フォントサイズを自由に変更できます

読みやすいサイズをお選びください

ヤマネコ騒動記 第2話
〜ツクヨミ編〜



「遅かったね、ヤマネコ様」

僕の体を乗っ取った”ヤマネコ”のせいで妙な世界に飛ばされ、「カオスワールド」という世界の一番頂点に聳え立つ塔の中に踏み込んだとたん声をかけられた。
今一番呼ばれたくない名前なだけにむっとして声の方を向くと、以前骸骨館や死炎山で会ったことのある道化師の女の子が立っていた。
たしか・・ツクヨミとか言ったっけ。でも敵だったんじゃなかったのか?ヤマネコの部下だったはずだ。それに今「ヤマネコ」って言った。この姿なら間違えても仕方ないけれど、僕はヤマネコじゃない。
「あなたはヤマネコ様だよ、どう見ても」
!?僕は口にしてなかったよ?それとも口にしてたのかな・・?
「違う!僕はセルジュだ!」
ツクヨミはため息をつくと僕の真正面に転移してきた。
「そう、あなたはセルジュ、なんだ。でもそれを信じてくれる人はいるかな?」
「・・・・」

「誰もがその姿を見たら言うよ。あなたはヤマネコだって。あなたがいくら言い張っても、セルジュだって叫んでも・・。」

「だけど、僕はセルジュなんだ!」

スプリガンが後であくびをしていた。それを眼の端にばっちり捕らえた僕は、心の底でこの老婆にはしばらく回復エレメントは使ってあげないことに決めた。
目の前のツクヨミは、またため息をつくと、今度は2階部分に飛び上がった。

「じゃあ、セルジュって何だったの?」
彼女はなんと柱を降り始めた。
「姿?形?精神?魂?セルジュって何だったんだろうね」

話ながら普通に歩いてくる。それが普通の大地なら驚かない、けれど、彼女はなんと柱を垂直に歩いてくるのだ。
足に吸盤でもあるのだろうか・・タコみたいに。いやいや、そこはやはり道化師の涙ぐましい秘儀でもあるのだろう。きっとこの技を取得するのにヤマネコに弟子入りでもしたのだろう。
ん?でも待てよ?ネコは普通壁は歩かないよなぁ・・・塀なら見たことはあるけど・・・・。
しかし、あの妖しげな猫男には出きるかもしれない・・。そういえば、いかにも自信たっぷりな尊大な態度だったな。きっとその尊大な態度でツクヨミに指南していたんだろうな・・。
壁歩きの極意とか言って。僕は目の前に降り立ったツクヨミを感慨深く見つめた。

「・・・?」

大変だったんだね、きっと。出来なかったら夕飯抜きとかノミ取りとかネコジャラシとか、マタタビ酒のお酌とかしてたんだろうね・・。
この厚化粧も涙の後とかを隠すための道化師の悲しい性なんだろうなぁ・・。僕もいきなりこんな大男もとい猫男になっちゃった上に、よく分からない世界で変な老婆とともに旅をする羽目になっちゃったし・・、自分でも可哀想だと思えるくらいの目に遭ってるけど君はきっと何年も・・・・。

