探偵とテレポート娘
それはある朝に起こった。 それまではいつも通り天気の良い日で、戦争中であるという事を忘れてしまいそうな程、平和な朝だった。 いつもの定位置で仕事の依頼者を待ちつつ、片手に持った小さなコインを指で小さくはねていた。 (平和だな・・・) ラダトの街にいた時は、実に忙しかった。 依頼内容は圧倒的に「浮気調査」が多かったのだが、しかし、ここに来てからというもの依頼者は主に同盟軍を率いる若き(すぎる)リーダーのみ。 その依頼内容も仲間の身辺調査、及び仲間になってくれそうな人物を仲間にする方法に限られている。おかげて暇な時が多くなった。 特に今日は、お得意様のリーダーがグリンヒル奪還のために留守にしている。 (ちんちろりんでも、してくるかな?) ふとボンヤリと思ったが、以前リーダーの依頼でシローに勝負を求めたとき、すっからかんになってしまった過去を思い出して止めておく。 (ちっ、ラダトじゃ、暇なんてなかったんだがな) けれどここの、何とも言えないのほほんとした人々の中にいるのは、キライじゃなかった。 人を疑いつつ生きていく世界にいるよりも、ここ特有の安心感が好きだった。リッチモンドが自分に酔いかけたその時、上から、そう、頭上から人が落ちてきた。 どっす〜ん 「いたたた・・・あっ、ごめんなさいっっ!!」 上に・・・自分の腹の上に正座して頭をぺこりと下げているのは、リーダーに呼ばれない以外、めったに持ち場を離れないはずのビッキーであった。 「うっ・・・ぐっっぐっ」 (早くどいてくれっっ!!) そのおっちょこちょいで、天然ボケな性格もキライではなく(むしろ好ましい)黙っていればおしとやかな美少女に、上にのられてうれしくないわけはなかったが・・・腹の上は辛い。 実に苦しい。 下手したら窒息してしまう。 「はい?」 しかしビッキーは、リッチモンドの言いたいことがわからずに、彼のお腹の上に正座したまま首を傾げた。 「ぐる・・・じ・・・」 「お嬢ちゃんや、リッチモンドさんが、苦しいって言ってるよ。早くそこをどいてあげなさい」 そこにリッチモンドの茶飲み友達の物知りな”知恵袋”ことタキがやんわりと助け舟を出した。 「わっわわわっっ、す、すいません〜」 彼女は、そそくさとお腹の上から、立ちあがる。 ようやく腹の圧迫感から開放されて、体勢を整えるといつものように片手をポケットに突っ込んで、いつものポーズをとる。 「仕事、かい?」 そしてダンディに決める。 別にカッコ良く決めたいわけでもなく、もうすでにリッチモンドにとっては、このポーズと、この台詞は決り文句だったのだ。 朝起きたら「おはよう」と言うように、正義の味方に決めポーズ・決めゼリフがあるように、いつもやっていることだ。 逆にやらないでいると妙に決まらない、様にならないような気がして、調子が出なくなる。 そんなわけで、腹筋の痛みに耐えながら(やや前かがみになって)いつものポーズをばっちりと決める。 片手に持ったコインを指ではね、それをキャッチ・・・ チリーン・・・コインは彼の掌ではなく、足元に落ちた。 シーン・・・ 周りにいた者達から、一身に視線を受ける。 「ふっ、オレとしたことが・・・」 ダンディにつぶやいてみるが、動揺しているようだ。 足元のコインを、さりげなく、靴で踏む。 「それで、このオレに仕事かい?」 「えっ?あっ、はいっっ!!」 彼女はじーーっと、コインを踏んづけたままのリッチモンドの靴をみていたのだが、話かけられて、勢い良くうなづいく。 「探しもの?・・・さすがに何でもお見通しのオレでも、分からないな・・・」 彼は渋くキメると、「で、それは何だ?」ときいた。 「ゴンちゃんなの!」 「・・・・・・」 「・・・・・・」 「・・・ゴンちゃん?」 