青の悲劇
(問題)イメージカラーが「青」といえば?
「何言ってんのよ!青といえばフリックさんに決まってるじゃないの!!」 美しく咲きほこる花に囲まれた本拠地3階の庭園で、賑やかな声がする。 シモーヌとヴァンサンの特等席に座り、優雅にお茶をしながら、『恋する乙女』こと、一部の人間からは “ストーカー”とささやかれているニナが、拳を力強く振り上げ力説していた。 「確かに“青雷”って呼ばれてるくらい、“青”がイメージな人だよね・・・」 彼女の隣に座って、手に持った紅茶の入ったカップをソーサーに戻しながら、テンガアールがつぶやく。 そしてさりげなく 「でも僕はヒックスのイメージカラーが青だと思ってるの」 と少し頬をそめながらつけ足す。 「私はジョウイだと思うよ〜」 テンガアールの隣の席に座っているナナミが、クッキーをつまみながら言う。 そして隣に座りだまって、紅茶を飲んでいる人物に問いかける。 「アンネリーちゃんは?誰だと思う?」 「・・えっ、私は・・・・」 生来、引っ込み思案な性格の上、ズバズバと物を言う人物に囲まれていつも以上に萎縮しているらしい彼女はうつむいてだまりこむ。 「フリックさんに決まってるよねっ!」 「ヒックスだよ」 「ジョウイだってばー!!」 「ナナミ、同盟軍内で、だってば」 「え〜えっ?そうなの?ん・・じゃあ・・・」 「ハウザー将軍!!」 ふいに後ろから大声で力強く主張した者がいた。 彼女達はそろって振り向く。 「ト、トウタ君・・・」 “ホウアン先生のお弟子さん”こと、トイウタは手に持ったバスケットを差し出した。 「ホウアン先生が、ナナミさん達に、って」 「えっ?・・・これ?」 健康に良くて、香りも味もいいお茶です、って届けるように言われたから・・・」 中身をみると、たしかにお茶の包みが入っている。 「あ、ありがとうございますって、先生に伝えておいてもらえる?」 「はい」 「・・・で、それで、さっき何て・・・?」 「あぁ、すみません、お話きこえちゃって・・・」 それでつい“青”がイメージカラーは『ハウザー将軍』だって叫んじゃったんです。と苦笑いを浮かべた。 「ハウザー将軍、たしかに青い軍服着てるけど・・・」 「青というより」 「黒、って気が・・・」 ナナミ、ニナ、テンガアールの三人が声をそろえて言った。 「「「するよねぇ〜!!」」」 「僕は“青”は将軍だと思ってます!!」 「トウタ君、以外と頑固だねぇ」 「心酔してるって感じだよね」 ナナミがトウタに『ここ座って〜お茶しようっ』と、イスをすすめる。 「失礼します」と、トウタがすすめられたイスに座りかけた時、それはものすごい速さでやってきた。 ガッターン イスが風にあおられて倒れる。 そのイスに座ろうとしていたトウタも、同じくバランスをくずして、しりもちをついた。 「だ、大丈夫?」 「あ、はい」 「なんなの?」 “それ”は突風をともなってやって来て、庭園の壁ぎわに咲きほこっている花達の中におもいっきりつっこんだらしい。 にょきりと花と緑の中から、足がはえている。 「あ、足がはえてる・・・」 「何ボケてること言ってるのよっ!ニナ!」 ボケとつっこみを呑気に繰り広げるニナとテンガアールの前では、にょきりとはえた足が、じたじたとばたついいた。くぐもった声で 「たすけてくれ〜」 とわめいている(らしい) 「あの・・はやく助けて上げた方が・・・」 アンネリーがおずおずと二人に声をかけて、足に手をかける。 それにならって、他の4人もそれぞれ足をつかむと、「うんしょっ!」と、まるで綱引きのように、思いきり引いた。 「は〜助かった!」 にょきりとはえていた足の持ち主、エルフのスタリオンが、その場に正座して深々と頭を下げた。その頭には、花びらや葉っぱなどついている。 「ケガはないですか?」 トウタが首をかしげながら聞く。 「慣れてるからな〜、それよりはね飛ばした気がするんだけど・・・ケガしてないか?」 「大丈夫ですよ、僕いつも『おくすり』もってますし・・・」 「ケガはなくても、危ないでしょう!」 突然ニナがスタリオンにつめよった。 今まであきれてはいたが怒るそぶりはまったくなかっただけに、他の4人もびっくりしてニナをみている。 「これ、みてよっっ!!」 ずずいっとつきだしたものを見ると・・・「I love フリックさん」と書かれた フリックの写真であった。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 彼女の指は、はしっこの折れ目を指しているている。どうやら先程のごたごたのせいで折れてしまったらしい。 そう。はしっこの・・・ほんの少しが。 「・・・ともかく、ここは小さな子供だっているんだから、走りまわるなら外でやってよね、スタリオン」 テンガアールが指をつきたてて、スタリオンにきつく言う。 ナナミもうんうん、とうなづくと、ふと何かを思い出したように「そういえば・・」と首をかしげつつ言いかけた。 