「また聞いてないようだね」
「・・・ヤマネコ様!!!」
「ん?」
「ん?じゃないー!ちゃんと聞いてよ!」

ツクヨミはなぜか怒って身を翻すと、「この塔の真実のヤマネコ様はどれなんだろうね!」と言い捨てて消えていった。
「ねぇ?何を怒ってたのかなぁ?」
「・・・・さてね、知らないよ」
「?」
まぁ、いいやと僕は彼女の言い捨てた「真実の扉」なるものを探そうと部屋の中を見まわす。ふと何か影が横切った。
「−っ!僕だ!!」
「君は誰?・・・僕は・・君じゃない」
2階に懐かしい姿・・・”僕”はまっすぐに僕を見下ろしていた。けれど目はうつろで、僕を見ているようで見ていないような感じがする。
「あぁっ!」
「ど、どうしたんだい!?ヤマネコ?」
僕は”僕”を見上げていてとある重大なことに気付いた。
「・・・、あれ!!」
「あれ〜?」
「よく見てよ!見えるんだよ!」
「?何がだい?それより、おまえさんの本当の姿とはあれかい?」
「あれだよー!」
「だからなんなんだい!」
恥ずかしくてとても言えない。何か間接的な言いまわしで言うべきだろうか?
う・・・結構恥ずかしいけど。大声で言うよりマシだしな。
「良く見ててね!」
”僕”はうつろいだ視線で僕らを眺めている。その”僕”を指差して、僕はスプリガンに合図を送った。
「ん・・??手を打って、ピース、まる?敬礼?」

雪見飛鳥さんから頂きましたv



あぁぁ・・このおばちゃん、歳が歳だからわからないのだろうか?だから!

「ぱん!ツー!まる、みえ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

スプリガンは上を見上げた、どうやら伝わったらしいが・・・。

「み、見ちゃ駄目!」

「・・・・」

止めたが見ようと後ろに下がる。
僕は慌ててスプリガンの目の前に立ちはだかった。
「おまえがみろって言ったんだろ?」
言ったけど、見せるものか!僕はこの時だけがっしりした”ヤマネコ”の体に感謝した。
しかし、暑いから今まで短パンですごしてきたけど、下から仰ぎ見ると見えちゃうものなんだね。女の子じゃないから気にしなかったけど、世の中には変態もいるからな、気をつけないと。
あぁ、しかし、久しぶりに見る”僕”は、自分で言うのもなんだけど、思わず駆け寄って頬擦りをしたくなるほど可愛く思えた。この体になってまだ2日だけど、すごく懐かしく思える。あぁ・・我慢できない!

「や、ヤマネコ!?」

スプリガンの驚きの声は無視して僕は真正面の扉に走りこんだ。
ばたん!と扉をあけて見ると2階。けれど先程までいた”僕”はいない。
一体どこに・・?

「はぁはぁ・・・・下じゃ!」

追いかけてきたスプリガンの指差す先に”僕”がいた。

「待ってよ!僕!」

”僕”が下の階の扉に近づき、中に入ったのを見て僕も慌てて彼の入った扉と同じ方向の扉を開けた。(同じ方向どうしでつながっているみたいだから)同じ事を何度か繰り返すと、急に今までとは違った場所に出た。

「おまえの気持ちはわかったよ、あたいも着いていくよ」

「僕ー!僕はどこだぁ!」

「なんだい、ここは騒がしいところだねぇ」

三人の声が重なった。慌てて見まわしたけれど”僕”の姿はない。

「あ、あれ?ツクヨミ?」

見ると僕の変わりにツクヨミが立っていた。

「何か言った?それより僕知らない?」

その後の記憶がかすれてて覚えていない。気がついたらツクヨミが仲間になっていた。それはいいけれど、何故こんなに体が痛いのか・・。
おまけに瀕死になっても誰もエレメントを使ってくれない。なんだか物悲しくなる僕だった。
”僕”には逃げられるし、体は重いし、最近何だか全然ついていない。今の僕の心の友達は「キャッツレイド」で呼び出した恥ずかしがり屋な魔ネコ達ぐらいだ。
なんとも恥ずかしがり屋で呼び出してもすぐに逃げて行っちゃうんだけど・・。少なくともこのメンバーよりは理解してくれる良いネコ達だ。
いつになったら、もとに戻れるんだろう。それより本当の僕、僕の体は元気だろうか・・。ふと遠くを見つめて思わずに入られない。
あぁ・・・これって「心の日記」ってやつなんだね。そう思って僕はニヤリと笑った。
<続く?>
挿絵:雪見飛鳥さま(大感謝!)



【感想切望中(拍手)


<クロノ小説TOP> <TOP>