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ヤマネコ騒動記第6話
〜マルチュラ編


灼熱地獄と言っても等しいような熱さの死炎山をやっとの思いで抜けようとしたとき、僕らは出口からやってくる人の気配に立ち止まった。
「また敵ぃ?熱いのにぃー!!!!!」
ぬぐってもぬぐっても額からといわず全身から噴出してくる汗の不快感に僕らの苛立ちは最高峰であった。
キッドもレナも死炎山に入った直後はいつものように仲良く喧嘩していたが、今ではお互い黙り込んだまま。
けれど僕と同じように苛立っている様子で隣に並んで立ち止まる。
ったく、誰だよ!ヤマネコか??ネコめ!来るなら来い!
僕はイライラと出てくる人物にガンを飛ばした。

出口の前に通せんぼをするように立ちふさがったのは見知った3人であった。

「これ以上はアカシア騎士団の名にかけて、行かせねぇ!!」
拳を目の前に突き出してポーズを決めたのはぼさぼさ頭の白いはかまみたいな服を着込んだ奴・・・・。
確か・・僕を誘拐しようとした変質者だ!名前はカーシュと言ったか・・。
「!!!」
僕は一歩下がった。
「おい、セルジュ、こいつもしかしてあの時の・・?」
キッドが顔をしかめて僕の反応と奴の顔を見比べる。
僕は無言でうなづいた。
そうだよ!!あの変質者だよ!
「ねぇ?どうしたのよ」
レナが手で顔を扇ぎながら気だるそうに聞いてきた。
「この人変質者なんだよ!レナ、気をつけて!」
「えっ!?変質者ぁっ!?」
「あぁ。そうだぜ。この野郎はセルジュをかどわかそうとしたんだぜ!いきなり!!」
「!!な、なんですって!?」
「ちょ、てめえら!俺のどこが変質者だ!おい!!!」
「俺様が助けに入らなかったらしぶといセルジュでも無理だったな。お・れ・さ・まが!助けてやったんだぜ」
やたらと強調するキッドに僕の苛立ちはさらに倍増した。
しぶといって何だよ!僕は別に助けてなんて言ってないのに、勝手に喧嘩をはじめたのはキッドじゃないか!
「へぇ。キッドでもたまには役に立つことも有るのね。知らなかったわ」
「んだと!?」
「あら、事実でしょう?」
「俺様ほど親切で優しい女はいねぇぜ!?」
「あんた女だったの?」
「んだとー!!!!!!」
また始まった。この2人犬猿の中なのか知らないけど、すばらしいテンポで言い合いを始める。
お互いイライラが貯まっているからいつもより激しい。
でも、それが原因で疲れ果てて戦闘を避けなきゃならなかったんだぞ!?
こんなトコで無駄な体力を使わないでくれよ!うるさいなー!と、口に出したいが、出したら最後、2人を敵にしてはタダでは済まないので黙っている。
横目でちらっとカーシュを見ると、彼も固まっている。
さっきから1人違う違うと空々しく騒いでいたけどどうやら諦めたらしい。
どう割り込もうかと拳を突き出した格好のまま困っているようだ。
「・・・?」
その隣の人物にふと目が言った。鉄仮面の涼しげなかっこうの男だった。
上半身は裸、下は巻きスカートみたいな短い布に・・・・あれは・・黒い・・
「ふんどし?」

