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もう一人の私


<Side ホームワールド レナ>

オパーサの浜で彼を見失った、思い返せばあの時に私は゛彼″を見失ったのだろう。
生まれた時から、いつもとなりにいた、振り返るといつもそこにいて突っぱしる私を困ったように見ていた。
けんかしても、先に手が出るのは私で、ひっぱたかれても仕返そうとはしなかった。
そういえばけんかするたびに、『いくじなし』とか『臆病者』とか、私はかなりひどいことを言っていたような気がする。
私が悪いとしか思えないけんかでも必ず彼が先にあやまっていた。どうして謝るのよ!ってそれで又叩いちゃったり・・・。
昔も今も素直じゃない私。
そんな自分がキライだったけど、彼は私がそう言うと、笑って『それがレナらしくて、いいんじゃない?』って言ってくれた。
それで又けんかになる、その繰り返し。
幸せな、幸せな繰り返し・・・だったのに。

いつもそばにいたのに、今だってすぐとなりにいるのに、あの頃と全然ちがう。

すごく遠く感じる。
元気に潜ったり水をかけあったりしている私の弟達をどこかなつかしむように見ているセルジュの横顔をこっそりと横目にみた。
横目にみたセルジュは・・・すごく大人びてみえた。
何だか、すごく悲しくなった。ううん、悲しいんじゃなくて、胸の底が灼けつくような感じ。衝動的に泣き叫べたら、どんなにスカッとする事だろう。
けど、何かが邪魔をする、それは「理性」とか「見栄」とかちっぽけなプライドなんだろうけど、そう思う大きな理由は私の真後にいる人達のせいなんだろうね。

「ねぇ、セルジュ。今日はここで一泊していくつもりなの?」

『私』がそうセルジュに声をかけた。
まるで鏡がそこにあるかのように、『私』がいる。
私と同じ声、同じ姿、同じ顔、声をきいた時はさすがに『これが私の声なの?何か変!』って思ったし、姿をみた時は『私の方が背が高い!』とか、『私の方が美人!』と思っちゃったけど、『私』は私、なんだそうだ。
セルジュから色々と話しを聞いたけど、そんな事はどうでもいい。セルジュがウソついているようには思えないし、そういうこともあるかもしれない。
まぁ、世の中そっくりな人間が三人いる、という話の、その一人という説もあるけど、あの゛レナ″は性格も何もかもが私だった。
だから、認めてるし信じてる・・・けれど本当はそれはたいした問題じゃない。
「うん。明日テルミナに行くよ」
本当に問題なのは・・・。
「それじゃ、今日も自分家に泊まるとしましょうか!いいよね、レナ?」
「えっ・・・あ、もちろんよ!私達の家でしょう!」
「ん〜そんじゃオレも居候させてもらうぜ?」
あわてて作り笑いを浮かべて、キッドにうなづいてみせた。
私は正直言って彼女(キッド)が苦手だった。
性格はさっぱりしてて良いと思うし、同じ女として彼女が時々みせる゛優しさ″が魅力的だと思う。だけど・・・。
私は歩きだした彼らの背中を見つめた。

本当は゛レナ″がうらやましい。
そこは、私の居場所だったのに…子供の頃からずっと。
私と同じ姿の『レナ』がいる。
私自身といってもいい、けど・・・私じゃない。
ここにいる私じゃ、ない。
どうして私じゃないんだろう?セルジュの力になりたいって、きっとあそこにいる゛レナ″以上に思っているのに。
ううん、彼女は私じゃない。
私の持ってる大切な思い出を彼女達は持って、ないのだから。
みにくい優越感・・・私にはそれしか持ちえない。

私には、それしかない。

・・・それしかないんだよ・・。

の中のものすごく汚いモノ、それに気付いて私はフタをした。
目をそむけてしまおう、その方が楽だもの、と。

夜、寝つけなくて外へ出た。
このまま横になっていると、きっと泣いてしまうだろう。
キッドと゛レナ″に悟られたく、なかったから。
大声で思い切り泣きたいのをガマンしてたら、胸の奥が痛くてしかたない。
外は以外と風が冷たくて、けれど今の私にはちょうど良かった。
月明かりを頼りに村を出て、オパーサの浜辺に向かった。

目を閉じると波の音が大きく感じる。私は砂浜に膝をかかえて座ると、自分の膝に顔をうずめてじっと波の音を聴く。
それだけで不思議と落ちつく。
あのすさみきっていた心が、気持ちが波の音とともに沈んでいくようだ。
生まれた時からずっと聴いている音。
だから、落ちつくのかもしれない。

