獣達の災難
戦火のまっただ中とは思えない程、のどかな陽射しの中しろくま城で生活をする人々はそれぞれの時間を過ごしていた。 戦火を逃れて来た人々だと言うのに、その表情は温かい陽射しに負けることもなく、明るく活発な雰囲気で城全体を包み込んでいた。 それを城の入り口近くの木影で眺める2人がいた。いや、2匹と一匹が。 「シロ、ここはとても優しい場所だね」 「アオォォォォーン」 「不思議だよ、ここに居ると僕の心の中も温かくなっていくようだ」 「アオォォーン」 「シロもかい?」 「アオン」 「ずっとこのまま戦争なんて無くなればいいのにね・・」 「アオーンアオン」 「ん?あれは何だろう?」 「アオォォ?」 キニスンの視線の向こう、ちょうど商業地域と呼ばれる防具や紋章を売っている所に何故かかかっている洗濯ものをひっさげて、何かが飛んだり跳ねたりして近づいてくる。 「気のせいかな・・?」 「アオ?」 「ところで・・・ね、シロ。僕前々から思っていたんだけどさ・・」 「アンォ?」 「ここの城主・・つまりくま軍のリーダさん・・モンキさんの城なんだよね、ここ」 「アオン」 まるで肯定するかのようにうなづくシロ。 その会話の合間にもそれは近づいてくる。 「なのになんで仲間の装備品や紋章や札代を自腹で出してるんだろうね・・」 聞いた話に寄れば・・兵士達は自分たちで倒したら貰える敵(モンスター)のお金などはそのまま自分のものしして良いらしい。 逆に軍師を始め普段敵と戦闘したりしない人々は「生活費」や「支度金」所謂給料が出ているらしい。 が、主であるモンキにはそれは一切ない。 世が世なら代表取り締まり役もしくは社長なのであるが、彼は自分で稼いだ資金のほとんどを仲間の装備品や道具に使っている。 ささやかな贅沢といえば、たまに見かける崖のぼりゲームや(カモられてるらしいが)ちんちろりん(カモにされている)そして、街などで見かけるレシピお買いあげのみである。 何とささやかな贅沢であろうか。 おまけに仲間をスカウトするのも、率先して敵を倒しに行くのも、あげくの果てにおつかいや偵察までモンキは何も言わずに行っている。 ・・まるでパシ・・・・・いや、何と働き者だろうか。 「アオォォーン」 「あぁ・・僕らの紋章もモンキさんの汗と涙と鼻水の結晶なんだよね。そう考えると勝手に売り払うのが気に引けるなぁ・・」 「アオォォォ・・・アオン」 「シロも悪だねぇ・・」 「アオン・・アオォン」 「ふふふふ」 「アオアオアオ」 そう、彼らは密かに貰った装備品を安物と取り替えたり、売り払っていたのだった。 訳はそう、あまり戦闘に連れていって貰えず、取り分が足りないから、につきる。 「それにしてもあの洗濯物はよく動くなぁ」 「アオーン」 「あんな高いところに洗濯物普通干さないよね・・・ヨシノさんだろうけど・・」 「アオッ!!アオォ!?アオォォォォォォォォォォ・・・・・・」 心なしか恐怖している声をシロが上げる。 尻尾も垂れ下がり、耳は完全に寝ている。そんな様子を見てキニスンは困ったように微笑んだ。 「シロ・・ヨシノさん恐いんだね」 「アオッ!」 「・・・・なんでも経験者によれば、それはそれは気持ちが良かったそうだよ」 「アオッ?」 「でもあれってセクハラだよね・・」 「アオッ・・・・アオォォォォォ・・」 「シロもかなり狙われてるよね」 「・・・・・アオォ」 「そう・・・・あの茂みからとか!」 ガサッ 「!!!アオン!!」 道を挟んだ茂みが揺れる。ほんの少し茂みは沈黙をしたが、観念をしたのか茂みの中から葉っぱを頭に乗せたヨシノが出てきた。 「あらあら、ごめんなさいね」 ヨシノは少しも悪びたような感じを出さず、さも当たり前のように1人と1匹に近づいた。 「ヨシノさん・・・ガボチャやゲンゲンさんの時と同じ作戦は通じませんよ」 「あらまぁ・・・そう?」 「アオン!」 ガボチャやゲンゲンの時・・それは茂みに潜み油断を突いて連れ去る事をさす。 細腕で清楚なイメージのヨシノは実は腕力がすばらしかった。 「それじゃ正面から、行きましょうか」 晴れやかに微笑むと、彼女はいきなりシロの身体を掴み上げた。すばらしい腕力である。キニスンは慌ててシロの尻尾を掴む。 「ちょ、ちょっと!シロは僕がいつも洗ってるんです!」 「あらまぁ」 「アオアオ!!アオッ!」 2人はシロの悲鳴に気づかず、お互い自分の方へと力の限り引っ張った。 「アオォォォォォォ〜〜〜〜〜〜!!!」 シロの悲鳴が響き渡ったその時であった。 いつの間にやら近づいていた洗濯ものを引っさげた赤い小柄な物体が2人と1匹の上へと墜落した。 「アオッ!」 「あらまぁ」 「うごっ」 声からもわかるようにキニスンが一番ダメージがひどかった。 そう、彼の後頭部に激突したのだ・・それは。 「あら?ムクムクさん」 シロをクッションに(ひどい)したヨシノは対したダメージもなく、冷静に墜落物の名前を口にした。 頭から突っ込んだ為にキニスンと同じく目を回しているムクムクは洗濯物を引っさげて落下地点に仰向けに倒れていた。 「いたずらしちゃ、めっ。また洗わなきゃいけないじゃない」 どうやらあんな不可解な場所に干してある洗濯物はやっぱりというかヨシノの仕業であった。 彼女はそれだけ言うと無情にも倒れているムクムクから洗濯物をひっぺがすと、去っていった。 「ムムー・・・」 ムクムクはそれでも目覚めない。かくゆう主人のようなキニスンもしかり。 ヨシノという嵐は去ったが、一難去ってまた一難。 ヨシノという恐怖がさってほっとしていたシロの背後に災難は降り注いだ。 「ムクムク見つけた〜♪あ!シロとキニスン君も!」 彼女は手に持ったバスケットを揺らすと、にっこりと微笑んだ。 気絶している2人・・いや1人と1匹と、そしてその笑顔を毛を逆立てて受け入れた獣が1匹。 災難の名はナナミという・・・ (FIN) |