ボスッ 「わっっ!!」 「あら・・マクマクさん・・・」 ナナミの頭に降り立った青いマントのマクマクはスタリオンに指をつきつけた。 「テンガアールさんのマネでしょうか?」 先程のテンガアールのポーズに似ている。 「ムムッー!」 マクマクは首をふっているようだ・・・首というより頭だろうか。ともかく“ちがう”といっているようにみえる。 「ムッ、ムムムー!!」 その小さな手をスタリオンにつきつけ、さっきよりも強い口調で鳴いた。 「・・・どうやら文句を言っているようですね」 「ナナミ、わからない?」 「ん〜と・・・『僕の大事にしているマントをよくも踏んづけたな!』・・・だって」 「マクマク?」 みるとナナミの頭の上で大きくうなづいている。 「おぉ〜!すごい!」 「え、へへへ、まぐれだよぉ!」 「踏んだ?」 対してスタリオンは首をかしげるばかりである。 「ムームムムッ!」 「えーと『とぼけてもムダだぞ、証拠はあるんだぞ!』・・・」 どうやら当たっているらしく、マクマクは大きくうなずいた。 「どうして判るの?」 「うーん。気がついたらムクムクと一緒に居たからかな?何となくね、判るくらいだけど」 あ、モンキも通じ合えるんだよ〜とナナミは付け加えた。 スタリオンは、首をかしげながら、マクマクの目を見て言った。 「・・証拠ってのは?」 「ムムーッ」(これだっ!) くるんと頭の上でふりかえると背中のマントを皆にみせる。たしかにマントの中央にくっきりと足跡がのこっている。 「でも、これだけじゃスタリオンさんだという証拠にはなりませんよね?」 これ、とマントに残る足跡を指して言う。 「ムムムーッ!」(たしかにこいつだった!) マクマクが言うには・・・。 温かい日差しがよく当たる湖のほとりで気持ち良く昼寝をしていた所に、ものすごいスピードで青いものがやって来て、自分をおもいきり踏みつけて走り去っていった。 この本拠地で、「ものすごいスピード」で「走る青いもの」というえば、スタリオン以外他ならない。 「・・・だ、そうだけど、本当?」 外野には「ムームームッムムッ」という、「ム」にしか聞こえない 言葉を長々と聞き、わかりやすくまとめてナナミがいまだに地面に座りこんでいるスタリオンに聞いた。 「ん〜」 腕をくんで首をひねっている。 しばらく眉をよせて、うんうんとうなっていたがやがてポンッと手をうち合わすと、 「オレじゃないや、じゃっ!」 とさわやかに片手を上げると立ち去ろうとした。 ボスッ!! 「うごっ!」 走りだそうとしていたスタリオンの頭めがけて、マクマクが体当たりをくらわした。スタリオンはそのまま頭からスライディングしてしまう。その上に立って、拳を振り上げつつ、 「ムッームッムム!!」 「“じゃっ!”ですむかーー!!・・・だって」 ナナミがすかさず訳して、他の4人の顔を見回した。 「証拠と、マクマクさんがおっしゃっている足跡とスタリオンさんの足を会わせてみては・・・どうでしょう?」 「そうね!」 「それが1番ですね!」 アンネリーの提案にテンガアールとトウタがうなづくと、まだ地面に寝そべっているスタリオンの足をぐいっとつかんでみる。 トウタはマクマクを抱え上げると、向き合って、 「ごめんね、じっとしててね」と声をかけると、マントの足形をスタリオンの足に近づけていく。 「・・・スタリオンがそのムササビをもう1度踏んだ方が早いんじゃないの〜」 そっと深重にマントと足形を近づけようとしていた二人は、その冷めたニナの一言に固まった。 確かに、その方が手間もかからず、ずっと早い。 「ムムムッ!」 「“あんな屈辱的な事は、もう二度としたくない!”」 「たしかにかわいそうですよ・・・」 「けど、あたしたちには、それ程関係ないし」 「う〜ん、もうすぐモンキも帰ってくるし・・・」 「・・ああっ、僕おつかいの途中だった・・・」 「ヒックス、修行さぼってるだろうしね・・・」 アンネリー以外の面々は、マクマクにそれぞれにこやかに微笑む。 そして口々に「ごめんねっ」と謝ると・・・。 ニナはスタリオンに冷たい冷水をかけ、起こし、テンガアールは逃げようとする青いマントのムササビをがっちりと捕まえ、それをうけとったナナミが「はいっ、ごめんねー痛くないからねー」と気の抜けた声で励ましつつ、なおもあがくムササビを無情にも、ベチャリと音をたてて地面に仰向かせて、トウタはそのマントが風にさらわれないようにしっかりと押さえつける。 「ムムームムームッムー!!!!」 「大丈夫、大丈夫!あとで私の手作りクッキーあげるからねっ!」 手足をおさえつけて、唯一のこのメンバーの中でムササビの言葉がわかるナナミが、マクマクの講義の声を受けて、答える。 ナナミの「大丈夫」という声は不安な時は、ひどく安心できる力強い言葉なのだが・・今、この時だけは、マクマクにとって・・・ひどく・・・恐ろしい言葉に聞こえた・・・。 