さすがに「おばあちゃんの知恵袋」ことタキにも、近くにいたフリードにも゛ゴンちゃん゛が何なのか分からなかったらしい。 「うん、ゴンちゃん。レインさんに、もらったんですけど」 レイン・・・絶大な権力を誇っていた赤月帝国を、解放軍を率いて打ち倒し、今のトラン共和国を作り出した英雄。 「・・・もらったのか・・」 うわさの英雄は、新生同盟軍を率いているリーダーモンキに頼まれて、力を貸してくれている。 リッチモンドも何度か彼に会ったが、物静かで、とてもじゃないが「ゴンちゃんていうんだ、かわいがってやって」とか言うような人物ではない。 「・・・で、その犬・・・」 「犬じゃないですよ〜」 すかさず否定された。 「じゃぁ・・猫か」 「ちがいます」 「・・・じゃぁ、『ゴンちゃん』てのは、何なんだい?」 「ゴンちゃんです」 「・・・・・」 その場にいた者達は、一様に『だめだ、こりゃぁ』と、心の中でつぶやいた・・・。 断る訳にもいかず、リッチモンドはその依頼を引き受けた。断るのは、「仕事はパーフェクトに・・・」の、自分のプライドに反する。 ビッキーによると「ゴンちゃん」は、昨夜彼女が寝ぼけて、テレポートさせてしまったらしい。 寝ぼけていたので、いつものようにはいかずに、城のどこかにテレポートされた可能性が高い、という話だそうだ。 何故「城のどこか」と分かったかというと、朝から泣きわめくように、「ゴンちゃん、ゴンちゃん」と騒いでいたビッキーが、うるさくて仕方なかったルックが教えてやったそうだ。 (それなら、その「どこか」も教えてやれよ・・・) しかし彼の性格の悪さから見ても、『城のどこか』を教えてやっただけでも、上出来だろう。よほど、うるさかったらしい。 手始めに、現場へと赴いた。 「なぁ、ビッキー・・・もしかして立って寝てるのか?」 案内して来た彼女は、『どうしてそんなことを聞くんだろう?』という顔で、「はい」とうなづいた。 「・・・疲れないか?」 「慣れてますから」 「そ、そうか・・・」 次にに貴重な情報をくれた、ルックに会いに行く。 『約束の石版』に背を向けて、立っている。 (まさか・・・こいつも立って寝てるのか・・・) 「よう、ちょっと話を聞き・・」 「何か、用?」 実にそっけなく、冷たい声にさえぎられる。 「あのね、あのねっ、ルックさん!ゴンちゃんの事なんだけど」 「知らないよ」 無表情の中に、どこか「うんざり」と言うような声音だった。 「え〜っえ〜っ、だって城の中って」 「まぁ、待ちな、ビッキー」 リッチモンドは、ダンディに彼女を止める。 「なぁ、ルック」 「何か、用?」 「用か、あるぜ。これだけでいい教えてくれないか?」 「・・・・・」 「『ゴンちゃん』ってのは、何だ?」 「・・・知らないね」 「ぬいぐるみ、だろ」 「・・・・・・」 「違いますっっ!!」 「いい加減にしてくれない?僕は忙しいんだ!」 「わ、分かった行く!」 ルックが杖を、少しかかげ上げたので、あわててうなづく。 下手したら風の紋章の力を使われてしましそうだからだ。 リッチモンドはビッキーの腕をつかむと、エレベーター前まで走る。 「ビッキーあとは、俺にまかせて、いつもの所に戻りな」 「戻りませんっ!ゴンちゃんの一大事ですから」 「しかし・・・な、移動したい奴が来たら困るだろ?」 ビッキーが邪魔だということではなかったが、彼女がいるといつもはスムーズに行く調査がうまくいかない。 「大丈夫です。張り紙出してますから」 「・・・張り紙?」 「張り紙です!だから私、ついて行きます!」 何だか判らないが、意志は固い。 彼は仕方なしにうなづいた。 「・・・何をしとるんじゃ、乗るのか?乗らないのか?」 ふいに話かけられた。 エレベーターの前に、これまたいつも立ちっぱなしのアダリーだ。 (こいつも・・・立って寝てるんだろうな〜) いや、下手したら寝てさえいないのかもしれない。 リーダーの話によると、夜中に目が覚めて下に降りて来た時も、この場所にいていつもと同じ決まり文句を言うらしい・・・。 それについて聞きたいものだが、脇で見ているビッキーの期待に満ちた眼差しが気になって言えない。 「いや・・・それより、じいさん」 「わしはじいさんではない、世紀の大発明家アダリーじゃっ!」 「アダリーさん!ゴンちゃん!!知らない?」 「何?ゴンちゃんじゃと?」 「そう!!ゴンちゃん!!」 「おう、あのうまそうなものか!」 「うまそう・・・?食えるのか?」 リッチモンドがようやく得た情報にくらいつく。 「おう!うまいぞ〜」 「食べちゃダメですっっ!!まさか、まさか・・・」 ビッキーが、わずかによろめく。 「な、なに、娘!食ってはおらんぞ!この大天才が、拾い食いすると思うか?安心せい!!」 アダリーもそれには驚いたらしい。 怒ってうっかりテレポートさせられたら、たまらない。 だが、しかし、彼女は゛うっかり者゛であった。 「アダリーさんの、ばかーーっっっ!!」 彼女は思いっきり杖を振り下ろした。 その瞬間、アダリーは忽然と姿を消した。 「ビっ、ビッキー!」 せっかくの手掛かりが!と怒って振り向くと… 「ゴンちゃんが、ゴンちゃんが…ひっく」 杖を抱きしめて、わずかにうつむいて泣きじゃくる彼女がいた。 「・・・・・」 怒る気が一気に失せてしまう。 リッチモンドはそっと彼女の頭の上に手をのせると、ぽんぽんと軽くたたく。 「聞いてなかったのか?アダリーのじいさん、食べてない、って言ってたぞ」 「ホント?」 「このダンディーリッチモンド様が嘘をつくかよ」 彼女はその言葉を信じたらしく、「良かったー」と笑顔を向けた。 その後二人は城内のありとあらゆる所へ行き、聞き込みをした。 以下はその内容である、 <医務室> ホウアン「ゴンちゃん?いいえ、見てませんよ」 トウタ 「いなくなっちゃったんですか?一緒に探して上げましょうか?え?見てませんけど」 <バクチ場+兵舎> シロー「よぉ、何してんだお二人さん、デートかい?あん?ゴンちゃん?何だ?それ…知らねーなぁ。・・・・・・・あぁっ、バクチのかたに取り上げた物の中にないか?ないない、勝負する気ないならさっさと行きやがれ」 ギルバード「知らぬ…」 <道場> ロンチャンチャン「ホワァチャー!!」 ワカバ「ゴンちゃんさんですか?すみません、わかりません」 マイクロトフ「ゴンちゃん殿、ですか?さぁ、俺には…」 カスミ「ゴンちゃんさん?あぁ、ビッキーさんの…いいえ、見かけませんでしたよ。一緒に探しましょうか?少しは力になれると思いますけど…」 ヒックス「あ、こんにちは。リッチモンドさん、ビッキーさん。え?ゴンちゃんです…か?すみません…誰なんですか?」 テンガアール「ヒックス、ゴンちゃん知らないの?」 ヒックス「うん…ごめん、テンガアール」 テンガアール「ゴンちゃんはビッキーの大切な友達だよ」 ヒックス「え?じゃぁ、いなくなったの、大変じゃないか!リッチモンドさん、僕も探しますよ」 テンガアール「修業は後で、ね、ヒックス!」 ヒックス「うっ…」 <酒場> ビクトール「おっ、リッチモンド!一緒に飲むか?あぁ?ゴンちゃんだ?あ、ああビッキーの…そうだなぁ、フライにでもすると、うまいぞーあれ」 (注)以後ビッキーのテレポートにより、三日間程行方不明、 フリック「…バカクマ…。えっ、あっ、オレは知らないぜ」 レオナ「さぁ、見かけないねぇ…」 ハンフリー「・・・・・・・・・・」 <食堂> ハイ・ヨー「ゴンちゃんであるかー?知らないヨ〜。食べてないかって?