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ヤマネコ騒動記 第8話
〜ラディウス編



波風を頬に感じながら、僕はキッドのことを思い出していた。
”僕”になったヤマネコに腹部を刺されたキッド。彼女は無事なのだろうか?
僕さえ、もっと気をつけていれば。
僕さえ、もっと強ければ。
ヤマネコは最初から僕が目的だったんだ。僕は夢で知っていたのに。
あの夢を見た意味が無いじゃないか。
僕が、もっと・・・・・・・・。
「セルジュ、船にでも酔ったのか?」
「え?」
「先ほどからぼんやりしとるからのぉ」
「あぁ。大丈夫だよ」
「疲れただろうが、もうしばらくで着くからのぉ」
「ごめん、僕も漕ぐよ」
ぼんやりしていたせいか、ボートを漕ぐ手が止まっていた。ツクヨミもラディウスも漕いでいるのに。
こんなんじゃ、ダメだな。しっかりしなきゃ。
僕がしっかりしなきゃ・・また・・。

隠者の小屋に着いた時すでに日が暮れようとしていた。
ボートを杭にしっかりと結び、木の幹を昇る。
始めてきたときも思ったけれど隠者の小屋、というか・・何というか。僕は次元の狭間のスプリガンの家を思い出した。あの老婆の家も木の中をくりぬいて出来た家だった。
・・もしかしたらこの世界の村長とスプリガンは同じ趣味なのかもしれないなぁ・・。
僕はそんな事を考えつつ、小屋の中に入った、とたん!
びゅっ、と目の前に何かが素早く横切り、僕の隣にいたラディウス村長が杖で受け止める。
「え・・?」
あやうく僕の頭に振り落されるところだった凶器は、ラディウス村長と同じ杖で。
「ふぉふぉふぉ!よくぞ受け止めたな」
「不意打ちとはいささか卑怯ではないか?」
「ふっ・・わしならば受け止めると思っておったし、寸止めするつもりだったからのぉ」
「ふむ、ではこちらから行ってみるかな」
どこへ!!!というか、僕を巻き込まないでくれよ。
僕の心の叫びは空しく、2人のラディウスは打ち合いをはじめた。さすがというのか、杖さばきは鋭く、一撃一撃が重い。
僕の体術はラディウス村長直伝で、ラディウス村長の強さは子供の頃から身にしみている。
今では僕のほうが強いけど・・ね。
「ふむ。さすがわしじゃ。いい、攻撃をする」
村長が杖を納める。ふぅと額の汗を手の甲でぬぐいながらほがらかに笑った。
「ふん、それは、わしのセリフじゃ。あのタイミングで受けきるとはとは、さすがわしじゃ」
「「フハハハハハ!!!」」
2人は爽やかに汗を吹きながら大声で爽やかに笑った。
僕は間にはさまれて、左右からの多重音声な笑い声に一歩下がった。
自画自賛だ。お互いを誉めつつ自分を誉めてる。
僕には真似できない、じいさんってスゴイ・・と感嘆してしまう。
「ヤマネコ様!!危ないっ!!」
えっ?何??と思ったとたん、隣のツクヨミから思いきり突き飛ばされて僕は床に膝をついた。
「な、何??」
僕は慌てて振り向いた。そこに居たのはじいさんズを跳ね除けて壁に激突した半裸の仮面黒ふんどし男・・。
しまった!!!そりゃいるはずだよ!!!
油断していた。疲れていたのもあるのだろうけど、油断していた。
ツクヨミが僕を突き飛ばさなければ、ゾアに抱きつかれていただろう。
(ありがとう、ありがとう、ツクヨミ!!)
僕は彼女に感謝した。突き飛ばし方がいささか乱暴だったけど、結果良ければすべて良し!
よろっと立ちあがる。だいぶ、身体も疲れている。
「アタタタ・・ゾアよ、お主・・」
「イタタタ・・何てことをしてくれたんじゃ!」
「今ので腰を打ったようじゃ・・・」
「わしも頭を打ったようじゃ・・」
「さすがわしじゃ・・瀕死ポーズも同じとはな」
「そうじゃの・・さすがわしじゃ・・このポーズも決まっておる」
「こう色っぽさを感じるのぉ・・わしよ」
「そうじゃのぉ・・」

