで違うんだなってのはわかったよ」
「シーナさん?」
「ホント、そのジョウイって奴とモンキは、ナナミちゃんにとって掛け買いのない大切な人なんだな」
「うん!」
「だからか、モンキも元気なくてさ、ぼんやりしてたんでどうしたんだろって思ってよ」
「モンキが!?」
「あ、あぁ・・」
「どこでっ!?」
「え?あ・・牧場に向かってたような・・」
「ありがとう!シーナさんっ」
慌てて立ち上がり駆け出そうとするナナミをとっさに呼び止める。
「ナナミちゃん!待ってっ・・」
「何々!?」
「今度デートしない?恋のレッスンくらいはするべきだと思うよ」
ナナミは勢いよく身体事振り返った。

「まだいい!!!!」

その笑顔は今まで見たナナミの笑顔の中で一番大人っぽくて一番可愛くて、一番素直な笑顔だった。
そしてそのまま振り向きもせずに走り去る。ぽつん、と置いていかれたシーナはひまわりのような笑顔を目にして苦笑した。
「女の子にあんなに可愛く振られたのは初めてだなぁ・・」
くしゃと髪をかき上げてそのまま微苦笑は夕焼けに溶けて消えていった。

『モンキが元気が無くて・・』そうシーナに聞いたときに、何も考えないで「行かなきゃ!」って思った。
それで何となく何となくだけど、わかったの!
今の気持ち、自分の気持ち、正直な私の気持ち。
恋はまだいい。恋愛はまだいい。
そんな事より大切なことが沢山あるから、だから自然に任せようと思った。唐突に、シーナと話していてそう思った。
周りがどうだろうと考えない。自分の気持ちのまま生きていこう。
好きな人がやがて出来たら、それで良いじゃない。こんな可愛いナナミちゃんを放っておく人は居ないだろうけど、その時はその時で考えればいいじゃない?ね?
今はまだモンキとジョウイが誰よりも何よりも大切なんだもん、例えジョウイが結婚して他の誰かを大切にしても、変わらない。
私は変わらないからね!ジョウイ!
寂しいけど、でも変わらない。
大切な人に違いはない。
だけど、まだ恋はいい、まだいい。
純粋に人を好きで笑って一緒の時を楽しみたい。

「モンキ〜〜〜〜!!!!」
牧場に出る扉の所から大声で呼びかける。モンキはそれを見て照れくさそうにだけどほっとしたように微笑んだ。
季節は秋から冬へと向かおうとしていた。

<終わり>


【感想切望!(拍手)


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