ヒドイあるよー、うちの食材はちゃんとしたところから直入あるよー」 カミュー「おや、リッチモンドさん、何やらお疲れのご様子ですね、レディも…不安気な表情で、どうかなさったのですか?…えっ?ゴン…ちゃん殿、ですか?…さぁ、わかりませんね…お力になれなくて、残念です」 「はぁ…疲れたな…」 二人は城中を歩き廻り、「約束の石版」のある広場へ戻って来ていた。 探偵業を始めて、もう何年にもなるが今日のように疲れる調査は初めてのような気がする。リッチモンドはコートのポケットから、聞き込みをした人物と証言を書き記したメモを見る。 それによって゛ゴンちゃん″のことで、わかることは…。 1. おいしいらしい 2. フライにするといいらしい 3. 生物らしい (…ヒツジ?いや、そんなでかい生き物を、ビッキーのまわりで見たことないしな…。にわとり、か…魚、か…) 「あれ?二人とも、こんな所で何してるの?」 「あっ、モンキさんっ!」 振り向くと、キバ将軍と他のメンバーを引き連れたくま軍のリーダーが、リッチモンドとビッキーという、珍しい組み合わせの二人を不思議そうに見ていた。 「あっ、ああ、ちょっと仕事でな…」 「そうなんだ…」 「あっあああっっっ!!レインさん!!レインさーんっ!!」 モンキの影にいて、同じように不思議そうに見ていたメンバーの中に、元解放軍リーダーの顔を見つけて、彼女は走りよって行った。 「な、なんだい?ビッキー」 「ごめんなさいっっ!!レインさんにもらった、ゴンちゃんを…」 「え!?た、食べちゃっ…たの?」 「ちがいますっっっ!!」 「レインさん、ゴンちゃんって?」 レインの脇に移動してきたモンキが、彼に尋ねる。 「それより、行かなくて、いいのかい?モンキ」 振り向くと後でキバ将軍が睨んでいた。 フィッチャーの伝言で、急いで本拠地に戻ってきたのだ。何か急を要する知らせがあるのだろう。 眼差しが、「こんな所でぐずぐずしているヒマはありませんぞ!」と語っている。 それを見たモンキは、あきらめたようにため息をつくと、「それじゃあ、またね」と言って、行ってしまった。 その場に残ったのは、レイン、ビッキー、リッチモンドの三人だけである。 「それでよ、レインさん、ゴンちゃんってのは何だい?」 「リッチモンドさん、ゴンちゃんはゴンちゃんだって、さっきから言ってるのにー」 「…それじゃあ、普通の人にはわからないよ、ビッキー」 「えーえーえー?そうですか?」 まあそれがビッキーらしくて、よいのだが。 「オレの予想はだ、ズバリ…鳥!ニワトリか何かだろう!」 「ちがうよ」 「んっ…じゃあ…何なんだ?」 「そうだね…ヒントをあげよう…」 対して元リーダーは、腕を組むと、人差し指を一本ぴんと顔の前に立てた。 「喰えて、フライにすると美味いってのは、知ってるぜ」 「フライ…もしかして言ったのビクトール?」 「ああ、そうだが…」 「ビクトールらしいね…」 「ゴンちゃんは食べちゃダメなのー!!」 ビッキーが横でわめくが、まったく動じていない。 「大丈夫だよ、ビッキー。食べようとするのは、ビクトールくらいだろうから。パーンも、いたら、危険だろうけど・・・・・」 グレミオは、あの過保護な付き人は、自分がそれを食べようとすると、大泣きになって止めるだろう。 薬用としてもあるから、逆に喜んで食べさせようとする可能性もあるのだが…。 「…ゲテモノのたぐい、か…」 「ゲテモノって、何ですか??」 いつものように怒るかと身構えたが、「ゲテモノ」という単語を知らなかったらしい。 「う〜ん、まあ、そうだろうね」 「でっ、ヒントってのは?こうなったら当ててやろうじゃないか」 「ヒントかい?じゃあ・・・・・・・ヒント1…緑色」 「み、緑色…?」 「そうなの、緑色なんですよ!!」 