「「ふぉふぉふぉふぉふぉ」」

じいさんってスゴイ、と僕は先ほどより深く感動した。
ゾアに弾き飛ばされた2人のラディウスは、かなり強い力で飛ばされたらしく、HPは赤くなり瀕死状態だ。
お互い死にかけポーズのまま、爽やかに笑い合う。
よろよろと息も絶え絶えに、けれど顔に浮かべた微笑と声は爽やかに。
じいさん・・ラディウス村長ってスゴイ。かっこいいなぁ・・。
「じいさん、じいさん、笑いすぎると危ない危ないっ」
カーシュが慌ててエレメントを準備する。パワーレベルはどうするつもりだろう、とぼんやり見ていたら、「小僧!ぼやぼやしてんな!!」
とカーシュが僕を一喝した。
え?なんで僕の方へ向かってくるのさ?ま、まさか!そのアスクで僕をぶつつもりなのかい?
ひどい!父さんにもぶたれたことないのに!!!まだぶたれてないけど。
「っ!!!!!」
アクスを振りかざすカーシュ。目の前に迫る鋭利な刃。フラッシュバックするキッドの血に塗れたダガー・・。
「うらっ!!!」
ざしゅ!ざしゅ!2回連続で聞こえた肉を切りつける音。
「え?」
痛みは無かった。僕は目を見開くと音が聞こえた方向を向く。
カーシュが切ったのはゾアだった。ゾアはそれでも「ふんがーふんがー」と鼻息荒く僕を見ていた。
ぞくり、と一歩思わず後図去る。
「小僧、お前がぼけーとじいさんに見とれてんなよ・・ゾアが死角から迫ってる気配も感じなかっただろ?」
カーシュがゾアを押さえながら言う。
「・・そうだったんだ・・」
「お前大丈夫か?」
「え?」
「・・・何か青ざめてるしよ。ゾアは俺とツクヨミと、マルチュラで押さえておくからよ。寝とれや」
「そうだよ、ヤマネコ様。疲れてるでしょ?」
「・・う・・ん・・」
確かに言われたとおり、僕はひどく疲れていた。
今ゾアに襲われれば、僕は卒倒するだろう・・・精神的に絶えられない。
ゾアをちらりと見ると、切られた傷など歯牙にもかけない様子で僕をじぃぃと見ていた。
気のせいか首元に注目されている。
あぁ、首輪か・・あれ、やっぱりゾアがヤマネコに贈った物なのか。
ヤマネコも不憫だな・・。
あの首輪は装備品としてそれなりに良い品では合ったが、今ははずしている。捨ててしまっても良かったけれど、捨てれば呪われそうな気がしたので、捨てずにアイテム入れに放り込んである。
ゾアは気のせいか、残念そうだ。けれど仮面からわずかに覗く目はぎらぎらと輝いている。
(うっ・・い、行こうっ)
僕は彼らにぺこりと頭を下げると、階段を上りリデルさんを見た。
彼女は楽しそうに僕らを見ていたらしい。僕が近づくとニコッと優しげに微笑んでくれた。
「セルジュさんありがとうございました」
「いいえ・・無事で良かったですね」
「はい・・それで助けていただいたご恩もございますし、及ばずながら私も戦わせていただきます」
「本当ですか?ありがとうございます」
「えぇ・・それに気になりますし」
「は?」
「いえいえ、おほほ」
「は、はぁ・・」
リデルさんって綺麗で優しげな人だけど・・・今の言葉妙に含みがあったような気がするのはどうしてだろう。
僕が戸惑っていると、彼女は
「ヤマネコ様も可愛らしかったけど、セルジュさんも可愛らしいのね」
「は・・ぁ?」
ヤマネコが可愛い???どういうことだろう?
もしかして彼女も・・・ゾアのような趣味の持ち主なんじゃ・・!
「お、お嬢様っ」
「あら、マルチュラ」
「うわぁぁっと・・、ええっと・・セルジュ、兄ちゃん・・その・・」
マルチュラは何かを伝えようと必死に言葉を探してるみたいだった。
可愛いなぁ。「兄ちゃん」という呼び方に思わずときめいてしまった。
「うん。大丈夫だよ。判ってるから・・」
きっとリデルさんの言った事だろう。ヤマネコの外見が可愛いとは思えないけど・・
彼女なりの人の誉め方とかなのかな?きっとそうだろう。
僕は先ほど危惧したことを忘れることにした。ゾアみたいな変態な程の猫好きと一緒にしちゃ
だめだよね。こんなに綺麗で優しそうな人を。
僕はもう一度マルチュラにうなずいた。
「クスッ、殺人人形マルチュラちゃんとは思えない可愛らしさだこと」
ツクヨミがいつ上がってきたのか、僕の隣に来ていた。
「な、なんだと!ツクヨミ、わたしに喧嘩売ってるのか?!」
マルチュラはツクヨミにはやし立てられたとたん、顔を真っ赤にして怒り始めた。
何とも微笑ましい喧嘩に僕は2人を止めもせずに見ていた。
「セルジュさん、お疲れのご様子ですし、お休みになられたらどうですか?」
ぼんやりと見ていた僕に声をかけたのはリデルさんで。
僕はその言葉に疲れを思い出しながらうなずいた。