「波の音って、なつかしいよね。いつも聞いてるのに不思議だけど」

はっとして顔を上げると、レナが立っていた。
彼女は月を見上げて「満月だね」とつぶやくと、私のとなりに腰をおろした。
「どうしたの?なんて聞かないよ」
彼女は私と同じように膝をかかえると、顔をのぞきこむように首をかしげながら言う。
「聞かなくても分るからね」
「・・・分ってるなら、ほっといてよ」
せっかく落ちついてきたのに、一人にしておいてよ!
「ほっとけない」
「だいたい何しに来たのよ!笑いにきたの?優越に浸りにきたの!?」
「笑ってほしいの?浸られたいの?」
「あなたといると・・・私はっ!」
「惨めな気持ちになる、嫉妬で気が狂いそうになる?」
「・・・!!」
私は勢いよく立ち上がると、レナに砂を投げつけた。
憎かった。
どうしようもなく・・殺せるならきっと殺してやりたかった。
私は何度も何度も砂を投げつけた。
「あんたなんか、あんたなんか、大キライっ!!」
゛レナ″がどういう顔をしているかは見えない。かすんでて、見えない。
いつのまにか、涙が滝みたいに流れてて、止まらなくなっていた。

しばらくして、我にかえると私は海の中に立っていた。
膝のあたりまで海につかっていた。波が膝にあたってる。
頭がボーッとしている。涙は流れていた時と同じくいつのまにか
止まっていた。その代わりにしゃっくりが止まらないでいた。
子供みたいだ、私って。
「子供みたいだ」
私の心を読んだみたいに、後で声がする。振り向かなくても誰だかわかる。
「・・・ねぇ、たしかに私はあなただけど・・・私は私であなたはあなたでちゃんと生きてるんだよね」
私は私、あなたはあなた。その言葉がどうしてかうれしかった。
「ちゃんと存在してるんだよね」
存在・・・してる。
「名前は同じだけど、私の好きだったかもしれない幼ななじみのセルジュは10年前にここでおぼれて海に還っていった」
知ってたけど、レナから聞くとリアルで痛かった。
あの時、セルジュが死んでたら・・・きっとすごく悲しいだろうなって。心にぽっかり穴があいたみたいに、なってたろうな・・・。毎日、毎日海見るたびに思い出して、・・・レナはきっと、そうだったんだろうな・・。
「あなたの好きな幼ななじみは、生きていて元気に育ってきたんだ、あなたとともに」
「・・・・」
「私とあなたは同じであって、同じじゃないんだね」
どこかさびしげだった。
「ちゃんとあなたはあなたらしく生きて、ここにいるよ」
「・・・さぃ・・」
ポタッと頬を伝った雫が海に落ちていく。
「ごめんなさいっ!」


<Side アナザーワールド・レナ>

私と同じ姿をしたもう一人の私、けれどまったく違うレナは海の中に立って泣きじゃくりはじめた。顔を覆っているが、その背中はひどく震えている。
ごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返している。
彼女はきっと寂しかったんだろう。
だんだんと大人びていう幼ななじみに追いていかれたように思ってたんだろう。
そして、彼の隣にいるのは、同じ姿の「レナ」で、居場所をとられる、もしくはとられたような気持ちだったのだろう。
哀れに思えてならない。
立ち上がると、服にかかった砂をはたき落とす。彼女が私にぶつけた言葉は多分、彼女自身に向けたものなのだろう。
「大キライ」といった眼差しは、確かに殺意を含んでいた。
殺意は誰に向けられていたか?他でもない「レナ」自身に、だろう。
自分を殺す、それはいわば「自殺」にすぎない。

同じ世界に生きてはいない、別の世界の『私』。
私であって私ではなく、私でもある。
だから気付いた、この世界の「レナ」の悲鳴を。
心の叫びを。
初めて会った時の眼を覚えている。
セルジュに事情を聞いた後の眼を。

「誰だって、誰の心の中にだってキレイなものもあるし、汚れたものもあるよ」

光があれば闇もある。
どんな聖人でも、心に闇を持たない人はいない。
どんなに良い人でも、それはあるのだろう。
誰もがそれを上手に隠して生きている。
「私にだって、ある」
正直、レナに対して優越感を抱いていた。彼女の心が手にとるようにわかるから、なおさら。
反面、幼ななじみの男の子と楽しく過ごしてきたであろう「レナの思い出」に嫉妬している。
私には・・・どんなに願ってもムリなことだから。
彼の傍らにあった、私の居場所は、もう10年前に失われたものだから。
今もなお、その居場所で笑い合える「レナ」が羨ましい。
子犬が追いていかれたような眼をしているのをみて、ざまみろと思った。
そんな自分が醜いと思うし、とても情けなく思える。
私はそんなことを考える女だったのかと・・・。