「「「はぁ??」」」

な、何だよ!なんだよ!どうして小声でつぶやいただけなのに3人とも反応するんだよ!!
僕はきっと今耳まで真っ赤になってうと思う。
元々この死炎山の壁の熱さに顔がほてっちゃってたけど、それ以上に真っ赤だと思う。
「セルジュ・・何が言いたかったの??」
レナが僕を心から心配するような目で見つめた。
「セルジュ、おまえ・・・さては・・・」
「な、なんだよ!」
キッドが以下にも『何も言わなくていいぜ。俺はわかってるぜ』というようにうんうん、とうなずく。妙に理解を示されても・・・・・・・・・・。
「違うよ!!!」
「おい、小僧。おまえにそんな趣味があったんだな・・」
どんな趣味だよ!!!!
言っておくけど僕には僕みたいな可愛い少年をかどわかそうとするような趣味はミジンコもないぞ!!!あんたなんかよりマシだい!!
「・・図星、だったみたいだな・・」
「違う!」
なんでそこでうなずくんだよ!
「・・ゾア、良かったな。お前の同士が居たぜ」
「・・・・」
「違うったらー!!!!」
一体同士って何だよ!?ふんどし愛好会とかでもあるのかな・・・・ふと思わず、ふんどしモヒカン釣り下手なコルチャを思い出してしまった。
・・・同士ならコルチャの方がぴったしだと思う。
「僕は断じて違うからな!!!」
「ゾアお前もう少し何かしら反応してくれないか?小僧という同士が居るんだぜ?嬉しくねぇのか?」
全然聞いてない。
僕は思わずうつむいた。畜生!暑いのも焼けどしたのも!全部ヤマネコとお前らのせいだ〜!!!
「・・・・」
対してゾアという男は無反応だ。
そりゃ・・これでいきなりニヤァ〜とかされたり、妙に喜ばれても怖いだけだけど。
それにしても、彼の胸の傷は一体なんだろうか?
・・・・なんだが引っかき傷に見えるんだけど。大きな爪とかでがりと・・身体中に散らばっている。
気がつかないうちにじーと凝視していたらしい。はっと気がついたら、キッドとレナが僕から少し離れて遠巻きに見ていた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「え?あ・・・・・・なんで、そんなに離れてそんな目で見てるんだよ!?」
「・・・良いのよ、セルジュ」
「そうだぜ。俺達、別に人の趣味についてとやかく言うほどガキじゃねぇしよ」
「そうよ。セルジュ。あんなムキムキな肉体に憧れてても・・憧れるだけなら」
全然オッケイよvと、微笑んだみレナは頷いた。
だから・・どうして判ったようにうなづいてるんだよ!
違うってさっきから何遍言ってるんだよ!少しは聞いてよ!!
「おい、何言ってんだ?男ならあんな感じでムキムキだろう!?」
「キッドこそ目が腐ってるんじゃないの?今はムキムキよりもちょっとたくましくて美!よ」
「何が美!だよ!セルジュみたいな生白くて細せぇ腕じゃなぁ!ダメなんだよ!」
「あらいやだ。遅れてるわね。今は稀代のアイドルスラッシュみたいに細くて白い美しさこ・そ・が!求められるのよ!」
「んだとー!?お前こそ目が腐ってるぜ!」
「なんですって!」
あぁ・・また・・。
僕は言う気がうせて2人からそっと離れた。そばに居たらうるさくて耳鳴りがしてしまう。
目の前の3人は僕らを見ていた。恥ずかしい。
カーシュはゾアに話しかけることを諦めたようで、僕らを飽きれながら楽しそうに見ていた。
ゾアは相変わらず無表情(といっても仮面だからどうなのかはわからないけど)無反応で仁王立ちしたまま。
そして・・・さっきから僕のことをじぃーーーと見ている小さな女の子が1人。
確か蛇骨館の図書館で出会った女の子だ。マルチュラだっけ?
僕は無意識に彼女をしげしげと見ていたらしい。マルチュラは顔をかっと赤く染めたかと思うと僕をびしぃと指差した。
「ロリコン!!!」
「は?」
「さっきからあたしをじっと見つめて!!ルチアナが言ってたよ!じっと見てる奴は危ないって!ロリコンだから気をつけるようにって!」
「おい、小僧。お前、いい趣味してるなぁ〜」
うるさい!!変質者!!!
さっきから一体何だって皆して根拠もない誤解ばかりするんだよ!?
「こうも言ってた。ロリコンに出会ったら犯罪を犯さないうちに殺っちゃいなさいって!!!」
・・・ルチアナ・・・・何て事をこんな幼い女の子に教えるんだよ?
僕は心の奥で決心した彼女は決してメンバーに居れないぞ、と。
僕の心の中のブラックリスト入りは最近増える一方だ。まともな仲間は居ないのか・・・・。
「あたしはお前が嫌い!嫌い嫌いっ!!おまえの父ちゃんも母ちゃんもじっさまもばっさまも!従兄弟もその又従兄弟も飼い猫も!」
飼い猫も!とマルチュラが叫んだとき。今まで無反応だったゾアが少し動いた。こう全体をくねるように・・・。
「・・も!!!って聞いてないし!!!とにかく嫌い嫌い!!!死んじゃえ!!!」
はっと気がついたときは遅かった。マルチュラは僕に素早く駆け寄ると強烈なキックを僕の脛に食らわした。
「った!!」
「セルジュ!」
「やりやがったな、お子ちゃま!!!」
キッドが威勢良く飛び出す!
僕の敵を取ってくれるなんて・・何てカッコ良いんだ!と感動したのも束の間、彼女はゾアに向かって突進しその懐からスタミナリングを盗み取った。
「よっしゃー!百発百中だぜ!」
「・・・感動した僕がバカだった・・」
「あん?何か言ったか?」
「・・・」
僕は脱力感を味わいながら武器を構えた。
とりあえずこんな小さな女の子を相手にするのは心苦しいので、僕はカーシュを集中攻撃することにした。
僕が!(ざくっ)変態扱いされるのも!(ざくっ)皆!!(ざくっ)
「お前のせいだー!!!」
「なんでだ〜!!」
カーシュにスワローで恨みを込めて斬り込んだ。お陰ですっきりしたような感じになる。
対するカーシュはまだぴんぴんしていた。・・さすがしぶといな。
横目で見ると今度はレナがゾアに向かってホウキを振りまわしていた。
・・・ホウキで叩くか・・まぁしゃもじとかよりかはマシ・・だけど。
レナが武器で攻撃している姿はどうも、夫婦喧嘩を見ているような気がしてならない。
もし万が一まかり間違って、レナと結婚することにでもなったら・・・・・・・・・・・・・・・・。
あぁ。ダメだ。どうしてこんなに簡単に想像できちゃうんだろう?
恐ろしい。