僕は夢を見ていた。
夢の中の僕は見えない。僕は「僕」の目を通して「夢」を見ている。
僕の見ている風景の中でキッドは振りかえる。彼女は「僕」を安心させるかのように、ふわりと優しく微笑んだ。
手を差し伸べてくる。
何て優しげに微笑むのだろう。キッドこんな微笑い方もできたのか。
彼女の目に吸いこまれていくかのような感じがして・・・・
はっ!と目がさめた。
そして小屋全体を揺るがすような振動!

「な、何!?」

僕は飛び起きるような勢いで身体を起す・・と、
「うぉっ」
何かが僕の上から飛びのいた。
「・・・?」
地下にあるせいか薄暗い部屋の中、暗闇になれていない眼で飛びのいた何かを見た。

「ゾ・・・・」

ゾアだった。彼はその場に立ちあがると、僕をじぃーと見下ろしてくる。
「ななな・・・何を!」

何をしようとしてたんだよ!!!!!今!!!

そう絶叫しようとした瞬間聞こえてきたのは、夢にまで見たキッドの声。
「出て来い!!ヤマネコ!! 今日こそ決着をつけてやる!!」
僕は目の前のゾアさえも忘れて、外へ飛び出した。
外では懐かしいキッドが、僕を怒りに燃える瞳で睨みつけていた。
「やっと出てきやがったな・・ヤマネコ!覚悟しろ!!」
「き、キッド・・」
「お前に馴れ馴れしく呼ばれたく、ねぇ!!!」
僕は呆然と立ち尽くし、キッドはその隙をついて僕との距離を素早くつめると斬り付けて来た。
「っ!!」
僕はとっさに身体を動かしてかわした。けれど遅かったと見えて左腕を斬りつけられ、血がにじむ。
「ヤマネコ様!」
「セルジュ!!!」
ツクヨミとラディウス村長が僕を追ってきた。ツクヨミは僕の背後に駆け寄ってくる。
「だ、大丈夫だよ・・」
「はん!!今のは避けられたが、今度は本気で行くからな!」
キッドが構えなおす。
僕はショックを受けていた。僕は違う違う。違うんだ。
「僕はヤマネコじゃない!」
「うるせぇ!!どこから見てもヤマネコだろうが!!」
「違うッ!」
彼女の目には僕はセルジュは映らない。
僕は「ヤマネコ」として、彼女の大事な人を殺した「ヤマネコ」として映っている。
僕は泣きたくなった。情けない事に。
彼女の持つダガーがきらっと鋭利に光る。
あぁ・・あれは・・キッドを刺したダガーだ。
彼女を見る。怪我は治ってるようだ。
悲しいのか嬉しいのか判らない感情に僕はとても、泣きたくなった。
「くくく・・その女は確かにキッドだ。ただ、今は、お前がヤマネコで、私がセルジュだ」
「お、お前はっ!!」
青みがかかった黒い髪、服こそは違うけど・・見なれた僕の顔。
「僕ーっ!!」
僕は思わず僕に挨拶してしまった。せずにはいられない気持ちだった。
泣きたい気持ちもどこへやら、僕は”僕”に向かって駆け寄ろうとした。
「セルジュには近寄らせねぇぞ!!!」
キッドが駆け寄ろうとする僕に斬りつける。僕はひょいと背後に退いた。
「キッド!そこをどいてくれ!!」
「行かせねぇっ!」
「立場が変われば、人との関係も変わる・・その女にとっては、ルッカの仇はお前だと言うことだ」
「ヤマネコっ!!」
「ダークセルジュ・・とでも呼ぶんだな。今の私はセルジュだ。どこから見ても!」
ダークセルジュ??
思わず心の中で(ださっ!)と思いつつ、僕は引っ掛かりを覚えた。
「・・善良な天使みたいな精神だと・・エンジェルセルジュなのか!?」
「そうじゃなぁ・・そうなるんじゃろうなぁ・・」
背後で見守っているラディウス村長が口を揃えてうなづいている。やっぱりそうなるのか。
「・・・・変か?」
「セルジュ、俺もそれは変だと思うぜ」
キッドが構えながらダークセルジュに話し掛ける。
・・なんだろう。なんだが胸の奥が痛いような気がする。
「そうか・・まぁいい。猫でなければ猫でなければ!!!」
猫で、なければ?
「僕だって・・僕だって!こんな身体になってすごく苦労してるんだぞ!?」
僕は必死に続ける。
「熱いし熱いし!服は熱いし!変態は居るし!!!」
僕は必死に叫び終わるとキッドがまたも斬りかかってきた。僕は息が切れて動けない。
ツクヨミが僕の腕を引いて動かそうとする。だけど間に合わないっ!
僕の心臓めがけた一撃が迫る。太陽に光る刃先に僕は目を閉じた。
「ちっ!」
(・・・・・・・?)
眼を開けると、キッドが体制を立て直すために飛び下がるのが見えた。
(どうしたんだ?)
僕はふと気がついた。自分の脇の下に添えられた無骨な手に。
「ひっ!!!!!」
僕はゾアに抱き上げられていた。両脇の下に手を置いて、それだけで宙に抱き上げられている。
(助けられた・・?)
「ふぅはぁ・・」
「・・・?」
息が荒い。ゾアは息も荒く、僕をそのまま・・・・・・・・。

