私がこの手記を見つけたのは、ヤマネコ殿に体を乗っ取られたセルジュが蛇骨大佐の娘・・リデルを救出してから何日か経ってからであった。
もうすぐ本国パレポリに戻るということで、私が使わせてもらっているなかなか上等な客室を掃除していたときにベットの下から見つけた。
かなり丈夫な装丁の冊子で開くと丹念な字で細かく記されている。・・・たしかこの部屋は以前あの”ヤマネコ”が使用していた客室だったはずだ。
部屋の奥には肖像画も飾られている。その肖像画は、今はカーテンで隠してあるが・・。
隠してあるのには理由がある。私がスパイとしてこの館に潜入していた時によく食事に来ていた騎士団員の中で話題になっていた噂を知っていたからだ。
曰く、夜中になると肖像画の中のヤマネコの目が光る・・と。
別に怖いわけでも信じたわけでもないが、実際この部屋を使おうと言う兵士はいなかった。たしかに猫の抜け毛は多いが皆が避けるようなほど悪い部屋ではなかった。
・・・が、やはり部屋の奥から見られているようで落ち着かない。そういう訳で、隠してあるのだが・・。しかし噂はこれだけではないのだ。
私が把握しているだけでも、「扉にモンスターを憑かせている」「夜中に悲鳴があがる」「誰かがこの部屋の前でたたずんでいる」「夜中に誰かが覗いている」「誰もいないはずなのに光るものがうろついている」「部屋の中には死体がある」などど、この部屋だけにまつわる噂は絶えない。
今手に持っているこの手記は、もしかしたらあの”ヤマネコ”のものかもしれない。
そうだとすれば、この部屋で何が起きていたのかもわかるかもしれない。
私は椅子に腰掛けるとその手記を開いて読み始めた。
手記は4年前のA・D1016年から綴られていた。
(カッコ)は私の主観である。
<某月某日>(4年前)
奴に気付いたのは、いつだったか・・・。蛇骨大佐に接触し「凍てついた炎」の情報を持ちかけ、まんまと利用することに成功して、蛇骨館に滞在しはじめてからなのは間違い無い。
大佐に「アカシア騎士団4天王」という4人と大佐の愛娘リデルを紹介された。
4天王はダリオ、カーシュ、マルチュラ、ゾア。
(ゾアにだけ、下線・・・?何かあるのか・・・?)
見たところ中々使えそうな奴らだった。一人一人をじっくりと検分したところ、ダリオはどうやら私に対して不信感があるようだ。たしかリーダー的存在と言ったか。いずれ邪魔になるかもしれないな、早めに処分した方がいいかもしれない。2番頭らしいカーシュは単純で使えそうだ。どうやら大佐の娘に恋をしているらしいが、娘の方はダリオとできているらしい。
人間というものは実に下らぬものだ。まぁ、時としてそれを利用する手があるが、まったく愚かとしか思えぬ。
3人目のマルチュラはカーシュかダリオの連れ子かと思うほど幼い子供だ。
たしか6歳だといったか。
・・・が、4天王に見合うだけの力があり、平気で人を殺せるそうだ。育ての親はルチアナと言う、頭の言い科学者らしい。以前から科学者だの開発者だのには腐るほど出会ってきた私だが、これほどまでに思考が読めない人間も珍しいと感心する。噂では「殺れる前に殺れ、不審者は叩きのめせ」という教えをしているそうだ。私好みな教えだ。
そして、ゾアという男。
(今度は太字か・・・やけに力が入っているな)
この男を見たときに何故か危険な感じがした。どこがどうとは言えないが「この男の傍に寄っては行けない」という気がするのだ。
思わず目が合ってしまったとき、奴は微かに「ニヤリ」と仮面の下で笑ったような気がした。実際には見えないのだが、私の勘がそう伝える。
もしかしたら一番に気をつけるべき人物はこのゾアという男なのかもしれない。
油断はしちゃだめだぞ、私!
(・・まぁ、日記だからな・・って、これは日記なのか?謎だ)
<某月某日>(同じ年だろう)
この前、リデル・・大佐の娘の誕生会に出席をした時、奴・・ゾアが寄って来た。
正式なパーティだというのに、仮面にふんどし姿だ。しかし首に大きな赤い・・・リボンを巻いていた。一応お洒落のつもりだろうか。はっきり言って目の暴力だ。訴えるところに出てもいいんだぞ!
(いるよな・・日記で怒ってる奴、ヤマネコもそのタイプ、か・・・)
奴はその姿で私に近づくと何やら妙な箱を差し出した。賄賂か、と思うとそうではなく、なんと鈴付きのリボン!