「ボヤボヤしてんな!小僧!!」
「わっ!」
声に驚いて顔を正面に向けたが遅かった。どこから呼んだのかドラゴンに乗ったカーシュが突進してきた。
「っ!!!」
通りすぎる瞬間アスクで思いきり斬りつけられる。
吹き飛ばされて、僕は地面に転がってうめいた。
マズイ。かなりのダメージをくらったらしい。血がぼたぼたと地面に落ちる。
「セルジュ!今回復してあげるわ!」
「うん」
レナが僕に振り向いて、回復エレメントを取り出そうとしている。
その間にキッドがマルチュラをダガーで斬りつけている。
「うらうら!!出すもん出せよ!」
・・・・キッド。何だか悪党みたいだ。
たくましいような追い剥ぎでもしているような彼女のセリフに僕はほろりと悲しくなった。
あぁ。だめだ。ぼやっとしてたら。また隙を付かれたら今度こそあの世行きだ。
「レナ!まだ?」
「待って、スタミナが回復してないの!」
「あ、僕使えそうだ・・」
アタックレベルも満タンだし。グリットにもリカバーを配置している。
「リカバー!!!」
僕はエレメントを使うために身体に力をこめた。
僕の声にレナとキッドが僕の方を向く。
いつも思うんだけど。回復するときどうして皆してその人を見るんだろうか。
・・・注目されると恥ずかしいんだけど。
僕の身体から白い光が飛び出す。身体に降り注ぐ暖かい光に傷が癒されていく。
「よし!」
体制を整えた僕らは勇んで敵である3人に向かっていった。