「…そうだね・・・・・・あぁ、そう…あんな感じの…」 とレインが指した先には、約束の石版の前に立つルックがいた。 「…人を指すなって、君の口うるさくておせっかいな誰かに習わなかったのかい?」 「人を、ね、それはよく言われたね。けど僕が指しているのはルックじゃないよ」 「……」 皆の目がルックの足元に集中する…彼と石版の間あたりに何か緑色の生き物がもぞもぞと動いている。 「ゴンちゃん!ゴンちゃん!!」 ビッキーが、慌てて駆け寄る。 彼女が突進してくる前に、ルックがテレポートで、レインとリッチモンドの隣に避難してくる。 心なしか青ざめているようだ。 「いつから、あそこにいるって知ってたんだい!レイン!」 「やっぱり苦手だったんだ、カエル」 「――!!」 「おっ、おいっっ!!やめときなって!」 しばしボーゼンと、『ゴンちゃん』を見ていたリッチモンドが不穏な空気を感じて我に返り、慌てて止めに入る。この二人が本気で暴れたら、この城はただでは済まない。 必死になって止めに入る。 「さっき気付いていたんだよ。話している途中で墓場や船着場に通じる入り口があるだろう?あそこから何か緑色の生き物が跳ねて来るから…ゴンちゃんだろうな〜って」 それから彼はにっこりと笑ってこう言った。 「君って…三年で少しは成長したかと思ったら…根本的にはまったく変わってないね!」 「誉め言葉だと思っておくよ、ルック」 表面状は実ににこやかに、だがリッチモンドには二人の間に火花が散っているように見える。 間にはさまれたリッチモンドは、生きた心地がしない。 「みゃあ…」 いつもはおとなしくシャツの中にいる飼い猫のビアンカが、主人を見上げて励ますように鳴く。 今の彼の唯一の味方だった。 そこへ元気な声がわって入ってきた。 「リッチモンドさん、探すの手伝ってくれてありがとうー!!ねっ、みてみて!!かわいいでしょ?」 彼女の掌の上に「食用カエル」として有名な種のカエルがいた。 ゲコ、ゲコゲコ 「うっ……!!」 どうやら本当に苦手らしいルックが、鳥肌をたててざっと後ずさる。 「大きくなったものだね」 対してレインはまったく平気な顔して、平然と“ゴンちゃん”の頭をなでる。 (さすがは英雄だ…な…) 自分にはとてもマネできない。 ミリーのボナルドにも恐れ入ったが、ビッキーのゴンちゃんも負けていない…。意外とあの二人は、気が合うのではないだろうか…。その二人の会話を想像しかけて、慌てて首を振る。 あまりにも恐ろしい光景だから、だ。 「ほらっ、ゴンちゃんもあいさつしないと」 ゲコッ シャツから顔を出していたビアンカが、その低くて野太いカエルの声に反応して、中へ隠れる。 (――ビクトールとアダリーへの報告書に追加しておくか……) 曰く“ケダモノがお好き”と。 結局、リッチモンドはビッキーから“依頼料”をもらわなかった。 彼女にお金がなかったこともあるが、自分が調査し発見したわけではない上に、彼女も手伝ったということもある。それは自分の信条に反する―という訳だった。 ―が、もう一つ…理由があった。 お礼にと差し出したものは、ゴンちゃんが生んだ卵で、来年の春には大きくて「かわいい」ゴンちゃんズが生まれてくる…というものだった。もちろん彼は丁重に断った。 以来…彼は船着場へも、ビッキーのそばへも、用がないかぎり行かないようにしている。 春が怖い、と時折、つぶやいていると、後にタキが皆に話していた。今日も平和な本拠地の小さな事件であった…。 後日談 くま軍の若きリーダーモンキはミューズへ向かおうと、メンバーにビクトールを選んだのだが・・・・。本拠地のどこにも陰も形もなく、彼の行方は…その後本人が自力で戻ってくるまでは、藪の中、だったらしい…。 アダリーの行方は、ようとしてしれない…。 <Fin> |