「だけど、醜い自分も汚れた自分も・・・みんな私だから・・・」

私は彼女に近づいていくと、その頭をぽん、と叩いた。
彼女は私の気持ちがわかったらしく、何度も何度もうなづいている。
海に映る双つの月が、二人の゛私″を照らしていた。


<Side ホームワールド レナ>

「それじゃ、レナ。又ね」
「セルジュこそ、元気でね!あ、おばさまのことは安心しててね」
「うん、レナが話し相手になってくれて安心だよ」
「ふふふん、セルジュのおねしょ回数とか、おばさまの話しはおもしろいんですもん」
「おねしょ回数!?母さんめぇーーっ!」
「ふふ、まっ、ともかく行ってらっしゃい!ちゃんと戻ってきたら誰にも言わないで
あげるから」
「レ、レナ〜!」
「おーい、いい加減行くぞ?」
「ほらっ、呼んでるよ」
「う、うん・・・・、レナ」
「うん?」
「元・・気?」
「何いってんのよー!」
ばしっ。
「うぅわっ、と・・危ないじゃないか!」
「私はこのとおりっ、元気だから・・・セルジュ」
ちゃんと戻ってきなさいよっ、と小さくささやいた。
「わかった、約束するよ」
セルジュは私にとってすごくまぶしい笑顔をみせると、遠くで待ってた
キッドの元へ走っていった。

私の幼ななじみに男の子・・・。
ずっととなりにいて、一緒に育ってきた幼なじみ。
彼は時々ひどく大人びた顔をする。
そんな時とてもと置くに感じられて、私一人がずっと立ち止まっているようで、
ずっと追いていかれているようで寂しかった悔しかった。
どうして彼の力になれる「レナ」が私じゃないんだろう?って。
だけど、今は悔しくないし、寂しくない。
セルジュにはもう一人の「私」がついているから。
私も・・・この私の中の暗い部分、しっとや悲しみやねたみや・・・
そんな感情も゛私″だから。
認めよう。
受け入れよう。
そんな気持ち、心を抱くのも皆、私。
゛私″はすべてを受け入れて、そしてもっともっと大人になろう。
セルジュが驚くぐらいの、ね?

昨夜レナが言った。
゛セルジュ″が死んだ時、祈ったということを。

『たとえ私のそばでなくてもいい、どこでもいいから・・生きていて、欲しい』

彼女が゛セルジュ″と出会った時、とてもうれしかったと語ってた。
生きていてくれて、良かった、と・・・。
私も同じ立場ならそう思う。きっと。
そして同時に気付いた。
゛彼女″がいてくれて、生きて、ここにいてくれて、よかったと。
出会えた奇跡に、心から感謝したいと。

私はずっと゛私″がキライだった。

今でもキライだと思う。あんな感情を否定できたらどれ程らくか。
けれどもう逃げない。
それに気付かせてくれたのは彼女がいたから、なんだよね。

ありがとう。

゛あなた″をみていると、私も負けられないと思う。

「さっ、今日も1日がんばるぞぉーーっ!」
「姉ちゃん何をそんなに気合入れてるのさ?」
「うるさいわねっ!ほらそこっ!あんまりとおくにいかないのっ!」
「何だか姉ちゃん、いつもにましてうるさいな・・・」
そう弟達がこっそりとささやきあっていたことを、彼女は知らず、アルニ村名物娘の声はどこまでも響き渡るのであった。



いつもはギャグしか書かないんで、シリアスの書き方をすっかり忘れてしまい、えらく難産でした、この話は。またすご〜〜〜〜く暗い!自分で書いていてうんざりしました(汗)
レナ(アナザー)とレナ(ホーム)の2人のレナの話ですが、人物の表記がわかりにくくてすみません。「私」とか「彼女」とか「レナ」とか、どっちがホームワールドのレナなのかとか、自分でも混乱しそうです(苦笑)あ、ちなみに途中から語り手がアナザーのレナに変わってます。で、最後に戻ってます。ほ、補足で説明入れないとわかりづらいっす(><)
レナファンの人ごめんなさい。でも何となく彼女寂しげに見えたんですよ。それを思いつつ書いたんですけど・・・暗い(−−;
多分「クロノクロス」では最初で最後のシリアスですが、最後まで読んでくれたらすごくうれしいですv


【感想切望中(拍手)


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