「ようやくここまで来たわね」
「おう!この扉の先に・・あいつが・・」
「・・・・」
僕らはカーシュ達を退けた跡、古龍の砦内に入った。数々の謎を解き明かしながら慎重に進んでここまで来た。
本当に色々と大変だった。
一番大変だったのは、この2人の口喧嘩だろう。
宝箱があれば口喧嘩、バトル中も、小休憩の時も。
元気だなぁ・・と飽きれてしまうくらいに彼女達はパワフルだった。
そしてやってきた扉の前。
・・・見覚えが合った。
ここは・・・あのイヤな夢で見たところじゃないだろうか。
古龍の砦に入った頃から漠然と思っていたんだけど、確信に変わる。
この扉を開ければ、もしかして・・・・・・・。
「セルジュ?」
「え?あぁ・・・」
「何震えてるんだよ?」
「・・あのさ・・もう帰らないか?」
「何言ってんだよ!!!」
扉を開ければ、僕はキッドを・・・・・・・。
あの女の子は確かにキッドだった。
ニヤリと笑った僕は確かに僕だった。
たんなる夢だけど。だけど・・・行きたくない。
「ここまで来て怖気づいたのか?」
「違う!けど・・」
「セルジュ、どうしたのよ?」
「・・・」
僕はその場に立ち止まる。これ以上先に進みたくなくて。
「・・・知るかよ。俺はあの猫男に用があるんだ!」
そう言うとキッドは僕の目の前で扉を蹴り開けた。
とたん襲われるめまい。
気がつくと前に踏み出していた。

「やっと来たか。待ちわびたぞ」
薄暗い部屋の奥から2人の人影が近づいてくる。
「はん!こんな暗くて狭い部屋で何企んでるんだがしらねぇけどよ、ヤマネコ!覚悟しろ!」
キッドの言葉に思うわず笑いそうになった。
言われてみればこんな暗い部屋でヤマネコと蛇骨大佐は一体何をしていたんだろう。
ふと、ヤマネコと目が合う。
猫男は僕から眼をそらさない。何だか必死な眼差しで僕は首をかしげた。
「アカシア四天王もとい3天王を差し向けたが、どうやら君達のほうが強かったらしい」
蛇骨大佐が悔しそうに言う。
「・・・・・は死・・のか?」
蛇骨大佐の発言に何やら激しく反応したヤマネコが、よろよろしながら大佐の耳元で何やらささやいた。
死?誰かが死んだのだろうか。
蛇骨大佐はヤマネコを見ると残念そうに首を振った。
「残念ながら・・・」
「・・・・・・・・・・・そう・・か」
ヤマネコがうなだれる。そして場違いな程涼やかな音が鳴り響く。