箱を渡した後奴はニヤリと笑って去っていった。バカにしているのか、それとも本気なのか、ますます私は奴に危機感を覚えた。
<某月某日>(3年前)
ダリオが死んだ。概要はここでは記さないでおくが巧く邪魔者が消えてニヤリだ。
(ヤマネコはどうやら”ニヤリ”が好きらしいな・・)
<某月某日>(3年前)
最近誰かに覗かれている様だ。
鍵穴から、窓から、外の出れば誰かに付けられているような感じもする。
こうしてこれを書いている今も・・。
(ここから文体が乱れていて解読不能だ)
<某月某日>(2年前)
長いこと付けられたり覗かれたりしていたが、ようやく犯人を掴んだ。
アカシア騎士団4天王のゾア。
(今度は赤いマジックに、下線付か・・・・)
奴が犯人だった。今まで何度も捕まえようとしたのだが失敗に終った。
今回、私の配下の影猫を使い遠くからみはっていると、奴が鍵穴から覗いているのを目撃することができた。
奴め、何が目的だ?やはり大佐が遣わせたのだろうか・・。
しかし、遠めに見る奴は間者というより変態っぽい。
奴はそう言う趣味でもあるのだろうか・・・・・・・・・・。
・・・私は始めて人が抱く恐怖心を味わった。怖い・・・・・・・。
(ゾア!彼のはそんな趣味が合ったのか・・スパイ生活長いが初耳だぞ)
<某月某日>(今年)
鍵穴から覗かれる被害は依然と続いている。
特に明け方など扉の方が怖くてたまらない。
時々扉のほうから荒い鼻息が聞こえてくる・・・・・・。
ドアも時々、がたんがたんと、ゆれている・・・・・。
(なにをしてたんだー!!!!!!ヤツは本物の変態か!?)
怖くて、怖くて、仕方が無い。
こうなったら実力行使!ということで、扉にモンスターを召喚しタイミング良く入らないと攻撃を受けるようにした。もちろん鍵穴から中が覗けない扉で、鍵もばっちりかかる。廊下にもモンスターが落ちてくるトラップなどを設置し、うかつに歩けないように工夫した。
<某月某日>(同じ年)
・・・・・配下のカゲネコがゾアの被害にあった。
なんでも猫ジャラシに引き寄せられ近づいたところを捕まえられたそうだ。
その後は頬づりをし、撫で回し、顎をざわざわとされ、挙句に日向で膝枕だそうだ。配下の受けたダメージははかりしれず、再起不能、辞表を出して田舎に帰って行った。
私も出来る事ならば逃げ出したくて仕方ない。
<某月某日>(同じ年)
ツクユミの報告によるとセルジュが次元を超えてこの世界にやってきたそうだ。さっそく丁重な迎えをよこしたが、間抜けなことに邪魔が入り逃げられた。まったく使えない。
セルジュ・・運命に縛られた時の迷い子。
”セルジュ”さえ手に入れば、この館にいる意味もなくなる。
聞くところによると盗賊の小娘も一緒で、それならばこの館に乗り込んでくる日も近いだろう。私はその日が待ち遠しい。
今日から早速ウェルカムメッセージを作成しなければならないだろう。初めが肝心なのだから。
(数行後に追加文がある・・・。どうやら同じ日らしい、ただやけに文体が乱れている)
先程暗闇の中で抱き付かれてしまった。あの男に・・。
しきりに耳もとで「ニャンコォ〜」とささやいていた。セクハラだ!痴漢行為だ!
大佐に言いつけようか・・。
しかし・・いい恥としか思えない。
ともかく気色悪い!!!
いっそのこと殺してやろうかと思ったが、そこはそれで隙さえ見せない。
第一私は猫ではない!一緒にするなといいたい。
このままでは私の貞操は危うい。あぁ・・・早くこの館をでなくては!
セルジュよ、早く来るのだ。頼むから。
恐怖で震えている・・。こんな怖いことは始めてだった。この日から私はセルジュの来る日を心待ちにしている・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・」
私は手に持った手記を閉じると大きくため息をついた。何なんだ、これは。あまりのことに声が出ない。衝撃の事実というものだ。眩暈までする。私は立ち上がるとカーテンを開き肖像画を見入った。このヤマネコの肖像画も今では違って見える。なんとなくヤマネコが気の毒になった。
いや、気の毒だけじゃない。哀れ過ぎる。
彼があれほどまでにセルジュを待っていたと言っていたのはこういう涙ぐましい理由があったからなのか・・。アカシア騎士団の4天王のゾア、実は彼こそがもっとも危険人物なのかもしれない。
「ん?」
ニャーと足元に白い子猫が擦り寄ってきた。セルジュ、いやヤマネコことダークセルジュはしゃがみこむと子猫を抱き上げた。
「セルジュどうした?」
先を歩いていたキッドが振り返る。
「ん?いや・・・」
猫の背中をやさしく撫でる。そして小声で何かささやくとそっと地面に下ろして歩き出した。
「あぁ・・・キッド、私は猫には見えないよな?」
「あぁ?何言ってんだ?大丈夫か?」
「・・・いや、そうか。よかった」
彼は心の中で「私は猫ではないんだー!」と晴れ晴れした気持ちで空を見上げるとかすかにニヤリと微笑んだ。