「放せぇー!!!!!!」

僕はその声がしたとたん、尻餅をついた。
「え・・?え?」
何?何が起きたんだ!?
僕は辺りを素早く見まわした。まずキッドの顔が目に入る。
キッドは呆然と僕の方の背後を見ていた。
ゾア・・・?
振り向くと僕のすぐ背後に黒い服を着たダークセルジュ・・ヤマネコが立っていた。
死神の鎌にも似た武器を振り下ろした姿勢で静止している。その前には、ゾアが立っていた。
無傷なようだ。
「ちっ・・避けたか!!!」
ヤマネコは舌打ちすると、そのまま鎌を水平に薙った。ゾアは背後に飛んで避ける。けれど鎌はとまらない。
とまったかと思うと反転し逃げるゾアを追いかける。
どういうことだろう?
僕はダ・・・ヤマネコに助けられた?
どうでも良いけど、ダークセルジュって自称?呼称?僕の将来に傷がつくから自称はやめてよ・・。呼称もイヤだけどさッ。
せめて!僕の許可を取ってくれ!
「ヤマネコ様っ!」
呆然と見ていたツクヨミが尻餅ついたままの僕に気が着いて走り寄る。彼女の手を借りてよろよろと立ちあがるけど、眼が放せない。
「死ね!死ねしね!!!!」
「ふっほっ」
「このっ!痴漢めっ!!消えろっー!!!!」
そうだ!!!消えろっ!
「うごっ」
意外に素早いゾアだったが、しだいに追い詰められ木の幹に足を取られ倒れこんだ。
ヤマネコはそれを見逃さなかった。
「これで、終わりだぁー!!!!!!」
鎌をゾアの首元めがけて振り下ろす。
僕は無用な殺生は嫌いだし、人を傷つけることもためらいがある。
だけど。
だけど。
僕らを始めとする被害者友の会メンバーたちのためにも、永遠に消えてくれ!ゾア!!!!
僕は無意識のうちに拳を握った。やれ!そこだっ!
がきん!
けれど鎌はゾアには当たらなかった。
「な、なに!?」
「上じゃ!」
ラディウス村長の声に上を向く。だけど見当たらない!?
「・・・っっ〜〜〜〜!!!!!!!!」
ゾワッと全身の毛が逆立った。服の中の尻尾もぼわぼわ。
「うわぁっ」
僕は情けない悲鳴を上げてしまった。振り向かなくても背後に密着するようにゾアが居る。
動けない。
「く・・き、貴様ッ!!!」
ヤマネコはそれを見るとますます顔を赤に染めて、怒り出した。
僕の肩におかれている手を見て叫ぶ
「私の身体に触れるな!!!!!!!!!」
「セルジュ・・お前そんな趣味が合ったのか・・・」
何も知らないキッドが呆然とつぶやいている声が聞こえたけど、僕にはヤマネコの気持ちが良くわかった。
「セルジュ!!!」
呼ばれて顔を上げると、駆け出したヤマネコと目が合った。
(あぁ・・わかったっ)