ちりーん

「?鈴の音・・?」
僕はどこから聞こえたのかきょろきょろと辺りを見まわした。部屋の中にはそれらしきものは見当たらない。

ちりーん

「!?」
ヤマネコが顔を上げる。その時にまた鳴った。
「・・・首輪?」
ヤマネコの首にはまっている赤い首輪が眼に止まった。
思わず口にするとヤマネコはぱっと襟元を締めて隠してしまった。
「・・・・・」
「おい、ヤマネコ!なんだよその首輪は。よぉくお似合いだぜ!」
「・・・・」
ヤマネコはまたうつむいた。ぶるぶると震えているようである。
何だか居たたまれない気分になった。そうまるで猫を苛めているような。
「お前たちに恨みはないが、我らの計画の障害となる者は排除せねばならんのだ。悪く思うな」
蛇骨大佐がヤマネコをかばうように前に出た。
「いくぞ!!」
蛇骨大佐が勢い良く向かってくる。僕はそれを交わしたり反撃したりしながら、横目でヤマネコを見ていた。
気になるのだ。
あの首輪・・は一体。
明らかに特注サイズの猫の鈴付き。あのヤマネコの趣味だとはとても思えない。
しかも見られて恥ずかしがっていた!
あの!ヤマネコが!!!
「余所見をするな!少年!!」
声とともに容赦ない一撃を食らった。
僕は倒れこみ、蛇骨大佐を見る。
「・・・ヤマネコは被害者だ。あまり刺激せんでくれ」
「は・・・?」
大佐はそのまま元の位置へ戻る。僕はよろよろしながら立ちあがると、ヤマネコと蛇骨大佐を見比べる。
「被害者って何?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
僕の問いに蛇骨大佐は答えなかった。言う気はないらしい。
被害者?むしろ僕のほうが被害者なんだけど。
ヤマネコは首元に手を添えたまま、僕らの闘いを見ている。
否、僕を見ている。
羨ましがるような、そんな視線。
ふとヤマネコの手に目が行った。鋭利そうな爪だ。
爪・・・・・・・・・・・?
「っ・・・こいつはなかなか手応えがあるな……。だが、次はそうはいかんぞ。こちらも全力で……」
気がつけば蛇骨大佐は膝をついていた。
レナとキッドの2人かがりで倒したらしい。
蛇骨大佐は気丈にもそう言いながらよろよろと立ち上がり・・・
「!!!」
僕は息を飲んだ。大佐の背後に静かに忍び寄ったヤマネコが大佐を背後からナイフで刺したのだ。
「や、ヤマネコ・・・裏切る・のか・・」
「この地で動くのにはあなたは非常に役に立ってくれた。感謝している、大佐。しかし、もうあなたに 用はない」
ヤマネコはナイフについた血を振り払って腰の帯に直した。
蛇骨大佐は崩れ落ちる。
「・・・・くっ・・今までかばって・・・」
「・・・感謝している」
「・・・を・・ゾ・・にや・・ぞ・・」
「!そ、それは困る!」
全然見えない話をする2人に僕は興味をそそられた。
かばう?何から?
被害者?
ゾ・・・ゾ?
「ゾア?」
「!!!!!!!」
びびくん!とヤマネコが肩を揺らして僕を振り向いた。
眼を見開いて僕を見ている。
「・・・ゾアの胸の傷は・・もしかして・・」
「セルジュよ・・・」
ヤマネコはほんの一瞬だけとても疲れ果てた顔をした。
その後彼は残忍そうな微笑を浮かべた。
「さて、おまえたちには、ここで死んでもらおうか」
さっきのあの表情は一体なんだと言うんだろう?見間違いだろうか。
「ヤマネコ!てめぇだけは許さねぇ!!!」
「そうよ!!覚悟しなさい!」
レナとキッドが息もぴったりという感じで武器を構えた。
戦闘が始まっても僕は先ほどのヤマネコの表情が忘れられなくて、思うとおりに動けなかった。
ヤマネコが死神の鎌にも似た武器を振り回して攻撃してくるたびに、場違いな鈴音が鳴り響く。
ちりーんちりーん。
「うるせぇぞ!その猫鈴!!」
キッドが切りつけながらそう言うたびに、ヤマネコは一瞬だけ先ほど見せたような顔をする。