まだふらついてるスタリオンの片足が持ち上がり、ナナミが押さえつけているマクマクの青いマントの上にゆっくりと降ろされていく。 そのマントにくっきり残る、「犯人」の足跡・・・。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「大きさが、違いますね〜」 よく走るエルフのスタリオンの足は、大きかった。 靴が丈夫な素材もののおかげで、その分さらに大きい。 アンネリーがきゅぽんっ!とどこからか出したのか、黒い羽根ペンを取り出すと、スタリオンの足形どうりに線でなぞる。 「ムムームムー!!」 マクマクが悲鳴を上げる。 アンネリーはそれにはかまわずに、スタリオンに「足を上げてもらえます?」と言って、微笑むばかりだ。 「ん〜〜〜大きいね」 「スタリオンじゃないよう〜マクマク」 「もっと、小さいですしね」 「ムームムムームッムー!!!!」 マクマクはかなり、怒っているようでじたじたと暴れている。 がばっ!!! そのマクマクを、いきなり抱き上げたのはニナだった。 彼女はじーーーーっと、足形を見つめると、抱き上げたときと同じようにいきなり、ぽいっ、とマクマクを放りなげた。 「な、ニナ??」 「・・・・・・・、その足形・・・」 ニナがぽっりと呟いた。 「足形??」 その場に寒い風が吹いた。皆が・・黙り込む。 そこへ・・・・・。 「あれ?何してるの?」 と声をかけた者がいた。振り向くとくま軍のリーダーモンキだった。彼の後ろに、数歩離れてたっているのは。 「ムムムー!!!!」 「”お前か〜〜!!!!”だって」 ナナミがのんきに通訳した途端、”青”がイメージカラーだと噂されていたフリックめがけて、マクマクが飛び掛って行った。マクマクの全身体当たりが決まる前に、ぼすっ!と、音を立てて「愛のブックベルト」でもって、はたき落とされた。 もちろん・・・ニナによって、だ・・・。 「危ないところだったわね・・・フリックさん」 「あ・・・あぁ・・・す、すまないな・・」 「当然ですよ・・・フリックさん・・・」 ニナは愛のベルトを握り締めたまま、フリックににじりよる。 「り、リーダー、またな!!」 そのまま数歩後ずさると、振り向いてものすごい勢いで、駆けて行った。 「待って〜〜フリックさ〜ん〜」 ニナもそれを追って、ものすごい勢いで駆けて行く。 残された者たちは・・・・。 「わ〜〜走る青い人って、フリックさんだったんですね〜」 「本当、ニナの言うとうり"青"ってイメージだねぇ!」 「青い疾風?」 「そうそう、そんな感じ」 残ったテンガアールとナナミが言いたい放題話し出した。 一方、話の流れに付いて行けずフリックとニナをぼんやりと見送ったモンキは、ぼーっと座ったきりなスタリオンとその脇にたちすくんでいるトウタとアンネリーに事の次第について問い掛けた。 「ふ〜ん」 納得したようにうなづくと腕を組んだ。 「青がイメージねぇ」 フリックにヒックスに、ジョウイに・・。 「トウタ君にとって"青"がイメージなのって、ハウザー将軍なんだ?」 「はいっっ!!」 マイクロトフやスタリオンという面々も「青」がイメージだと思うけど、何ゆえハウザー将軍なのだろうか。そう首を傾げるモンキの足元で一人、いや一匹、闘志を燃やすマクマクがいた。 「ムムムッー!」(おのれぇ〜逃げたなーっ!) 「まぁ、がんばってねマクマク」 「ムムムッー!ムッ!」(あの星に誓って必ず!) びしっと空を指差した。 「あれは月だよ、マクマク」 「!ムムー!」(おぼえてろよぉぉぉぉーっ!) 顔を少し茶色に染めて(赤には見えなかった)その場から雄叫びを上げつつ飛び去った。声が遠ざかっていく。 「そういえば〜」 ナナミが何か思い出したようにつぶやいた。 「そういえば、何?」 「んーあのさ、先月会議で決めたよね『今月の目標』この前」 「決めたね、そういえば」 軍の規律を守るために、規則を作った。一応会議で一月事に「目標」を作り、それを守らせるために破ったものは「罰」を与えるということに決まっていた。 「確か今月の目標って・・・」 「『本拠地内では緊急時以外は走らない』」 「「「・・・・・・・・・・。」」」 一同が無言になった瞬間、遠くで、悲鳴が聞こえた・・。 その後、フリックとニナは仲良く「本拠地の廊下拭き」をやっていたと言う。 そして・・・・フリックに(後日聞いた話によると、やはりニナから逃走中だったらしい)大切な愛用のマントを踏まれたマクマクは、日々にニナに隠れて、闇討ちをしようとしているらしいが・・・、未だかなっていないようだ。 フリックのマントにムササビのもみじの手形があれば・・・成功したのだろう・・。 その日が来るのが、楽しみだな、と最上階のベランダから2人と1匹を眺めて思った。 人の悪そうな笑みを浮かべるリーダーにフェザーは逃げ出したい気分になった。今日も今日とて平和な本拠地なのだった・・。 |