僕は無言でうなずくと、前に向かって飛んだ。飛びこみ前転というやつだ。
「む!」
ゾアが慌てて僕を追うように一歩前に出る。僕とゾアとの間に一足飛びで来たヤマネコが鎌を斜めに振ったのが見えた。
「ぐ!」
ゾアが斬りつけられてくぐもった声を上げる。僕は着地するとスワローを取り出して、
「うおりゃぁー!!!!」
スワローで斬りつけた。
ゾアは息も絶え絶えに、膝をつく。

「「ちっ、生きてるっ!」」

恨みのこもった声が重なる。僕はヤマネコをはっと見た。
「・・・・」
「・・・・・」
僕らは見詰め合ったままうなずいた。
2人同時に武器を構えると、よろよろと立ちあがったゾアに向かって同時に地を蹴り軽やかに宙に舞った。

「「グライドフック!!!!!!!」」

「がっは・・・」
ゾアは倒れた。僕とヤマネコはグライドフックを終えたままのポーズで、お互い顔を見合わせた。
思わず笑みがもれる。爽やかだ。爽やかだ。
「殺ったな!」
「うん!やっと!」
僕らは爽やかに汗をぬぐった。

「セルジュ!お前何ヤマネコと戯れてるんだ!!!」
(あっ)
キッドの声に僕らは同時にはっとした。そうだった。僕らは敵同士だった・・。
すっかり忘れていたけれど。
ヤマネコも同様らしく、自分が何を言いに何をしに来たか忘れていたらしい。
無言で見詰め合う。
「おい!乗れっ!!!」
(え?)
声の方を向くと、らっしゅ丸に乗ったファルガが手を振っている。
なんで、ここに?
てか・・何しに?
僕がぼんやりとしていたら、急に誰かに抱き寄せられた
「え?」
僕はそれが誰なのか確認する暇も無く、横抱きにされて飛んだ。
「っ〜っぅ!」
空中に浮かび上がる浮遊感に僕は目を閉じる。とす、と軽い音がして着地したらしい。
そっとらっしゅ丸の上に下ろされる。
「・・・だ、誰?」
(・・・・・・・・・・・・・・・・)
「貴様ッ!まだ生きていたか!!!!!!おのれ!!!」
下でヤマネコの怒声が聞こえる。
僕はあまりの衝撃に腰を抜かしていた。情けないことに。
ゾアは血まみれのまま、僕が落ちないように支えてくれている。
「ヤマネコ!!今度会った時がお前の最後の日だ!首を洗ってまってろ!」
キッドの声が遠ざかる。
僕は頭の中が真っ白になるような気がしたかと思うと、気を失ったらしい。
ツクヨミがぎゃーぎゃー言う声が微かに聞こえて、ブラックアウト。
その後ゾアが仲間になって、僕は完全に寝こんでしまった。
・・・運命の神さま・・ひどいです。



<END>



【感想切望中(拍手)


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