しばらくしてヤマネコは宙に浮かび上がった。
「セルジュよ、考えてみたことはあるか?自分は何者かと?」
僕はヤマネコを見上げながら、ヤマネコの鈴を見ていた。
「おまえがこの星に生まれ、今日まで生きてきたことには一体どんな意味がある? おまえに私は倒せはしない、セルジュ。なぜなら、私を否定すると言うことは、今の自分を消してしまうのと同じ事なのだから」
鈴・・・胸の傷。どうして関連があるように思えるのだろうか?
「惑わされるな!セルジュ!」
惑わされるも何も。僕は猫の狂言よりも首輪が気になるんだよ、キッド。
どうみても「お手製」なんだよ・・あの首輪。
「それはどうかな。カードには表と裏がある。生と死、愛と憎しみ。すべては同じものなのだ」
その時中央の台座の上にあった青く輝く物体が光を放った。とたんに襲いかかる頭痛。
頭が割れるように痛い。眼が開けていられない。僕はふらっとよろめくと頭を抱えたまま、その場に膝ついた。
その冷たい床の感触でさえ、遠ざかるようで。
耳鳴りがする。
空間がゆがむような意識が薄れるような・・・・それが収まって眼を開けたとき。
ちりーん
「!?」
く、首元で涼やかな音が鳴る。僕は慌てて動くと、それは軽やかに鳴り響いた。
「!!!!!!」
声もなく驚く。何時の間に・・・僕が具合が悪くて倒れこんだときにはめたのか!?
「ヤマネコ!!セルジュに何をした!」
キッド言ってやってよ!!なんで僕の首に首輪なんてはめるんだって!変な趣味でもあるのかって!
「・・・・おぉ」
おぉ?
誰の声だろう。キッドでもレナでもヤマネコでも、もちろん気を失っている蛇骨大佐でもない声がした。
「おぉぉ!!!」
「セルジュ、ど、どうかしたか?」
どうかしたかって・・首輪!!首輪をはめ・・・え?
顔を上げてキッドを見ると・・・なぜかキッドが離れたところにたっていた。そして彼女の前にはレナと、レナが心配そうに声をかけている・・・膝をついている・・人は・・。
赤いバンダナ、青みがかかった黒髪、その傍らにはスワロー。
「・・・僕?」
そうだよ、あれは僕だよ!!!
「あぁ・・大丈夫だ。なんの異常もない、キッド」
「・・だけどよ、何で手を見たり顔を触ったりしてるんだ?変だぞ?」
「・・いや・・感覚がな・・」
「?」
僕は思わず背後によろめいた。あまりの事実に。
ちりーんと首元を締める首輪から涼やかな音がなる。

レナとキッドと”僕”に容赦なく叩きのめされて僕は冷たい床に這いつくばっていた。
そして夢で見たとおりの惨状が繰り広げられた。
キッドを刺してレナを気絶させた”僕”は、血に染まったダガーを手にしたまま僕に近づいた。
「いいざまだな・・セルジュ。いやヤマネコよ」
「おまえ・・・」
僕はヤマネコの背後に倒れているキッドを見た。わき腹の傷は深いようだ。
・・・お腹出しっぱなしだからだよ・・キッド。せめて服でも着ていれば・・少しは・・。
ちりーん、と僕が動くたびに涼やかな音が鳴る。
「・・・っ!!!ま、まぁ良い・・」
「何がダヨ!!」
気のせいかヤマネコは首輪を凝視している。
「この・・この首輪は何だよ!」
「・・・・・・・・」
「あんた一体っ・・・!」
「神の庭へ行くが良い。セルジュ・・」
「ゾアとは一体何がっ・・・っっ!!」
ゾアと言ったとたん、”僕”は苦しそうな顔をした。僕ってこんな顔つきできるんだ・・とか思わず思ってしまったが。
それもほんの一瞬で、ヤマネコは僕を目に見えない力で浮かばせた。
「・・・・気をつける・・ことだな」
「!な、何を言って・・」
「さあ、愛に血を流させてやろう! 地獄の海のように、紅く…深く…!」
僕は青い光に包まれた。熱い・・!
驚喜を感じさせる表情でヤマネコは笑った。
やがて空間が歪むような意識がねじれていくような感じがしたかと思うと、僕の意識は途絶えた。
意識がなくなる一瞬”僕”の声でヤマネコが
「・・・何かあったら助けてやろう・・」
やってることと言ってる事がかみ合わないよ!!!と心の中で叫んで、僕は完全に闇に沈んだ。
意味がわかるのはそんなに先じゃなかった。

<END>



【感想切望中(拍手)


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